2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

膨らまそう、アイディア! 工夫し創造する力を伸ばす授業実践の工夫

実施担当者

森下 博之

所属:大田市立大田西中学校 教諭

概要

1.はじめに
 現在、育成したい力の1つである、工夫し創造する能力の育成に関して、ものづくりの中でも、とりわけロボットコンテストが注目されている。しかし、中学校技術・家庭(技術分野)の通常の実習形式での構想・設計・製作に関する学習は、生徒個々による学びが中心となりがちであり、知識はあっても、構想・設計段階で自ら考えることのできない生徒がいる。これは、生徒それぞれが自分のことに精一杯で、同じ教室で学んでいるのに互いに学びあえていないことの表れであると考えられる。そこで、これらの問題を解消すれば、構想・設計段階で行き詰まる生徒も友達のサポートを受けながら自分でアイディアをひねり出して課題を解決することができるのではないかと考えた。


2.研究の目的
 本実践は、中学校技術・家庭(技術分野)での製作学習において、工夫し創造する能力や実践的態度を、互いに育てるための指導法を開発し、授業を設計・実践・評価することでその有効性の検証を行うことを目的とする。


3.研究の方法
 中学校技術・家庭(技術分野)「エネルギーの変換を利用した製作品の設計・製作」において研究を行った。思考ツールを使ってアイディア、気付きを整理させ、通信機能・カメラ機能が付いたタブレット型端末と画像を掲示できる電子掲示板を使ってアイディア、気付きや学びを交換させることを考えた。具体的な授業については、次のような考えで進めた。(1)思考ツールを使い、気付いた工夫や失敗等を整理させ、学びをまとめさせる。
(2)タブレット型端末のディジタルカメラ機能等で得た画像データを利用して、記録し情報化させることで、気付きを焦点化させる。
(3)情報化した学びを、電子掲示板で共有させることによって、工夫し創造する実践的態度を高めていく。


4.研究の内容
 製作学習を行いながら、製作の区切りごとに、気付きを整理させる。また、製作品を撮影させ、授業時間ごとの「製作の記録」をまとめさせる。タブレット型端末のディジタルカメラ機能で撮影すれば、画像に直接気付きを描き込むこともできる。また、簡単な文章を画像と合わせて入力させる。
 まとめた「製作の記録」は、電子掲示板に提示し、意見交換させる。「製作の記録」を相互評価し、学習の成果を自覚させるということも目的とする。


5.研究の成果と課題
 授業後、47人に対して調査を行い、質問項目に対しての回答と自由記述をさせた。
 タブレット型端末を利用した活動に関して、考えようとするもののようすをよく観察しましたか、という問いに対して肯定的に回答した生徒は、39人(82%)いた。考えるのに足りない情報を集めようとしましたか、という問いに対して肯定的に回答した生徒は32人(67%)いた。また、考えた結果を説明するポイントを明確にできましたか、という問いに対して肯定的に回答した生徒は24人(51%)いた。
 思考ツールでの思考の整理に関する自由記述としては、図1のような記述が見られた。

良いところ、悪いところ、おもしろいところなどを考えるので、いろいろな視点から見ることができて良かった。
これからどこをどう改善すれば良いのかがよく分かった。

 気付きの焦点化に関する記述としては、図2のような記述が見られた。

写真に課題などをかくことで、どこを直さないといけないかが分かりやすかったので、すごく良かった。
タブレットの写真を見て、自分たちで良いところや課題点を見つけることができた。

 情報の共有に関する記述としては、図3のような記述が見られた。

写真を撮って前回と比較しながら改善点を探すことができて良かったです。
タブレットで写真を撮って自分たちの工夫したところを見ることができて役に立った。
写真に文字を書くことで、良いところ、悪いところを分かりやすく書けたので役に立った。

 思考を整理した後、タブレット型端末で撮った画像に書き込みを加え、電子掲示板を利用して共有させることで、意見交換をさせることが容易にできた。生徒たちは、製作するだけではなく、気付きをまとめることに、価値を感じながら活動に取り組んでいることがうかがえる。
 アイディアや工夫点について意見交換することで、それぞれが得た学びは、生徒個人のものにとどまらず、多くの生徒同士で共有することができたと考えている。また、相互に参考にすることで、自己評価・相互評価しながら、学びを共有し、製作過程で学んだことを確実に身に付けることができたと考えている。
 今回使用したタブレット型端末は、学級で4台であり、書き込みに使用できる時間は限られていた。今後の課題としては、機器数の充実が挙げられる。


6.まとめ
 授業後に「みんなで協力して、アイディアを出しあって、ロボットを改良することができて良かった。工夫を加えて作っていくことがすごく楽しかった。」という生徒の声を聞くことができた。今後、今回の活動をもとにして、生徒の工夫し創造する力の更なる育成を図っていきたい。