2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

高大連携による宇宙の”ものづくり”と”ひとづくり”の実践―茨木工科高校宇宙をめざす―

実施担当者

清水 至中

所属:大阪府立茨木工科高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 大阪府立茨木工科高等学校は1964年に茨木高等学校の工業科を独立させ、茨木工業高等学校として開校しました。
 その後、丁業高校の再編により、茨木工科高等学校として改編し、現在に至っています。
 私たちのクラブは宇宙をテーマにした“ものづくり”を実践し、“ひとづくり”を行うことを目的としています。
 クラブの目標は本物の人工衛星を高校生の手で宇宙に打ち上げることであり、その目標を達成できるように水ロケットや模擬人工衛星(缶サット)、アマチュア無線技術について研究し、小型人工衛星などの専門的な技術や知識、経験値を獲得させるために大学と連携して講義や共同実験が実施できるようにしました。


2 活動内容
2-1 概要
①:水ロケット(APRSAF国際水ロケット)
②:缶サット(缶サット甲子園)
③:アマチュア無線(ARLISSスクールコンタクト)
④:高大連携授業(大阪府立大学小型宇宙機システム研究センター)

 2016年7月1O日(日)、和歌山県和歌山市加太にあるコスモパーク加太において、2016年度缶サット甲子園近畿大会が行われました。近畿圏の高校11校が集まり、本校はその中でも健闘し、準優勝となり、2回目の全国大会に出場することができました。
 私たちが、この大会で実現したかった缶サットは音声マイコンを使って“誰にとっても分かり易い”そして“スマホやPCで情報共有”ができるものを開発しました。
 缶サットの大会はロケットの打ち上げは見て分かりますが、缶サットの実験は説明しないことには、理解されにくいことから、打ち上げから着地まで音声マイコンを使って、『発射しました』、『放出されました』、『着地しました』という一連の流れと、各イベントが打ち上げから何秒のところで達成できたかを知らせるために、打ち上げ後からカウントアップを行い、分かり易さを追求しました。
 また、着実に実験が遂行できるように、チェックリストと手順書を用いて、ヒューマンエラーの低減を図ったことも審査員に高い評価を受け、準優勝することができたのだと思います。

 2016年8月17、18日の2日間にわたり秋田県秋田市太平山スキー場で缶サッ卜甲子園全国大会が執り行われました。
 私たちの缶サットは機器の不具合が発生し、地方大会でのパフォーマンスを発揮することができませんでした。
しかし、全国大会では、参加できなかった生徒たちも朝早くから学校に集合して、現地でトラブルがあった時でも、対応できるように、SNSを駆使して、現地のメンバーにアドバイスをしたり、プログラムの修正をしたりしたことが、部員全員が取り組めた貴重な経験となり、結果以上のものを残すことができました。

2-2 高大連携授業(大阪府立大学小型宇宙機システム研究センター)
 私たちのクラブでは、社団法人全国工業高等学校長協会の100周年記念事業である『高校生による小型人工衛星打ち上げプロジェクト』の衛星部品製作校として活動しています。
 茨木工科高校の担当は衛星の心臓部である電源系の中にある電気を分配する装置(PDU)というものです。
 この装置は、宇宙で衛星が太陽電池で発電した電気を電池に蓄えたものを効率良く、分配し、衛星の仕事であるミッション(画像撮影、データの送受信、制御など)を滞りなく行うために非常に重要なものです。
 装置の開発に当たり、本校と連携させて頂いている大阪府立大学の小型宇宙機システム研究センターが実際に宇宙に打ち上げて実績のある『OPUSAT』を基に高大連携の授業を行って、その技術や知識や経験値などのノウハウを教えて頂きながら、生徒たちがゼロからPDUのシステムを開発していきました。


3 まとめ
 全国工業裔等学校長協会の小型人工衛星打ち上げプロジェクトでは、私たちが担当している電源系の基本設計と実験モデル(BBM)が完成し、各校が製作した衛星のシステムとの統合試験も無事にパスしました。
 今年度からは本格的な宇宙環境に耐えられるようなエンジニアモデル(EM)の研究開発を行い、真空や振動、温度変化、放射線などの試験を行うことになっています。
 また、私たちの宇宙への着実な歩みが認められ、毎日新聞の大阪版の“まなびやの宝”(2017年2月4日付)に掲載されました。