2011年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報第25号

DNA修復反応の1分子観察系の構築

研究責任者

桂 進司

所属:群馬大学大学院 工学研究科 環境プロセス工学専攻 教授

共同研究者

大重 真彦

所属:群馬大学大学院 工学研究科 環境プロセス工学専攻 准教授

概要

1.はじめに
従来の分子生物学的・生化学的解析では、1反応中に数万分子以上のDNAやタンパク質分子を用いて解析を行っている多分子解析が主流である。この多分子解析による解析は、数万以上の分子の平均的な挙動の結果を得ることになる。そのため、多分子解析では1つの分子本来が持つ性質を解析することは困難である。一方、1分子を対象とした微小操作・解析技術では、従来の多分子解析では隠れてしまう分子個々の挙動やその分布の解析や、DNA1分子毎の形態制御をおこなうことによりDNA分子の形態の影響の解析が可能になると考えられる。このような特徴を持つ1分子での操作・解析技術により得られた結果と従来の分子生物学・生化学的解析法により得られた結果とを組み合わせることにより、目的分子の本質に迫った解析が行えると考える。
本研究では以上のような特徴を持つ1分子解析技術をDNA修復反応に応用することを目指して研究を進めてきた。DNA修復反応の研究の歴史は長く、DNA一タンパク質、タンパク質一タンパク質等の分子間相互作用について多くの結果が示されている。特にDNA修復遺伝子の変異・欠損が原因となる色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum :以下XPと略)は、遺伝学的研究材料としての優位性を持ち、この利点を生かし、生化学的・分子生物学的研究が盛んに行われている。その結果、XP関連タンパク質群が相互作用をしながら損傷DNAの修復に関与するモデルが提唱された(図1)。このモデルの提唱までには、数万分子以上のDNA及びタンパク質を用いた多分子解析が行われた。そのため、この修復メカニズムに提示されている「損傷DNAの発見方法(図1②)」、「ヘリケースによる2本鎖から1本鎖への解離されるDNAの長さ(図1一③)」、「切り出される損傷部位を含むDNAの長さ(図1一④)」等は、数万分子の平均的な挙動の結果が示されていることになる。例えば、図1一④の切り出されるDNAの長さは数十~数千bpという幅で示されている。この数千bp以上幅は、反応がどのような環境下(要求される修復スピードや損傷の数等)で行われるかにより変化するものだと推測している。
DNA修復反応の1分子解析を行うために、①DNA修復系において重要な役割を果たしている1本鎖DNA結合タンパク質(Replication Protein A, RPA)の可視化技術の開発、②マッピングを可能にするDNA分子の伸張固定技術の開発、について財団助成期間中に研究を行ったので、以下、報告する。
2.マッピングを可能にするDNA分子の伸張固定技術の開発
2.1 DNA分子の物理的な性質と伸張固定技術
DNA分子は塩基対が連結されたポリマー構造をとるために、水溶液中で折れ曲がることが可能である。このようなポリマー構造を持つ場合には、エントロピーを増大させるために末端同士が近づき、外力が存在しない状態では長さが16.5?mにもおよぶλファージDNAであってもわずか1?m程度の輝点として観測されてしまう。このような蛍光像からはDNA一タンパク質問相互作用の結果である基質DNAの鎖長変化やタンパク質の位置情報などを得ることは不可能である。したがって、DNA一タンパク質問相互作用を蛍光顕微鏡視野内で単分子観察するためには観察対象となるDNA1分子の形態制御が重要である。既往の研究ではDNAの片方の末端を観察用基板に固定し溶液の流れを利用したDNAの伸張やガラス基板に電極を設置し直流電界を利用したDNAの伸張、あるいはポリスチレンビーズや磁気ビーズを結合させて光ピンセットや磁気ピンセットによりDNAの1分子形態制御が行われている。しかし、これら既往の方法では、大容量の試料が必要であったり、流路や微小電極の微細加工技術が求められたりするために、DNA修復反応の産物の解析には適用困難であった。そこで、財団の助成を受けて、液滴移動法(Moving Droplet Method)と呼ぶ簡便なDNA伸張技術を開発した。
2.2液滴移動法の原理
DNA分子は非常に親水性が高いために、液相(水溶液)と固相または気相の界面にDNA分子が存在すると、水溶液との接触面積を最大にするように振る舞うことが知られている。この状態で固相、液相、気相の3相の界面が移動すると、親水性が高いDNA分子は常に水溶液との接触面積を最大にするように振る舞うために、気相部分が伸張されることになる。この原理を用いた様々な方法が報告されているが、従来の界面移動法(1-6)では反応後の試料溶液がmL単位で必要であり、大量の試料が必要となること、スプレー等を用いてガラス表面にスポットした溶液を吹き飛ばたりすることにより界面移動させる方法では試料が飛散し、使いきりとなってしまうこと、伸張操作の際に加える力が一定ではなくDNAの伸張にばらつきが生じる点等の問題があった。そこで、著者らは、数~数100uLの試料しか得られない生化学反応産物の解析に適用可能な液滴移動法(Moving droplet method)の開発を行った(7)。この方法は図2で示すように、試料DNAを含む液滴を斜めにおいたカバーガラスに沿って落下させる方法である。液滴移動法は、数11Lの試料でも十分であり、角度により液滴の移動速度を調整することが可能であり、さらに、パラフィルムを下に敷くことにより貴重な試料の回収も可能にした(図2)。
2.3実験方法
伸張操作には760ngの2重らせんλDNA(Nippon Gene;48,502bp,10-15μm)を用い、DNA100塩基対に1分子の色素の比率となるようにYOYO-1iodide(Excitation 491 nm1Emission 509 nm)(lnvitorogen)で染色を行った。この蛍光標識を行ったDNA試料には退色防止効果がある2-mercaptoethanolを最終濃度1Mとなるように加え、DNA合成反応を含む様々な生化学反応で用いるKCIを最終濃度20,100,200および500mMとなるように調製したTEバッファーで希釈して、液滴移動法の試料とした。
2.4実験結果
500mMKCIのバッファーを用いて試料を調製した場合にはYOYO-1の蛍光発光阻害が生じてしまい、伸張したDNA分子像が観察できなかったので、残りの実験条件である20,100および200mMのKCIを含むバッファーで溶解させたDNA試料を用いて、液滴移動法によりDNA伸張操作を行った結果を図3に示す。図3に示すように、20mMから200mMのKCI溶液を用いた場合には液滴移動法によるλDNAの伸張に成功し、20,100および200mMの各KCI濃度でλDNAはそれぞれ12.5μm(12分子の平均),12.6μm(15分子の平均)および12.2(11分子の平均)μmの長さに伸張された。これらの結果を単位長さ当たりのDNA長に換算すると、それぞれ3880,3850and3980bases1μmという結果が得られ、KCIに関しては、この塩濃度範囲では伸張効率は大きく変化しないことが明らかになった。また、KCIのこの塩濃度範囲は幅広い生化学反応に用いられているので、各種生化学反応産物のDNA分子を1分子レベルで観察することに応用できるが示されている。
2.5液滴移動法を用いたDNA合成反応産物の解析
液滴移動法を用いて、プロセシビティ(一度に合成するDNA長)の異なる2つのDNAポリメラーゼの合成反応を可視化したので、以下に報告する。
熱処理(95°C,10min)によって1本鎖化した入DNAに合成オリゴヌクレオチド(25mer;5'-CGT AAC CTG TCG GAT CAC CGG AAA G-3')をハイブリッド形成させることによって、DNA合成反応の鋳型を準備した。そして、低プロセシビティのDNAポリメラーゼとしてはDNA polymerase β(8)、高プロセシビティのDNAポリメラーゼとしてはT7 DNA polymerase (9)を対象として、以下のように反応を行った。
前述のDNA鋳型を用いて、50 mM Tris-HCI(pH7.5), 100 mM KCI, 10 mMMgCl2,0.1 mM EDTA,2mM DTT,100 pM dNTPs,30 pMCy3-dCTP (GE Healthcare),2 ng substrate 入DNA,5 units DNA polymerase β (DNA polymerase β合成反応)または20 mM Tris-HCI (pH7.6),100 mM KCI,6 mM MgCl2,0.1 mM EDTA,5 mM 2-mercaptoethanol,100 pM dNTPs including 30 pM Cy3-dCTP,2 ng substrate 入DNA,5 units T7 DNA polymerase (T7 DNA polymerase 合成反応)の反応溶液を100μl調製し、37°Cで0,5,10,30分の反応を行った。その後、最終濃度20mMになるようにEDTAを加え、さらに蛍光色素YOYO-1(base pair:YOYO-1=100:1)and退色防止剤2-mercaptoethanol(最終濃度1M)を加えたのちに、液滴移動法により試料DNAの伸張を行った。本実験では、2本鎖領域はYOYO-1で可視化し、DNAポリメラーゼによる新生合成領域はCy3-dCTPsで可視化している。
図4AおよびBはDNA合成反応前の鋳型DNAを蛍光により可視化したものである。反応開始後5分から30分にかけて、DNA合成反応が進行に伴い、どちらのDNAポリメラーゼを用いた場合でも2本鎖DNA領域が長くなっていることが観察されており、30分の時点で合成長は4.3および11.5μmに達している(DNA polymerase β,T7 DNA polymerase )(図4C-H)。この合成長を伸長速度に換算すると、550および1480base!minとなり、T7 DNA polymerase の伸長速度はDNA polymerase βの伸長速度の2.7倍であることが示された。本実験では反応系中のDNAポリメラーゼの活性は等しいにも関わらず、伸長速度の違いが観測されたのは2種類のDNAポリメラーゼのプロセシビティの違いによるものと考えられる。前述のように、DNA polymerase βのプロセシビティは低いために、DNAポリメラーゼのDNAへの結合、DNA合成、DNAからのDNAポリメラーゼの遊離の一連のサイクルを高頻度で繰り返すことになり、その結果、DNA合成長の分布は狭いものとなると考えられる。一方、T7 DNA polymerase のプロセシビティは高いために、DNAポリメラーゼがDNAに結合してから遊離するまでの問に長いDNA鎖を合成することになる。その結果、反応後には長く合成されたDNA鎖と短い未合成DNAとの混合物が存在することになり、合成長の分布は幅広いものとなると考えられる。以上のように、本法によるDNA伸張を用いた1分子解析によりDNAポリメラーゼのプロセシビティを解析できる可能性が示された。
また、合成反応により取り込まれたCy3-dCMPsの蛍光により、新生合成領域を可視化した結果、YOYO-1により可視化された2本鎖DNAと一致している(図41およびJ)。このことは、図4C-Hで観察された2本鎖DNA領域はDNAポリメラーゼにより新たに合成されていることを示している。
2.6液滴移動法を用いたλDNA-DNA polymerase β複合体の解析
DNA一タンパク質複合体の観察として、λDNAとDNA polymerase βを用いてリアルタイム観察を目的とした実験系の確立を目指して、λDNA-DNA polymerase β複合体を形成させ、さらに、その複合体を液滴移動法により伸張し、蛍光観察したので、以下に報告する。
(1)DNA polymerase βの蛍光標識
2本鎖部位染色観察とDNA polymerase 染色観察を併せた実験系を確立するために、活性を保持した状態でDNAポリメラーゼの蛍光標識を行う必要がある。しかし、クロスリンカーを用いて官能基に蛍光色素を結合させる方法では、活性中心に存在する官能基も同様に修飾されてしまうために、酵素活性が失われる可能性が高い。そこで、活性を保持した状態で蛍光標識を行うために、DNAポリメラーゼとDNAとの複合体を形成した状態で、標識操作を行うことにより(図5)、活性を保持した状態で蛍光標識をすることができた。その実験手順を以下に記す。
磁気Avidinbeads (Dynabeads M-280 Streptavidin; INVITROGEN, 10mg/ml)50?1をTEN buffer(1×TE、0.1MNaC1)で2回洗浄後、5'(biotin)-GACTCTTCCGAGCTCTAA-3'および5'-ACACACACACACACACACTTAGAGCTCGGAAGACTC-3'をハイブリッド形成したds-sshybridDNA; 2pmo1/?1を含む50?1 TEN bufferに再懸濁した。その後、4℃で1時間反応させたのちに、磁気分離器により上清を取り除いた。反応後のビーズをHEPES buffer(25mM HEPES(pH8.0)、40mM KCI、1mM DTT)で2回洗浄したのちに、20?g/ml DNA polymerase βを含む50?1 HEPES bufferに再懸濁した。そして、4℃で1時間反応させたのちに、磁気分離器により上清を取り除いた(図5-1)。その後、50?1のLabeling Solution(100mMHEPES-buffer pH6.0, 0.5mM Sulfo-NHS, 0.5mM EDC,1 0?M Oregon Green488)に再懸濁して、4℃30分で反応を行った(図5-2)。反応後、磁気分離器により上清を取り除いた後に、0.5×HEPES-1MKCIを100?1加えて再懸濁し、その後、4℃で3分の処理により標識ポリメラーゼをビーズから遊離させた(図5-3)。計5回の遊離操作を行い、あわせて500?1の蛍光標識試料を50mM Tris-HCI(pH7.5), 100mM KCI, 2mM EDTA, 0.1% Triton-X100で平衡化したNAPTM-5 Columns sephadexTM G-25 DNA Gradeを用いて、ゲルろ過によるバッファー交換を行った。このようにして、得られた試料は20%になるようにグリセロールを加え、使用時まで一80℃で保存された。
以上のように蛍光標識したDNA polymerase βの活性を、梯子状DNAを鋳型として合成活性を測定した結果、合成活性は保持されており、特に740ngの基質λDNAに対して30ngのDNA polymerase βを加えたときが最も合成効率が高いことがわかった(データ省略)。また、DNA polymerase βのみを蛍光顕微鏡で確認した蛍光像を図6に示すが、このようにDNA polymerase βがOregon Green488で蛍光染色されている様子が1分子レベルで観察されており、活性を保持した状態でDNAポリメラーゼの蛍光標識に成功したといえる。
(2)λDNA-DNA polymerase β複合体の形成および観察
λDNA-DNA polymerase β複合体の形成および観察を行うために、基質λDNAをインターカレーター型色素(YOYO-1、SYTOX Orange)で染色し、DNA polymerase βをOregon Green488で染色し、液滴移動法を用いてλDNA-DNA polymerase β複合体を伸張固定することにより、2重らせんDNAとDNA polymerase βを同時に観察する方法を開発した(図7)。
まず、鋳型DNAの調製法を以下に示す。1xExTaq buffer (TaKaRa Iot.AA3501A), 2.5nmol dNTP mixture (TaKaRa Iot.BF5601A), 2.5unit ExTaq (TaKaRa Iot.KA2101DA), 100pmolλプライマー1 (5'-GGGCGGCGACCTCGCGGGTTTTCGC-3'),100pmolλプライマー2 (5'-CGTAACCTGTCGGATCACCGGAAAG-3'), 1pmolλDNAの反応溶液を作成し、94℃で5分間、58℃で1分間のインキュベートを行う。その後、72℃で20分間反応を行う(Taq polymeraseは1分間に1000baseの合成を行うと言われているため、20分間反応を行うとほぼλDNAの半分が2本鎖領域、もう半分が1本鎖領域になる)。以上の反応後、4℃で急冷し、同じく4℃で保存した(図7)。
以上のように調製した300ng ss-ds入DNAおよび30ng Oregon Green488 Polymerase βを含む100?1の5mM Tris-HCI(pH7.5), 10mM KCI,1mM MgCl2, 0.1mM DTT, 100pM dNTPs, 0.5%glycerol, 1?M SYTOX Orangeを調製し、室温で30分反応させた後、液滴移動法によりλDNA-DNA polymerase β複合体を伸張させ、蛍光観察を行ったので、その結果を図8に示す。図8-1はB励起光を当てたときの蛍光でOregon Green488が蛍光を発している。よって図8-1で見える蛍光よりDNA polymerase βの存在が確認できる。図8-2はG励起光を当てたときの蛍光でSYTOX Orangeが蛍光を発している。この時に見えるのはDNAの2本鎖の部分である。図8-2で観察された2本鎖DNA部分の末端と図8-1で観察されたDNA polymerase βを示す光点が一致しており、2重らせんDNAの末端にDNA polymerase βが結合していることが示された。
3.1本鎖DNA結合タンパク質(Replication Protein A, RPA)の可視化技術の開発
3.1蛍光タンパク質融合RPAの作成
RPAについての研究は多くなされており、結合能を持つ部位も明らかとなっている。本研究ではmouse RPA 70kDa subunitのうちDNA結合領域として知られる190~431アミノ酸残基を切り出し、黄色蛍光タンパク質(YFP)との融合タンパク質となるよう設計した。熱変1生により解離させ1本鎖化させたλDNAとRPA-YFPを複合させ、2.2にある液滴移動法により伸張固定したものを図9に示す。インターカレーター型色素YOYOには見られなかった蛍光のムラが生じたものの、1本鎖部位を認識するに足る標識が可能であることが判明した。
3.2 1本鎖・2本鎖共存DNAにおける二重染色
λDNAを熱変性により1本鎖化し、プライマーとハイブリッド形成した後にポリメラーゼによって全長の半分合成させたところで強制的に合成を停止させることで1本鎖と2本鎖部位が局在的に存在する基質を作成した。1本鎖部位をRPA-YFPで、2本鎖部位をインターカレーター型蛍光色素で標識したものを液滴移動法によって伸張固定させることで、1本鎖と2本鎖を別々に認識する技術を開発した(図10)。その結果を図11に示すが、1本鎖領域と2本鎖領域が独立に、かつ、識別可能な形で染色することが可能なことを示している。
3.3微細流路を適用した形態制御と塩によるRPA脱離の可視化
液滴移動法は伸張固定化に適した手法であるが、基質と基板表面の相互作用により固定されているので、立体障害のために各種因子とDNAとの相互作用を阻害してしまう可能性が高い。そこで、DNA損傷の修復等の反応をリアルタイムに追うための手法としてPDMSによる微細流路を用いた形態制御を開発した。図12に示すこのシステムではDNA分子の片末端のみが基板と結合するためDNAの大部分がフリーとなり、反応の妨げとなる可能性を排除することができる。
基質の固定化のため、λDNAの片末端にチオール基(-SH)を修飾し、基板にはジメチルジクロロシランコートを施した。手順として、最初に1本鎖DNAの固定化を行い、続けてDNA未結合部位をBSAでブロッキング。その後RPAを複合化させ、未複合のものはbufferを流すことで除去した。さらに、NaC1 500mMを流すことでRPAを解離させ、その後、RPA溶液を流して再複合化を図った。なお、実験に用いたバッファー組成は25mM HEPES pH8.0, 50mM EDTA,50% glycerol, 0.1%T ween20, 0.5% メルカプトエタノールである。
この実験系を用いて、高塩濃度のバッファーを供給しRPAを脱離させた後、再度複合体を形成させることが可能であることを示すことができた(図13)。本技術は、バッファー交換により任意のタイミングで1本鎖部位の標識が可能であり、かつ不用な際には非標識に変更できる優れた技術であるといえる。
4.まとめ
以上に示したように、財団の助成を受けて、修復に関与するDNAポリメラーゼ、Replication Protein A (RPA)を1分子レベルで可視化し、DNA1分子と同時に観察するシステムを構築した。また、RPAがDNA分子の1本鎖領域のみを特異的に認識する性質を利用して、DNAの1本鎖領域と2本鎖領域を同時に、かつ、識別しながら、観察する技術を開発し、RPAのダイナミクスもとらえることができた。また、液滴移動法により微量の試料のDNA形態制御が可能になったので、可視化技術の進展とあわせて、DNA複製の1分子解析のためのキーテクノロジーが確立したと考えており、今後、さらに発展させていきたい。