1996年[ 技術開発研究助成 ] 成果報告 : 年報第10号

超音波による動脈壁上の微小振動の計測に基づく早期動脈硬化症の非侵襲的診断装置

研究責任者

金井 浩

所属:東北大学 工学部 電気工学科 助教授

共同研究者

中鉢 憲賢

所属:東北大学 工学部 電気工学科 教授

共同研究者

小岩 喜郎

所属:東北大学 医学部 第一内科 助教授

概要

1.まえがき
高齢者社会の到来,食生活の欧米化に伴い動脈硬化症の増加が問題となってきている。動脈硬化の進展による血管硬度の増加,弾力性の減少は,血管内腔の狭小化や閉塞の原因であり,動脈硬化はその末期症状として心筋梗塞,脳梗塞などの重篤な疾病を引き起こす。これら疾病は,現在我が国の死因の過半数を占めており,癌と並んで死亡の主要な原因となっている。したがって,動脈硬化症の予防・治療のため,30代以前の早期段階にみられる無兆候性動脈硬化診断法,個人個人の経時的変化の計測法,治療による退縮の監視技術などが必要となってきている1)。
動脈硬化とは,動脈の肥厚,硬化,機能低下を示す動脈病変の総称であり,病理学的には,細小動脈硬化・中膜石灰化・粥状硬化の3つに大別される。臨床学的に最も重要なのは粥状硬化であり,初期には数mm~数十mmの脂肪斑や線維斑が動脈壁上に点在し,後に粥腫として発展,壁全体に広がる2)。動脈硬化の早期診断のためにはこの脂肪斑,線維斑の特定が必要となる。
動脈硬化の従来の診断法としては,(1)動脈硬化発症の危険因子とされるコレステロール値・血圧・喫煙・尿酸値などから診断する間接的な方法,(2)血管内視鏡カテーテルを動脈内に直接挿入することにより病変部位を特定する方法,(3)造影剤を使用する造影X線CTや核磁気共鳴(MRI)による画像診断法,(4)血管内を伝搬する脈波の速度を測定する脈波速度法などがある3}。(1)は直接的な動脈硬化診断の指標にするのは難しい。(2)は病変の特定は容易ではあるが,観血的な手法であり患者に大きな負担が懸かる。(3)は非観血的ではあるが,造影X線CTは低侵襲,またMRIは1回の検査時間が長い,狭い遮蔽された部屋での検査による精神的ストレス,高額な検査費用などの問題がある。つまり,(2),(3)は動脈硬化の経時的変化をみる反復診断には不向きである。(4)は,非侵襲的で患者の負担にはならないが,心臓から股動脈までの動脈硬化の診断しかできず,脂肪斑や線維斑を特定する早期診断は不可能である。したがって,早期の無兆候性動脈硬化の診断が可能で,かつ,病変の経時的変化を観察するための反復診断が容易な新しい診断法の開発が望まれている。
本研究は,動脈硬化の非侵襲的早期診断が可能となる新しい超音波計測・診断法と装置の開発を目的としている。本研究で提案する動脈硬化診断法では,測定に超音波を用いているので,患者への負担が少なく,反復が容易な非侵襲的診断が可能である。また,動脈内を伝搬する脈波の速度を数mm~数十mmの局所で測定するので,脂肪斑や線維斑を特定することが可能となり,早期の無兆候性動脈硬化の診断に有効となるものと考える。
本測定の測定対象である脈波と脈波速度について説明する。心臓の収縮弛緩運動に伴って左心室から律動的に駆出される血液によって発生し,血管内を伝搬する圧力波を脈波(pulse wave)という。その伝搬速度である脈波速度(pulse wave velocity : PWV)は,血管壁のヤング率E,血管の半径r,壁厚h,血液の密度pを用いて,
と表される(メーンズ・コルテヴェークの式)。この式において,同じ弾性率Eからなる管においても,壁厚hと管の半径Yの比h/rが小さいと柔らかく,大きいと硬くなるため,構造体としての管の硬さはEh/rで決まる。したがって,脈波速度と血管の硬さには大きな関係があり,血管内を伝わる脈波の伝搬速度を測定することにより動脈硬化が診断できる4)-6)。
次に従来の脈波速度法7)-11)と本研究で開発した局所脈波速度法の比較を行なう。従来の脈波速度法と本手法の測定方法の模式図を図1に示す。従来の手法も本手法も動脈の2点間における脈波の伝搬時間を求め,2点間の距離をその伝搬時間で割ることにより脈波速度を算出しているという点では同じである。
従来の手法では,マイクロフォンを用いて頚動脈波,股動脈波,心音を同時に測定し,心臓から股動脈までの脈波の伝搬遅延時間t+tcを求めている。また,心臓から股動脈までの動脈の長さは,心臓から股動脈計測部の直線距離Dに大動脈実長算出のための解剖学的補正値1.3を掛けたものである。
以上より,心臓から股動脈までの脈波速度は
で求まる。
従来の脈波速度法では,(1)マイクロフォンを用いて測定を行なっているので,測定波形が低周波成分しか持たなく,空間分解能が低い,(2)動脈が体表近くにある頚動脈や股動脈でしか測定できなく,測定部位が数十cm離れた2点になる,(3)上記2つの理由により心臓と股動脈までの平均的な脈波速度,つまり平均的な動脈の硬化度しかわからない,などの問題点があり,動脈硬化の早期診断には不向きである。
それに対して本手法では,(1)超音波プローブを用いて動脈壁上の微小振動を高周波成分まで測定している12)「3}ので,空間分解能が高い,(2)体表から15cm以内にある動脈ならば,ほぼ測定可能であり,測定部位に制限が少ない,(3)上記2つの理由から動脈壁上数mm~数十mm間の局所における脈波速度が測定可能14)-16)となるので,局所の動脈硬化度がわかる,などの特長があり,動脈硬化初期にみられる脂肪斑や線維斑の特定に有効なものと考える。
これまでにも,1つの超音波プローブで動脈壁上の2点の振動計測を行ない,脈波速度を算出する方法が提案されている17)。しかしながら,この方法は血管壁からの超音波エコーの位相を追従するゼロクロス追従法に基づいた変位計測であり,壁上振動の計測可能な周波数帯域は十数Hz以下である。また,測定2点間の伝搬遅延も時間領域で求めている。それに対して本局所脈波速度法では,超音波ドプラ法の原理に基づいて,動脈壁上2点の微小振動を速度の次元で計測しているので,計測可能な周波数帯域は数百Hz以上となるi2)-13)。さらに,脈波の伝搬遅延は,周波数領域において測定2点間の伝達関数の位相の傾きから求めている。したがって,本手法の方がより空間分解能の高い,局所における計測が可能となる。
2 局所脈波速度計測のための超音波計測法の開発とそのシステムの構築
2.1 セクタ型超音波プローブを用いた超音波ビームの2方向制御法の原理
超音波診断装置は,体内に照射した超音波の反射を利用して臓器などの断層像を得る画像診断機器で,X線のような被曝がなく繰り返しの検査が可能,他の画像診断機器と異なり動画像で診断できるなどの利点があり,医用診断に広く用いられている18)。入射超音波にはRFバーストパルスが用いられており,体内臓器の境界などで反射され戻ってくる超音波エコーの振幅を輝度に変換することにより超音波画像を構成する。この際,超音波パルスを送信してから反射して戻るまでの時間が生体内の深さに対応する。超音波画像には,体内を走査し二次元断層像を得るB(Brightness)モード表示と,一方向にのみ超音波ビームを送信し,横軸を時間,縦軸を深さで表示し,臓器の動きの時間変化を捉えるM(Motion)モード表示がある。
超音波の送受信を行なう超音波プローブとして,本計測ではセクタ型超音波プローブを用いている。その動作原理図を図2に示す。このプローブにより行なわれるセクタ走査は,体表の1点から扇状に生体内を走査するもので,表在の骨,ガスや肺等を避けて,限られたエコーウィンドからの走査が可能なことの他に,自由に操作面の角度が変えられること,深部での視野が広いことなど,大きな特徴を持っている19)。セクタ型プローブは,96個の幅の狭い圧電素子からなる振動子を一直線に等間隔で配列したプローブであり,各素子1個1個には遅延線が取り付けられている。各々の振動子に適当な遅延時間を設けてほんの少しの時間遅れをもって順次駆動すると,斜め方向に超音波波面が合成され,ある角度をもってピームが放射される。このようにして,セクタ電子走査では通常±45°の視野角を得る2°)。
通常のセクタ型プローブは,128個の方向から1方向を選択して超音波ビームを送信することが可能である。それぞれの方向は診断装置内で0から127の番号で認識されている。図2のように,No番の方向にビームを送信する場合,超音波ビームの送信トリガパルスに同期して,番号Noがアドレスレジスタを介して遅延回路に入力される。その遅延回路でプローブ内の配列振動子それぞれを駆動するタイミングを遅延させて,Na方向に超音波ビームを送信する。
セクタ型超音波プローブの動作原理に基づき,図3(a)に示すように,外部から2点A,Bの方向のビーム番号NA,NBを指定できる回路を製作した。その外部回路を超音波ビームの送信トリガパルスと同期して駆動し,超音波ビームの送信間隔T(パルス繰り返し周期)ごと2つの番号NA,NBを交互に診断装置に入力できるようにした。これにより,1つの超音波プローブで2点A,Bの方向に超音波ビームを送信することが可能となる。さらに,図3(b)に示すように,それらの受信波形をトリガパルスごと交互に解析することにより,点A,Bそれぞれにおける微小振動波形vA(t),vg(t)を求めることができる15)。
3 局所脈波速度の測定
3.1 微小振動計測の原理
前節で述べた超音波ビーム制御法を適用した超音波診断装置を使用すれば,動脈壁上異なる2点A,Bへほぼ同時に超音波ビームを送信することが可能となり,2点A,Bの微小振動波形vA(t),vB(t)を測定することができる。図4に大動脈壁上2点における微小振動波形の測定図を示す。
微小振動速度波形v(t>は超音波ドプラ法の原理に基づいて,超音波パルスの壁からの反射波の受信間隔△tと,時刻tit+△tでの反射波の位相Btとe+△tから
という式で求めることができる12)・13)・21)。ここで,Cは生体内の音速で,約1560m/s,woは超音波ビームの角周波数で本計測では主に3.5MHzを使用している。
図3(b)からもわかるように,反射波の位相はその瞬間における動脈壁の位置を示しており,各反射波の位相の差分を取ることにより壁の振動速度を求めることが可能となる。反射波の受信間隔△tは,パルス繰り返し周期Tの2倍の間隔2Tにほぼ等しい。
3.2 局所脈波速度算出の原理
脈波速度を求めるには,2点A,Bにおいて測定した微小振動波形vA(t),vB(t)から,A点からB点への伝搬時間τABを求める。この伝搬時間τABと2点間の距離dABから,脈波速度は,
で決定できる。図5に示すように伝搬時間τABは,vA(t),vB(t)波形の短い区間TPWにおいてA点からB点への伝達関数HAB(f)の位相項の傾きから求めている。
この区間TPWは心臓一拍中の血液の駆出期のおける血管の膨らむタイミングを切り出しており,ちょうど脈波の伝搬の立ち上がりを捉えている。求める伝達関数HAB(f)は,
と表される。この伝達関数の位相項
の傾きは
であるから,伝搬時間.・は,次式で算出される。
上式の演算を行なう際に,使用する周波数帯域が問題になる。この周波数帯域を決定するために,微小振動波形vq(t),vg(t)間のコヒーレンス関数を用いている。コヒーレンス関数は以下の式で与えられる。
ここで,VA(f),VB(f)はそれぞれ微小振動波形vA(t),vB(t)のスペクトルである。このコヒーレンス関数により微小振動波形のもつ周波数成分のどの成分までが線形に伝搬しているかを評価することが可能となる。コヒーレンスが1である周波数帯域で微小振動が線形伝搬しているとみなすことができ,この周波数帯域で(8)式の計算を行なっている。以上より,局所脈波速度は

で求めることができる。本手法では,2点間の距離dABを超音波診断装置のBモード画像上で使用できる距離測定機能を使用することにより決定する。
4 ヒト腹部大動脈の局所脈波速度の測定
4.1 局所脈波速度の測定
ヒトの腹部大動脈の局所脈波速度をin vivoで測定する実験を行なった。被験者は,健康な23歳の男性である。測定対象に腹部大動脈を選んだのは,腹部大動脈は胸部大動脈に比べ,より早く動脈硬化を来しやすい3)・24)という理由からである。
腹部大動脈の前壁上の13.6mm離れた2点A,Bの微小振動vA(t),v6(t)を測定した。測定結果を図6に示す。
図において(a)は心電図,(b),(c)はそれぞれ微小振動波形vA(t),vB(t)である。図からわかるように,vp(t),θB(t)はそれぞれ10拍にわたってほぼ再現性のある波形が得られている。微小振動波形の正方向は,超音波プローブから遠ざかる方向,つまり血管が収縮する方向である。
脈波速度に関する解折結果を図7に示す。図7(a)の図は,図6の点線に囲まれた区間,つまり,心臓1拍中の血液の駆出期に対応する長さ450msの区間TPWでvq(t),v6(t>の波形を切り出し,重ね合わせた波形である。波形は血管が拡張するタイミングを切り出しており,血液の駆出による血管の膨らみ,脈波の伝搬を捉えている。
この図に示すように血管の膨らむタイミングに約70ms幅のハニング窓w(t)を掛け,vA(t),vB(t)間のコヒーレンス1堀の12とそれぞれのパワースペクトルPA(f),PB(f),伝達関数の位相項LHAB(f)を求めた。その計算結果をそれぞれ図7(b),(c),(d)に示す。コヒーレンスは25Hz程度まであり,この帯域の位相の傾きを最小二乗法から求めることにより,脈波速度CPwは約3m/sと求まった。
4.2 20代の健常者数名の腹部大動脈における局所脈波速度の測定結果
20代の健常者5名の腹部大動脈における局所脈波速度を測定した。被験者A,B,C,Dは,それぞれ22歳,24歳,22歳,25歳の男性であり,それぞれの被験者に対して20例,16例,10例,9例のデータを測定している。1つの測定データの長さは時間にして約10秒,拍数にして10~14拍程度である。
被験者Dに対しては,測定部位の2点A,B間の距離を最初の4例は15.5mm,残り5例は18.8mmと固定しており,この結果から本計測法のヒト腹部大動脈の測定精度を考察できる。被験者Eの測定結果を図8に示す。図8の縦軸は局所脈波速度,横軸は測定データの数であり,測定した順番に並べている。
この9例の測定データに関して,2点間距離が15.5mmの1から4番のデータと18.8mmの5から9番のデータと全データそれぞれの平均値と標準偏差を求めた。その計算結果を表1に示す。
この結果より,本計測法によるヒト腹部大動脈の局所脈波速度を約8~9%の誤差の範囲で測定できることが確認できた。対象が常に動いている生体であるということを考慮に入れるならば,以上の結果は本計測システムによる測定が十分な精度を持っているということを示している。このような精度で測定できるのならば,動脈硬化初期病変の特定が可能であると考えられる。
次に,被験者A,B,Cの腹部大動脈の局所脈波速度の測定結果を示す。被験者A,B,Cそれぞれの測定値の平均と標準偏差を求めた。計算結果を表2に示す。測定データそれぞれの測定部位は異なっているが,胸骨剣状突起から膀(へそ)までの長さ10cm程度の範囲にある腹部大動脈で測定している。したがって,得られた平均値は腹部大動脈のみの硬さを表すものであり,これらの値は従来の脈波速度法では得られたなかった値である。腹部大動脈内を伝搬する脈波速度の平均値は3名ともに3~5m/s程度におさまっている。
4.3 年代別のヒト腹部大動脈の局所脈波速度の測定
次に,ヒト腹部大動脈の局所脈波速度を20代,30代,50代と年代別に測定し,加齢による脈波速度の変化を調べる実験を行なった。被験者はa,b,c,d,eの5名でそれぞれの年齢は25歳,35歳,50歳,51歳,55歳の男性である。それぞれの被験者に対して9例,9例,10例,7例,8例のデータを測定している。1つの測定データの長さは時間にして約10秒,拍数にして9~14拍程度である。この実験では,測定前に各被験者の最高血圧,最低血圧を測定している。
被験者a,b,c,d,eそれぞれの測定値の平均と標準偏差を求めた。その計算結果を各被験者の血圧とともに表3に示す。各人の測定データそれぞれの測定部位は異なっているが,前節の測定と同様に胸骨剣状突起から膀までの長さ10cm程度の範囲にある腹部大動脈で測定している。したがって,得られた平均値は腹部大動脈のみの硬さを表すものである。以上の測定は数名の範囲でしかなされておらず,従来の脈波速度法の測定結果に見られるような加齢による脈波速度の増加7)-11)を本手法による測定値から議論するのは難しいが,被験者a,b,dを比較する限りでは,年齢が上がるにつれて脈波速度も若干増加しており,加齢による脈波速度増加の傾向が見られている。しかしながら,被験者c,dの測定結果を考慮に入れるならば,50代の測定値でも20代,30代の測定値よりも小さくなっており,一概に加齢により脈波速度が増加していると言い切れない。これは,今回の測定ではほんの数名でしか測定ができなかったことや,従来法のような胸部から股動脈にかけての平均的な脈波速度の測定と異なり,腹部大動脈のみの脈波速度を測定していることなどが影響していると思われる。
5結論
本研究では,動脈硬化症の非侵襲的早期診断を目指して,動脈内を伝わる局所脈波速度と動脈壁を伝わる微小振動伝搬速度を測定するための超音波計測システムを構築した。本手法を用いて,実際にヒトの腹部大動脈の局所脈波速度と微小振動伝搬速度を測定し,動脈硬化の非侵襲的早期診断の可能性を見い出した。
まず,局所脈波速度を測定するための超音波計測法の原理を開発し,それを実現する超音波計測システムの構築を行なった。本計測システムで行なわれている超音波ビームの2方向制御により,動脈壁上の2点の微小振動を同時に計測することが可能となり,局所における脈波速度の測定が可能となる。
次に本報告書では省略したが,シリコンチューブを模擬血管と見立て本計測法と本計測システムによる基礎実験を行なった。この際人工心臓を用いて管内に脈波を伝搬させた時の脈波速度の測定と,管壁を直接加振した時壁上を伝搬する微小振動の伝搬速度の測定を行なった。脈波速度の測定では,シリコンチューブ内を伝わる脈波の速度が本手法により測定可能であることを確認できた。微小振動伝搬速度の測定では,管壁を加振した時壁上を伝わる微小振動の伝搬速度を,本手法を使用することにより測定できることを見い出した。この微小振動伝搬速度は,壁の硬さの情報を含む値であると考えられ,ヒトに応用できれば動脈硬化の新しい診断法となる。
最後に,ヒトの腹部大動脈の局所脈波速度のin vivo計測を行なった。測定した局所脈波速度の値は,従来の脈波速度法の測定結果と比較しても妥当な値が得られており,本手法により,ヒトの腹部大動脈の局所脈波速度が測定可能であることを確認できた。
本研究で提案した超音波計測法とそのシステムを用いれば,動脈壁上数mm程度の局所における脈波速度を非侵襲的に測定することが可能となる。この局所脈波速度は動脈壁の硬さを反映するものであり,本手法により,初期の動脈硬化病変部位の早期発見,動脈硬化の経時的変化の反復診断が容易になり,我が国の死亡原因の過半数を占める脳梗塞,心筋梗塞などの予防や治療がより簡便化するものと考える。