2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

高校生が先生役となる近隣小中学生への科学教育および研究倫理教育の実施

実施担当者

小原 快章

所属:静岡県立掛川西高等学校 教諭

共同実施者

松下 保男

所属:静岡県立掛川西高等学校 教諭

共同実施者

笠原 均

所属:静岡県立掛川西高等学校 教諭

共同実施者

太田 伝貴

所属:静岡県立掛川西高等学校 教諭

共同実施者

森島 賀子

所属:静岡県立掛川西高等学校 専門支援員

概要

1.はじめに
 本校(静岡県立掛川西高等学校)がある静岡県掛川市には理工系の大学がなく、また本校には理数科が設置されているため、地域の小中学校から理科教育、科学教育の推進役を期待されている。しかし、本校には理数科は設置されているものの、地域の科学教育のための特別な予算があるわけではないため、本校の生徒以外を対象とした公開授業等へ予算を割くことが大変難しい状況にあった。このため、掛川市内の小中学校と連携した科学教育講座の開催に際して、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からの科学教育振興助成への応募を行い、助成を頂くこととなった。講座の開催にあたり、平成26年度は、ちょうど大学や研究機関における研究倫理問題が報道を賑わした時期であったため、小中学生への科学教育ともに、高校生への研究倫理教育を行うことも目的として活動を行ったので、報告する。


2.科学教育講座の準備
 今回の講座では、高校生を先生役とすることにより、高校生にも主体性をもって講座に臨んでもらうことを期待した。ボランティアとして先生役となることを希望した高校生たち(1年生12名、2年生16名、計28名)は夏季休暇中に、4つの講座を開講するため、7人ずつの4グループに分かれて、それぞれが1講座のグループ学習の先生となれるように当日の担当講師からガイダンスを受けた。ガイダンスの内容は、科学教育講座についての説明、講座内容についての学習、実際の実験内容の体験、指導方法の打ち合わせなどであった。1年生は、高校に入学後約4か月しか経過していないため、実験機器の扱いや、理論等の理解で難しい部分もあったが、それらを補うために熱心に取り組んでいた。当初の計画では、小中学生へ配布する当日の資料の作成にも本校生徒が参加する予定だったが、今年度は本校の野球部が全国高等学校野球選手権静岡大会(夏の甲子園地方大会)において決勝まで勝ち進み、全校応援などの学校行事が非常に多く、生徒の参加時間が十分に確保できなかった。このため残念ながら資料の作成方法の指導のみに止まったが、指導として研究論文等の図などは、インターネット等からのコピーではなく研究者が作成するべきであること、またこのため物理講座用の資料では、筆者らが全ての図をイラスト制作ソフトにより作成したことを説明した。今回作成した物理講座用に準備した資料を添付書類1として提出する。


3.科学教育講座の実施内容および実施状況
 平成26年8月12日(火)に「わくわく実験教室 in 掛西学園」と題して小中学生に対する理科講座を行った。午前9時から12時までの時間に4講座を開講し、小学生10名、中学生10名の計20名が2講座ずつ受講した。物理分野では筆者が1講座を開講し、「静電気ってなんだろう?静電気を確認する道具を作ってみよう」と題して、ペットボトルとアルミホイルから箔検電器と呼ばれる帯電状態を調べる実験器具の自作を行った。開催中の写真を以下、図1に示す。
 化学分野では、太田伝貴教諭が1講座を開講し、「水溶液に何が含まれるのか、分析してみよう!」と題して水溶液の定性分析を行った。開催中の写真を、以下の図2に示す。
 生物分野では2講座を開講した。1講座は、松下保男教諭が「土の中の生き物を見てみよう!」と題して、土壌生物の探索と観察を行った。もう1講座では、笠原均教諭が「小さくて広い顕微鏡の世界を体験しよう!」と題して、環境水などでみられる単細胞生物の観察を行った。開催中の写真を以下、図3に示す。
 今回助成を得られたため、土壌生物の探索と観察を行った生物講座では「土の中の小さな生き物ハンドブック」(文一総合出版)を購入して参加者に配布した。物理講座では光の実験用の三角プリズムを購入し参加者に配布した。
 なおこの講座は、講座開始前の開会式時から、終了時まで地元民放テレビ局2社から取材を受け、ニュース番組にて報道された。参加した小中学生と、先生役を務めた高校生とは年齢が近いためか気軽に質問をできる雰囲気にあり、和やかで、楽しく有意義な時間を過ごせたようであった。


4.科学教育講座についての総括
 開催後に本校に送られてきた小中学生からの講座に対する感想において、理科に対する親しみが増したという意見とともに、高校生が優しく教えてくれたことを感謝する内容もあり、本プロジェクトの主目的である高校生が先生役となることを、立派に果たすことができたと考えられる。引率した小中学校理科教員らの講座に対する評価も高く、また小、中、高の理科教員の連携を得られたことも地域の理科教育に良い影響があったと考えられる。しかし、講座開催中に高校生だけでは小中学生からの質問に十分対応できないこともあった。これについては、高校生が簡単に指導できる内容であることと、小中学生が難しいことを学んだ自分に自信を持つことができる内容であること、小中学生の親世代を含む幅広い年代で関心を持てる内容であること、の全てを兼ねそろえた内容の講座を開講することはなかなか困難であるため、高校生がより高度な内容を理解できるように時間を割くことが望ましいのではないかと考える。また科学講座の開催のためだけではなく、通常の授業の時間を通じて生徒の科学力をより高めていく必要性を感じた。
 小中学生の感想からはその他にも、家庭において配布した教材を用いていることがわかる感想もあり、助成を受けたことにより本プロジェクトの目的の1つである地域における科学教育推進にも効果があったと考えられる。
 科学教育講座の反省点、改善点として、参加した小学生が当初の予想よりも低い学年も含まれていたため、図2に示すように着用する白衣のサイズが適合せず、エプロンを代用したことがある。高校での授業において、白衣を初めて着る高校生は非常に喜び、実験に意欲を見せることから、白衣には着衣を汚さない以上の効果が見込まれるため、助成金を用いて小中学生用の白衣を本校にも準備することとした。また、今回は理科の教科の中で地学分野の講座の開催ができなかったが、東日本大震災以降、日本における地学教育の必要性は増していると考えられるため、助成金を用いて地学分野の教育機器の補強を行った。