2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

自作望遠鏡による小惑星測光観測

実施担当者

谷川 智康

所属:兵庫県立三田祥雲館高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 三田祥雲館高校天文部では現在、複数の望遠鏡を所持し観測対象によって機材を使い分けていている。これらは、全てがメーカー製の既製品である。この度、兵庫県川西市に在住するアマチュア天文家三好清勝氏より、自身が研磨した35cm反射鏡の寄贈をして頂いた。2010年、本校の天文部を創設したときの最初の活動が反射望遠鏡の制作であった。現在、在籍している部員たちは望遠鏡を制作した経験がない。望遠鏡の仕組みを理解するためは自らの手で制作することは非常に有効である。そこで、今回夏休みを利用し反射望遠鏡の作成に挑んだ。


2 望遠鏡の組立て
 反射鏡の焦点距離が150cmと大変長いので、まず模造紙に実寸大の設計図を作り、工作の計両を作った。耐久性に不安はあったが、重量と工作のし易さから鏡筒(本体)には大きな紙管である、ボイド管を用いることにした。接眼部など精巧な金属加工を要するパーツは既製品を流用することにした。その他の部品は表1の通りである。部員全員でドリルやのこぎりを使って作業を行った。主鏡セルは木材を丸くきれいに切り抜く必要があり難しかったので木工が得意な先生に手伝って頂いた。

(注:表/PDFに記載)


3 自作望遠鏡の活用
 天文部が創設された時に作った望遠鏡の名前が「ケレス」であり、この望遠鏡が3代目になるので「ケレス3」と名付けた。完成したケレス3は小惑星の観測に用いることが目的だったため、長時間自動で天体の動きに合わせ追尾することが必要である。完成後の重量が約24kgと大変重いため、これを搭載する架台は大型のものを選ぶ必要があった。架台は以前からクラブで所持していた五藤光学社製 MX-II(ドイツ式赤道儀)を使用することにした。望遠鏡のコントロールには望遠鏡制御ソフトSuperStarIV(SeedBox社)を用いて、観測対象の自動導入を行っている。

3-1 ケレス3を用いた観望会
 天文部は以前から地域の住民向けに年に数回「祥雲星空教室」を開いてきた。完成からしばらく時間が経ってしまったが、2月4日に祥雲星空教室を開いた。三田祥雲館高校在校生と保護者の皆さん、及び三田市立学園小学校の児童とその保護者の方々、合計約50名の方々にご参加頂いた。当日は夕方から曇るかもしれないという嫌な天気予報だったが、幸い曇ることなく、西の空に明るく輝いている金星や月、オリオン大星雲、アンドロメダ銀河、すばるなどを観望して頂いた。特に「ケレス3」は大人気で、観望したアンドロメダ銀河は圧巻であった。
 また、この観望会には35cm鏡を研磨の上、提供くださった三好清勝さんも参加頂き、ケレス3を見て頂いた。「上手く望遠鏡の形に仕上がりましたね」と褒めて頂いた。
ケレス3を含め、4基の望遠鏡を出したが、全ての望遠鏡を何度ものぞいて回る子供たちも多く居て大変盛り上がった。地域の皆さんに喜んで頂けた。

3-2 小惑星の観測
 天文部創部当初の研究テーマの一つが「新しい小惑星を見つけよう」であった。2012年に天文部が国際学会Asteroids Comets Meteors(ACM)2012に参加したことをきっかけに、学校名がついた小惑星(15552)sandashounkanが誕生した。これ以降、新小惑星の発見から、(15552)sandashounkanの自転周期の測定に研究テーマがシフトしていった。2014年には(15552)sandashounkanの長時間観測に挑戦、成功し自転周期を33.6時間と特定するに至った。最近は(15552)sandashounkan以外の小惑星についても自転周期の計測を行っている。ケレス3を用いて行った小惑星の観測の一覧は(表2)の通りである。

(注:表/PDFに記載)

 自転周期を求めるにはできるだけ長時間連続して観測し、小惑星の一周期分をカバーする時間ことが望ましい。したがって①衝の時期であり一晩中観測が可能なもの、②自転周期が既知でその周期が短いもの。これら2つの理由から観測対象の小惑星を選択した。
 また、撮像に用いた冷却CCDカメラはSBIG-ST9XEである。冷却温度は-25℃に設定し、露出時間は空の状況によるが概ね90秒から120秒とした。
 この度、観測方法で工夫した点はリモートデスクトップを用い部員が自宅から観測できるようにしたことである。連続測光観測は基本的には観測対象の小惑星を運続して、一定時間の露出で撮り続けるのだが、赤道儀の不具合などで、追尾エラーが起きていないか監視する必要がある。しかし、生徒が平日夜間に長時間学校に残るのは現実にはできない。そこで、自宅からスマートフォンで観測状況を監視できるようにしたのである。これによって無理なく生徒の手で観測できるようになり、データの取得数を伸ばすことができた。

3-3 銀測結果
 (表2)のように行った観測結果は、画像処理した末に生徒たちの手で測光を行った。測光は測光ソフトMakalli'を用いて行った。データ取得は行ったが観測途中で天候が悪くなった場合が多く、自転周期特定にいたる結果を得ることができたのは(201)Penelopeであった。その測光結果をソフトMPO Canopusの自転周期解析機能を用い、自転周期を求めた。その結果自転周期は3.75時間と求めた(図5)

(注:図/PDFに記載)


4 まとめ
 35cm反射望遠鏡の作成に成功し、観望会や小惑星観測に活用することが出来た。観望会では星雲、星団観測や惑星観測など幅広く活用できる。今後も観望会で多く使用して行きたい。また小惑星の観測では(201)Penelopeについて自転周期の特定に至った。2016年の秋~冬は天候に恵まれず、晴れた夜は貴重なデータ取得のチャンスであった。それを活かすため、リモートデスクトップを用い、平日も観測数を増やしたことは大変良かった。また、この研究成果を部員たちの手で英文報告にまとめた。小惑星観測の専門誌、Minor Planet Bulletinに投稿した。科学英語のスキルが向上し、これも大きな研究成果の一つであった。その他、本研究の発表の場としては①Sci-Tech Reserch Forum2016 2016年11月26日 関西学院大学 三田キャンパス、②日本天文学会ジュニアセッション2017年3月18日 九州大学伊都キャンパスである。