2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

離島・小規模校におけるICT機器を用いた気象・宙象への理科課題研究と授業改善の工夫-高輝度プロジェクター・USBカメラを用いた理科のアクティブラーニングの実践-

実施担当者

樋之口 仁

所属:鹿児島県立大島北高等学校 教頭

概要

1 はじめに
 奄美大島は,東洋のガラパゴスと呼ばれ,世界遺産候補に挙がるほどの豊かな自然や文化はあるが,それらを青少年に紹介する科学的な社会教育施設は,奄美市住用町にある生物系のマングローブパークのみで,物理,地学的な施設はほとんどない。また地域の自然を探究する中高生の科学系部活動は,大島地区中心校である大島高校のみであり,他の中学・高校での活動は見られない。
 一方,本校のような全校生徒110名程度の離島の小規模校の県から理科消耗品費は4万5千円程度と少ない,備品費や施設整備費も国庫補助のみで少なく,ICT機器も不足している。
 そこで,今回貴財団の助成をいただき,高輝度プロジェクター等のICT機器を購入してそれを活用したアクティブラーニングを取り入れた授業展開とUSBビデオカメラとGPSを用いた夜間の宙象における発光現象観測システムを構築して,雷や宇宙雷,晴天時には流星観測を行うことで,南西諸島で観測されていない宇宙雷の初観測や,雷の発生と宇宙雷の関係,さらに流屋観測を行うことで理科系の部活動における探究活動を行い青少年の科学へのモチベーションの高揚を図る実践例を離島や小規模校の理科研究例として紹介する。


2 気象・宙象への理科課題研究「南西諸島北域における流星・宇宙雷観測」
2-1 宇宙雷観測概要
 宇宙雷(スプライト)は落雷に伴って,高度40~90km(中間圏)で発生する大気発光現象であり,1989年米国で偶然ビデオ撮影されてから,世界各地で盛んに観測された。日本では,日本海沿岸や関東で多く観測されている。また,南九州上空における宇宙雷の観測は2008~2010年まで鹿児島県立錦江湾高等学校天文物理部が観測を行っていたが,現在は行っていない。そこで,南西諸島から観測された例はないため,南西諸島北部上空に発生する宇宙雷の観測を試みた。
(1) 目的
① 観測例が少ない南九州上空で,雷雲の上空(中間圃)に発生する放電発光現象であるスプライトの年間連続観測を行い,得られたデータから,発光時間,形状,発生位置,地形との関係などを把握する。
② スプライト発生の原因となる気象条件を,一晩に多く観測された2晩分の天気図や衛星画像などの気象データとの比較から考察する。

(2) 観測方法
 観測装置として,動く被写休を保存するUFOCaptureと呼ばれるソフトウェアと高感度CCDカメラ(カメラ:Wat-100N.レンズ:FUJINON6/mm),GPS受信装置と観測データ保存用パソコンを用意した。2016年9月から本校(北緯28度27分0秒,東経129度40分35秒,海抜5m)のパソコン室で,カメラを北極星―北斗七星方向に向け,観測を始めた。
カメラの調整や自動観測装置の実証試験,自動車のヘッドライト等による誤動作を防ぐ対策を行い,連続5日程度自動測定できることが分かった。また,宇宙雷は観測できていないが,Fig.3のように一晩に数個の流星データが観測できている。今後,連続観測の日数を増やし,南西諸島での宇宙雷の初観測につなげていきたい

(注:図/PDFに記載)

2-2 気象観測概要「塩害の定量法の研究」
(1) 目的
奄美諸島等の島嶼地域におけるサトウキビ栽培では,台風等による潮風被害が多く発生している(Fig.6)。土地改良事業によりかん水施設が整備されたことから,現在はこれらを活用して,台風通過後に付着塩分の散水洗浄が広く行われている。しかし、台風通過後の散水は一斉にかつ大量に行われて(Fig.6),一時的な水不足が生じることがあるため、散布水量の適正化等が急務となっている。
 そこで,散布水量の適正化のために,奄美大島笠利地区における適正散布水量の算出するための基礎データとなる塩害調査を行うために,塩害被害を簡単に測定できるセンサーの閲発に着手している。

(2)塩分センサーの開発
 一つは,電導率を安価に測定する方法として,パソコンとのインタフェース内蔵のテスターの抵抗値のレンジを利用して雨水の電導率を図る方法(抵抗測定法)と塩分を電解質ととらえてアルミとステンレス電極による電池を作りその起電力や短絡電流から塩分最を定量できないかと考え(電池電解液法)予備実験を行っているが,校正グラフ作成まで至っていない。
 今後,交流電源を用いた簡易電導率計の開発に取りかかる予定で,現在センサーを作成中である。


3 高輝度プロジェクターを活用した授業改善の工夫
3-1 授業改善のための高輝度プロジェクターの利用
 ICT機器として裔輝度プロジェクターを購入し,蘭輝度のため暗幕を利用しなくても手軽に活用でき,理科での利用はもちろん,全教科の授業や講演会・研修会に活用させていただいています。
 左の写真は保健体育の公開授業におけるアクティブラーニングの実践の様子である。

3-2 大学連携講座(生徒向け)
 11月11日(金)に鹿児島大学大学院理工学研究科の大塚作一教授にお越しいただいて,理工系希望者と保護者向けの大学出張講義を行いました。講義では「視覚とディスプレイ~あなたは自分の目を信じられますか~」というテーマで約1時間半にわたって講義をしていただきました。勉学の意義やノートの取り方,目で物が見える仕組みなど,日頃の授業では学ぶことのできない多くのことを教えていただきました。
 さらに,アクティブラーニングについての職員研修も行っていただきました。生徒・職員共に貴重な体験ができ,充実した表清をしていました。


4 まとめ
 本助成金を活用して,USBビデオカメラとGPSを用いた夜間の宙象における発光現象観測システムを構築でき,流星観測を行うことができた。今後,南西諸島で観測されていない宇宙雷の初観測を行いたい。また,気象観測として農作物の塩害対策のための塩分センサーの開発を継続して行っていきたい。本年度1年間の活動で理科系の部活動における探究活動を行い青少年の科学へのモチベーションの高揚を図る実践ができた。
 一方,ICT機器として高輝度プロジェクターを購入してそれを活用したアクティブラーニングを取り入れた授業展開や大学連携講座が実施できた。理工系の生徒のモチベーションの高揚やアクティブラーニング型授業の職員研修に活用できた。また,体育館や武道館で行われる各種講演会にも活用し,総合的な学習の時間や救急救命指導,情報モラル指導や食育指導に活用できた。