2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

静岡県磐田市太田川河口で発見された砂礫層は津波堆積物か?-イベント堆積物の鉱物学的・岩石学的・堆積学的検討と歴史地震の特定-(継続2年目)

実施担当者

青島 晃

所属:静岡県立磐田南高等学校 教諭

概要

1.動機・目的
 2011年8月の野外調査中に,静岡県磐田市太田川河口から約3.5km上流の河川改修工事現場から,津波堆積物らしき砂礫層を発見した.その後,その上位にも3枚の砂礫層を発見し,これらの砂礫層を下位よりそれぞれイベント堆積物①~④と名付けた.
 昨年度までの研究により,これらのイベント堆積物は,含まれる礫や砂の鉱物学的岩石学的特徴から,下位よりそれぞれ白鳳地震(684年),仁和地震(887年),永長地震(1096年),明応地震(1498年)による津波堆積物であることを明らかにした.
 しかし,これらの津波が太田川低地のどこまで遡上したかは不明である.そこで今年度はボーリング調査により津波堆積物の広がりを調べて遡上範囲を明らかにすることにした.また,遡上の様子を再現するために模型実験とコンピュータシミュレーションを行った.
 さらにこれらの成果を地域の防災教育や防災対策に役立てるために,成果の普及を目的とした講演会を行った.


2.ボーリング調査による津波遡上範囲の推定
 ボーリング調査はハンドオーガーを用いた簡易ボーリング調査と掘削機械を用いたボーリング調査を行った.
 ハンドオーガーを用いた簡易ボーリング調査では,太田川低地の15地点で地表面から2~3m掘削し,堆積物の種類や色調などを調べて,地質柱状図を作成した.掘削機械を用いたボーリング調査では,磐田市東小島地区の太田川西岸の河川敷の4地点で地表面から6~8m掘削した.津波堆積物の認定は砂層のうち津波堆積物の特徴である雲母片を多く含み,石英,長石からなるもの,層相が露頭の津波堆積物に酷似するもの,標高が露頭の津波堆積物にほぼ等しいものを津波堆積物として認定した.また,地質年代は広域火山灰の対比や放射性炭素14年代測定値から推定した.
 この結果,白鳳津波堆積物と明応津波堆積物は袋井市富里付近まで追跡でき,これは現在の海岸線から内陸に約5kmである.一方,仁和津波堆積物と永長津波堆積物は磐田市東小島の元島遺跡付近まで追跡でき,これは現在の海岸線から内陸に約4kmである.
 このことから,明応・白鳳地震による津波は,永長・仁和地震による津波より規模が大きいことが推定される.


3.模型実験による津波遡上の再現
 古地理地図を基に古地理模型を作成して,白鳳地震による津波の伝搬経路を検証した.方法は古地理図の等水深線を発泡スチロール板に写しとり,これを切り抜き重ねて,図1の1/13,600の古地理模型を作成した.次に模型に水を入れて,波を可視化するために発泡スチロールビーズを潟湖内に敷き詰め,自作の造波装置で波を起こして図2,3の津波模型実験を行った.図4は0.1秒ごとの津波の波面の位置と経路で,図5より水深が深いほど津波が速いことなどが分かった.これらは,ボーリングによる遡上範囲や堆積構造から推定した水流の方向と調和的である.


4.コンピュータシミュレーションによる再現
 模型実験の結果を検証するために,パソコンによる津波シミュレーションを行った.方法は津波の数値計算の計算式にAbe&Noguera(1992)の差分形式を用い,この式を表計算ソフトExcelのワークシート上に岡本(1999)を参考に移植した.次に模型実験で作成した古地理図に200m四方のメッシュを40×30個作成し,各メッシュの水深を読み取り,水深の値をExcelのワークシートのセルに代入した.図6はシミュレーションの結果で,模型実験による波の動きや伝搬経路の結果と大変よく対応している.


5.研究成果の普及と地域への還元
 この研究で得た成果を第38,39回全国高等学校総合文化祭で発表し,第38回大会では文化庁長官賞を受賞した.また,第58回日本学生科学賞中央最終審査では環境大臣賞を受賞した.
 さらに研究成果を地域へ還元するために,平成27年12月19日に磐田市南御厨地区でボーリング調査の結果を紹介する報告会を実施した.また,静岡理工科大学が主催する地域交流公開講座では袋井市民に研究成果を知っていただいた.


6.まとめ
 ボーリング調査により太田川低地の津波堆積物の分布を調べて遡上範囲を明らかにした結果,白鳳地震と明応地震の津波は仁和地震と永長地震の津波より規模は大きく,現在の河口から内陸側に約5km遡上したことがわかった.この結果は,模型実験やコンピュータシミュレーションの結果ともよく対応している.
 また,これらの成果を高校生の理科研究の全国大会で発表したところ,高い評価をいただいた.さらに,研究で得た成果を地域に還元,普及することを目的に,防災教育や防災対策に役立てるための講演会や報告会を行った.