2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ICTを活用した学習環境データの収集と科学的考察を通じた環境学習への取り組み-校舎改築時の学校環境を活かした環境学習モデルケースの提案を目指して-

実施担当者

高井 あゆみ

所属:守山市立守山中学校 教諭

概要

1 はじめに
 本校ではこれまで、生徒会活動(環境委員会)の一環として、年間を通じて校舎内外の気温・湿度等の調査を実施し、環境学習の資料として用いてきた。しかしながら、理科授業教材の温度計や乾湿計など既存の機材による測定では、多様なデータの獲得や蓄積、また定点的な測定が困難であり、それらに基づく考察や具体的な行動につながる提案には至っていない。
 そこで本研究では、温度や湿度、気圧といった多様なデータの測定が可能なICT機器を活用し、生徒による継続的な調査活動と各校舎の学習環境差の検証を行った。また、調査活動で得られたデータを資料とした環境学習を実践し、意識の向上及び具体的な行動につなげ、環境学習推進のモデルケースとしての提案を目指した。


2 研究方法
 本校は環境を考慮した学校施設(スーパーエコスクール事業)の指定を受け、平成26年度から校舎が一部取り壊され、仮設のプレハブ校舎へ移転した。50年以上前に造られた鉄筋コンクリートの旧校舎(図1)から仮設のプレハブ校舎(図2)へ、そして平成28年11月に完成した新校舎(図3)へと学習環境が移行する状況を活用し、それぞれの環境データの収集、比較、考察を行った。

2-1 学習環境データの収集
 各学年の教室内と廊下に一台ずつ環境センサー(Eve Weather)を設置し、週一回環境委員会担当生徒がiPadによるデータ収集及び学習環境に対する考察を行った。収集したデータはクラウド経由で集約し、月に一回、各学年、各クラスの環境委員の生徒が手書きのグラフを作成し、結果を考察した(図4、5)。

2-2 環境学習の実践
2-1で得られた資料を基に、教室内外及び校舎配置、構造、時間帯の差異に着日した教材を作成し各学年において環境学習を実践した。
 具体的には、環境データの測定場所による違いに着目した思考を促すグラフ教材(図6)を作成し学級におけるグループ協議を通じた考察を行った。

(注:図/PDFに記載)


3 研究結果
3-1 学習環境データ
環境センサー(Eve Weather)に蓄積された気温・湿度・気圧の24時間データは、Bluetoothで接続したiPadに転送され、図7のような形式で表示される。これらの収集したデータを元に一年生は外気の影響を受けやすいプレハブ校舎、二年生は冬には廊下に雪が積もるが夏は風通しの良い旧校舎。三年生は一般的な環境の旧校舎といったように、それぞれが過ごす教室の気温変化を各クラスの環境委員の生徒が以下の差異に着目し、考察を行った上で図8のような掲示物を作成した。

(注:図/PDFに記載)

①晴れの日と雨の日の違い
②鉄筋コンクリートとプレハブの違い
③プレハブ校舎と新校舎の違い

①睛れの日と雨の日の違い
 グラフでは教室内の気温を青色、廊下の気温を赤色のペンで示した。特にプレハブ校舎では、晴れの日ほど教室と廊下の気温差が激しく、6月でも教室内の気温が40℃近くに上昇することがわかった。
②鉄筋コンクリートとプレハブの違い
 断熱材のないプレハブ校舎では、外気と接している教室内の温度が直射日光の影響を大きく受けて気温が上昇することがわかった。

③プレハブ校舎と新校舎の違い
 スーパーエコスクール事業に指定されている新校舎は、全ての教室にヒート・クールトレンチが備えられている。地表から5mの地中温度は、一年を通して約15℃前後である。地表から約2mの地中の空気を教室内に取り入れる設備がそれである。ヒート・クールトレンチのはたらきによって、教室内の気温はある程度一定に保つことができる。下の図9に示す④つのグラフは仮校舎と新校舎の気温変化のグラフである。

(注:図/PDFに記載)

3-2 環境学習の実践
 3-1で生徒が作成した教材グラフを元に、環境学習の指導展開及び教材を開発し、実践に取り組んだ。また、省エネルギーのための取り組みとしてヒート・クールトレンチの使用だけでなく、照明器具の使用方法の工夫を呼びかけ、生徒一人ひとりが新しい校舎を使用する上で環境に配慮された仕組みを理解し、それを効果的に使用するための環境学習に取り組んだ。
 環境センサーのデータを活用した授業実践及び光を取り入れる工夫を学習する環境学晋を全学年で2月に実施した。授業実践の様子を図10,11に示す。


4 考察と今後の課題
 ICTを活用した学習環境データの収集により、従来の機材による測定に比べ、より正確且つ運続性のあるデータ収集が可能となり、生徒にとって日常生活に関連付けた環境学習教材の開発及び実践が可能となった。
 今後は年間を通じた継続的な学習環境データの収集を継続し、環境センサー配置箇所による差異のみならず、季節変化による学習環境の変容に着目することで、生徒が科学的な視点を持って考察できる教材の開発及び授業実践を進めたい。