2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ICT 活用による双方向性遠隔授業システムの構成と専門機関との連携による活用

実施担当者

小林 泰彦

所属:滋賀県立高島高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校では、これまで地域の自然資源を授業に取り上げ、生徒の自然科学に対する興味・関心を高めるよう授業の展開を工夫してきた。一方で、自然科学に関する研究の進展はめざましく、新学習指導要領では、新しい研究の成果も含めて内容の充実が図られている。こうした現状において、最新の研究が行われている専門機関との連携がますます求められるようになってきている。また、多くの専門機関では、地域貢献・社会貢献等の目的で高等学校等との連携を推進している。しかし、本校は専門機関が集積する都市部から交通の便が悪く、これを理由に多忙な研究者からは連携を断られることもあった。
 そこで、地理的な障壁を克服するために、
ICTを活用して本校と専門機関をリアルタイムに接続し、双方向性の遠隔授業が手軽に実施できるシステムを構成しようと考えた。そして、生徒の学習内容や自然の事物・現象に対する疑問や興味・関心に応じて、関連する分野の専門機関と連携し、遠隔授業を実施することとした。


2.目的
 生徒の自然科学に対する興味・関心に応じて、その専門的な知見を有する専門機関とインターネットを通じて、リアルタイムに交流することにより、生徒の知的探求心を高め、科学的思考力や創造力を育成することを目指す。


3.方法
 目的を実現するために、「①双方向性遠隔授業システムの設計・構成」をすること、「②専門機関との連携による双方向性遠隔授業の実施」をすることとした。
①双方向性遠隔授業システムの設計・構成
 大学等においてはネットワークを利用して、大学間連携による遠隔講義を実施している。しかしながら、このシステムは大掛かりであり高等学校単独では、その構築は困難である。そこで、一般に普及している家電製品等を組み合わせて、可能な限り安価にシステムが構成できるよう設計の工夫を行った。校内用システムは、物理室・化学室・生物室・地学室や普通教室など校内のどこでも使用できるよう機材の機動性を確保した。また、ネットワークを利用した通信により、「双方向性」を実現した。
遠隔授業に使用するソフトは、Microsoft社のskypeとVQSマーケティング社のVQSコラボLearningを比較検討した。
②専門機関との連携による双方向性遠隔授業の実施
・専門機関との連携
 生徒の探究心や興味・関心に応じて、連携先専門機関を調査選定し、連携の協力を依頼した。連携先とは日時や授業内容等の打合せを行い、事前に双方向性遠隔授業システムの通信テストを行った。
・遠隔授業の実施
 本校第3学年の進学クラス理系生物選択生13名および普通クラス理系生物選択生19名の計32名を対象とした。本校生物室と連携先の研究室をネットワークを利用してライブ中継し、遠隔授業を実施した。また、授業アンケートの記述から分析を試みた。


4.結果
①双方向性遠隔授業システムの設計・構成
・遠隔授業システムの設計
 ソフトはskype、VQSコラボLearningともに活用可能であった。skypeは簡単な設定で無料で利用できるが、インターネット電話サービスであることから使い勝手がよくないこととセキュリティ面での不安があった。VQSコラボLearningは有料の遠隔授業専用ソフトであるため、授業のためのさまざまな機能があり使いやすいが、使用にはコンピュータに関する知識と習熟が必要であった。
・遠隔授業システムの構成
 図に示すようなシステムの構成とした。教室用システムは、インターネットに接続したノートパソコンに教室中継用のデジタルビデオカメラと音声入出力用のマイクスピーカーシステムおよび連携先の映像を教室のスクリーンに映写する液晶プロジェクターを接続した。また教室内機動中継用にタブレット端末(iPad)を使用した。連携先システムには、映像・音声の入出力用として内蔵カメラ付きモバイルパソコンを使用した。
②専門機関との連携による双方向性遠隔授業の実施
 生物の学習において生徒の興味・関心の高い単元であった「生態と環境」について、奈良教育大学の松井淳教授を講師に、『奈良の森で生物多様性を考える』のタイトルのもと遠隔授業を実施した。「双方向性」であることを活かし、生物室の生徒と連携先の講師とのコミュニケーションが十分に図れるよう留意した。
授業アンケートでは、「遠隔授業は新しい学習形態のひとつとして興味を持った。」の項目に87%が「そう思う」「ややそう思う」と答えるなど、この授業形態の有効性が確認できた。


5.まとめ
 このような教育活動で身近に最新の自然科学やそれを研究する専門家に接することにより、自然科学に対する興味や関心、知的好奇心や探究心を喚起することができた。自然科学を学ぶ楽しさを実感するなかで、科学的思考力や創造的に生きていく力が身に付くことを期待している。遠隔授業は、環境が整っていれば接続可能なことから、大学の他にも研究機関・科学館・博物館・動物園・水族館・民間企業等も連携先として想定できる。また海外の機関や学校等との連携も想定できることから、このシステムの更なる活用を図りたい。