2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

酸性の田沢湖水中性化方法の検討について

実施担当者

大沼 克彦

所属:秋田県立大曲農業高等学校 教諭

概要

1はじめに
 秋田県仙北市にある田沢湖はクニマスが生息する中性の湖だったが、農業用水や電力供給を目的として塩酸が主成分の玉川の水を導入したことで、田沢湖が酸性になりクニマスを含む多くの生物が死滅してしまった。平成元年から酸性化した湖を元の環境に戻すべく、石灰石による中和反応によって水質改善が行われているが、未だ中性に至ってない。地域でも環境改善のための試みが行われており、田沢湖の環境再生は地域の大きな課題である。この課題を解決するために中和に代わる新たな中性化方法を検討し、以下の3つの実験を行って中性化方法とその効率を検討、また石灰石による中和効率と比較した。
実験1:石灰石による中和方法
実験2:電気分解による中性化方法
実験3:活性炭フィルターを用いた中性化方法実験4:植物を利用した中性化方法


2材料および方法
実験1:石灰石による中和方法
 濃塩酸を蒸留水に加えてpHを調整し、目的のpHの塩酸水を作製した塩酸水と0.5g/L炭酸カルシウム水を用意した。塩酸水に炭酸カルシウム水を1mL入れスターラーで撹拌した。pHを測定し、中性になるまで繰り返した。

実験2:電気分解による中性化方法
 田沢湖水1Lをビーカーに用意し、電極板を入れて電圧を10V、50V、および100Vで行った。なお田沢湖水のpHは10分ごとに測定した。
 なお、ビーカーに自作のアルミ缶電極を入れ、100Vで電気分解したときの結果を先の実験結果と比較した。さらに電極の素材を変化させたとき実験結果を比較した。

実験3:活性炭フィルターを用いた中性化方法
 pH5.0の塩酸水を4つのビーカーにそれぞれ200mL用意し、3g、9g、27gの活性炭を加えた。3分間撹拌、ろ過してpHを測定した。

実験4:植物を利用した中性化方法
 1.5Lのペットボトルの上部を切断してアシを入れて、田沢湖水を加えた。アシに葉が全て入るようにビニール袋を被せ、口をビニールテープで縛った。蒸散した水を常温に保存してpHを測定した。


3材料および方法
実験1:石灰石による中和方法
 0.5g/Lの炭酸カルシウム水を14mL加えると中性になった。

(注:図/PDFに記載)

実験2:電気分解による中性化方法
 電圧を上げることで中性化までの効率が良くなった。
 また表面積を大きくすることで中性化までの効率が良くなった。

(注:図/PDFに記載)

さらに陽極に銅板、陰極に銀板の組み合わせが最もpHの変動が大きかった。

実験3:活性炭フィルターを用いた中性化方法
 5回繰り返した実験の平均をグラフにしてみると、活性炭量が多いほど中性に近づいた。

(注:図/PDFに記載)

実験4:植物を利用した中性化方法
 約2週間で蒸散した水の量は180mL、pHは約1変化した。

(注:表/PDFに記載)


4考察
 田沢湖水1Lを中性にするために、時間が最も短いのは中和、経済性が最も良いのは植物による方法、労力が最もかからないのも植物による方法であった。
 どの方法にも長所・短所があるが、組み合わせることによって短所を補い、さらに効率が良くなる可能性がある。中和より効率が良くなる、環境に負荷をかけない方法を探したい。また、植物の実験において、酸性が高くなると細胞が死んでしまうことがわかったため、植物細胞への影響も詳しく調べたい。