2001年[ 技術開発研究助成 ] 成果報告 : 年報第15号

超高感度4倍速テレビカメラの開発と心筋細胞内カルシウム動態の高速3次元画像解析

研究責任者

石田 英之

所属:東海大学 医学部 生理科学 講師

概要

はじめに
従来の光学顕微鏡は、深さ方向に分解能がないため、観測点を3次元的に限定することはできない。1987年に3次元の空間分解能をもつ生物用共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡が紹介され、組織および細胞内での部位の3次元構造や作用部位の限定に大きく貢献している。しかし、従来のミラーでレーザー光を走査するガルバノ式共焦点顕微鏡では、1画面あたり1~2秒を要するため静的な試料の観察には適するが、細胞内Ca2+などの動的な現象を観察するのには適さない。研究責任者は、1画面を4ミリ秒および8ミリ秒で観察できるニポウ式高速共焦点顕微鏡を横河電機と共同開発した。しかし、ニポウ式共焦点顕微鏡は、受光部としてテレビカメラを使用する。現在、高速テレビカメラは、工業用テレビカメラしかなく、生物蛍光試料の共焦点面からの微弱な光量の高速観察に適する超高感度高速テレビカメラはない。このため、細胞内Ca2+動態などの動的観察に適する高速3次元画像解析システムを開発するためには、まず超高感度4倍速テレビカメラを試作する必要がある。
われわれは、超高感度4倍速テレビカメラを試作し、試作カメラの性能を確認するために心筋細胞におけるCa2+waveを観察した。さらに、spiralCa2+waveの発生メカニズムについて検討した。
超高感度4倍速テレビカメラの試作
1)高速テレビカメラの選定
通常のNTSC方式のテレビカメラは、インターレス方式であるため、動画を撮影した場合、表示されるライン間での時間差が大きいためエッジが歪む(表1)。このため、試作超高感度4倍速テレビカメラには、ライン問での時間差が少なく動画像撮影時のエッジの乱れを抑えることができるノンインターレス方式を採用した高速テレビカメラ(フォトロン社Fastcamnet)を選定した。この高速テレビカメラは、スクエアピクセルセンサーを採用するため計測精度が向上した(表2)。
2)イメージ・インテンシファイヤーの選定と接続
民間で使用できる中で一番感度の高い第3世代のイメージ・インテンシファイヤー(Solamere社SRUBGENIII+;インターメディカル)を使用した。多くの高感度テレビカメラで使用されている第二世代のイメージ・インテンシファイヤーの光電面の出力電流効率は、約50mAIW(at550nm)である。一方、このSolamere社のSRUBGENIII+は、第三世代後半のイメージ・インテンシファイヤーで光電面の出力電流効率が150mAIW(at550nm)と数倍明るい(図1)。8倍速テレビカメラのCCDとイメージ・インテンシファイヤーは、光学的に収差の少ないF1.2の50mmレンズを用いて、レンズカソプリングで接続した(図2)。
3)超高速3次元立体画像観察システムの構成
ニポウ式共焦点装置(CSUlO高速タイプ,横河電機)は、20,000個のピンホールをもったニポウディスクと各々のピンホールに対応した20,000個のマイクロレンズを組み合わせて高速回転(5000rpm)させマルチレーザービームで走査する。これにより、共焦点蛍光像のミリ秒/full frameレベルの超高速化を可能にした。この共焦点装置を倒立顕微鏡(Axiovert lOOS TV ,Zeiss)に取り付けた。さらに、超高感度4倍速テレビカメラを接続した(図3)。システムの光学的補正は、ニポウ式共焦点装置と顕微鏡の接続部に焦点距離250mmのレンズを入れることで解決した。
心筋細胞内Ca2+動態の3次元高速観察
1)心筋細胞の調整と試薬
単一心筋細胞は、SDラット心を灌流法で酵素処理して単離した。単離心筋細胞への蛍光指示薬(Fluo3-AM)のローディングは、30分間、37℃で行った。
2)心筋細胞内Ca2+waveの高速観察
心筋細胞においてCa2+waveは、細胞内Ca2+調節障害や不整脈の発生などとの関連が注目されている。多くのCa2+waveは、筋小胞体からのCa2+放出により成長してplanar Ca2+waveとなる。しかし、複雑な伝播パターンのspiralCa2+waveも報告されている。心筋細胞内Ca2+waveの高速観察により、spiralCa2+waveの発生メカニズムを検討した。Planar Ca2+waveは、核から離れたところで開始することが観察された。また、planar Ca2+waveは、深さ方向を変化させても異なる深さで観察された(図4)。
この結果から、Ca2+waveの開始点が核から遠い場合、Ca2+waveが成長し大きくなって核に到達することがわかった。Ca2+waveが3次元的に大きい場合、核などの上下、左右をCa2+waveが同時に迂回するため、核が伝播の障害物とならないplanar Ca2+waveとなると考えられる(図5一上)。一方、splralCa2+waveは、核の近傍で開始するのが観察された。深さ方向を変化させると、一部の深さでのみspiralCa2+waveが観察された。この結果から、核の近傍で発生したCa2+waveは、Ca2+放出をしない核内にCa2+が拡散するため成長できず、Ca2+waveが3次元的に小さいため核に沿ってCa2+wave伝播するspiralCa2+waveとなると考えられる(図5一下)。これらの結果から、spira1Ca2+waveは、Ca2+wave開始点と核との位置関係により発生することが示唆された。
おわりに
本助成により作成した超高感度4倍速テレビカメラは、国際的にも評価され、本装置を用いての心筋細胞内Ca2+の高速観察、解析の共同研究を米国ユタ大学W. H. Barry教授(2000年11月の米国心臓学会にて共同発表、共同論文発表)、メリーランド大学H. Cheng博士(共同論文作成中)および英国オックスフォード大学D. A. Terrar博士(2001年2月の米国生物物理学会にて共同発表、共同論文作成中)と行っている。