2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

蚊が0研究 Season2 銅板の罠・鶏糞の罠-ボウフラが発生する条件および駆除効果の検証-

実施担当者

海切 健次

所属:呉市立広南中学校 教諭

概要

1 はじめに
 広南中学校のある広南地区は,全国から注目させる大きな成果を上げ,「蚊とハエのいない町」として厚生大臣賞を受賞した歴史をもつ。広南中学校では,郷土誌の学習を進める中でそのことを知り,「蚊のいない町づくり」への挑戦を決意し,学園内の蚊の生態と駆除の方法について学校ぐるみで行う科学研究「蚊が0研究 PROJECT」をスタートさせた。
 2年目の今年は,昨年度の研究成果を踏まえ,さらに深く研究をすすめるために科学部を発足させ,地域の方などの協力も得ながらボウフラの発生条件や駆除効果の検証をすすめた。また,研究成果に基づき,「銅板の罠・鶏糞の罠」作戦にバージョンアップした駆除活動を行うことで,学園内での蚊の被害を減少へ向け挑戦した。
さらに,今年度は,日本で蚊の研究で有名な池庄司敏明先生が,呉市広南出身であることがわかり,講演を依頼した。科学部のメンバーには,研究を進める上でのアドバイスをたくさんいただいた。


2 研究目的
 研究の目的は「広南地区の蚊を0にすることで,みんなが過ごしやすく,デング熱などの蚊が媒介する病気にかかる心配のない町づくり」に貢献することである。そこで,私たちは,次の3つの研究に取り組んだ。
 第1に,蚊の発生する条件の研究である。昨年度の研究で,「銅版をいれるとボウフラが発生しにくくなる」一方で「日陰,木の近く,葉や土を入れる」と発生しやすくなることが明らかになっている。しかし,昨年度,中学校全体で行ったボウフラを発生させる実験では,70名の生徒のうち,10%しかボウフラが発生しなかった。効果的な蚊の駆除には,もっと蚊を強く誘引する方法を見つけることが必要である。ボウフラの発生条件のさらなる探究を行っていく。
 第2に,ボウフラの駆除方法の研究である。昨年度は,郷土誌に記述があったクララ草の研究に取り組んだが,今年度はもっと気軽に,誰でもできる方法として,一般に販売されている蚊の噴霧式駆除剤が,ボウフラにどの程度有効かについて調べた。また,昨年度,広南周辺には,オオクロヤブカ,ヒトスジシマカ,アカイエカの3種類がみられたことから,それぞれがボウフラで見分けることができるかどうか,さらに,種類によって,駆除効果に差があるかどうかを調べてみた。さらに,塩水に駆除効果があるかどうかも調べてみた。
 第3に,昨年度から継続した毎週蚊(火)曜日の駆除活動の実践的研究の検証である。今年は,学校内だけでなく,学校から約50m内ほど周辺まで駆除活動範囲を広げてみた。


3 研究方法
【研究1】ボウフラが発生する条件
(1)銅板の効果および容器の色の違いによる効果について
実験1 校内での実験
①実験方法
・24色の色紙から,2種類選んで透明な容器に貼り付ける。
・4つの容器に水を入れ,すべての容器にボウフラを発生させやすいように鶏糞を入れる。
・片方の色に銅板を入れ,対照実験を行う。
・それぞれを蚊のいそうな場所に置く。

②実験の結果と考察
・銅板の効果があったものが12実験中,8実験(約67%)だった。また,それ以外の4つの実験についても銅板を入れないときと比べて発生した数は少なかった。これらのことから,銅板の効果はあったと考えられる。
・赤色や黒色,茶色や銀色に多く発生する傾向があった。このことから色によるボウフラの発生の仕方には,ちがいがあると考えられる。

実験2 地域での検証実験(専徳寺)
①実験の方法
・昨年度,蚊がたくさん発生していた地域にある専徳寺の手洗い場や花入れに銅板を入れ,継続的に観察する。

③実験の結果と考察
・水の量が多い手洗い場には,銅板を入れていてもボウフラが発生していた。さらに銅板を加えた結果,ボウフラは発生しなかった。このことから,水が多い場合は,たくさんの銅板を入れないと効果が小さくなると考えられる。また,銅板を入れておいても,水が黒く汚れている場合にはボウフラが発生したが,水をきれいにすることで,その後の発生はなかった。このことから,銅板を入れっぱなしだと,効果が見られなくなる可能性が高い。

実験3 地域の協力者の方の実験結果
①実験方法
 地域の協力者の方に,銅板を提供し,それぞれ自由に銅板の効果を確かめる実験を行ってもらう

②実験の結果と考察
 地域の方12名の方の実験結果で銅板の効果があったといえるのは6名のみであった。効果がなかったケースについては,聞き取り調査からも明らかなように,水の汚れが大きいケースで,これは,これまでわかったことと一致している。

実験4 1年後の銅板の効果
①実験の目的
 学校の中での実験では,銅板の効果が確かめられた。そこで,今度は,地域の中で検証してみた。また,銅板の効果が持続するのかについて調べた。

②実験の方法
・昨年度,蚊がたくさん発生していた地域にある専徳寺の手洗い場や花入れに銅板を入れ,継続的に観察する。
・地域の協力者10人の自宅で対照実験による銅板の効果をみる。
・昨年度から校内に置いてあるバケツ(銅板入り)を確認する。

③実験の結果と考察
・水の量が多い手洗い場には,銅板を入れていてもボウフラが発生していた。さらに銅板を加えた結果,ボウフラは発生しなかった。このことから,水が多い場合は,たくさんの銅板を入れないと効果が小さくなると考えられる。また,銅板を入れておいても,水が汚れている場合にはボウフラが発生した。しかし,水をきれいにすることで,その後の発生はなかったことから,銅板を入れたままだと,効果が見られなくなる可能性が高い。
・1年前に銅板を入れた容器には,6月までは何も発生していなかったが,7月になってボウフラが発生していた。水が汚れていたこともあるし,銅板の表面を触ると,ぬるぬるしていたことから,表面に何かの膜ができたとも考えられる。
・実験2~4により,銅板を入れておくとボウフラが発生しにくくなることは明確になったが,そのまま放置しておくのではなく,定期的に水をきれいにすることも必要であることがわかった。

(2)鶏糞の効果について
実験5 炭化鶏糞の効果について
①実験の目的
 昨年度,「ボウフラを積極的に発生させ,発生したら水を捨てる」という活動で蚊を減少させることができると仮説を立てた。そのため,ボウフラが発生しやすい条件を探究する。鶏糞を水に入れるとボウフラがたくさん発生するという情報を得て,実験することにした。

②実験の方法
 池の水を入れたバケツ2個の片方に炭化鶏糞を入れて,校内の5カ所に置いた。

③実験の結果と考察
 炭化鶏糞では,ボウフラがほとんど発生しなかった。このことから,蚊が集まるには,鶏糞の臭いが必要なのかもしれない。

実験6 発酵鶏糞の効果
①実験の目的
 炭化鶏糞では思ったほどの効果がなかったので,今度は臭いのする「発酵鶏糞」を使った。

②実験の方法
 実験5に同じく,鶏糞入りのバケツと入っていないバケツをセットにして校内5カ所に設置した。

③実験結果
 写真のように,鶏糞入りの方に驚くほどたくさんのボウフラが発生していた。

④考察
・発酵鶏糞の効果は絶大だった。また,炭化鶏糞よりも発酵鶏糞の方がたくさん発生したことから,蚊は臭いに引き寄せられる可能性があると考える。また,鶏糞にふくまれる栄養がボウフラの成長にも役立っていると考えられる。
・発酵鶏糞に引き寄せられる蚊は,オオクロヤブカとアカイエカだったことから,種類によってにおいを好む蚊とそうでない蚊がいるのかもしれない。

(3)検証実験
実験9 鶏糞 vs 牛糞 vs 銅板 vs タバコ vs 白い容器 vs 黒い容器
①実験の目的
 これまでの実験の結果をより確かなものにするため,検証実験を行う。
・6つの黒色のバケツと,1つの白色のバケツにそれぞれ水を入れる。

バケツ1 白バケツ+鶏糞
バケツ2 黒バケツ+鶏糞
バケツ3 黒バケツ+鶏糞+銅板
バケツ4 黒バケツ+牛糞
バケツ5 黒バケツ+牛糞+銅板
バケツ6 黒バケツ+タバコ
バケツ7 黒バケツ+タバコ+銅板

③実験の結果と考察
〈容器の色によるボウフラの発生効果〉
・白色のバケツよりも黒色のバケツの方にボウフラがたくさん発生したことから,蚊が産卵する際,黒色の容器の方を好むと考えられる。卵の色が黒色なので,目立たなく,敵から守りやすいのではないだろうか。
〈銅板の効果〉
・水に銅板を入れることで,ボウフラが発生しにくく傾向があることが言える。
〈牛糞と鶏糞の違い〉
・鶏糞よりも,牛糞の方にたくさんボウフラが発生していた。
〈タバコの吸い殻による効果〉
・今回の実験では,どの場所もボウフラは発生しなかった。実験8ではタバコの吸い殻でボウフラは発生していたので,たまたま発生しなかっただけかもしれない。

【研究2】ボウフラの殺虫剤による駆除効果
(1)ボウフラで蚊の種類が見分けられるか
①観察の目的
 アカイエカとヒトスジシマカのボウフラを観察し,体のつくりと成長の様子を記録する。

②観察の結果
・尾の部分にある黒っぽく見える“呼吸管”の形がはっきりと違っている。
・数回,脱皮しながら成長をしていった。体長は,2mmの大きさから6mmまで変化し,さなぎになった。さなぎになると呼吸管は見えなくなった。

③考察
・ボウフラで種類を見分けるには,尾の部分にある“呼吸管”の形で見分けられることが分かった。(ヒトスジシマカに比べてアカイエカは細く長い形をしている)


4 まとめ(研究の成果)
【研究1】
・容器の色によるボウフラの発生については,黒色など暗い色の方が発生しやすいことが明確になった。
・7割の確率で銅板の効果が明確になったしかし,銅板の表面がぬるぬるしていたり,水が汚れて銅板が隠れてしまう状態だと発生してしまうことが分かった。
・鶏糞の臭いで蚊を引き寄せられる可能性がある。また,鶏糞よりも牛糞の方がさらに,蚊を引きつける力があることが分かった。鶏糞や牛糞を使ってボウフラを発生させれば,効果的に蚊を駆除できると考える。
【研究2】
・ボウフラの種類を見分けるには,尾の部分にある“呼吸管”の形を見れば区別することができる。
・殺虫剤は液体も噴霧式も,蚊だけでなくボウフラにも殺虫効果がある。これにより,ボウフラが発生している水に少し噴霧するだけで効果があることが分かった。
・蚊の種類によって,殺虫剤による抵抗性の違いが見られた。
・塩水でボウフラを駆除することができることが分かった。しかし,海水で産卵する蚊もいるので,今後の課題にしたい。
【研究3】
・ボウフラの駆除活動により,蚊の減少が見られた。今後も継続していく。


5 おわりに
 この研究では多くの実験を行い,それぞれについて分析,整理をした。そのことで,生徒の科学的な思考力やまとめる力,そして,課題解決能力を育てることができたと考える。今年度の成果と課題をもとに,学校の伝統として継続していきたい。