1995年[ 技術開発研究助成 ] 成果報告 : 年報第09号

血栓形成における血管内皮細胞の制御機構の解明―ずり応力負荷装置を用いた流体力学的アプローチ―

研究責任者

渡邊 清明

所属:慶応義塾大学 医学部 中央検査部 講師

共同研究者

川合 陽子

所属:慶応義塾大学 医学部 中央臨床検査部 助手

共同研究者

池田 康夫

所属:慶応義塾大学 医学部 内科学教室  教授

概要

【緒言】
血管内皮細胞は生体のあらゆる場所に分布し,血管内腔と外界のバリアとして通常は抗血栓性を保つと共に,生体のあらゆる変化に積極的に対応し,凝固線溶機構の制御,炎症への対処,血流変化への対応などを活発に行っている。とくに内皮細胞は通常は抗血栓性を維持しているが種々のアゴニストの刺激により血栓性に傾き,血栓形成機構の中心的役割を演じている。内皮細胞が抗血栓性を維持するための機能として代表的なものは以下が挙げられる。(1)プロスタサイクリン(PGI2)を合成放出し血小板機能を抑制する。(2)トロンボモジュリン(TM),ヘパリン様物質,組織因子経路インヒビター(TFPI)を合成発現し凝固活性を制御する。(3)組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)を産生放出し,プラスミノゲンをプラスミンに転換し線溶活性を高める。一方血栓形成に関与している機能としては以下のことが知られている。(4)フォン・ウイルブランド因子(vWF),フィプロネクチン,コラーゲン,トロンボスポンジンなどの接着因子を産生し血小板凝集に関与する。(5)組織因子(TF)を生成し凝固活性を充進する。(6)プラスミノゲンアクチベーター・インヒビター(PAI)を放出し線溶活性を阻止する1)。
内皮細胞に作用しperturbationを引き起こす物質としては様々あり,トロンビン・ヒスタミン・フォルボルエステルや種々の増殖因子(b-FGF,TGF一βなど)が知られているが,炎症性変化において中心的役割を演ずるエンドトキシン(LPS),インターロイキンー1(IL-1),腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインはとくに重要である1)(図1)。
近年血流が内皮細胞に及ぼす影響が注目され,多くの研究がなされているz)-s)。生体内を網羅する血管を流れる血液は血管の太さに応じて種々の血流速度をもっている。血管壁細胞に加わる物理的力である血行力学的因子には,血圧による法線応力(p)と血流により生ずるずり応力(SS : shear stress)とがある。このずり応力は,直接血流に接する内皮細胞の表面に加わる力で,血流速度(u)と流れからの距離(y)で規定される速度勾配(du/dy)と血液の粘性(μ)の両者によって生ずる血行力学因子である(図2)。通常大動脈では10~20dynes/cm2,細小動脈では20dynes/cm2,静脈では1.5~6dynes/cm2のずり応力が内皮細胞に負荷されていると考えられている6)。かかるずり応力は内皮細胞の形態に影響を与え,ずり応力を負荷された内皮細胞は,血流の方向に紡錘状に配向変化すると共にストレスファイバーの形成も起こることが明らかになった(図3:写真)。ずり応力は内皮細胞の機能にも影響を与え,透過性,ピノサイトーシス,リポプロテインの取り込みの冗進の他2ト6),9),血管のトーヌスの調節にも重要な働きをしており,平滑筋を弛緩させ血管を拡張する血管内皮由来血管拡張物質(EDRF,NO)やPGI27),8}を,また血管収縮を起こすエンドゼリン(ET-1)などの産生や放出を調節している。成長増殖因子である血小板由来成長因子(PDGF),トランスフォーミング成長因子(TGF一β1)などの産生も血流の影響を受け,動脈硬化の進展に関与していると考えられている。また炎症や動脈硬化とも関連する白血球の接着に必要な因子であるICAM-1やVCAM-1の発現も血流により制御されており,ずり応力により前者は増加し後者は減少する。さらに凝固線溶系に与える影響としてはt-PAの産生に影響を与え,動脈レベルの高ずり応力負荷では,t-PAの放出は増加し,mRNAレベルで制御されていることが判明した10)11)。一方静脈レベルの低ずり応力ではt-PAの放出は増加せず9抑制物質のPAI-1はずり応力の影響を受けないという。また内皮細胞膜上で抗凝固作用の働きをしているTMはずり応力負荷によりその発現がmRNAレベルで減少することも明らかになった'2)。内皮細胞にはこのようにずり応力を感知するメカノレセプターがあると推定され,その細胞内伝達機構は不明であるが,一部の遺伝子にはそのプロモーター領域にずり応力に反応するコードンがあることが1993年N. Resnickらにより報告された13)。その領域は「shear stress responsive element : SSRE」と呼ばれ,血流によりその発現が変化するt-PA,PDGF,TGF一β,ICAM-1などの遺伝子にも存在し,`GAGACC'がコアの配列と考えられている。(図1)
工学的手法により流動状態下の血管内皮細胞の変化をみる系として二種類のずり応力負荷装置が開発されている。回転粘度計の原理を応用したずり応力負荷装置と一定方向に流れをつくるフローの装置である。
今回我々は,コーンプレート型回転粘度計原理を応用したずり応力負荷装置を用いて,in vitroにおいてヒト血管内皮細胞にずり応力を負荷し,t-PA,PAI-1,vWF,PGI2の動態を観察すると共に,炎症性サイトカインであるIL-1,TNF刺激を加えたときの変化も検討し興味ある知見を得たので報告する。
1.方法および試料
A.ずり応力負荷装置
ずり応力負荷装置は,ずり応力惹起性血小板凝集(shear-induced platelet aggregation)を測定するために開発されたコーンプレート型回転粘度計原理を用いた装置を37℃,CO、インキュベーター内で作動できるように改良した。15)16)(図4:A一写真,B一模式図)測定装置はコーンプレート型流動セル部,光源部,光測定部から構成される。(1)コーンプレート型流動セル部:コーンの材質は表面を研磨したポリメチルメタクリレートを使用した。コーン半径は内皮細胞が培養可能な35mm培養用ペト11ディッシュを利用できるように1.6cmとした。コーン角度は層流状態を維持できることを考慮し,1度と定めた。コーンの回転はエンコーダが付属したコアレスモータ(コパル電子,LS26RE-001)によって0~2000rpmまで制御可能である。すなわち最高12000sec-1のずり速度を負荷することが出来る(血液粘度を1cpとすると,120dynes/cm2のずり応力に相当)。コーンとプレートの隙間は,モータ固定プレートに接合された高さ調節ステージによって調節される。コーンとプレートの隙間は測定時40μmに設置する。セル室の底部にはコーンとプレートの隙間の蛍光を測定するためFC型コネクタが付属したコア径1mmの紫外線用光ファイバー(三菱電線工業,ST-U1000H-SY)が設置されている。濁度測定用の入射光を照射するためであり,入射光用の光ファイバーの延長線上には透過光を検出するための光ファイバーを設置して濁度の変化を測定出来るように設定した。内部の素材は防錆のため出来る限りステンレス製とした。(2)光源部:光源部は濁度変化の測定の為の入射光源He-Neガスレーザを設置した。(3)光測定部:透過光測定部は光パワーメーターを設置した。
本装置をCO2インキュベーター内に設置し,プレート部に35mmペトリデイッシュを挿入し,外側に設置した測定部で負荷するずり応力の強さを調節し,0,6,12,18,24dynes/cm2のshear stressを負荷した。
B.内皮細胞培養
ヒト血管内皮細胞の培養はJaffeらの変法に準ta),膀帯静脈をコラゲナーゼ(新田ゼラチン,東京)処理して細胞を剥離し,ゼラチンを塗布した培養フラスコに,10%非働化牛胎児血清(Seromex, Vilshofen, Gemany),30μg/mlのECGS(Collaborative Res. Inc., MA,USA),6U/mlのヘパリン(清水製薬,静岡)を含んだM199溶液(Gibco Laboratories, NY, USA)を用いて37℃のCO2インキュベーター内で培養した。トリプシン/EDTA(Gibco Laboratories, NY,USA)にて剥離した細胞を,300μg/mlのコラーゲンtypelV(岩城硝子,千葉)をあらかじめ塗布した35mmペトリデイッシュ(岩城硝子,千葉)に培養し,confluentになった細胞を24時間ずり応力負荷装置に設置し,本実験に用いた。実験により100U/mlのIL-1R,TNF一α(Genzyme Inc., NY,USA)を添加した。
C.培養上清中の蛋白濃度の測定
1。t-PAおよびPAI-1抗原量の測定
total t-PAはImulyse TM tPAキット,total PAI-1はTintElize PAI-1キット(いずれもBiopool AB, Sweden)を用いて二抗体法のELISAにて測定した。t-PA/PAI複合体とactive PAIはTDC-88キット(テイジン,山口)を用いてサンドウィッチELISA法にて測定した。activePAI-1は試験管内で新たにt-PAを加えてフリーなactive PAIと結合させて生成したt-PA/PAI複合体量を測定し,t-PA添加前のt-PA/PAI-1複合体量を差し引くことで求めた。
2.vWF抗原量
vWF抗原量はアセラクロムvWFキット(Boehringer Mannheim, Mannheim, Germany)を用いてEIA法で測定した。
3.6-keto-prostaglandin(PG)F1。の測定
PGI2は不安定であるため代謝産物である6-ketoPGF1、をEIAシステム(Amersham, Buckinghamshire, England)で測定した。
4.統計学的処理
統計学的有意差の検定は,5回の実験結果を,マッキントッシュのソフトウェア`StatView II'を用いてANOVAにて解析した。危険率0.05以下(p〈0.05)を有意とし,相乗作用の検定は,二元配置分散分析を用いて行った。
II結果
A.培養上清中におけるt-PA放出量(Fig.3-A)とPAI-1放出量(Fig.3-B)
静止時における培養上清中のt-PA量は8.9±4.2ng/mlであり,サイトカイン刺激後により有意な変化はなく,IL-1βと艀置後は5.1±2.3ng/ml, TNF一αと鰐置後は8.8±4.4ng/mlの放出量であった。ずり応力を6,12,18,24dynes/cm2と徐々に負荷するとt-PAの放出量はずり応力依存性に増加し,24dynes/cm2では26.1±6.3ng/mlまで有意に増加した。一方静止時には影響を与えなかったサイトカインはずり応力依存性にt-PA放出を増加させる作用を獲得し,24dynes/cm2におけるt-PAの放出量はIL-1β刺激では53.9±17.1ng/ml,TNF-a刺激では69.6±15.6ng/mlと未添加時の2.1~2.6倍に増加した。すなわち,ずり応力が加わると,サイトカインとずり応力の相乗効果が発生し,統計学的に有意であった。
静止時のtotalPAI-1放出量は661.0±207.Ong/mlであったが,サイトカイン刺激で著明に増加し,IL-1β刺激では1897.0±371.3ng/ml, TNF一α刺激では2790.3±455.4ng/mlと有意に放出が増加した。ずり応力負荷によりサイトカイン未添加・添加共にPAI-1放出量は減少傾向にあったが,統計学的には有意ではなかった。
さらに,t-PAの放出の結果生成されるt-PA/PAI-1複合体とactivePAI-1の動態をIL-1βの存在下,非存在下で観察した(Fig.4-A,Fig.4-B)。t-PA/PAH複合体およびactivePAI-1はそれぞれt-PAおよびtotalPAI-1と同様な動態を示した。静止時未添加上清中のt-PA/PAI-1複合体の濃度は12.7±8.2ng/mlであり,1レ1β添加では10.5±8.2ng/mlで変化しなかった。ずり応力負荷により複合体は有意に増加し,24dynes/cm2ではそれぞれ未刺激上清中で48.3±9.5ng/ml,IL-1β刺激では149.0±33.6ng/m1であった。一方,activePAI-1の動態は,totalPAI-1と類似していたが,ずり応力依存性にその放出量は有意に減少した。すなわち,未刺激上清中の放出量は17.4±8.4ng/mlであったが,IL-1β刺激では135.2±27.Ong/mlと有意に増加した。24dynes/cm2のずり応力負荷ではその放出量は顕著に減少し,未刺激上清中で1.8±2.6ng/ml,IL-1β刺激では59.7±11.1ng/mlであった。
B. vWF抗原の放出量(Fig.5-A)
静止時未刺激上清中のvWF放出量は93.7±11.6ng/mlであり,サイトカイン刺激で若干増加傾向にあるが,IL-1β刺激では103.0±18.8ng/ml, TNF一α刺激では91.9±26.6ng/mlと統計学的有意差は認められなった。ずり応力の影響は,本実験に用いた24dynes/cm2までの負荷では認められなかった。サイトカイン存在下におけるずり応力負荷で,vWFの放出量は増加傾向を呈したが,有意差は認められなかった。
c.PGI2の放出量(Fig.5-B)
PGI2の放出を調べるために,代謝産物である6-keto-PGFI、を測定した。静止時未添加の上清中では286.5±318pg/mlであったが,サイトカイン刺激により著増し,IL-1β刺激では16960.0±11813.5pg/mlであり,TNF一α刺激では2448.0±1113.5pg/mlの放出量であった。またずり応力負荷によってもその放出量は有意に増加し,24dynes/cm2では,未刺激上清中で960.0±487.7pg/ml, ILンの相乗作用効果の傾向が認められた。
-1β刺激では18653.3±10276.6pg/ml, TNF一α刺激では7466.7±4877.7pg/mlであった。ずり応力とサイトカインの相乗作用効果の傾向が認められた。
IV.考察
流動状態が血管内皮細胞の抗血栓性を維持するために重要であると考えられている。今回我々の検討でもずり応力が培養ヒト血管内皮細胞の凝固線溶動態に影響を与え,抗血栓性を保っていることが判明した。今回用いた24dynes/cm2までのずり応力負荷ではt-PAとt-PA/PAI-1複合体およびプロスタサイクリンは著明に増加し,PAI-1とactivePAI-1はilk少傾向を呈した。一方,vWFは変化しなかった。すなわち,ずり応力は線溶系を活性化し,血小板凝集抑制物質の放出を増加させた。さらに生体内の炎症物質として中心的役割を果たしているサイトカインは,内皮細胞にperturbationを引き起こし血栓性に傾けることが知られているが,本実験でもPAI-1およびactivePAI-1の放出を顕著に増加させ,線溶系を抑制することが示された。興味あることに静止時には影響しなかったサイトカインはずり応力を負荷することでt-PAの放出に相乗的に作用した。またサイトカインにより増加するPAI-1の放出を抑制した。かかる事実は,ずり応力が負荷されるとサイトカインをはじめとする内皮細胞への種々のアゴニストが逆方向の作用をする可能性が示唆された。
t-PAとPAI-1は主に内皮細胞で合成され線溶系を制御し,生体内の抗血栓性を保持する役割を担っている。したがって種々の物質で変化を受けるが1°)11)17)18),トロンビンはt-PAとPAI-1の両者を放出させ,ヒスタミンやフォルボルエステルはt-PAを増加させるがPAI-1には影響しない。一方サイトカインであるエンドトキシン・TGF一β・IL-1・TNF一αはt-PAにあまり作用せずPAI-1の放出を増大させる。Diamondらは静脈レベルの遅い血流では両者は影響を受けないが,動脈レベルの速い血流がもたらすずり応力(15dynes/cm2以上)ではt-PAの放出は増加するがPAI-1の変化は有意差がなかったと報告した1°)。我々の検討でもサイトカインはPAI-1の放出を著明に増加させたが,静止時にはt-PAの放出にほとんど作用しなかった。一方ずり応力の作用はt-PAの放出を著増させ,PAI-1の放出を減少させる傾向が見られた。totalPAI-1の変化はDiamondらとほぼ同様であり,activePAI-1の減少が統計学的に有意であった。内皮細胞では,合成されたt-PAとPAI-1は貯蔵されずに即時に放出されるため,その制御はmRNAレベルでおこなわれていると推測される。Diamondらはずり応力を負荷するとt-PAのmRNA量は著明に増加したが,蛋白量は静止時の3倍にしか増加せず,蛋白合成に至る経路での別の制御の存在が示唆されると推測している11)。我々もt-PAのmRNA量をノーザン・ドットプロテイング法により測定したころ,静止時のt-PAのmRNA量はほとんど同定されず,ずり応力負荷により著明に増加したが,それに比較し蛋白量は3倍の増加であり,Diamondらと同様な結果であった。さらにサイトカインを加えると蛋白量の増加はmRNA量と比例し,未刺激時の約2~3倍に増加した(データ未掲載)。一方,PAI-1の蛋白量とmRNA量の動態はほぼ一致した(データ未掲載)。
vWFは主に内皮細胞と巨核球で産生され,血小板の粘着に不可欠な糖蛋白で止血機構を司る重要な接着因子である19)。vWFの内皮下や血管内への放出はin vivoの実験や臨床データの結果から速い血流で増加していると報告されている2°)今回24dynes/cm2までのずり応力負荷でその放出は変化を受けず,mRNA量も変化しなかった(データ未掲載)。その理由として,100dynes/cm2以上の非常に速い血流状態でvWFの機能が発揮されるという事実と考え合わせると16),ずり応力が低かったためによると考えられる。しかし,培養細胞にずり応力を負荷する系では,我々の検討では30dynes/cm2以上,一般に50dynes/cm2以上の負荷は困難であるとされ,今後の課題と思われる。
PGI2は血小板凝集抑制作用と血管のトーヌス調節因子としての血管拡張作用を有し,内皮細胞における抗血栓性を担う最も重要な因子である。従ってその研究も多く,サイトカイン刺激やずり応力負荷によりその放出が増加することは良く知られている1ト8)。特に」血流の変化が生じた早期に反応し多量の放出が起こり,定常状態での放出量は少ない。従って拍動性の血流下では定常流と比べその放出量は大きいと報告されている7)。生体内の比較的大きな血管では絶えず拍動性の血流が生じていると考えられ,血管内の抗血栓性を維持するのに中心的役割を演じていることが示唆される。またサイトカインなどの刺激にもすぐ対応しその放出を増加させると考えられる。
我々の実験でもPGI2はサイトカイン刺激とずり応力のいずれの負荷に対しても反応してその放出を増加させた。
以上,恒常状態では抗血栓性を維持している内皮細胞の凝固線溶動態の制御に関して,生体内のあらゆる刺激に対応してなされている事実が次々に明かにされてきた。
とくに血流の存在は重要であり,ショックなどで血圧が低下し血流の停滞する部位が生ずると凝固充進状態がおきたり,病的狭窄部位があるとその先の広がった血管では乱流が生じ動脈硬化が促進されることなども判明してきた。さらにずり応力で変化する蛋白遺伝子のプロモーター領域に,近年注目されているSSREが存在する事実が考え合わせると,血流がいかに重要であるかが示唆され,興味深い。
これらの結果は生体内の凝固線溶系の制御は遺伝子レベルで巧みに行われていることを示すものであるが,その細胞内伝達機構などまだ不明の点も多い。
近年,プロトオンコジンであるc-fosやc-junの遺伝子にもSSREが存在し,ずり応力負荷で,これらはmRNAレベルで増加し核内への移動が起こることや,転写因子であるNFkBやAP-1などのDNA結合蛋白の活性化が,ずり応力刺激によりおこることが報告されている21)。血流を感知する受容体をはじめ,細胞内伝達機構や遺伝子レベルの制御の解明は今後の課題と思われる。