2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

農・工融合教育(プロジェクト学習)の研究

実施担当者

前田 英貴

所属:青森県立名久井農業高等学校 教諭

概要

1.はじめに
(研究の目的)
 施設内で、植物の生育に必要な環境を、LED照明や空調、養液供給等により人工的に制御し、季節を問わず連続的に生産できる植物工場などの施設栽培は、我が国の未来を担った農・工が融合した技術として期待されている。施設栽培には以下のような魅力(長所)がある。
・1年中安定的に生産が可能。
・無農薬で安全・安心な農産物の提供が可能。
・作業平準化が容易で安定した雇用が可能(六次産業化の推進)。
しかし以下のような課題(短所)もある。
・エネルギーや施設整備等のコストが高い。
・栽培技術が確立されていない。
・栽培技術と施設の管理技術の双方を持ち合わせた人材が不足している。
 これからの農業はこのような問題を解決していく人材を育成する必要がある。しかし、参考文献も取り組んでいる研究機関も少なく、専門的に教えている高校(学科)は全国的にも例がない。その理由は、従来の農業教育では栽培に関する技術は学ぶが、ものづくりや環境・エネルギーに関する工業技術は扱わない、工業高校(教育)ではものづくりは学ぶが、対象である植物の生理生態については学ばない、そして農・工の技術が融合して研究や教育に取り組む専門機関がないからだと考える。本校では平成25年度から農・工が融合した教育システムと自然エネルギーを利用した施設栽培を研究する環境システム科を設立した。しかし、教育内容については試行錯誤をしている段階である。そのため公益財団法人中谷医工計測技術振興財団から教育研究助成をしていただくことによって、教育環境を整備し、内容を確立させる。そして高校における施設栽培技術教育の良き先行事例として、農業教育の発展に貢献していくことを目的とする。


2.実施内容
(対象とする生徒および人数)
本校環境システム科生徒 3学年32名 2学年27名 1学年35名(全学年94名)
(学科の教育目標)
施設を利用した作物生産と経営、施設の環境制御及び設備に関する知識と技術を習得させ、商品の企画・開発及び環境に配慮した生産システムの必要性を理解させるとともに、施設園芸とその生産設備に関わる業務に従事する者として必要な能力と態度を育成する。

(授業の紹介)
施設園芸・施設園芸応用
学校設定科目(農業) 計6単位
環境システム科 3学年32名 2学年27名対象

 植物の生育に必要な環境を、LED照明や空調、養液供給等により人工的に制御して栽培する施設の栽培管理をすることで、施設園芸とその生産設備に関わる業務に従事する者として必要な能力と態度を育成した。

環境とエネルギー
学校設定科目(工業) 2単位
環境システム科 3学年32名対象

 地球環境問題と自然エネルギーおよび電気に関する配線知識・技術を習得させ、農業との関連性を理解させるとともに、それらを活用できる能力と態度を育成した。

工業技術基礎・実習
工業科目 計6単位
環境システム科 全学年94名対象

 農業施設に必要な電気や制御、配管等の工業技術を実験・実習によって体験させ、農業分野における応用技術への興味関心を高め,工業の意義や役割を理解させるとともに,工業に関する広い視野と倫理観をもって農業と工業の発展を図る意欲的な態度を育成した。

課題研究
農業科目 8単位
環境システム科 3学年32名 2学年27名対象

 各専門科目で学んだ知識を基に、生徒自らの「なぜ」という心から生まれる課題意識を大切にし、興味・関心のある事柄を取り上げて、それについて調査・研究・発表を行う「プロジェクト学習」を実施した。これを通して、専門的な知識と技術の深化、総合化を図るとともに、問題解決の能力や自発的、創造的な学習態度を育成した。

●各課題研究の紹介
①LED光質がサニーレタスの機能性成分に及ぼす影響について

【動機】
 当学科では、光と植物に着目し研究を続けてきた。これまでの研究から光質により、生育速度、機能性に大きな差が表れること、また水耕栽培では土耕栽培より生育速度が速いこともわかっている。今回は人工光によって施設栽培による野菜の機能性成分を高め、野菜の付加価値を高めるための研究を行った。人工光の照射によって抗酸化物質である食物繊維やビタミンC、βカロテンの含有量を増やすことを目標とし研究を行った。

【実施概要】
期間:平成27年4月~12月
場所:本校水耕温室
品種:サニーレタス

【実施内容】
 青色光の照射は、植物体内の色素であるアントシアニンやポリフェノールを刺激するため、機能性成分であるビタミンA内のβカロテンを増大させるという仮説をたて、実証するための実験を行った。定植後の数日間は自然光で草丈、葉身の成長を図り、その後、白色のLEDで3日間、青色のLEDで4日間照射した。

【実験結果】
 一般土耕物と比較して、βカロテン、レチノール当量ともに1割増という結果で、野菜の高機能化に見事に成功した。

②イチゴ水耕栽培装置の製作
【動機】
施設園芸で習得した農業技術と、工業技術基礎や実習で習得した工業技術の双方を融合させること、また、それぞれの技術の深化、総合化を図るためイチゴ水耕栽培装置を製作した。
【製作材料】
・水道管(硬質塩化ビニル管、炭素鋼配管)
・各水道管用継手
・小型水中ポンプ
・ロックウール培地
・イチゴ苗(紅ほっぺ)
・養液(ハイポニカ水耕栽培専用肥料)

【使用工具】
パイプバイス、のこぎり、塩ビ管用ボンド・電動ドリル等

【設計図】
(注:図/PDFに記載)

【完成写真】
(注:写真/PDFに記載)

【結果と考察】
 装置の製作は数週間で完了したが、その後イチゴは順調には成育しなかった。そのことについての考察は以下の通りである。
・温度管理が大切
室温→夏35℃以下 冬5℃以上の環境下に置く
水温→通年20℃を保つこと
・肥料が大切
水耕栽培専用の肥料を使うこと
通常の園芸液肥では育ちにくい
・授粉の問題点
室内栽培であること(蜂がいない、風が吹かない)から、人工授粉が必要である
・生育には酸素が大切
水を水中ポンプで循環させることで、水の中に泡が発生し水中酸素濃度が上がる

以上のことから、水耕栽培には農業と工業、双方の技術は必要であることがあらためて分かった。

(普及活動と研究発表)
本校への学校視察件数
教育委員会・学校関係者(他県含む) 7件
外部企業・公共機関・民間団体 6件
小中学校・保育園 5件

その他の普及活動
・八戸市科学の祭典(八戸市教育委員会が主催する科学講座に小学生約1000名が来場する。来場者に対し、ポスターセッション、施設栽培野菜の試食等を行う)

・出前授業(青森県立八戸第一養護学校等の生徒を対象にした農業指導)

・ファーマーズマーケット in はっち(八戸市中心街に位置する公共施設「はっち」において実施する展示会である。来場者数は3000名を対象にポスターセッション、施設栽培野菜の試食・販売等を行った)