2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

興味関心を引き出す授業実践のためのブレッドボード活用

実施担当者

戸田 公夫

所属:岩手県立福岡高等学校 教諭

概要

1.背景と概要
 高校物理の授業において、電気回路を活用した装置を用いて実際に見せたい現象はいろいろとある。それを生徒自身の手で製作および実験をさせて、考えさせながら理解させたいものである。しかし、用いる装置の回路が複雑であったりすると、製作時間が長くかかってしまい、実際に見せたい現象への興味が持続せず、効果が薄れることが多い。
そこで、そのような問題点を解決すべく、ブレッドボードを活用した実験装置を工夫し、活用方法の確立を試みた。


2.今回のねらい
・できるだけ短時間で目的の実験が行えるような装置を開発する。
・簡単で安価に済ませられる装置にし、生徒実験用に多数準備できるようにする。
・不慣れな生徒でも容易に組み立てられるようにする。
・高校教科書に出てくる部品のみで構成し、生徒にわかりやすいようにする。
・ブラックボックスを極力少なくして、その動作原理を追っていけるようにする。
・授業後に生徒自身に工夫させ得るよう、装置類を生徒に開放する方法を工夫する。


3.ブレッドボードの活用
 回路を生徒自身の手で簡単に組み立てて試すことができ、なおかつ製作時間を節約できるよう、ブレッドボードと、配線をOHPシートに転写したシート(テンプレートと呼んでいる)とを組み合わせて使用した。
 その際、単に部品を配置させるだけではなく、予め部品やジャンパー線の足は加工しておけば作業がスムーズにいく。1)
(1)回折実験用LED光源
 光の回折に用いる光源として、LED光源を用いている。早い生徒は5分程度で製作が可能である。

(注:図/PDFに記載)

そのうえでの実験手順は以下の通りである。
①生徒用椅子にB4用紙を貼り付ける。
②LED光源、凸レンズ、回折格子を取り付ける。
③LED光源をスクリーンから1m程度に置き、凸レンズでスクリーン上に結像させる。
④スクリーンから正確に70cmの位置に回折格子を設置する。
⑤光軸が一致するよう、配置を微調整する。
⑥スクリーン上の各回折像を、0次を中心に、
1~2次まで記録し、波長を求める。

(2)RGB-LED発光回路
 光の三原色の説明や、白色光が混合色であることの説明に用いることができる。

(注:図/PDFに記載)

(3)様々な電気回路
 これらのほかに、ホールセンサー回路、交流観察用LED回路、コンデンサーを含む直流回路、コンデンサー充放観察用回路、並列説明用回路、直列説明用回路などのブレッドボード用のテンプレートを準備し、活用している。
 このほかにも、無安定バイブレーター回路、発振回路、高電圧回路などの少々複雑な回路も、この方法ならば短時間で製作することが可能である。

(4)コンデンサー充放電観察用回路とarduinoとの組み合わせの例
 蓄電装置としてのコンデンサーの説明は、クリップ付き導線で演示した方が簡単であるが、その都度回路を組むことが大変煩雑である。そこでこの方法で予め組んでおき、回路図の説明と、充・放電するときの電流の変化を説明すれば、LEDの発光が一瞬だけであることから、要点を実感させることができる。
 さらには、コンデンサーの端子間電圧は、アマゾン等で販売しているarduino(アルディーノ)のアナログ入力端子に接続すれば簡単に可視化して生徒に見せることができる。その際には、arduinoのIDEのシリアルモニター機能を活用してPC上にデータを取り込み、画面上からデータをコピーして表計算ソフトに貼り付けてグラフ化すると簡単である。これならば、ストレージオシロなどがなくとも演示実験をして見せられる。arduinoIDEのシリアルモニターで読み取った、コンデンサーの放電ならびに充・放電の電圧の時間変化のグラフを、EXCELのグラフ機能で描画してみたが、簡単できれいに描けている。下のグラフでは、コンデンサーの放電でのグラフの特徴がきれいに再現できている。十分な時間がたつと、用いたLEDの順方向電圧で安定していくことがわかる。

(注:図/PDFに記載)

(5)H-LAB
 これまで自分で回路作成をした経験がない生徒にも興味を持たせ、それを応用していけるよう仕向けることは、重要なことであると考えている。しかし、未経験だった生徒を自力で応用できるまでにすることを目的とするならば、始まりはこちらで予め準備をし、一斉授業で取り組ませることが現実的であると思う。しかしその反面、それだけで留めてしまっては、生徒が自ら考案して実験を行うところまで発展させるのは、様々な要因により難しい。
 そこで、生徒自身の創意工夫を促すひとつの試みとして、「H-LAB」という名称で、実験用の装置等を、開放することにした。興味がある生徒は早速取り組んで、部品の交換などの試行錯誤を始めている。


4.学習指導での実践例
 パワーポイントスライドで誘導しながら、並列と直列の外見的な違いばかりではなく、物理的な意味を指導するための観察実験を行った。
 はじめに、ブレッドボードの配線を示しておき、並列回路についてと、抵抗器の個数の変化のさせ方を説明した。続いて生徒に実際に作成させたうえで実際に観察させ、記録させた。直列回路についても同様に制作、観察をさせた。


5.生徒の感想と評価
(1)並列回路・直列回路の実験の感想
・抵抗は電気を制限するためにあると思っていたが、並列につなぐと段々明るくなることが不思議に思った。
・見た感じは並列の方が明るかった。なぜだろうと思った。LED点灯中に抵抗器に触ってみたが、何も感じなかった。
・中学でやったが全然覚えてなかった。電流と電圧の記憶が混ざっていた。
(2)ブレッドボード化の有効性が示された。
・「作る」のみならず、発想の伸びが見られた。
・事後の説明で要点が絞り込みやすくなった。
・多くの実験に対応でき費用対効果が大きい。
・PC,arduinoや少々の部品の組み合わせで、教科書に掲載されている実験の多くを体験させ得る。
(3)授業スタイルの改善に貢献できた。
・実験から説明までの時間が節約できた。
・生徒の記憶に残りやすくなった。