2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

高校教育における細胞・組織中の物質の分布と局在のバイオイメージング化

実施担当者

矢追 雄一

所属:岐阜県立岐阜高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 現在,勤務校において1~3年生の生物基礎,生物の授業を担当している。本校は県内一の進学校で,向学心に富んだ生徒が多く教科書の内容を超えた学習にも積極的に取り組む。授業では,生徒用光学顕微鏡が一人一台用意されており,細胞の観察や体細胞分裂,だ腺染色体の観察などを行っている。生徒は,光学顕微鏡を利用して細胞や組織を観察することを習得し,理解をしている。しかし,光学顕微鏡を用いて細胞内の物質の分布や局在を調べることが可能であるということは,既習しておらず,ホルモン産生細胞や細胞骨格などの同定や観察については教科書や図説をみるにとどまっている。また,全ての細胞が同じ遺伝情報を持っており,遺伝子の発現パターンの違いによって,分化・成熟,機能しているということを知識として理解している。


2.目的
 本研究の細胞および組織中の物質の分布と局在のバイオイメージング化は,免疫組織化学的手法(酵素抗体法による免疫二重染色や蛍光二重染色)を用いて,特定のタンパク質の細胞内の局在を調べ,観察し,記録し,高校教育内で生徒に提示または研究発表に利用することを目的とする。具体的には,授業で,マウス膵臓のランゲルハンス島のA細胞(グルカゴン産生細胞)とB細胞(インスリン産生細胞)の特定を行い,生物の体内環境の維持や免疫系,遺伝情報の維持と発現,細胞分化についての学習内容を深化させた。


3.材料・方法
 4%パラホルムアルデヒドで固定し,脱水後,パラフィン包埋したマウスの組織標本を帝京大学医学部より提供いただいた。回転式ミクロトームを利用し,6μmの組織切片を作成し,MASコートスライドガラスに貼付し,伸展した。脱パラフィン後,組織像の観察を行うものはヘマトキシリン-エオシン(HE)染色を行い,封入し,永久標本とした。授業で免疫染色の発色を行うものは,一次抗体(抗グルカゴン抗体,抗インスリン抗体)を添加し一晩静置した。翌日,二次抗体(HRP抗体,または蛍光標識抗体)を添加し,2時間以上静置後,授業で利用した(ここまでの作業を前日,当日の授業開始までに1クラス40名で約40枚の組織切片を用意することがかなりの労力であった)。授業では,マウスの永久組織標本(膵臓,脳下垂体,腎臓,副腎,肝臓,骨格筋)の観察後,免疫染色による発色(3,3’‐ジアミノベンジジン四塩酸塩を利用)を行い,グルカゴン産生細胞とインスリン産生細胞を特定した。また,蛍光免疫二重染色を行った標本については,教卓上にある蛍光顕微鏡での観察を順番にグループごとに行った。


4.結果
 授業時間内で行える実験系を確立し,実施することができた。具体的には,本校の1年生の生物基礎の授業(10クラス:計400名)と岐阜県高校生物教諭80名を対象とした理科担当者会議,科学の甲子園に向けての合同学習会(本校主催で3月の全国大会に向け岐阜県内,県外から参加校を募り行う学習会。詳細は本校HPを参照:http://school.gifu-net.ed.jp/gifu-hs/about/h26_8_kagaku.pdf)で実施した。
 初めての試みであり,難易度の高い実習になったが,作業自体をできるだけシンプルにしたため,実験に取り組んだ一人一人が予定通りの結果を得ることができ,考察することができた。
以下,生徒の感想を抜粋。
○知識とともに,染色など実験にあたって基本をもっと身に付けるべきだと感じました。教科書に書いてあってこれまで見ただけだったことが,実は大変なこともあると,身にしみました。
○考察を書くときの表現になかなか手こずりました。問題は比較的やさしかったです。組織切片の観察は色がきれいで,写真や模式図ではない実物を見て感動しました。


5.まとめ
 現在,植物細胞の体細胞分裂時の紡錘糸と動原体および染色体を蛍光免疫三重染色により,観察できるよう試みているが,なかなか染色がうまくいかず試行錯誤している。教材を研究,開発し,教科書に載っている全てのことを教え,授業で実施することは,時間的にも予算的にも厳しい現状がある。しかし,少しでも本物を観察し,直に触れ,興味関心を高め,大学での専門教育を学ぶきっかけにして欲しいと思う。