2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

高校生アースサイエンスセミナー -大学や博物館等と連携したジオパークでのフィールドワークと成果発表の取組-

研究責任者

淀川 壮之典

所属:熊本県高等学校教育研究会地学部会 教諭

(熊本県立熊本北高等学校)

概要

1 はじめに
地震や津波、火山活動、台風等の被害から明らかなように、自然と人間生活とのかかわりを理解することにより、自然災害に向けた備えと行動のできる国民を育成することが求められています。自然災害発生のメカニズムを扱う地学は、防災・減災のための知識基盤として不可欠です。また、最近では日本各地におけるジオパークの登録数も増え、一般市民が地学に触れる機会も増加していますが、日本における地学教育の現状には厳しいものがあります。自然を理解する上で、地学に関運した学間を理解することは極めて重要なことです。地学に関連する自然の領域は、私たち人間のすぐ周りに存在するものが多く、地学は私たちにとって身近な事物・現象を多く扱っています。その一方で、その囚果関係が複雑であることが多いため、扱う事象の時間スケールと、空間スケールの大きさと範囲があまりにも極端であることから、理解しにくい面も持っています。このような特徴をもつ地学の面白さや魅力は、多くの人々が共有できるはずです。そこで、多島海を含むケスタ地形が見られ、一億年前の恐竜の化石や恐竜絶滅後の大型の哺乳類化石などの白亜紀、古第三紀の多種多様な化石が見つかり、火成岩も多種にわたって産出する「天草ジオパーク」で、我が国の科学界の第一線で活躍している研究者の指導のもと、高校生自らが協力して研究テーマを設定・追求・発表・評価することをとおして、科学的に課題を追求する技能や知識の向上を図ることを目的として、高校生を対象としたセミナーを開催しました。

2 フィールドワークと成果発表

2-1 アースサイエンスセミナーin天草でのフィールドワーク

平成28年8月9日(火)、10日(水)の2日間にわたり、天草ジオパークをフィールドとして8月9?10日の1泊2日で開催しました。4月に発生した熊本地震の影聾もあり開催が危ぶまれましたが、熊本県内6つの高校から生徒23名(附属中学校を含む)の参加があり、5名の講師の指導のもと4つのセミナーに分かれ、地質や古生物、環境等の分野に関するフィールドワークを中心とした調査活動を行いました。今回、講師を務めていただいた先生方とそれぞれのセミナーの研究テーマと参加校、セミナーの主な日程は以下の通りです。

(講師及びテーマ)
? 天草市立御所浦白亜紀資料館 館長長谷義隆先生(地質学・古生物学)
(テーマ)「花粉・珪藻分析により自然環境の変化を探る」
(内容)上天草市、松島町の低地で、ハンドボーリングによる沖積層の採取と、採集した試料について花粉の分析を行い、当時の植生を復元し、現在の環境への移行について考察する。
? 熊本大学大学院自然科学研究科 准教授小松俊文先生(古生物学)
熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター特任准教授 田中源吾先生(海洋生態学)
(テーマ)「赤崎層と白岳層の地層および化石観察と八代海の表層堆積物の観察」
(内容)天草に見られる赤崎層と白岳層の地層の観察や、採取される化石の採集と、船上から八代海の表層堆積物を採取し、堆積物や生物の観察を行う。
? 天草市立御所浦白亜紀資料館 学芸員 鵜飼 宏明 先生(古生物学)
(テーマ)「生痕跡化石を調べよう」
(内容)天草市御所浦町牧島に分布する姫浦層群の生痕化石の調査をスケッチや型取りを中心に行い、それについて考察する。
? 熊本県博物館ネットワークセンター 参事川路芳弘先生(地質学)
(テーマ)「天草上島の堆積岩の砂岩分析」
(内容)上天草市松島町周辺の砂岩の分布について、陸上及び海上から調査す。る後日、採取したサンプルから岩石薄片し、分析する。

(セミナーの主な日程)
第1日目 8月9日(火)
9:00 熊本駅集合、バスにて移動
10:30 熊本県立天草青年の家到着
11:15~12:00 開講式、入所式、オリエンテーション
12:30~13:30 研修1「研究の準備」(講師指導によるセミナー別活動)
13:30~18:30 実習1「フィールドワーク1」(講師指導によるセミナー別活動)
18:30~19:30 夕食、休憩等
19:30~21:00 研修2「データの確認と検討」(講師指導によるセミナー別活動)
21:00~22:30 入浴、就寝準備
22:30 就寝
第2日目 8月10日(水)
6:oo 起床
7:20~8:00 朝食、退所準備
8:00~8:30 研修3「研究の準備」(講師指導によるセミナー別活動)
s:30~14:00 実習2「フィールドワーク2」(講師指導によるセミナー別活動)
1s:oo~1s:1s 閉講式(天草青年の家)
15:30 青年の家出発・バスにて移動
17:00 熊本駅着、解散

(参加校)
熊本県立第一高等学校、熊本県立熊本北高等学校、熊本県立熊本西高等学校、熊本県立大津高等学校、熊本県立菊池高等学校、熊本県宣八代高等学校

2-2 各高校での研究
8月9?10日に開催した「アースサイエンスセミナーin天草」の後、参加各校では調査で得られたデータを持ち帰り、研究を続けました。セミナーの期間が1泊2日と短く、活動内容がフィールドワークによる試料やデータの収集が主であったため、多くのデータを得た状態で各校へ帰り、その後の研究に入りました。参加した生徒達は1年生が中心であり、研究活動を初めて経験する生徒も多く、各校の教師の指導や、セミナー講師のアドバイスの受け、データの分析や考察の方法、プレゼンテーション資料の作成など、研究発表までに多くのことを学びました。グループによっては、人数の関係で複数の学校での共同研究となり、各学校で調べた内容を持ち寄って1つにまとめ上げる活動を行いました。

2-3 熊本県生徒理科研究発表会での成果発表
今回開催した、サイエンスセミナーに参加した生徒たちは、各学校に戻り、継続した研究を続けた結果を10月23日に開催された「熊本県高等学校生徒理科研究発表会」(熊本県高等学校理科教育研究協議会及び熊本県高等学校文化連盟理科部主催)の地学部門で発表しました。各セミナーともに、プレゼンテーションソフトを用いた約12分間の口頭発表でした。セミナーに参加した多くの生徒が初めての口頭発表であったため、緊張した様子も見られましたが、各学校とも、よく研究がまとめられており、生徒たちの努力が感じられました。
また、セミナーの講師を務めていただいた先生方にも発表会場に来ていただき、セミナーの様子やそれぞれの研究分野のお
話やそれぞれの発表に対する講評をいただきました。

3 まとめ
高校生にとって科学的なものの見方や、自然科学の研究手法などを肌で感じ、実践することは貴重な経験であり、このような活動を通して、未来の日本を切り拓いていく人材を育成していくことが社会的に求められています。今回開催したアースサイエンスセミナーに参加生徒たちは、それぞれのセミナー講師の専門とする領域での研究に携わることができ、この活動で得られたものはそれぞれの生徒にとって大きなものだったと思います。また、8月のセミナーから10月の発表までの
間、集めたデータの分析や発表資料の作成、口頭発表を通して、科学的思考力やコミュニケーション能力の向上に見られたと思います。昨年度から計画していたこのセミナーですが、4月に発生した熊本地震のため、一時は開催も危ぶまれた状況でしたが、講師の先生方のあたたかいご協力のもとに充実した研修会となりました。