2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

-都心部の小学校に通う児童の科学的な見方や考え方を育む小学校連携-

研究責任者

由木 正浩

所属:新宿区立富久小学校 主幹教諭

概要

1 はじめに

子供たちの理科や科学に対する関心の低下、いわゆる理科離れが指摘されてすでに久しい。科学立国日本の基盤を支えるためにも、子供たちの科学的なリテラシーを高めることは現在の教育の大きな課題であり、この課題に対して、科学的な見方や考え方を育むカリキュラムづくりや授業改善、教員の授業スキルの向上を進めているところである。
新学習指導要領においてはアクティブラーニングの重要性が指摘されている。協慟的な学びにより、友達の多様な考えに触れ、知を構成することは変化の激しい現代社会において必要となるスキルでもある。しかし、本校も含め、特に都心部の現在の小学校は小規模であり児童数が少ないことからも多様な考えに触れる機会が少ない状況にある。
そこで、小学校間をつないだ授業実施、カリキュラム開発の連携構想を考えた。児童間での知の交流、教員間の指導法の交流を通して、科学的リテラシーを高めるカリキュラムを構築と科学的リテラシーの高い児童の育成を目指すことが目的である。
本計画における小学校間連携の目的は、連携校の学校、教員、児童を1つの学びのチームとして構成し、アクティブラーニングの手法で問題解決に取り組む組織及びカリキュラムを作成することである。具体的な取り組みは以下の通りである。

① 授業研究・課題研究の指導連携
新宿区立富久小学校・新宿区立天神小学校・新宿区立余丁町小学校・新宿区立四谷第六小学校・新宿区立落合第四小学校の5校を連携校として設定する。

② 研究会・授業改善の交流
各校の授業研究会に相互に参加し合い、カリキュラム開発の意見交換を行う。また、事前検討会を開催し、授業スキル、機器操作のスキルの向上を図る。

③ 課題研究交流会の開催
東京都科学展に向けて、速携校児厳の理科課題研究学習交流会を開催する。

④ 科学教室の共同開催
専門家や大学生、高校生を招いての科学教室を連携校で共同淵催し、先進的な理論を学ぶ機会を設ける。

⑤ 交流授業の開催
連携校の複数の教員がティームティーチングにより行う理科授業を行う。

2 取り組みの実際

2-1 授業研究・課題研究の指導連

区内連携小学校の先生方、区内小学校の先生方が参加しての理科授業研究会を実施した。検証授業に向けての
授業内容検討や連携校においての事前授業を通して指導内容、指導方法の検討を行い、子どもたちに科学的な
見方や、考え方を育むことを日指して、授業研究を深めた。
また、新しい教材教具の開発を目指して、理科授業、理科教材づくり勉強会を行い、子どもたちに科学的な見方や考え方を養うための授業構成や、実験道具の工夫について話し合った。

2-2 研究会・授業改善の交流

区内連携校合同の研究会を実施。連携校以外の区内外の先生方にも参加していただき、授業研究会を実施した。
協議会では、連携校での取り組みを説明し、参加者間で授業改善について協議を行った。

2-3 課題研究交流会の開催

区内連携小学校の児童が参加して、夏休みに向けた課題研究相談会を行った。
地域の高校生を課題研究のアドバイザーに招いて、それぞれの学校の児童が自分の研究テーマを話し合い、交流し合いながら研究内容の絞り込みや、研究の進め方を相談した。
他校の児童とテーマを話し合う中で、これまでは生まれてこなかった多様なテーマが生まれた児童も多く、研究への意欲を高めていた。

2-4 科学教室の共同開催

東京都立戸山高等学校SSH部員を講師に招いて科学教室を行った。当日は物理的な実験を行う物理班と化学的な実験を行う化学班に分かれ実験に取り組んだ。子どもたちは、磁石の性質を使ったリニアモーターカーの実験や溶液の反応を利用した人工イクラを作る実験など、科学の不思議さに目を輝かせていた。専門的な知識を持ち、そして地域の学校に通う年齢の近い講師の先生方に子どもたちは親しみを感じるとともに、将来への身近な目標とする子もいた。

2-5 交流授業の開催

連携校の複数の教員が協力して授業を行う交流授業を行った。4年生理科の授業では、静電気の学習を2校教員によるティームティーチングで行った。日頃は少人数で学習している子どもたちも、2校合同での大人数の学習となり、実験を行う中で友達の多様な考えに触れ、科学の楽しさを共に感じ合っていた。また、理科の学習内容に応じたゲストティーチャーによるフィールドワークにも取り組み、実体験を伴った学習を進めた。

3 まとめ

プログラム1年目の今年度は① 授業研究・課題研究の指導連携、② 研究会・授業改善の交流、③ 課題研究交流会の開催、④科学教室の共同開催、⑤交流授業の開催を行った。
①②については連携校に加えて、連携校以外の都内小学校からの教員の参加もあり、理科、科学教育の指導法の検討や、教材教具の開発など活発な意見交換を基とした授業づくりにつながった。中間発表会ではこの連携を通して開発した学習プログラムを授業公開し、成果発表を行った。
③④については、他校の児童との知の交流が深まり、それぞれの追求したいテーマをお互いに紹介し合うことで、自己のテーマを振り返り、テーマの課題や問題解決への道筋を再発見することにつながった。優秀作品のポスター発表に加えて、日頭発表会も行った。
⑤については、連携校教員が協働して1つの授業をTl,T2として実施し、他校の児童が相互に学びあうことで科学的な思考力の深まりにつながった。
これらの成果を踏まえ、プログラム2年目は以下の点を改善することで、内容の深化を進め、連携校間の教員、及び児童をより高度な学びのチームとして再編する。

・連携校研究会に1年から6年の各学年分科会を置き、各学年により綿密な研究が進むように組織することで、連携交間の同学年教員相互の授業参観、意見交換を促進する。

・新学習指導要領を踏まえ、新しく導入される「音Jに関する分科会、及び理科学習における「プログラミング学習」研究会を組織し、次世代の理科学習をリードできる体制を整え、児童の科学的な見方や考え方の育成につなげる。

これらの実践を通して、小学校同士が連携して学びの共同体をつくり、教員、機材、アイデアを共有することで、児童への科学への興味、関心を高めること、他の小学校の児童との交流を通して多様な考えに触れ、1つの視点ではなく別の視点からも科学的事象にアプローチができるような力を育てることを進めていきたいと思う。