2002年[ 技術開発研究助成 ] 成果報告 : 年報第16号

超高速超音波立体イメージングに関する研究

研究責任者

大城 理

所属:奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究調査センター 助教授

共同研究者

土居元紀

所属:奈良先端科学技術大学院大学  助手

大阪電気通信大学 講師

概要

1.まえがき
超音波イメージングは、
●実時間イメージング
●ベッドサイドでの診断が可能
●比較的安価
●低侵襲性
等の理由で、様々な臓器や胎児の診断に用いられている。最近では、3次元超音波イメージング技術の進歩により、高精細で胎児や臓器の立体映像をも提示可能となった。超音波イメージングでは静止物体はもとより動いている物体の可視化も行える。しかしながら、3次元動画像に関しては計測範囲を狭くすることや複数の超音波ビームを用いても、TV信号のフレームレート、30frame/secが最大であるのが現状である。循環器領域で超音波イメージングは心臓の診断に用いられるが、心臓は約1秒間で1回心拍するので、サンプリング定理によると、診断に必要な描画のフレームレートは10以上が望ましい、しかし弁のような動きが急峻な部位に関しては、さらに高いフレームレート、数10倍から数100程度のフレームレートを有する映像法が望まれている。
超音波イメージングにおいてフレームレートが高くできないのは、音速という足枷があるからである。従来のイメージング法では、超音波をビーム状に絞って、ビームを走査することで画像化を行っており、下記の式が成り立つ。
ここでDは最大計測深さ、cは音速、Nは走査線数, frはフレームレートである。画質を高くする、すなわち、走査線数を増加させてもフレームレートを維持するには、最大計測深さ、すなわち、計測範囲を小さくせざるを得ない。
我々は非ビーム超音波の送受波が可能である超音波プローブを用いて、瞬時映像法システムを構築してきた1)。このプローブは、送受波が可能である超音波振動子を複数個有するものである。また、本映像法は、ビーム走査を要しない合成開口法をベースとしたものである。本手法では、超音波ビームを走査する代わりに指向性の低い波を1回だけ送波するだけでイメージングが行える。ビーム走査イメージングとは異なり、
という式が成り立つ。上記の式は獲得する画像が2次元であろうが3次元であろうが成立するため、非常に高いフレームレートを有する超音波3次元イメージングが可能となる。以下の文章では、本イメージング手法のアルゴリズム、球面波が発生可能な音源、さらには、試作したシステムで獲得した3次元画像に関して述べる。
2.内容
2.1瞬時映像法
高フレームレートで計測が可能な瞬時映像法のアルゴリズムを図1に示す。アルゴリズムでは下記の過程でイメージングが行われる。
1.計測領域を直交量子化して、ボクセルに分割する。
2.各ボクセルに反射物体があった場合に、各受波子が反射波を受信する時間をあらかじめ求めておく。
3.指向性の低い波を1回送波する。
4.計測物体で反射した波を、複数の受波子で受信する。
5.各ボクセルからの反射信号を加算し、輝度変調して3次元表示する。
2.2球面波音源
従来、超音波の送波は圧電効果により、セラミクスや高分子材料の振動子より行われていた。しかしながら、高周波数帯での指向性が低い波の発生は振動子表面形状を変化させることで若干改善はされるものの、困難であった2)。このため、非常に狭い領域しか計測できなかった。また、パスル超音波を生成するのが困難であり、獲得する画質劣化の原因となっていた。
レーザを集束させて高いエネルギ密度を生成すると誘電破壊が生じ、その際、光と熱と音が発生する3)。この音には指向性がなく、パルス状である。このレーザ誘起ブレークダウン現象を用いた音源を開発した。
2.3イメージングシステム
試作したシステムを図2に示す。本システムでは、下記の過程で計測が行われる。
1.ファンクションジェネレータよりパスル信号を出力しレーザ誘起と計測開始のトリガ信号とした。
2.レーザ誘起ブレークダウンを水中で発生させて球面波を生成し、計測対象からの反射波をニードル型ハイドロフォンで受信した。
3.AD変換の後、フィルタリングの処理を施した後に、信号加算、輝度変調を行い画像表示を行った。
3.成果
3.1球面超音波
表1に記すパラメータを有するレーザを用いて、球面超音波の発生を行った。
図3にブレークダウンの様子を示す。音だけでなく、光、熱も発生している。
また,ブレーク誘起ダウン発生200msec後の音場分布を図4に、ハイドロフォンで直接受波した波形を図5に示す。図4、5より、パルス状の球面波が発生していることがわかる。
3.2再構成画像
図2に示したシステムを用いて、図6の計測対象を画像化した。本対象は直径20mmのスチレンの球を4つ並べたものである。本システムにおいて、アンプのゲインは80dB、AD変換器のサンプリング周波数は20MHzとした。再構成した3次元画像を図7に示す。結果より100mm程度の広い領域中の計測対象を、比較的高い画質で描画することができた。なお、描画した3次元画像のフレームレートはビデオレート、30程度であった。
4.まとめ
レーザ誘起ブレークダウンにより球面波と開口合成法をベースとして瞬時映像法を用いて超高速超音波立体イメージングに関する研究を行った。今回は、指向性の低い波、球面波を発生する新しい音源の開発に重点を置いたため、出力画像のフレームレートはビデオレート程度であった。しかしながら本イメージングシステムは、100mm平方の領域を比較的高い画質で計測することが確認できた。