2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ESD を基本とした理数科系人材教育システムの構築の研究山形県サイエンスエリート養成プログラムの開発

実施担当者

栗山 恭直

所属:山形大学 理学部 教授

概要

1.はじめに
 山形県内の大学や県内の科学機関では、子供向けの科学講座が数多く開催されているが、理科好きになるための導入的な内容でかつ単発的なものがほとんどであり、科学的な思考の育成につながる継続的な講座が少ないこと。中学生になると部活動所属により、講座に参加する機会が激減する。また、理科系の部活動を持つ中学校は限られていること。大学や県試験場での科学的に思考したりや判断したりする能力の伸長につながるような、体系的に理系人材を育成する課題解決型の教育プログラムは今のところほとんど存在していないこと。理科好きな中学生・高校生に対して体系的かつ連続的な講座を企画するにあたり、教育プログラム内容や実際に講座を展開する際の課題などの検討については大学だけで解決できない内容を含んでおり、教育委員会や学校現場の意見を取り入れる必要があること。多くの解決すべき問題がありました。そこで、科学の甲子園及び科学の甲子園ジュニアをキーコンテンツとして活用し、大会に参加を目指す中学生・高校生を対象として、課題解決型の活動に継続的に取り組む理系教育プログラムを提供することにより、課題解決と山形県サイエンスエリート人材育成カリキュラムの構築を目指すこのプロジェクトが開始しました。
26年度に採択され、今年はJSTの次世代科学者養成講座に申請し採択され、中学生と小学生対象に事業を行いました。


2.ヤマガタサイエンスアカデミー
 採択後、山形県教育委員会の義務教育課・高校教育課・県教育センターの指導主事の先生方および商工労働観光部の主査・地域教育文化学部の先生とで実施委員会を作り、公募の方法、選抜方法および年間計画について話し合いを行いました。一年間、実施することができました。


3.公募と選抜
 山形市内の対象学年(小学5・6年生、中学1年生)の全員に募集のチラシを配り公募しました。中学生は、1.2倍、小学生は3倍を超える応募がありました。400字の自己推薦書を書いてもらいました。選抜では、集団面接・集団での実験・個人面接を行い、採点基準を設けて審査を行い、受講生を決定しました。


4.プログラム
 開校式 学長に挨拶をもらい、開校式を行いました。一人ひとりに企業の協力で背中にアカデミーの名前を刺繍した白衣をプレゼントしました。保護者に方にも出席いただき、個人に貸与するiPadの使い方の注意点を受講生と一緒に聞いてもらいました。選抜試験で行った、プラスチックの分類の実験を行いました。実験の結果は、配布した実験ノートに担当するTAの学生のチェックを受けてネットで提出しました。Google for Education のClassroomを使用し、事前試料の配布や課題の提出を管理することにしました。1)
 エネルギーの講座:マイクロスケールの電気実験のセットを利用して、水の電気分解等の実験をおこないました。実験キットは個人に配布し自宅に持ち帰り実験できるようにしました。
 クリップモーター:クリップモーターを作る講座を行いました。各自が工夫して以下に上手く回るモーターつくりに挑戦していました。配布したiPadで動画をとる受講生も現れました。モーターの性能を比べるには、どうしたら良いかなど、受講生が思考するように声かけを行いました。答えを教えるのではなく、考えさせることがこの講座の狙いです。たとえば、動画をとることにより、回転数をもとめることができたりすることをコメントしました。
 科学の甲子園ジュニアのオープン参加:所属する中学校で参加する受講生以外でオープン参加として競技に参加しました。小学生には、すこし難しそうでしたが、話しあいながら問題を解決していました。これも実験のノートに記録し、TAのチェックをうけての提出です。
 科学の甲子園ジュニア強化研修会:山形県代表チームの強化研修会に受講生も参加しました。小学生に班にはTAが付いて詳しく説明しながら実験を行いました。
 県民の森での粘菌講座:県立博物館の川上博士を講師に迎えて、市内の県民の森での粘菌採取の講座を行いました。最初に粘菌の性質などの総論を聞いた後に、野外活動で粘菌採取を行いました。初冬の森で見つけにくいことも予想されましたが、みんな粘菌を採取することができました。採取中は、TAや講師に粘菌の確認を行いながら夢中で探していました。また、iPadを使っての写真記録では粘菌の大きさを示すために比較対象を一緒にとることなどフィールドワークの基本も一緒に学びました。また、県教育センターの山科先生から、針葉樹や落葉樹の幹の太さを測る課題が出され、最終的に二酸化炭素をどれくらい固定するか計算する課題を与えられました。粘菌採取後は、施設にもどり、顕微鏡で採取した粘菌の観察を行いました。初めての生物系の実習と野外活動で、受講生は、楽しみながら活動していました。
 山形県理数科課題研究発表会への参加:高校理数科が中心になって進めた山形県の理数科課題研究発表会に参加しました。高校生のポスター発表でしたが、熱心に聴いて質問もしていました。来年度は、自分たちも発表することが想像できたと思います。高校生も受講生にわかりやすく説明する難しさを体験したようです。来年度は、アカデミー生や大学生・企業・県試験場のブースも参加するサイエンスフォーラムとして開催する計画です。
 加茂水族館ツアー:受講生の楽しみにしていた加茂水族館のツアーを行いました。最初にクラゲの飼育員に佐藤さんから一時間かけてクラゲの分類や生態・生活環の説明がありました。クラゲの刺胞の発射する様子を実際に顕微鏡で観察したり、クラゲの生態について詳しく学習しました。受講生も積極的に質問していました。以前は、それほど積極的に質問しなかった受講生の成長に驚きました。
 構想発表会:受講生一人ひとりが来年度に行う課題研究の構想発表会を行いました。一人5分の時間でした。中学生は、プレゼンソフトを利用して発表したり、配布資料を準備したりして発表会を行いました。実物を提示する受講生もいて、それぞれの思いが伝わる発表会になりました。


5.成果と課題
 公募して小学生にニーズが大変高いことがわかりました。山形県は、中学生になると部活が必修になるので、生徒を集めるのに苦労しました。山形市外の学校からも参加したので、講座を開催する日程調整が大変でした。地区が近いと大会などの開催時期が同じですが、異なると大変でした。SNSの使用について説明したつもりでしたが、もっと詳しく具体例が必要でした。初めて使うこともあり、個人情報が明らかになる危険性について受講生にわかりやすく説明する必要性を再認識しました。郡部の小さな小学校の受講生は周りに科学の話題で話す友達があまりいないのかSNSを通して受講生と話しをしていて、SNSの有効な利用方法の一つだと思いました。班毎にTAを配置し彼らは年間を通して固定しました。毎回、受講生の活動の様子を記録しました。今回は、記録する項目を決めていませんでしたが、来年度以降は、科学で求められる観点ごとに記録するなどの改善する予定です。企業に援助を求めて応じていただきましたが、この活動を定常的に開催していくために、資金面の問題を解決することが必要だと思います。来年度以降の課題です。講座を終了し、受講生とその保護者にアンケートを行いました。半日の講座が多かったのですが、一日あるいは泊り込みの講座の希望や土曜日より日曜日の開催が中学生にとって参加し易い等、様々な意見をいただいたので来年度に反映していきたいと思います。