2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

高等学校において「知識暗記型の理科」ではなく「実感重視型の理科」を実践する。

実施担当者

上田 浩人

所属:北海道湧別高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 小学校理科と比較し、中学高校理科の指導内容は圧倒的に多い。そのため、生徒が教師の説明を聞き板書を写すだけの理科、「知識暗記重視型の理科」となりやすい。その結果、理科は日常とかけ離れたただの暗記教科となり、理科嫌いな生徒が続出する。一方、主に小学校で実践されている実験・観察中心の「実感重視型の理科」は、生徒の気づき違いを発見する活動が多く、学習内容と日常との関わりも実感できる。その結果、理科好きの生徒が増加する。
 学年が上がることによる指導内容の増加(知識暗記型理科の増加)に従い子供達が理科を嫌いになる傾向は、国際的な調査であるTIMSS2011でも明らかになっている 1)。
 我々は、高等学校において「知識暗記型の理科」ではなく「実感重視型の理科」を実践するため、以下の2つの取り組みを行った。


2.モニタリングシステムの構築
 指導内容の多い高校において、実感重視型の理科を行うためには、実験・観察時間を確保する必要がある。そのためには、教師が板書する時間を減らす、生徒が板書を書き写す時間を減らす、生徒全員に的確に実験操作を示す、演習問題の解き方・考え方を素早く共有する等の仕組みが必要不可欠である。
 それらを解決するため、日本理科教育支援センター小森栄治氏の提唱する『モニタリングシステム』を導入した。書画カメラの映像を、理科室に配置されたテレビ6台に写すことにより、教師の手元の様子を教室全員に公開するというシステムである 2)。
 今年度、上記システムを導入した結果、教科書の内容全ての学習に加え、全ての教科書掲載実験および多くの発展実験・観察も取り入れることができた。また、多くの生徒から「今何をしたらいいかがすぐ分かる」「目が悪いのでうれしい」「理科の授業が分かりやすいし面白い」という評価を受けた。
 最終的に、4月に34%だった「理科が大好き」「理科が好き」の割合は、11月末時点で75%に上昇した。


3.教育技術の向上
 単純に実験・観察を多くすれば、理科好きの生徒が増える訳ではない。生徒を引きつける実験・観察指導方法(実験・観察のユースウェア)、学習内容と日常との関わり、科学の最先端を授業化する等の教育技術が必要である。
 上記の教育技術を学ぶため、上記システムの提唱者である小森氏を勤務校にお招きし、本校生徒に日本最高峰の「実感重視型の理科」を実践していただいた。
「理科は感動だ」をモットーにした理科室経営と理科授業で「理科好き100万人計画」を掲げている氏に、化学基礎の電池をテーマに授業をしていただいた。パワーポイント、スーパーボールとチューブを用いた原理原則の解説、最先端技術である防災ライト『アクモキャンドル』を用いた授業を受けた生徒からは「実験はとても楽しかったです。授業もわかりやすく、理科は人の役に立つものなんだとわかった。」「実験を通して難しいことが簡単にわかった。」等の感想を得た。
 また、上記の授業を公開した結果、湧別町教育委員会教育長、地域中学理科教諭、本校教員ら15名が参観した。その後開催した理科授業講習会では、小森氏から理科教育をする上で大切な心構え、理科室経営法等を直接学ぶことができる貴重な機会となった。参加した中学理科教諭からは「このモニタリングシステムを勤務校でも構築したい」という感想を得た。
 これらの取り組みは2014年10月10日付けの北海道通信に掲載された。


4.まとめ
 最も重要なことは、上記システムの構築、講師による特別授業を我々が日々生徒相手に行う通常授業の質を高めるきっかけにすることだ。理科教師が授業技量を高め、理科室環境を整え、生徒がわくわくする理科授業を行うことが生徒を理科好きにする最良策であると考える。
 そのために、我々は教材研究、授業後の改善はもちろん、最先端の情報・実験のユースウェアを学び、全国最先端の理科室経営を行う学校等に見学に行いく等、足で情報を稼ぐ努力を続けていく。
 また、得た学びを積極的に発信し、教諭間で共有していきたい。得た学びを、各々の理科教諭が各地で日々の実践に活かすことで、「実感重視型の理科」が広めたい。理科好きの子ども達の育成を通し、科学立国日本の将来に貢献したい。