2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

視覚障害のある児童生徒に対する科学教育プログラム 「科学へジャンプ・イン・岐阜」の企画、実施と評価

実施担当者

児宝 康一

所属:愛知教育大学 教授

概要

1.はじめに
「科学ヘジャンプ」は、視覚障害のある児童生徒が科学にチャレンジする機会をつくるための全国ネットワークの構築を目指し、科学技術振興機構(JST)の「地域の科学舎推進事業」(2009~2011)として、
鈴木昌和氏(九州大学名誉教授)と烏山由子氏(元筑波大学教授)の呼びかけで始まった活動である。
この事業で構築した人的ネットワークにより、JST事業終了後も全国の有志が、ボランティアで活動を継続している。
東海地区では、盲学校教員(含OB)や大学教員などの有志が実行委員会を構成し、地域版「科学へジャンプ」として、東海地区在住の視覚障害のある児童生徒を対象に、これまでに、日婦りイベント(内
容は理科・数学・社会等の学習内容に関連する複数のワークショップである)を4回、ワークショップの内容を向上させるための研修会を2回、実施してきた。
2016年度は、本助成により、11月19日(土)に、日帰りイベント「科学ヘジャンプ・イン・岐阜」を、またそれに先立つ10月1日(土)に、ワークショップ内容を一層充実させるための事前検討会を、
ともに、岐阜盲学校を会場として実施した。本成呆報告書では、これらの活動について簡単に報告する。

2.ワークショップ事前検討会
地域版「科学ヘジャンプ」で実施するワークショップ内容の事前検討会を、10月1日(土)に岐阜盲学校を会場として実施した。実行委員以外に
も、できるだけ多くの盲学校関係者(特に教員)に参加してもらえる様東海地区の盲学校長宛に参加呼びかけを行った。当日は東海地区の盲学校教
員を中心に44名が参加した。当日のプログラムを表に示す。
この検討会では、まず、武井洋子氏(筑波大学附属視覚特別支援学校)を講師に招き、「アジ」の触察実習を行った。魚の基本形であるアジの身体の作りを、指先
で丁寧に順序立てて理解する手法について、参加者全員が体験した。
これは、11月に予定していた「科学ヘジャンプ・イン・岐阜」での、美ら海水族館講師による、サメの触察ワークショップの事前準備として、魚の基本形の触察を各盲学校で生徒に体験してもらう事を主目的に企画したものであるが、それだけでなく、今後、各盲学校での授業でも実施する価値のある内容であり、晴眼者の盲学
校教員にとっても、新しい発見があり大いに盛り上がった。写真1は実習風景の1コマである。
次に、犬塚俊裕氏(岡崎盲学校)の提案による化石採掘ワークショップを、参加者全員で体験しその内容についての議論を行った。このワークショップの準備のために、
化石を含んだ大量の石を金沢県にある大桑層まで採取に行くなど、力の入った内容であった(写真2)。

3.科学ヘジャンプ・イン・岐阜
募集概要を決定後、各盲学校の実行委員を通して、9月中旬に募集チラシを配布し、参加児童生徒の募集を開始した。
一般校に在籍する視覚に障害のある児童生徒に対しても、各盲学校で把握できる範囲内ではあるができるだけの広報に勤めた。
今年度は、募集開始が遅くなった事もあり、参加者の確保に苦労したが、各盲学校の実行委員の努力などにより、無事、実施ワークショップの最終決定と、参加児童生徒の各ワークショップヘの組分けを行なう事ができた。参加児童生徒数は19名であり、小学校2年生から高校3年生まで幅広く分散した。
各児童生徒の学力などを考慮しつつ、新しい友達を得る機会にもなる様に、できるだけ別学校の児童生徒同士での組分けとなる様に配慮した。
各ワークショップの教室と開閉会式会場の準備、ワークショップ補助者の手配、受付、駐車場管理など、当日までに非常に多岐にわたる役割分担が必要であるが、その多くは、会場校である岐阜盲学校の教員有志に負う所が大きかった。
また、参加児童生徒のワークショップ会場への誘導に関しては愛知教育大学特別支援学校教員養成課程の学生15名が担当した。
これらの役割分担に際しては、午前か午後のいずれかのワークショップの時間帯に、各担当者がワークショップを自由に見学できるよう留意した。
実施したワークショップは、横山季代子氏(美ら海水族館)による「サメのふしぎ」(写真3)、犬塚俊裕氏(岡崎盲学校)による「目指せ!化石ハンター貝化石を発掘しよう!」(写真4)、烏山由子氏(科学ヘジャンプ地域版代表)による「骨は語る」と「かきの実博士になろう」(写真5)、小出京子氏(静岡視覚特別支援学校)による「アイスクリームとアイ・スクリーム」(写真6)、矢島渚人氏(静岡視覚特別支援学校)と東海慧子氏(岐阜盲学校)による「自分で気体を発生させ、体全体で、気体の性質を実感しよう!」(写真7)、児屯康-(愛知教育大学)による「巨大電磁石で磁場を触ろう」の7つであった。
また、付添いで参加された保護者向けプログラムとして、午前は、各ワークショップの会場を盲学校教員が案内しながら、内容や工夫点を解説する見学会を実施した。
午後は、山田智直氏(「視覚障害者生活情報センター岐阜」館長、全盲)を講師に招いての講演と情報交換会を行った。情報交換会では、参加した保護者からの質間を受けながら、同席した盲学校教員や大学教員が自身の体験を踏まえながら適宜情報提供する形式で進めた(写真8)。
更に昼休みの時間を利用して、参加児童生徒全員での交流会を、愛知教育大学の学生の
企画で実施した(写真9)。
当日の参加者は、生徒19名、保護者16名、外部講師2名、スタッフ55名(うち岐阜盲21名、愛知教育大生15名)、見学者23名であった。参加生徒と付添いの保護者に対しては簡単なアンケートをお願いし、閉会式後に回収した(生徒18名分、保護者11名分)。
その結果によると、「また参加したいですか?」という問に対して、生徒6名、保護者6名が「積極的に参加したい」、生徒9名、保護者4名が「機会があれば参加したい」と回答するなど、生徒にとっても保護者にとっても満足度の非常に高いイベントであった事がうかがわれる。また、新聞社の取材も2件あり、2016年11月20日付けの中日新聞岐阜県版に「触って感じる科学教室」
という記事で紹介された。

4.実行委員会など
今年度の活動を円滑に進めるために、計3回の実行委員会(6月26日,10月1日,10月29日)を、岐阜盲学校で実施し延べ44名の実行委員が参加した。
また、6月26日に京都府立盲学校花ノ坊校地で閲催された「視覚障害児のための科学ヘジャンプ地域版フォーラム2016」に、岐阜盲学校から2名参加し、全国の各地域版の現状などの共通理解に努めた。

5.まとめ
今年度も、中谷財団の助成金を得て、ワークショップ内容事前検討会と「科学ヘジャンプ・イン・岐阜」の、2つの大きなイベントを実施する事ができた。個々のワークショップを通して参加生徒に良い
刺激を与える事ができ、スタッフや見学者として参加した教員にとっても、見るべきところの多い内容であったと考える。また、新規ワークショップ内容も1件増やす事ができた。