2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

脱、電気回路のブラックボックス化-回路カードを用いた生徒実験の開発-

実施担当者

大多和 光一

所属:兵庫県立御影高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 現在、物理の授業において実験を行う機会が少ないということを耳にする。加えて、新課程になりその傾向は顕著になったとも聞く。また、電気分野に苦手意識を持つ生徒が多く、例えば理系の物理選択者でも、単三電池の電圧を知らない者が過半数いるという現状がある。身近にある電気回路は、生徒にとってはブラックボックスになっているものが多く、電気回路の実験を少しでも多く取り入れ、生徒の理解を深めたいと考えた。
 回路カードは、かがく教育研究所の森本先生が開発された実験器具で、手軽に多種の電気実験ができる優れものである。しかも、実験装置が安価でコンパクトであるため、2人1組での実験を行うことにも適している。回路カードを用いた生徒実験を開発することで、電気分野の実験の機会を増やすことを目指した。
 従来の電気分野の実験は、4人1組で行うものがほとんどで、生徒全員が実験に主体的に参加することが難しい状況になることもあった。また、実験の準備に時間がかかり、接続不良などにより、失敗することも多かった。回路カードを用い、これらの改善を図った。またそれぞれの実験において、1時間の授業の中で実験を終わらせ、グラフを描くところまで到達することを目指した。


2 回路カードを用いた生徒実験の開発
2-1 本校で実施した実験
 電気回路の理解を深めるための定性実験と、教科書に掲載されているレベルの定最実験のいくつかを、回路カードを用いて実施した。実施した授業は、2年生の物理基礎、3年生の物理、3年生の総合学習である。今年度、生徒実験のセットを20セット以上作ることができ、2人一組での実験が可能となった。

(1)定性実験
1. 豆電球の点灯
2. コインが電気を通すかどうか確かめる
3. 豆球2個の並列接続・直列接続
5. LEDを点灯させる
6. 豆電球とモーターの直列接続
7. クリップモーターの作成
8. クリップモーターと豆球の直列接続
などを実施した。実際に実験をさせてみると、電気回路に対する経験・知識が乏しい生徒が多いことがよくわかった。電池の両端を接触させないまま、なぜ豆球が点灯しないか首をかしげる者など、接触してない場所があることに気が付かない者が多かった。また、閉回路を作らないと雷流が流れないということを体験として理解してない者が多くいるということもよくわかった。そういった生徒たちも、ワイワイ相談しながら楽しそうに実験している姿が印象的であった。実際に電気回路に触れることが、貴重な機会になったであろう。この実験は、2年生の物理基礎と3年生の総合学習で実施した。

(2)電池の起電力と内部抵抗の測定
 この実験では、電池と電流計・可変抵抗を直列に接続し、電池の両端の電圧を電圧計で測定する。図のように回路カード上で実験を行うことで、回路の形をイメージしやすく、また回路の付け替えも容易にスピーディーに行うことができた。
 可変抵抗として、加速度の測定に使用する放電テープが利用できた。電圧計としてテスターを利用し、電流計の接続のために回路カードに接続端子を取り付けるとスムーズに行うことができた。実験は2人1組で行った。
 定性実験を行ってからこの実験を行うと、授業時間内にほとんどの生徒がグラフを完成させるところまでできた。この実験は2年生の物理基礎と3年生の総合学習で実施した。

(3)抵抗の接続
 同じ抵抗値の抵抗(300Ω程度)を4本用意し、直列接続・並列接続を作り、テスターで抵抗値を測定する。
 電流計・電圧計・電池などを用いずに、テスターのみで測定すると、短時間で簡便に実施できる。並列と直列を組み合わせた回路を作らせることなどで、回路に対する理解を深めることが実施に際しては、作らせる回路図をパワーポイントで提示し、測定値の予想をさせてから測定させた。作らせた回路図は、直列・並列の回路を、抵抗を3個、4個と増やしたものから、並列と直列を組み合わせた複雑な回路にも取り組ませた。
 提示された回路図を、回路カード上にどう亜べればよいかすぐにはわからない者が多く、実験グループ内での議論がかなり活発になった。この実験は2年生の物理基礎で実施した。

(4)コンデンサーの電気容量測定
 図のように回路を組む。位置①にコンデンサーを置き充電し、位置②にコンデンサーを置き放電することができる。通常の実験であれば、充電・放電の回路のつなぎ替えに手間がかかることや、回路図をイメージしにくいことなどで、予想以上に実験時間がかかってしまうことが多いが、今回はほとんどの班が時間内にデータをとることができた。
 横軸に経過時間、縦軸に電流のグラフ(放電曲線)をつくり、得られた放電曲線の面積から、充電されていた電気景を求めた。この電気量と充電電圧から、コンデンサーの電気容量を求めた。この実験は3年生の物理で実施した。

(注:図/PDFに記載)

2-2 研究会・講習会での発表・研修
 今回開発した回路カードを用いた実験を、以下の研究会・講習会を通じて発表した。
(1)平成28年度兵庫県高等学校教育研究会科学部会神戸支部研修会(10/19)
 「生徒実験を増やすための試み・回路カードを用いた生徒実験」という題で発表を行った。(次に述べる県大会とほぼ同じ内容で発表を行った。)

(2)平成28年度兵庫県高等学校教育研究会科学部会研究発表大会(12/13)
 「生徒実験を増やすための試み・回路カードを用いた生徒実験」という題で発表を行った。その場で参加者の先生方に、生徒実験の回数を挙手によりアンケートをとったが、1学期間に1回実施できるかどうか、という学校が多いようであった。研究会に参加される方々でこのような回数なので、高校現場の実態はもっと少ないのかもしれない。
 発表後、多くの先生方に回路カードに関する質問をいただき、関心の裔さを実感した。
 また、回路カードの開発者である、森本先生(かがく教育研究所)のご厚意により、参加者全員に回路カードのサンプルを配布した。

(3)日本物理学会近畿支部主催高校物理基本実験講習会(12/18)
 物理の生徒実験の指導経験が浅い教員及び教員志望の学生を対象に、実験講習会を本校にて行った。一人当たり6種類の実験(1つの実験当たり1時間)を行い、昼休みには演示実験の紹介もあるため、朝からタ方までの講習会となったが、参加された方々の熱意がすごく、終日白熱した講習会となった。
 7名の講師が講習を行い、受講者として27名の参加があった。
 私は、回路カードを用いた生徒実験の講習を担当した。中谷財団の予算を使用させていただき、参加者全員に回路カードの実験セットを1セットずつ配布した。興味をもっていただいた参加者が多く、各校で回路カードを用いた実験を取り入れてくれることを期待したい。

(4)兵庫物理サークル2月例会(2/26)
 回路カードの開発者であり、兵庫物理サークルの代表でもある、かがく教育研究所の森本先生に参加していただき、回路カードを用いた演示実験を中心に説明をしていただいた。
 11名の参加があり、議論も非常に盛り上がった。


3 まとめ
 平成27年の秋に回路カードを紹介していただいてから、裔校の現場で生徒実験として取り入れることを目指して、実験の開発に取り組んできた。特に、教科書レベルの定量実験を1時間の中で行うことを目指して開発してきたが、今回の研究を通じて、十分に教科書レベルの定量実験を1時間の授業時間内に行うことができることがわかった。今後は、より多くの生徒実験を開発するとともに、実験の改善も行っていきたい。
 回路カードを授業に取り入れることで物理の授業の中でより多く実験を行うことができるようになると考えている。この研究の成果が広まり、物理の授業で実験を行う学校が増えれば幸いである。