2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

Arduino ボードコンピュータを使った、実験装置制作の基礎講座開催

実施担当者

松下 保男

所属:静岡県立掛川西高等学校 教諭

共同実施者

榊原 誠一郎

所属:静岡県立掛川西高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 掛川西高校は東海道新幹線掛川駅から徒歩10分弱の好位置に立地している。主たる地域産業は自動車関連の企業であり、技術者が求められ、現実にかなりの生徒が工学部へ進学する。
 こういった地域環境でありながら、組み込み型コンピュータや機械に触れる教育環境が存在しない。このため、情報不足のまま進路決定をしていく実体がある。
 また、直接工学部に進学しない場合でも、このようなコンピュータを使って「どのようにすれば情報収集ができるのか」、「どのようにすれば自動化をすることができるのか」を知っておくことは様々な研究・開発活動においても非常に重要なこととなる。
普通科に加えて理数科が設置された本校でも、この教育に使う事のできる機材が全くなかった。助成を受けて必要な機材・教科書を購入し、本校にある土曜講座で組み込み型コンピュータの教育を開催した。同時に設置されている理数科の課題研究のテーマとして、取り組ませるという実践を行った。


2.活動の準備
 活動を開始するにあたって一つ危惧することがあった。全くプログラミング経験のない生徒に、いきなりArduinoなどのボードコンピュータを与えて、概念を把握することができるだろうか、という疑念である。
 助成を申請する際にはまだ情報を得ていなかったが、2014年からIchigoJam開発1)が始まっていた。小学生を対象にして日本で開発されたボードコンピュータである。BASICを搭載しており、高校生でも初期教育に最適ではないかと考え、急遽採用を決めた。
 また、ArduinoはLinuxのように情報が公開されていることから、中国製のコンパチブルのハードウェアを使用することで、講座に参加する生徒に充分な数の教材を準備することができた。


3.土曜講座での活動
 IchigoJamを使用して、まずBASICによるプログラミングの学習を始めた。参加したほとんどの生徒にとってプログムとはどんなものか、いったい何をするものなのかわからない。対象は高校生なので小学生に教えるようにただ遊びの延長として,コンピュータをブラックボックス的に扱って理解させていく方法は使えない。「実はね、中ではこんな風に動いているんだよ」ということを説明しながら学習を進めた。
 BASICを最初に学習させた狙いは、変数概念の把握をさせることであった。どんなプログラミング言語でも変数概念は同じであり、変数を色々な形で処理をしていくことで、プログラミングとはどういうものなのかを把握させていった。
 具体的には、足し算を表示するプログラム、ブザーを鳴らしたり、LEDを点滅させたりする実習を行った。
 続いて、Arduinoを用いてより実践的なプログラミングを開始した。ArduinoをプログラムするためにはC言語に近い開発環境と、GUIを使った開発環境があるが、一つ一つの動作を確認していくため、ここではC言語に近いArduino IDEを使っている。
 複数のLEDを点灯させる。4×4のLEDを使って表示器を作る。光センサーを使って暗くなるとLEDを点灯させる。モーターを自在に回転制御する。等の実習を行った後、市販されているモーターコントロールシールドを使って自走車をコントロールする実習まで行った。この講座は来年度に継続し、液晶表示器による表示や距離センサの使用方法なども実習をする予定である。


4.課題研究への取り組み
 理数科2年生の課題研究で土曜講座と同じような内容の基礎教育を行い、最終的に自分たちの発想で「掛川・光のオブジェ展」への出品作品を作成させた。
 「様々な色のLEDをArduinoでコントロールして光の変化を楽しむことができるオブジェ」を課題とした。最終的にヒトセンサーを組み込んだオブジェで、「ヒトの接近を感知して両手を振る」というものができあがった。工作精度や手を振るタイミングなど、検討すべき点は残るが、1本の配線忘れに4時間以上気付かず、苦しんだ力作となった。


5.今後への展望
 「これを使ってドローンを作ってみたい。」講座を受講した生徒から聞かれた声である。一通りの学習をしてきて、どうすればドローンが実現できるのかの展望ができている。私たちが最初に目標とした「ボードコンピュータを使って何ができるのかを予想した」上での発言に違いない。目標の一つは達成されている。しかし、この次のステップに導くことができるかという不安が大きい。最大の問題は予算である。可能なら彼らの夢をかなえてやりたいと模索している。
 また、開始当初は機材の半数近くが誤配線などによって壊れると覚悟していたが、意外に丈夫で講座が終了した時点で壊れたボードが全くみられない。残った機材で来年も同様の講座を開催できる見込みが立ち、新しく学ぼうとする生徒に同様の講座を開設する予定である。
 学校公開の際、講座を見学に来た中学生達に、IchigoJamを設置して開放したところ、すこぶる反応がよく、私たちもびっくりするほどであった。技術を専門教科とする中学校の校長先生に、講座を見ていただいて助言をいただいたが、現状では中学校と連携した講座の開設は中学生の参加時間を確保することが厳しく、実現は難しい感触であった。残念である。


6.まとめ
 当初目標とした「ボードコンピュータで何ができるのか」は参加した生徒に十分理解させることができたと考えている。
 今回採用したArduinoには2015年になってコンピュータ界の巨人であるintel社が参入した。日本でも2016年3月から使えるようになっている。intel社が参入したということは、世界でもスタンダードになると予想できる。今後より認知度が上昇し、このような実践が要求されると考えている。