2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

西脇高校の生徒と近隣地域の小学校教員が共同で 野外調査書や実験書を作成し授業を実施

実施担当者

川勝 和哉

所属:兵庫県立西脇高等学校 教諭

概要

1 はじめに

小学校の先生は本当に忙しいという話をよく聞く。与えられた仕事だけをこなしていればよいわけではないので、目に見えない仕事が山積しているのだと想像する。そんな状況で、子どもたちの「なぜ?」といった疑間に十分に応える時間も、心の余裕もなくなってしまいやすいことは、想像に難くない。小学校における自然科学教育はたいへん重要な意味をもっている。それは高等学校で自然科学教育にあたる際にも痛感する。自然科学に強い興味を持つ生徒は、小学生時代にすばらしい先生に出会っている。中学生になってからではもう遅い。そのことは、小学校の先生方も十分に理解していることであろう。わたしは2011年と2014年の2度にわたって、自然科学教育に功績があったとして野依奨励賞を受賞した。このときに、「これからは自身の担当する生徒ばかりではなく、生徒や子どもを教育する指導者を対象にした活動で、自然科学教育に貢献してほしい」と、野依良治博士から助言を受けた。これが、助成金を受けて活動する出発点となった。
わたしは、小学校におじゃまして授業を見学させていただいたり、小学校の先生方の学習会に出席させていただいたりする機会を多くもっている。それらの機会に、小学校の先生からは、「どの程度の内容をどのように教えればよいのか」といった具体的な教育内容に関する質問や相談を多く受けてきた。小学生5年生の理科になると、かなり学間的にも裔いレベルの内容が出てくる。しかし、小学生に難しい用語を使うことができず、また先生自身の専門的な内容の理解が十分ではない分野では、説明に窮する場面もあるのだということである。間題になっているのは、特に地学分野に関する内容のようだ。若い小学校の先生は、学生時代に地学の授業を受けた経験をもたない。地学を専門とする高校教師の採用は、すでに平成元年の時点でおこなわれていなかった。小学校の先生方からの多くの質問を聞き、あるいは対話していると、何をどのように教えるのか、ということが問題なのではないことに気づく。そもそも、先生が地学分野を「おもしろい」と感じる前に、「地学分野は難しくて、教えるのが大変だ」という思いが潜んでいるように思えたのだ。
わたしには、小学生にこそ、授業ばかりではなく、日常的な生活の中で「なぜ?」を大切にしていただきたい、という強い思いがある。そしてその思いは、小学校の先生方も同じなのだろうと思っている。わたしが小学校の先生を対象とした講習会にお招きいただいた際のテーマは、まさに「あらためて学び直すと、地学はおもしろい」であった。小学校の先生方が考えられたテーマだそうだ。先生の「地学っておもしろい」という思いは、必ず子どもたちにも伝わると信じている。

2 「なぜ?」と「どのようにして?」

このような話をすると、小学校の先生からは必ず「子どもにどうして?と聞かれても、答えられない」という意見が返ってくる。先生にはそれぞれ得意分野があり、逆に不得意な分野のことには答えられない、というわけだ。しかし、子どもたちは先生に「答え」を望んでいるわけではないのではないだろうか。大切なことは、子どもの「ふしぎだ」という思いを、時を逃さずに受け止め、その思いを共有することだろう。答えがわからなくても、子どもと一緒になって図鑑をのぞき込む
ことが、子どもの理科好きを育てることに結びつくのだと思う。先生自身も、自然に「ふしぎだ」を感じてほしいと思う。子どもに質間されたら「どうやって?」答えるかを考えるのではなく、子どもと一緒になって「どうして?」と感じる心が大切だというわけである。
子どもはたいへん純粋な感「生で自然を見ているので、子どもの質問は自然現象の核心をついている。専門家でも答えに窮するような質間が多いのである。子どもの疑間を適当にやりすごさずに、疑間を子どもと共有することは、恥ずかしいことではない。答えを教えてくれる百科事典のような先生は子どもに「感心」されるだろうが、疑問を共有してくれる先生は子どもに「信頼」されるのではないだろうか。

3 具体的な活動

実験書に書いてある内容ではなく、本校地学部が身近な現象に疑問をもって明らかにした研究成果を、地域住民や児童生徒にわかりやすく紹介することにこだわった。オリジナリティーとプライオリティーにあふれる内容を、それを明らかにした生徒自身の口から伝えることによって、より生き生きと小学生に伝えることができると考えた。結果はまさにそのとおりとなった。

3-1 青少年のための科学の祭典に出展

主催 科学の祭典ひょうご県内大会実行委員会
日時 8月27日(土)11:40~15:40
場所 兵庫県立東播磨生活創造センター
出展 内容兵庫県に広く分布する岩石の特徴を調べよう
成果 兵庫県内の凝灰岩試料を用いて、実験や観察を通じて地学部の研究成果をわかりやすく児童に説明した。
1時間のワークショップを2回実施したところ、小学校低学年以下の子どもたちが多く集まり、各回定員の20名を上回る盛況ぶりであった。岩石をこすりあわせて硬さを比較する、加熱した岩石の変化を観察する、偏光顕微鏡で鉱物を観察する、等で「なぜ」を大切にすることを伝えた。

3-2 野村町キッズフェスタを共催

主催 西脇高等学校地学部野村町子ども会
日時 11月13日(日)10:00"-'12:30
場所 西脇市立重春小学校体育館
出展内容 自分たちが住んでいる西脇の町がどのようにしてできたのか学んでみよう!
西脇市の大地の成り立ちについて、小学校の教科壽に基づきながら、加古川から西脇までのさまざまな岩石にふれたり、互いにこすりあわせたり、高温バーナーで加熱したり、顕微鏡で観察したりすることを通じて理解する。
成果 地域の子どもたちの科学的興味関心の深化と、探求心の育成、交流を目的として、野村町の児童と保護者を中心に募集したところ、児童76人、保護者等47人の応募があった。児童を8つの班にわけ、それぞれに高校生の指導生徒をつけて各実験場所を回るほか、全体の進行やまとめを担当する生徒、安全確保のための生徒を配置した。スタンプラリーを実施したこともあって、児童や保護者から大変な好評を得た。今後も本事業を進めていく予定である。

3-3 揖龍小学校理科部会授業研究会の講師
主催 揖龍小学校理科部会
日時 11月22日(火)13:45~17:00
場所 たつの市立御津小学校
題目 小学校理科教育における地学学習について~学びなおすと地学はおもしろい~
発表者 川勝和哉
概要 兵庫県教育委員会が展開しているサイエンス・トライやる事業の一環として実施した
ものである。6年2組の「大地のつくりと変化」の単元の横田那美教諭(御津小学校)の授業を見学し、研究討議をおこなった後、川勝による講義をおこなった。小学校の理科教育に必要な視点と、その具体的な注意事項について詳しく説明した。質疑応答はきわめて活発で、日ごろの授業で感じている疑問点について活発な議論がおこなわれた。小学校の授業の重要性を共有し、児童の「なぜ?」という間いかけを見過ごさないことについて解説した。また高校生の研究活動を紹介し、理科教育を小学生から大人まで続く一連のものとして認識する必要性を話した。特に、若い小学校教員は学生時代に地学の授業を受けていないため、地学分野の授業に支障を感じているようであった。

3-4 あそびの広場KID-0-KIDinMiraieに出展
主催 西脇市
日時 3月25日(士)10:00~16:00
場所 西脇市茜が丘複合施設「Miraie」多目的ホール
出展内容
① 各地の凝灰岩を展示し、薄片を偏光顕微鏡で観察して万華鏡と比較する。
② ゴムを温めてやわらかくして生物の形を作る
③ 薄膜で水を包み込み、水を持つ実験、
④ 西脇市の凝灰岩を高く積んだりバランスをとったりするゲーム、
⑤ 昆虫の塗り絵を通して昆虫の特徴を知り、車を作ってレースをする。
成果
子どもは遊びを通して、生きるために必要な自主性や創造力、社会性を身につける。本校生徒が1年間かけて取り組んできた研究の成果を、小学校低学年の児童にもわかるように、感性に訴えかける遊びと結びつけて提供した。
専門的な内容を、未就学児童や小学校低学年児童に提供することは困難だったが、2か月をかけて念入りに準備をした。たいへんな盛況で、広さは十分ではなかったものの、地域の110名の児童が、終了時刻を大きくオーバーして実験を楽しんだ(保護者は106名、合計216名)。当日は片山象三西脇市長をはじめ、来住壽ー前市長や西脇市会議員らなど多数の訪開があった。

3-5 西脇経緯度地球科学館太陽望遠鏡完成記念イベントに出展
主催 西脇市
日時 3月25日(土)12:30~16:00
場所 西脇経緯度地球科学館
出展 内容虹スコープの作成や太陽光を虫眼鎖で集めて熱エネルギーに変える実験を行った。
成果 もともと宇宙や星に興味がある地域の子どもたちが集まっているため、皆積極的にブースを訪れて、いきいきと実験や観察をおこなっていた。ていねいな対応に、多くの保護者から感謝された。当日は東京国立天文台の高瀬文志初代天文台長の講演もあり、盛況であった。

3-6 冊子「小学校教師のためのおもしろ知識~地学分野編~」を作成し無料配布
小学校の先生が小学生に教える際の「手引き」ではなく、先生方に、まず「地学っておもしろい」と感じていただけるように、さまざまな話をまとめた冊子を作成し、行政を通じて近隣の小学校に無料配布した。来年度はいよいよ、野外調査書や実験書を作成し授業を実施する予定である。