1992年[ 技術開発研究助成 ] 成果報告 : 年報第06号

超音波による瞬時三次元情報可視化装置の開発

研究責任者

千原 国宏

所属:大阪大学 基礎工学部  助教授

奈良先端科学技術大学院大学 教授

共同研究者

北畠 顕

所属:大阪大学 医学部  助教授

北海道大学医学部 教授

共同研究者

浅尾 雅人

所属:国立大阪病院  医長

共同研究者

辻本 浩章

所属:大阪大学 基礎工学部  助手

概要

1まえがき
超音波法は,リアルタイムで心臓の形態や血流動態が観察できることから,循環器疾患の診断に不可欠な検査法となっている。しかし,現在の走査式映像法では,計測画像のフレームレートに原理的な限界がある。このフレームレートは,ある方向に一回だけパルス送波しながらビーム走査するBモード心エコー診断装置の場合でも毎秒約30枚,血流によるドプラ偏位周波数を検出する必要があるカラードプラ診断装置の場合には毎秒約8枚という値になることから,それぞれの計測画面の左右には異なる時刻の情報が表示されているという問題点が生じている。また,臓器形態や病変部位の立体的かつ正確な把握が適切な治療や手術の短時間化に直結することから,近年研究が盛んになっている三次元形状計測も,探触子の回転や位置の変化により多数のBモード断層画像を計測してコンピュータで再構成する手法では,原理的に計測のリアルタイム化が困難であることから,新しい原理に基づく超音波映像法を開発する必要性が急増している。
このような現状を打破するために,本研究では振動子を二次元的に配置したマトリクスアレイ探触子から球面波状のパルス超音波を送波して,複数の振動子で受波した反射波の畳み込みによって三次元的な構造情報を計測・画像化する新しい可視化装置を開発した。また,簡単な実験を通して実用化に必要な技術や問題点を整理した。
2内容
2.1計測原理
まず,図1により本手法の計測原理を説明する。
1.距離γだけ離れて正対しているアレイプローブ平面と計測対象平面を設定し,アレイプローブ内の1つの振動子を送波子として原点におき,他は受波子とする。
2.送波子から対象平面に向かって球面波のパルスω(t)を送波したとき,計測対象平面上の点(rn,n,r)に反射体があると,球面波のエコーが発生する。
3.このエコーを各受波子で検出し,受波子R2(xr,yt)の出力信号S2(t>をパラレルにウエーブメモリに貯蔵する。
4.貯蔵波形データSs(t)から,予め計算しておいたRzと点(m,n,Y)間の往復伝播時間τ,(m,n,r)に相当する時刻の強度情報
を抽出し加算することにより,(m,n,Y)における再構成値F(m,n,Y)を推定する。
5.ここで,点(m,n,Y)に反射体があれば個々の受波子における強度情報ρガ(rn,n,y)はすべて大きな値をとりF(m,n,Y)の値は相対的に大きくなるし,反射体がなければF(m,n,r)の値は相対的に小さくなるから,この強度情報から点(m,n,r)に反射体があるかどうかが判定できることになる。
以上の演算を対象とするすべての離散計測空間(mεM,nεN,γεR)について実行すると,計測対象領域内の再構成像が算出できることになる。
2.2試作装置の概要
本手法は,従来のアレイセンシングにおける時間差推定法の応用であるから,実用にあたっては振動子の特性に依存する様々な問題があるが,ここでは最大値検出によって(1/4)λ補正して反射時刻を同定する最も簡単な手法をハードウエア化した。
まず,図2のように中心周波数約10MHzの8個の振動子を直径3yrayytの円環状に配列した2次元アレイプローブを作成し,1つの振動子を送波子とし50Vのバル7,電圧を印加してパルス球面波を送波し,残りの7つの振動子を受波子とする。つぎに,各チャネルごとにサンアル周波数40MHzの8ビットA/D変換とメモリを搭載し,高速データ処埋用DSPチップ(TI製,TMS320C30)と画像メモリを装備した多チャネルデータプロセッサ(図3)を試作した。
なお,プログラム開発の汎用性を確保するため,画像再構成のプログラムはホストコンピュータで開発し,GPIBによりこのプロセッサに転送する。再構成された情報は,画像メモリに転送され,ビデオ信号として出力できるので即座にモニタに出力される。
2.・3実験結果と考察
計測対象は血管を模して水を封入したシリコンチューブ内に設置した金属部品(リペット・ビス・ナット)である。
図4はナットを約15.5rnmの深さにおいたときの再生像,図5はビスを約14rnrnの深さにおいたときの再生像で,それぞれプローブ先端からの距離に対応したCモード像で表示している。なお,球面波パスル送波から画像表示終了までの時間は約1sec,各Cモード像は4rnm×4rnrnの」E方形領域を20×20の400ピクセルで構成している。しかし,本試作装置による実験の結果,
(1)周期的に現れるスパイクノイズ
(2)送受波の角度特性
(3)低いサンプルレートと小さな探触子開口による位相差の検出誤差
などの影響で虚像が発生することがわかった。
また,送波子が座標の原点にないために,原理的に画像の対称性が得られず,送波子の位置によって再構成画像に大きな変化が見られるという現象も起こる。実際,コンヒュータシミュレーションによる検討結果は,送波一子と各受波子のちょうど中間付近ではその面積は増加して分解能が悪くなることを示している。
3成果
本研究の結果,この新しい映像化技術は以下のような画期的な成果をもたらす可能性を秘めていることが明らかになった。
●前方視野の3次元情報を瞬時に可視化できる同時式映像法である。
●カテーテルに応用することによりJIIL栓をレーザ光で除一去するための可視化手段となりうる。
●構造物だけでなく血管内に注入したエコー増強剤の瞬時位置を次々に映像化しその三次元的な動きから血流状態を直接可視化できる。
4まとめ
以上,新しい超音波3次元映像装置を試作し,簡単な計測実験を試みた。この結果,本試作装置の改良点として,(1)演算の高速化につながるエコー飛行時間(遅延時間)のテーブル化を可能にするDSPのメモリ領域の拡張,(2)画質の改善につながる鋭いパルスを送受できる振動子の開発やサンプルレートの増加,などが見いだされた。