2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

身近なモノを通じてエネルギーを考えよう

実施担当者

田崎 彰

所属:藤崎町立明徳中学校 教諭

概要

1.はじめに
 3.11大震災による福島第一原発の事故以来、エネルギーについては感情的な議論や一方的な主張が時々の政治状況やマスメディアによって行われ、生徒達が自ら考え、客観的、科学的に判断するすべを失っていくことが危惧される。本講座の実施を通じ、まずエネルギーとは何か、エネルギーが生活に与える影響とは何か、またエネルギーは「何が問題とされているのか」ということを生徒たちに理解させることを期待する。それを前提として複数の科学的な実験や経験の機会を設け、その問題にどのように接すれば良いのか、また問題とされることを解決するためにどのような工夫や研究が必要になるのかを中学校理科の学習内容を土台としてしっかり考えさせる。全体を通して実験や観察を通じて得たデータや経験に基づいて「問題とは何だったか」「問題を解決する手段はあるのか」「実験の結果は何を表しているのか」を主体的に判断出来る生徒を育むことが目的である。
 なお、本講座は原子力エネルギーに縛られず、中学校理科の内容に基づいて二酸化炭素と温暖化、電気の性質とその利用など幅広く、複眼的で総合的な内容の実験を行い科学の有用性、学びが生活を豊かにすることを理解させることも目指す。


2.講座の実施と内容
 全体で3回の実験講座を実施した。
① 第一回は平成27年7月16日、弘前大学教育学部理科教育講座教授長南幸安氏を講師に迎えて行った。中学校理科でエネルギーというとどうしても熱エネルギー、熱さがその対象となるがここでは逆に冷たいことでなされる化学的な変化や、物理現象について液体窒素を用いた実験を行った。超伝導のような将来のエネルギー環境を変えるような事象について、実験を通して再現しエネルギー=熱というような固定的な意識の脱却を行うことが出来た講座である。

② 第二回は平成27年10月6日、リコージャパンの協力を得て実施した。
 テーマは日常の便利を成立させている科学的な原理を探ること、である。日常当たり前に使うコピー機がどのような科学の成果に基づいているのか、カラーコピーの色彩再現はどのような方法によるのかを実験を通じて考えることである。
 中学校理科では静電気が実用性を持つことを特に取り上げることはない。しかしコピー機が静電気の利用によって複写を行っていることを一人ひとりがコピー機の中で行われている作業を動作によって実体験し、静電気の利用や機器が理科の学習の延長に位置づけられることを体験的に学習する機会を得た。また、添付した写真はマゼンタ・シアン・イエローの三原色を配合することによって色彩が得られる実験を行っている場面であるが、こういった体験的な活動を通じて当たり前が当たり前であるために必要なことを考える機会が得られた。静電気はエネルギーという領域からややずれた位置づけになるが、電気エネルギーには動電気だけでない働きと、その利用があることを身近な機材をテーマに考える機会が得られたことはとてもよいものだった。

③ 第三回は平成27年10月23日、日本原燃の協力を得て実施した。この講座では霧箱を使い、放射線が生活の中に普通に存在するものであることをまず確認し、放射線の種類、放射線の利用の実態について情報を得た。その上で放射線をどのようなものとして考え、捉え、向き合っていけばよいのかをそれぞれが考えることを行った。危険か安全か議論になる対象を自分たちの得た知識でどのように判断するかを中学生なりに考えて発表できたのは難しい体験であったと思う。しかし客観的な資料に基づいて判断の根拠にするという科学性を身につける機会を得たことはきわめて有効であったと考えられる。


3.まとめ
 目に見える身近な存在、目には見えないが身近な存在がある。そのいずれもが科学的な知見の積み重ねによって利用され、生活を豊かにしている。それをまったく内容の異なる実験と考察の繰り返しによって体験的に理解することが出来た。講座全体の目的である。今自分が取り組んでいる実験が何をしようとしているのか、その結果により何が明らかになるのか、という筋道や仮説を立てて行動することが出来るようになったことは大きな成果である。と同時に科学の有用性、すなわち学びの有用性を知ることにより学習意欲の向上につながったことは機会利用の効果として最大のものと評価している。