2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

視覚障害のある児童生徒に対する科学教育プログラム「科学へジャンプ・イン・名古屋」の実施

実施担当者

児玉康一

所属:愛知教育大学 教授

概要

1.はじめに
 「科学へジャンプ」は、視覚障害のある児童生徒が科学にチャレンジする機会をつくるための全国ネットワークの構築を目指し、科学技術振興機構(JST)の「地域の科学舎推進事業」(2009~2011)として、鈴木昌和氏(九州大学名誉教授)と鳥山由子氏(元筑波大学教授)の呼びかけで始まった。この事業で構築した人的ネットワークにより、JST事業終了後も、全国の有志が、ほぼボランティアで活動を継続している。
 東海地区では、盲学校教員(含OB)や大学教員などの有志が実行委員会を構成し、地域版「科学へジャンプ」として、東海地区在住の視覚障害のある児童生徒を対象に、これまでに、日帰りイベント(内容は理科・数学・社会等の学習内容に関連する複数のワークショップである)を3回、ワークショップの内容を向上させるための研修会を1回、実施してきた。
 本助成により、2015年11月21日(土)に、日帰りイベント「科学へジャンプ・イン・名古屋」を、またそれに先立つ9月12日(土)に、このイベントで実施するワークショップ内容を一層充実させるための事前検討会を、名古屋盲学校を会場として実施した。本成果報告書ではこれらの活動について簡単ではあるが報告する。


2.ワークショップ事前検討会
 「科学へジャンプ・イン・名古屋」で実施するワークショップ内容の事前検討会を、9月
12日(土)に名古屋盲学校を会場として実施した。実行委員以外にもできるだけ多くの盲学校関係者(特に教員)に参加してもらえるよう、東海地区の盲学校長宛に参加呼びかけを行った。当日は東海地区の盲学校教員を中心に35名が参加した。当日のプログラムを表1に示す。

時間 内容
10:00-10:10 はじめに
10:10-11:00 博物館コラボワークショップ案紹介と議論
11:10-12:00 モーター作りワークショップ案紹介と議論
12:00-13:00 昼休み
13:00-13:50 アイスクリームワークショップ案紹介と議論
14:00-14:50 ワークショップ実演と質疑応答1
15:00-15:50 ワークショップ実演と質疑応答2
16:00-16:30 予備の討論時間

 この検討会では、東海地区の実行委員からの新規ワークショップ提案3件の紹介と検討を行った。また、これまで関東地区等での「科学へジャンプ」で定評のあるワークショップを実施されてきた、外部講師2名によるワークショップ紹介2件も合わせて実施した。
 「博物館コラボワークショップ案」は、河出充展氏(岐阜盲学校)が藤村俊氏(美濃加茂市民ミュージアム)と協力して企画したものであり、美濃加茂市民ミュージアム所蔵の縄文弥生土器を使い実物を「さわる」ワークショップ提案である。
 「モーター作りワークショップ案」は、犬塚俊裕氏(岡崎盲学校)による提案で、コイルを手で巻く・電気回路を組み立てるなどの作業を、全盲の生徒であっても簡単にできるように、使う材料や道具に独自の工夫を凝らした内容である。
 「アイスクリームワークショップ案」は小出京子氏(静岡視覚特別支援学校)による提案で、氷水に塩を加えて起きる水の凝固点降下を、その現象を利用してのアイスクリーム作りをしながら実感できる内容である。理科的な内容のみにとどまらず、氷水を触って「冷たい!」と叫ぶ”I scream!”とアイスクリーム”Ice cream“を掛け合わる英語での言葉遊びなども含み、少し趣きの変わった面白い内容である。
 外部講師によるワークショップ紹介は、浜田志津子氏(筑波大学附属視覚特別支援学校)による、「酸素と二酸化炭素の発生を行う化学実験」の実演と、山田毅氏(筑波大学附属特別支援学校)による、「発電の仕組み-電気を音で確かめよう-」と題しての、様々な自作教材の紹介であった。いずれも、視覚に頼らず生徒自身が単独で、かつ安全に行えるように、道具立てなどに独自の工夫が凝らされたものであり、参加した盲学校教員にとって大変良い刺激であったと考える。
 ここで検討した新規ワークショップ3件は、本番である「科学へジャンプ・イン・名古屋」で実施することになり、この事前検討会はそれに向けて必要な準備を進めるよい契機となった。


3.科学へジャンプ・イン・名古屋
 募集概要を決定後、中部地区盲学校長会への開催案内(9月29日)を配布し、各盲学校の実行委員を通して参加児童生徒の募集を開始した。地域の小・中学校に在籍する視覚に障害のある児童生徒に対しても、各盲学校で把握できる範囲内ではあるが、できるだけの広報に努めた。
 10月20日(火)に募集を締切り、第4回実行委員会で、実施ワークショップの最終決定と参加児童生徒の各ワークショップへの組分けを行った。応募児童生徒は計21名あり、小学校3年生から高校3年生まで幅広く分散していた。各児童生徒の学力などを考慮しつつ、新しい友達を得る機会にもなるように、できるだけ別々の学校の児童生徒同士での組分けとなるように、実行委員会では特に時間をかけて丁寧に決定した。
 各ワークショップの補助役、各ワークショップの教室と開閉会式場の準備、受付、駐車場管理など、当日までに非常に多岐にわたる役割分担が必要であるが、その多くは名古屋盲学校の教員有志に負うところが大きかった。また、参加児童生徒のワークショップ会場への誘導に関しては愛知教育大学特別支援学校教員養成課程の学生16名が担当した。これらの役割分担に際しては、午前か午後のいずれかのワークショップの時間帯にはワークショップを自由に見学することができるよう留意した。
 実施したワークショップは、藤井則之氏(京都府立盲学校)による数学のワークショップ「敷き詰めて大きさを感じよう」、浜田志津子氏(筑波大学附属視覚特別支援学校)による化学のワークショップ「自分で気体を発生させ、体全体で、気体の性質を実感しよう!」、藤村俊氏(美濃加茂文化の森ミュージアム)・河出充展氏(岐阜盲学校)による「静かに触って想像しよう-土器を作った人々の暮らし-」、犬塚俊裕氏(岡崎盲学校)による「ぐるぐる回そう!手作りモーター」、小出京子氏(静岡視覚特別支援学校)による「『アイスクリーム』と『アイ・スクリーム』」の5つであり、それらを午前と午後の2回ずつ実施した。

時間 内容
9:30-10:00 受付
10:00-10:20 開会の集い
10:20-10:30 移動
10:30-12:00 ワークショップⅠ 保護者向け企画Ⅰ
12:00-13:20 昼食
13:20-13:30 移動
13:30-15:00 ワークショップⅡ 保護者向け企画Ⅱ
15:00-15:10 移動
15:10-15:30 閉会の集い

 また、付添いで参加された保護者向けに、午前と午後に2つのプログラムを実施した。午前のプログラムは、各ワークショップの会場を実行委員が案内しながら、内容や工夫点を解説する見学会である。午後のプログラムでは、名古屋市交通局職員の二村慶氏(弱視)と、名古屋盲学校理療科教諭の寺西昭氏(全盲)のお二人をゲストに招き、情報交換会を行った。情報交換会では、講師の方々のこれまでの経験や保護者へのメッセージなどを話題提供していただき、それに対する保護者からの質問を受けながら、同席した盲学校教員や大学教員が適宜情報提供する形式で進めた。
 当日の参加者は、生徒19名、保護者19名、外部講師5名、スタッフ60名(うち名古屋盲21名、愛知教育大生16名)、見学者10名であった。参加児童生徒と付添いの保護者に対しては簡単なアンケートをお願いし、閉会式後に回収した(生徒18名分、保護者19名分)。その結果によると、「また参加したいですか?」という問に対して、生徒10名、保護者6名が「積極的に参加したい」、生徒8名、保護者12名が「機会があれば参加したい」と回答するなど、児童生徒にとっても保護者にとっても満足度の非常に高いイベントであったことがうかがわれる。


4.実行委員会
 今年度の活動を円滑に進めるために、計5回の実行委員会(4月19日、7月12日、9月12日、11月2日、2月14日を、名古屋盲学校を会場に実施し、延べ59名の実行委員が参加した。


5.事後の活動
 「科学へジャンプ」で実施したワークショップには、各盲学校での授業に取り入れるべき点が多々ある。今年度の試みとして、浜田志津子氏による化学実験を各盲学校でもすぐに実施できるよう、必要な物品を購入し、実行委員を通して各盲学校に配布した。また、小出京子氏によるアイスクリーム作りのワークショップに必要な物品も購入した。こちらは名古屋盲学校で保管し、必要に応じて各盲学校に貸し出していく予定である。効果を発揮するのは次年度以降であるが、積極的な活用を心がけて行きたい。


6.まとめ
 今年度中谷医工計測技術振興財団の助成金を得て、ワークショップ内容事前検討会と「科学へジャンプ・イン・名古屋」の、2つの大きなイベントを実施することができた。個々のワークショップを通して参加児童生徒に良い刺激を与えることができ、スタッフや見学者として参加した教員にとっても、見るべきところの多い内容であったと考える。今後も、各盲学校をはじめとする関係者の協力を得て連携を図りながら、継続して行くべき活動であると考える。