2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

電析法による色素増感太陽電池負極作製方法の研究

実施担当者

鹿野 知幸

所属:岐阜県立岐山高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 本校は平成15年度から平成24年度までの10年間、文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクールの指定(終了経過措置を含む)を受け、「国際性豊かな科学技術系人材としての資質を育むための理数系教育環境の構築」をテーマに研究開発に取り組んできました。その一環として、部活動と連携した先端科学を取り入れた授業、研究活動を実践しており、化学部では、約10年前から色素増感太陽電池の研究を行っています。現在も色素増感太陽電池の研究を通して社会貢献を目指いと考える意欲的な生徒が集まり、今年度は32名の部員が自主的にテーマ設定をし、研究ユニットを構成して研究活動に取り組んでいます。しかし、機材の老朽化やそれに伴う精度の低下、研究活動の消耗品費等、大きな課題となっていました。公益財団法人中谷医工計測技術振興財団科学教育振輿助成を受けることで、機材の修繕や更新ができ、学会等での成果の一部について発表を行うことができました。現在は各ユニットの成果を1つにまとめ、大きな成果として、大会や学会等での発表をするための準備をしています。


2 研究・活動紹介
2-1 研究概要
 私たちは、電気分解を応用した電解析出法(以下、電析法)による負栃作製を通して、色素増感太陽電池の研究を行っている。色素増感太陽電池は、増感色素を変えることでカラフルにできる。さらに電析法では、その負極を70℃程度で作製でき、作製時の環境負荷も小さいといえる。また、樹脂を利用したフレキシブルカラフル太陽電池など、様々な応用が考えられる。一方で光電変換効率の低さが課題である。
そこで、本校では研究の目的を、色素増感太陽電池の利点である、①カラフルな電池の作製、電析法の利点である②簡便かつ低エネルギーな負極作製方法、課題である③光電変換効率の向上、の3つを大きな柱とし、電析補による負極作製を通して研究している。

2-2 研究紹介
 色素増感太陽電池としての研究は、光電変換効率も向上し、カラフル化にもめどが立った。現在、性能評価の検証中であり、発表時の新規性もあるため、ここでは電析時の反応について考察した研究の一部を紹介する。

はじめに
 電析法では還元反応が起こる陰極で酸化物を生成している。下記の反応が示されているが、高校で学ぶ電気分解では起こり得ない反応であり、改めて考察する必要があると考えた。
反応① NO3-+H2O+2e-→NO2-+NO2-+2OH- 卑な電位の陰極FTO基板でNO3-の還元が起こる。
反応② Zn2++2OH-→Zn(OH)2 ①のOH-が電解液中のZn2+と反応して陰極上でZn(OH)2となる。
反応③ Zn(OH)2→ZnO+H2O ②で生成されたZn(OH)2から、H2Oがとれ、酸化亜鉛の電析膜となる。

研究課題
 上記反応が起こっていると考えた場合に生じた疑間点、以下の4つを研究課題とした。
(1)教科書(化学 東京書籍)の記述では、「陰極では、陽イオン・水分子が電子を受け取る」とされているが、陰極で陰イオンが反応している。
(2)教科書では、陰極の反応は、「イオン化傾向が小さい金属ならばその金属、大きい金属ならば水が反応する」とされているが、硝酸イオンが反応している。
(3)教科書では、発展として「Znなどのイオン化傾向が中程度の水溶液を電気分解すると、金属の析出とH2の発生が同時に起こる」とされているが、上記の反応しか起こっていないのか。
(4) 上記反応では陰極(FTO基板)表面で連続した反応が起き、還元反応で酸化物が生じている。電気分解により次々と析出反応が起こる中で、連続したほかの反応が同時に起こり得るのか。

研究方法
 電析前後で亜硝酸イオンパックテストを用いて亜硝酸イオンの生成を確認した。また、電解液の色素を省き、装置を工夫して電解溶液や電極の変化を観察、録画した。その他、この過程で新たに生じた疑問点を、分解電圧の測定、pHの測定などを通して検証実験を行った。

研究結果のまとめ
 電析時にN02-が発生していることは確認できたが、Zn(OH)2が生成し、その直後にZnO+H2Oに分解されているとは言えない結果が得られた。したがって、反応は複雑で従来の反応式は妥当ではないと考える。また、FTO基板上、陽極の亜鉛線から気体が発生していること、亜鉛線からもNO2-が発生していること、電析後沈殿(Zn(OH)2)が発生していることなど新たな発見があった。
 今回電析膜が生成する初期過程を直接画像として記録することができ、さらにその過程で周期的に色が変化する様子や、複数の反応が同時に進行していることが確認できる結果を得られた。検証実験でその反応の特定や物
質の特定を試みたが、特定するには到らなかった。しかし、酸化亜鉛膜生成過程を考察する貴重な結果が得られたと考える。今後継続研究し、理論的な解明を行いたい。

今後の展望
 今回は電析時の反応を確認することを目的として検証実験を行ったが、最終目的は電析法の課題である光電変換効率の向上につながる諸条件を求めることにある。今回の検証結果から、電位で析出物をコントロールし、電流で成長速度をコントロールすることで膜構造を変化させられないかと考えている。色素増感太陽電池の性能向上、電析膜生成過程の理論的な解明を併せて継続研究してい<。

2-3 成果発表
 今年度は支援いただき購入したPCを論文作成や成果発表のスライド作成など、発表ツールとしても活用し、外部での発表にも参加しました。その一部を報告します。
・第40回全国高等学校総合文化祭自然科学部門化学の部(主催:全国高文連)口頭発表奨励賞「低温で作るカラフル太陽電池の研究」
・第25回自然科学系部活動研究発表交流会(主催:岐阜県裔文連自然科学部会)審査員特別賞「電気分解を用いた酸化還元反応の考察」
・第19回化学工学会学生発表会(主催:公益社団法人化学工学会)日頭発表
優秀賞「電析法による酸化亜鉛薄膜作成方法の研究」 発表要旨を下に示す。

(注:図/PDFに記載)

2-4 その他の活動
 化学部では、研究活動のみならず各種機関から声を掛けていただき、サイエンスフェスティバルでの小中学生を対象とした科学体験ブース運営や、岐阜市が主催する「岐阜科学塾」として、中学生の継続的研究活動のサポートなど、多方面に活躍しています。
 このような活動を通して、コミュニケーションや発表のスキルを高めたり、社会貢献を行っています。具体的な内容を下に示します。
・「岐阜科学塾」(主催:岐阜市科学館)
岐阜市内中学生6名が色素増感太陽電池の研究活動に参加
・ぎふサイエンスフェスティバル (主催:ぎふサイエンスフェスティバル実行委員会)
岐阜市内小・中学生を対象とした催しに「ストロー楽器を作ろう!」の体験ブース開設・運営
・高校生サイエンスフェスティバル (主催:岐阜県高文連自然科学部会)
「ストロー楽器を作ろう!」の体験ブース開設・運営、ポスター発表


3 まとめ
 焼結など高温を必要としない電析法を利用して、色素増感太陽電池の負極として禾I」用する酸化亜鉛薄膜を作製する方法は、これまでにもいくつか示されている。今年度の研究で、より簡便で多色化が可能な白色膜を作製する方法を検討できた。本校のこれまでの作製方法より光電変換効率の向上もみられる。今後この成果をまとめ、理論的な検証と併せて成果報告を行う。