2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

高専生による「小・中学生向け理科教育支援」 ~高専サイエンス支援ネットを利用したアイデア募集と実施~

実施担当者

上土井 幸喜

所属:熊本高等専門学校 教授

概要

1 はじめに
九州沖縄地区高専は、これまで地域の教育機関と連携しながら小中学校の科学技術教育支援のネットワークを組んで活動し、地域の教育機関への綿密な支援活動に取り組んできた。このプログラムは「公益財団法人中谷医工計測技術振興財団」の助成を受けたもので、九州沖縄地区高専のネットワークを利用し学生が主体的に企画・実施する形の「小・中学生向け理科教育支援」活動を実施するものである。講座の日的は、「小・中学校理科の発展型の優れた科学パフォーマンス及びブース実験を学生たちが提供することで、子どもたちが理科を好きになり、理解を深めることであり、ひいては「日本の科学技術教育の底上げ」を図ること」である。期待される効果としては、主に次の2点が考えられる。
①各地域の子どもたちの"理科”に対する興味?関心・理解を深める事ができること。・優れた実験を学生たちが提供することで、小・中学生も、より身近に共感を覚えて実験に参加できると考えられる。
②学生たちのコミュニケーション能力の向上及びネットワークの広がり等の教育的効果も期待できること。
・講座に参加する小・中学生だけでなく、講座の内容を企画・実施する学生自身にとっても大きな教育的効果があると考えられる。
実施する際のポイントとしては以下の点を考えた。

①開催する実験講座の対象者は、主に小・中学生であること。
②講座では、科学パフォーマンス及びブースでの実験(装置の製作も含む)を実施する。
③科学パフォーマンス及び出展ブースの内容は、小・中学校の理科の発展型であること。
④科学パフォーマンス及び出展ブースの内容は、高専サイエンス支援ネットのネットワークを利用し九朴I沖縄地区の各高専の学生から募集する。

この講座は、各高専がこれまで毎年実施しているイベントと絡めて開催し、熊本裔専八代キャ
パス及び震災復輿を兼ねて益城町で実施した。

2 実施した講座

2-1 「おもしろサイエンス・わくわく実験講座2016」
実験講座は、当初の計画では5月に実施予定であったが、熊本地震のため11月に延期した。実施にあたっては、まず、図1の様に、各高専からどのような内容の実験講座を計画しているか「出展原稿(実施計画書)」を出して頂き、実験内容が、「1はじめに」で述べた①~④に適しているかどうかを判断して計画をすすめた。

熊本高専八代キャンパスで11月12日(土)に実施した「おもしろサイエンス・わくわく実験講座2016」では、学生119名(内学生15名が熊本高専外の財囲の助成対象者)で、講座に参加した参加者は、およそ200名余りであった。それぞれのテーマと内容は以下の通りである。

北九州高専I
【テーマ:[スライム・発砲ウレタン・人工いくら・ダイラタンシー]、内容:[①スライムを作って遊ぼう!②人工いくらを作ってみよう!③ダイラタンシーを作って遊ぼう!]】(図2/PDFに記載)

久留米高専I【テーマ:[重心コマを回そう]、
内容:[様々な図形のコマの型紙を用意しています。重心の位置を計算して、コマに模様を書いて、芯を刺して回します。]】

都城高叫
【テーマ:[おもしろ工作教室]、内容:[ペットボトルロケットを作って打ち上げよう魚の骨格標本の展示もあります。]】

鹿児島高専
【テーマ:[シュワシュワあわロケットで宇宙へ!]、内容:[小型のプラスチックケース(フィルムケース)を使用して、高さ20cmほどの小型ロケットを作ります。粉末にした発

泡入浴剤と少量の水を容器に入れてフタをすると、発生したガスによって容器内部の気圧が上昇し、数十秒ほどでケースの本体とフタが外れてロケットが勢い良く飛び上がります。宇宙へ!は届きませんが、空に向かってロケットを楽しく打ち上げましょう。ロケットの製作では、30mlのプッシュバイアルびんを使用します。これに、15cmの正方形の紙を巻き付け、胴体とし半径6cmの半円形の紙を円錐状に巻いてロケットの頭部とします。様々なサインペンで塗装し自分だけのロケットにします。]】(図3/PDFに記載)

沖縄高専
【テーマ:[電子工作・イルミネーションパネルを作ろう)、内容:(マイコンとフルカラーLEDを使用した専用基板を製作します。ミニルーターでアクリル板に絵を描き、LED基板と組み合わせることで時間とともに色が変化する素敵なイルミネーションパネルを製作します。ハンダづけ作業を
行うため、小学生高学年以上を対象とします。(小学校3-4年生は、要保護者同伴)]】

熊本高専八代キャンパス
【テーマ:[UVランプを使ってアクセサリーを作ってみよう(製作)]、内容[UVライトを照射させると硬化する性質のレジン液を
使い、中にビーズやドライフラワーなど入れてアクセサリーを作ってみよう。どんなオリジナルのアクセサリーができるかな?]】

実施後のアンケート結果では、「今日は面白かったですか?」→とても面白かった100%、「理科や工作に巽味がわきましたか?」→とても興味がわいた98%、少し興味がわいた2%、「またやってみたいですか?」→ぜひやってみたい98%、やってもいいかな2%であった。また、記述式の参加者の感想では、「とても楽しくできました。午前から午後までやっているので長い時間楽しめました。」「やったの全部楽しかったです。」「混み合ってなくてよかったです。」「とても而白くて、とても楽しかったです。」「楽しかったです。ぜひ毎年やってください。」「親切丁寧に教えてもらい興味がわいたし面白かったです。」「大人も参加できて楽しかったです。」「楽しい時間でした。来年もよろしくお願いします。」「高専に行けたら行きたいです。」「実験に興味があるので高専に行きたいです。」「Xジャイロを投げまくつて楽しかったです。」「いろいろ作ったり、いろいろ見たりできてよかったです。」「エ夫してあるものがあってとても面白かったです。」「学生の方もとても優しく教えて下さり子供も喜んでいました。」との意見が多数あり、大変好評だったことが分かる。

また、内容を企画・実施した学生の感想としては、「講座を実施して、子どもたちの興味?閲心を引き出すためのポイントが分かってきた。条件①(できれば)体験したことがないこと。②インパクトがあること。③作業手順が簡単であること。」「簡単にまとめたパネルを用意する。」等があり、実験のポイントや子どもたちとのコミュニケーションの取り方についても学べたようである。

2-2 「おもしろサイエンス・わくわく実験講座in益城」

益城町は、昨年4月(2016年)に発生した熊本地震で大きな被害を受けた。当初の計画を変更し、熊本高専熊本キャンパスの山崎先生が中心になり、被災した子どもたちのために益城町で実験講座を開催しよう、という話になり避難所にも使用されていた益城町中央小学校体育館を開催場所として11月13日(日)に実施することになった。(図4)また、案内のチラシについても、集客カの大きい熊本市内での配布は避け、敢えて益城町の周辺に絞り、主に参加する益城町近辺の子どもたちが実験し易いような配慮がなされた。参加した学生は130名にのぼり(内約25名が熊本裔専外の助成対象者)であった。謂座に参加した参加者は、約300名余りであった。前日の11月12日(土)に八代キャンパスで実施した助成対象の内容は、益城町でも全て実施し、更に追加したテーマと内容は以下の通りである。

有明高専
【テーマ:[回転する円盤の不思議な力?(製作)]、内容[回っているコマはどうして倒れないの?不思議ですね!簡単に説明すると、回転しているコマを倒そうとすると倒す方向とは直角にずれた方向に力が発生し、コマの姿勢を保とうとするのです。これを「ジャイロ効果」と言い、回っている姿勢を維持することから、飛行機、ロケット、人工衛星をはじめいろいろな乗り物の姿勢制御に使われています。ここでは、モータで円盤を回転させる電動ジャイロを製作し、その不思議な動きを体験しましょう。]】

【テーマ:[真空の不思議な世界~空気が無くなるとどうなるかな?~(実演)]、内容:[日常の世界には空気が
ありますが、この空気がだんだんと減っていくと「真空」という状態になります。真空の世界では普段見ている物
の形が変わったり、不思議な現象が見られたりします。本コーナーでは電動の真空ポンプや手動の実験装憧を用いて真空の状態を作り、不思議な世界を体験してもらいます。
主な実験は、・真空中では風船やマシュマロはどのような形になるかな?・高い山の山頂ではお湯は何℃でふっとうするかな?・ブザーは真空中ではどのような音がするのかな?]】

熊本高専熊本キャンパス
【テーマ:[空中に自由に絵を描ける!~30ペン体験~]、内容[3Dペンは空中に立体アートを手描きできる新しいツールです。溶けたプラスチックがペン先から出てすぐ固まるので、ペンを動かした通りの立体アートができます。]】
【テーマ:[スーパーボールもどきを作ろう!]、内容[ラテックス液(液体ゴム)とクエン酸を使って、スーパーボールもどきを作ろう!完全に固まるまでには数日かかります。]】

3 まとめ

この活動は、九州沖縄地区の高専の学生(高専1年~3年生対象)に、科学パフォーマンス及びブースの内容を企画・実施してもらうことであった。参加学生は、助成対象者約30名、それ以外の学生も含めるとのべ250名にのぼった。企画内容は、多岐に渡り、実施後のアンケート結果からも、各ブースの講座に参加した子どもたちばかりでなく保護者の方々も、たくさんのブースを回って長時間にわたり楽しめたようだった。
学生の実験講座内容の企画・実施は、目的である「各地域の子どもたちの"理科”に対する興味・関心・理解を深める事」、「学生たちのコミュニケーション能力の向上及びネットワークの広がり等の教育的効果」について十分逹成できたと考えられる。