2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

長日・短日条件と花芽形成~教室で開花しないアサガオの花芽形成実験~

実施担当者

佐々木 敦

所属:宮城県東松島高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 宮城県東松島高等学校は,宮城県内初の三部制・単位制高校として平成17年に開校した,比較的新しい学校である。三部制とはⅠ部(午前),Ⅱ部(午後),Ⅲ部(夜間)に分け,生徒はそれぞれの生活パターンに合わせ,部を選び入学する。各部で授業を展開するため,授業の始業である1校時が8時45分に始まり,終業の12校時が20時35分で,昼夜間12時間連続開講型の完全単位制高校である。したがって,生徒はそれぞれの生活スタイルに合わせて,進路や興味関心に応じた科目を選択し,学習できるのが本校の特徴である。
 生徒が個々の希望に応じて,好きな科目の選択が可能であるのが本校の最大の特徴かつ利点である一方,生徒が理科科目を選択しなければ,生徒たちの科学への新たな“興味関心”が生じる機会を逸したまま,卒業してしまう欠点もある。
そこで,理科では本校の特徴であるⅢ部制である点を生かしながら,全校の教室を活用した,手軽にできる簡単な実験を通じて,生徒の科学への“興味関心”を育むことを目指した。


2.実験の背景について
 本校は8時45分から20時35分まで教室で授業を展開している。完全単位制高校である本校では,授業ごとに教室が異なるため,すべての教室で12時間授業を行っているわけではなく,Ⅲ部(夜間)時間帯では全く使用しない教室もある。
 このような本校の特徴を生かし,植物の光周性(日長に反応して開花する性質)を利用した実験を行うことにした。
 Ⅲ部(夜間)時間帯に使用する教室では,20時35分まで授業を行うため,その時間まで蛍光灯の明かりがついており,植物にとって長日条件となる。一方で,Ⅲ部(夜間)が使用しない教室では,17時までにはすべての教室を使い終わるため,自然光による日長条件と等しく,夏以降,短日条件となる。
 アサガオは短日植物なので,教科書の説明からすれば,理論的に短日条件で開花し,そうでなければ開花しないと考えられる。したがって,Ⅲ部(夜間)が使用する教室でアサガオを栽培した場合には「開花しない」(開花が遅れる)と考えられる。
 このような背景をもとに,アサガオを全校で栽培することとした。


3.実験結果と考察について
 Ⅲ部(夜間)が使用する教室(長日条件)とそうでない教室(短日条件)で花芽形成の時期の違いに有意な差は見られなかった。
 栽培条件の違いによって,成長に大きな違いは認められなかった。一方で,Ⅲ部(夜間)が使用する教室(長日条件)では花が枯れづらくなる傾向はあった。
 次に,今回,助成金を活用して購入させていただいた人工気象器内で,長日条件下でアサガオを栽培し,短日条件下で栽培したアサガオと比較した。その結果,短日条件の方がほんのわずか,開花が遅くなる傾向があったが,開花しないということはなかった。また,長日条件下の方が,Ⅲ部(夜間)が使用する教室(長日条件)での栽培条件下と同様,花が枯れづらい傾向はあった。
 1年でもっとも夜が短い夏至付近における仙台の日の入りから日の出までの時間が9時間程度である。一方で,アサガオの限界暗期は8~9時間程度であるから,アサガオにとっては1年中短日条件と考えられなくもない。だが,実際は,アサガオはかなり暗くなってからでないと「夜」と認識しないと考えられている。そのようなことから,教室の明かりでも「夜」を妨げるには十分と思われる。しかしながら,実験では長日条件で枯れづらくなったものの,花芽形成の時期に有意な差は認められず,長日条件でも開花した。日長以外の要因については今回実験しておらず,日長以外の要因についても実験を進めていく必要がある。


4.まとめ
 生徒の反応は非常によかった。ある日突然,教室でアサガオの栽培が開始され,驚き,興味をもった生徒は多かったように感じる。全校生徒への周知のために,栽培している横には「2.実験の背景について」で述べたことをもっとわかりやすくした説明文を置いておいた。普段,文章を読むのが苦手な生徒でもその説明文を読んで,理解しようとする姿が見られた。また,実験の内容について質問してきた生徒も何人かいた。今回の実験をきっかけとして,生徒の科学への“興味関心”の育成に寄与できたことと思われる。
 授業では,発展科目の「生物」の光周性の部分では今回の実験をもとに体験的に学ぶ授業を展開できた。実験結果は教科書に沿ったものとは言えず,私自身,歯痒さと悔しさがある。だが,生徒は実験結果が教科書の通りにならなかったことで,逆に興味を抱いていた。また,科学研究はもちろん,世の中の研究開発はスムーズに進まないところに楽しさや苦しさがあることも実験を通じ伝えられたと思う。
 また,アサガオの開花の様子をデジタルカメラの「タイムラプス」機能を用いて撮影した。理科科目を苦手とし,実験内容を理解に時間がかかる生徒にとっても,その開花の様子に興味を持った生徒は多かったようである。
 課題としてはもっとさまざまな生徒にかかわらせ,実験を行いたかったが,三部制・単位制高校で,全校生徒共通の放課後も存在しないため,なかなか難しかった。次回以降,簡単な動作でもよいので,生徒たちにかかわらせる仕掛けが必要だと感じた。