2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

視点の変化を重視した天体学習の工夫-マルチ天体学習モデルの開発と実践-

実施担当者

石飛 光隆

所属:千葉大学教育学部附属中学校 教諭

概要

1.はじめに
 生徒は小学校までに地球から見た視点,言い換えれば自らの目線で捉えられる視点でしか学習してきていない。天体の学習では,まず既習事項と関連して日周運動から始まるが,年周運動になった途端,急に超自然的存在の目線で学習が始まる。ここでそれまでの知識と乖離がおき,理解が難しくなるのではないかと考えられる。そこで,主観的な視点と超自然的な視点の間をつなぐ手立てとして,主観モデルと客観モデルを同時に扱える教材の開発を考えた。
 授業内で行った天体に関する知識に関する質問への回答では,方位について正しく理解している生徒が94%であった。一方で太陽の日周運動に関しては,どの季節も日の出・日の入りの場所が同じであると考えた生徒が40%,直上し降下すると考えた生徒が12%であった。透明半球を用いた太陽の日周運動の記録・観察を通して学習をすることが必要であると言える。さらに,地球の自転に関する質問では誤った方向で答えた生徒が40%とほとんどが理解できていないことが伺えた。
 モデルを実際に操作させ,宇宙空間から見た客観的な視点と,地球上から見た主観的な視点を関連付けさせることで生徒の理解につなげたい。


2.研究のねらい
(1)生徒の理解度や関心・意欲の向上を目指し,客観的な視点と,地球上から見た主観的な視点を関連付けさせて実験が可能な教具の開発
(2)製作した教具を用いた効果的な学習指導方法の開発
(3)検証授業の実施
(4)学習後の理解状況を調べるための生徒対象の調査及び分析
(5)研究成果をまとめ,今後の課題の検討


3.地球カメラの開発
このモデルを利用することで期待される効果は,
①モデル上の動きから,客観的な視点で地球の自転,公転の動きを観察することが出来る。
②カメラから大型モニタに転送した画像から,主観的な視点で日周運動,年周運動を観察することが出来る。
③フレキシブルスタンドの角度を変えることで,地球の自転軸と公転面との傾きから起こる変化について観察することが出来る。
の3点である。
 生徒は一つのモデルを統一して使うことで,視点の関連付けを従来の様々な視点から書かれたモデル図を活用した授業と比較して容易に理解できると思われる。
 PC用の無線接続のWEBカメラを利用してモデルを作成する。地球に見立てた球体上に無線カメラを設置し回転させることで地球の自転を表現する。その際,太陽のモデルや恒星のモデルを周囲に置くことで客観的な視点でのモデルになる。地球との相対的な位置が変化することで,見える星座が変化することや,季節による日射の違いを観察することができる。さらに,無線カメラからの映像をモニタすることで,その時点での地球上からみた天体の運動の様子を観察できる。
 発泡スチロール球に無線カメラを埋め込み,フレキシブルスタンドに軸を刺す。


4.研究のまとめと今後の課題
 本研究では,生徒の理解度や関心・意欲の向上を目指し,客観的な視点と,地球上から見た主観的な視点を関連付けさせて実験が可能な教具の開発を行った。
(1)研究のまとめ
 モデルの動きから,客観的な視点で地球の自転,公転の動きを観察することが出来た。また,カメラから大型モニタに転送した画像から,主観的な視点で日周運動や年周運動を観察することが出来た。さらにフレキシブルスタンドの角度を変えることで,地球の自転軸と公転面との傾きから起こる変化について観察することが出来た。

(2)今後の課題
 モデルに使用するカメラの選定が困難であった。市販されている無線カメラは,視野角が広いものや,自動で焦点を変更するものが多く,観察するには不向きである。また,プライバシー保護の観点や機能を増やすために大型になるカメラも多かった。
 さらに,無線で画像を送信して処理するためにモデルを動かしてから表示されるまでに時間差が生じ,扱いに慣れるまでに手間がかかった。
 今後はより小型化することと,時間差の問題を解消するためにタブレット端末を利用した有線カメラを用いた学習モデルの開発に臨みたい。