2017年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報30号補刷

耳鳴りを抑制制御する閉ループ型の神経系刺激および活動記録装置の開発とその評価

研究責任者

舘野 高

所属:北海道大学大学院 情報科学研究科 生命人間情報科学専攻 教授

概要

1. まえがき
平成 25 年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、「耳鳴り」がすると答えた人口の割合は、調査対象に対して 3.0%であり、65 歳以上の年齢では 6.6%にも及ぶ。その中の約 43%が「なんら治療をしていない」と回答している。耳鳴りは、従来、不快に思っていても加齢現象として扱われることが多く、積極的な治療が行われてこなかった背景がある。また、近年の米国における同様の調査では日本の 4~5 倍程度の統計的数字となっており、その数字が日本でも年々増加傾向にあることから、高齢化が進むに従って急速に米国の調査結果に近づくと予想される。
耳鳴りの原因は、聴覚末梢系(特に内耳)に原因があると考えられてきた(末梢起源説)。実際に、耳鳴りを発症する患者の約 8 割には難聴がみられ、約 5 割は内耳の治療によって耳鳴りが抑制される。しかし、近年、耳鳴りには、中枢神経系が深く関与していることが次第に明らかになってきた(中枢起源説)。特に、耳鳴りは音情報処理に係る感覚神経系のみではなく、生体のリズムや恒常性を司る自律神経系、および、情動を司る大脳辺縁系の関与を強く示唆する研究結果が報告され始めた。こうした背景から、耳鳴りの発生機序を解明するには、聴覚系とその他の中枢神経系との関係を明らかにし、発生源の神経活動を抑制および制御する必要がある。
耳鳴りの発生機序は複雑であることから、決定 的な治療法は現時点では知られていない。現在は、主に、(a)薬物療法、(b)音響療法、(c)電磁気刺激 療法の 3 つが有用であるとされ、その 2 つ(a,b) が実際に臨床応用されており、第 3(c)が研究段階にある。電磁気刺激療法には、磁気刺激を用いる 経頭蓋磁気刺激療法と、電気刺激を用いる直流電 気刺激療法の 2 つが臨床応用に近い段階にはあるが、いくつかの問題点があり、日米両国で現在 は認可されていない。
本研究課題の実施者は、これまでに多電極配列基板を応用し、電気生理学的研究を行ってきた経緯 4)がある。本研究では、その経験を基に電気計測技術の応用として、従来の大型の磁気刺激装置とは異なる、マイクロサイズの新たな磁気刺激法の開発に取り組んだ結果について報告する。本研究課題の背景として、従来の刺激療法は、耳鳴りの発生部位とされる聴覚皮質に対して、一過性に、あるいは、繰り返し比較的強い強度で刺激するパターンを用いた単純な刺激方法であった。一方、本研究が提案する方法は、大脳皮質や皮質下で検知した耳鳴り関連神経活動に基づき、聴皮質で耳鳴り活動が生起する直前に、聴知覚を誘発しない微弱な電流刺激で神経組織の一部に不応期を誘起し、耳鳴り活動を事前に抑制する方法を目指している。
この方法の根拠となる生理学的現象は、Chung らによって既に報告されている現象に基づいている 5)。また、本研究課題が目指す方法が従来法と大きく異なる点は、閉ループ型構成の実時間処理と予測モデルを目指している方法論 6)であり、それを実現する装置(刺激電極と制御系)を独自に開発する点である。上記の実現に向け、その研究基盤となる諸課題を研究助成期間中に達成した内容を以下では簡単に述べる。

2.内容
2.1 耳鳴りの発生機序に関する生理学実験
研究期間前半では、薬剤投与(サルチル酸ナトリウム)による耳鳴りモデル動物を利用して、聴覚中枢系音情報処理における耳鳴り様現象の機序の解明を試みた。
まず、in vivo モデル動物の聴覚皮質に記録用電極を刺入し、耳鳴り関連神経活動を多点記録した。しかし、麻酔投与後の時間によって、神経活動が 大きく変化したために、安定した神経活動を長時 間に渡って得ることができなかった。
そこで、次に、in vivo モデル動物の聴覚皮質の計測よりも安定して神経活動が得られる in vitro の脳スライス実験によって、サルチル酸ナトリウムの聴覚皮質における影響を実験的に詳細に解析することにした。実験では、マウスの聴覚皮質を 400 μm の厚さにスライスした後に、平面型多電極配列基板(図1A)で電気的刺激による神経細胞の誘発細胞外電位を計測した。正確な聴覚皮質部位を特定するために、in vivo 実験において、音刺激に対して神経活動が見られると思われる部位を蛍光物質で染色した後に、脳切片を作成した。電気的刺激を印加後に、その部位から 64 チャンネルで細胞外電位を記録した。特に、聴覚皮質(6 層構造)を対象にして、各層におけるサリチル酸投与前後における耳鳴り様の神経活動とその伝搬様式を詳細に観察し、誘発応答波形を計測した。シナプス電流に相当する電流成分を得るために、電流源密度(current source density, CSD)解析を行い、電流の沸出し(source)と沈込み(sink)の位置を特定することにした。
また、単一細胞レベルでの発火頻度を知るために、whole-cell patch-clamph 法による細胞膜計測を聴覚皮質第 4 層から行った。この方法によって、集合電位ではなく、単一神経細胞種毎の活動変化を知ることができるために、個々の細胞の特徴を考慮して解析を行うことができる。

(注:図/PDFに記載)

2.2 マイクロコイル実験装置の開発
研究期間の後半では、マイクロ磁気刺激(micro magnetic stimulation, μMS)法の開発を目指して、単一ソレノイドの μMS 法の特徴を理解するため、数値計算、試作インターフェース実験、および、動物脳への磁気刺激実験を行った。次に、それらの結果を基に、多チャネル μMS 法の刺激強度(磁束密度)と耳鳴り抑止のための神経誘発刺激に対する可能性について検討した。
まず、μMS 法を実際に行うために、刺激装置の作成に取り組んだ。市販されているサブミリサイズの単一ソレノイド(ELJ-RFR10GFB, Electronic Devices Corporation)を利用して、μMS インターフェースを独自に作成した。次に、数値計算により、単一および多チャンネルのソレノイド周辺に生じる磁束密度の最大値 Bn を推定した。
さらに、単一磁気刺激インターフェースの最大磁束密度 Be を実験的に得るために、半径 b=0.75mm、巻数 N=100 のサーチコイルを作成した(図2B 右端)。そのサーチコイルの両端に生じる誘導起電力を計測し、得られた磁束密度の理論値と実測値を比較した。
最後に、実験動物(マウス)の聴覚皮質にMS インターフェースを近づけ、刺激による誘発活動が生じるかについて、検証実験を行った。特に、μMS による刺激効果の検証は、刺激インターフェースを実験動物の脳表面に接触、および、刺入させて磁気刺激を印加し、刺激前後の神経活動を自家蛍光フラビンタンパク質蛍光イメージング(avoprotein uorescence imaging, FFI) 法により計測した。さらに、聴覚皮質から 1 mm 程度深部に磁気刺激インターフェースを刺入して、視床に相当する部分に磁気刺激を行った。視床は、聴覚神経経路における聴覚皮質に投射する部位(神経核)に相当する。
このように、齧歯類動物の生体脳を用いて、実際に単一ソレノイドの磁気刺激の誘発刺激効果を検証した結果を基に、多チャンネルソレノイドの刺激強度と脳深部刺激の可能性を最後に検討する。

(注:図/PDFに記載)

3.成果
3.1 耳鳴りの発生機序に関する生理学実験
本研究課題期間の前半では、サリチル酸ナトリウムを用いた耳鳴りモデル動物を利用して、耳鳴りの発生機序に関する in vitro 生理学実験を行った(図1)。先行研究の知見では、in vivo 生理学実験において、サリチル酸投ナトリウム投与下では、一般に、聴覚皮質における神経活動が増加することが知られている。
そこで、まず、in vitro でも同様の現象を観察できるかを確認するために、通常の生理食塩水と 1.4 mM のサリチル酸ナトリウムを含む実験液の 2 つの潅流実験条件下で、弱い電流刺激をマウス聴覚皮質切片に印加した際の神経活動を記録し、その誘発応答の特徴を比較した。電気刺激の位置は、聴覚皮質第 4 層とした。
その結果、サリチル酸ナトリウムを含む実験液下では、誘発応答の振幅が小さくなる結果が得られた(図3A)。この結果は、従来、in vivo 動物実験において観察されている神経活動が増加する現象とは異なり、モデル動物(マウス)における新たな知見を得た。In vivo 実験では、音刺激が聴覚経路の各神経核を経由して、最終的に聴覚皮質に入力が至り、誘発応答が観察されるために、皮質下での応答が増加すれば、聴覚皮質の応答も増加すると考えられる。
一方、本研究で用いた in vitro の脳スライスでは、皮質下の神経経路は切り離されているために、聴覚皮質のみの神経応答を観察できる。この理由よ り、従来研究とは異なる結果が得られたと考えられる。
また、上記の結果は、誘発応答が減少したことから、その神経メカニズムとして、中核皮質への神経投射である、興奮性のシナプス入力の減少、もしくは、抑制性の入力の増加の 2 通りの可能性が考えられる。このために、抑制性神経細胞の働き(シナプス伝達)を強める薬剤(GABAA 受容体の促進剤)の一つである muscimol (MUS)を潅流液に投与して、サリチル酸ナトリウムの実験と比較することで、そのメカニズムを検証した。
その結果、サリチル酸ナトリウムが誘発応答に与える現象と類似の誘発応答を示す結果が得られた(図3B)。これらの結果から、耳鳴りの動物モデルとして利用される薬剤下では、抑制性入力が増強し、その結果として、聴覚皮質の活動が増加するのではなく、むしろ、減少している事が示唆された。また、この結果は、皮質下における神経回路網に依存して、耳鳴り関連活動が生じる可能性を強く示唆している。

(注:図/PDFに記載)

さらに、単一神経細胞レベルでのサリチル酸ナトリウムの影響を知るために、マウス聴覚皮質第4 層の興奮性錐体細胞から膜電位を計測した。その結果、サリチル酸ナトリウム投与下では、発火頻度が減少する結果が得られた。この結果は、上記の多電極配列基板を利用した集合電位の結果と一致し、単一細胞レベルでも、サリチル酸ナトリウムは神経活動を減少させる事が判明した。
また、CSD 解析の結果から、サリチル酸ナトリウムと MUS の効果は、誘発応答の発生 20 ms 程度までは同様であるが、その後,MUS では CSD の減少がゆっくりとした時定数でベースラインに戻っていく様子が観察された.上記の2つの条件下では、この現象から、誘発応答の時間推移が完全に一致しているのではなく、その機序に違いがあることを示唆している。
なお、上記で得られた結果については、研究会等で外部発表を行っており、現在、投稿論文を準備中である。

3.2 マイクロコイル実験装置の開発
実際のμMS インターフェースを試作する前に、まず、どの程度の磁束密度を出力可能かについて、計算機上で数値計算を行った。具体的には、図2 A 右端の微小単一ソレノイド(長さ L=0.6 mm,半径 a=0.22 mm,巻数 n=21)に準定常電流(I=2.0 A) が流れる場合の磁束密度 B(r, z)の r-z 空間分布(r は中心軸からの距離、z は中心座標軸を表す)を数値計算によって推定した。このとき、数値計算の 結果から微小コイル近傍の磁束密度は 20-30 mT であると推定された。磁束密度分布をサーチコイ ルの内径と厚さに基づき、半径方向の|x|≦0.75 mm、および、垂直軸方向の-1.5≦z≦2.0-3.0 mm の範囲で空間平均した磁束密度の推定値 Bn は 4.64-5.93
mT となった。
次に、試作した複数のサーチコイル間では、半径 r=0.75 mm、巻数 N=100 のコイル(図2B 最右端)が、刺激インターフェースの誘導起電力を磁気刺激信号として、最も SN 比よく計測できた。
このとき、サーチコイルの厚さは 3.5-4.5 mm であった(図2B 右端)。実験から得た誘導起電力を数値積分し、磁束密度を得た。実測した磁束密度の最大値は Be=5.18±0.56 mT (平均±標準偏差)であった。
さらに、試作した刺激インターフェースは、ラット脳表(聴覚皮質)および脳内(内側膝状体) を標的とした。MS 下での FFI 法による測定により、聴覚応答時の神経活動とは異なる様相の誘発神経活動が刺激印加に 20 ms 程度遅れて計測された。この結果は、脳表面からのMS 刺激法が実際の脳活動を誘発可能であることを示している。
続いて、同様の FFI 法を用いて、マウスの聴覚皮質のサブ領域 A1 と吻側聴覚皮質(anterior auditory field, AAF)において、純音刺激に対する誘発応答を計測した(図3A)。その結果、音刺激後の 0.8 s 後に大きな蛍光強度変化のピークが A1 とAAF の両方で現れた。
さらに、磁気刺激が脳組織内で十分に応答を誘発できるかを検証するために、マウス脳の視床付近に磁気刺激インターフェースを刺入して、磁気刺激の印加実験を行った。脳領域 A1 を目印として、その周辺から磁気刺激インターフェースを約1mm 程度の深さで刺入させ、視床に到達する位置にインターフェース先端部を配置した。その後、単相性の電圧パルス刺激(500 μs 幅)をインターフェースに印加して磁束密度を急激に変化させた(図2A,B)。その瞬間の神経活動を FFI 計測によって A1 と AAF を中心にして、応答を観察した。このとき、特に、音刺激および µMS 法によって誘発された脳活動の FFI 計測結果を比較した。図3では、5 kHz の刺激音に対する誘発応答例を示す。図3A2 では、一過性に蛍光強度が増加し、数 100 ms 後に減少する様子が判る。図3A2 中の破線の楕円は、聴覚皮質のサブ領域である A1 と AAF を示している。
一方、5.0 V µMS (右)に対する誘発応答の FFI 計測の結果は、同様の記録位置において、異なる蛍光強度変化を示した。µMS インターフェースの置かれた場所は、脳表情で白く見える位置に相当する(図3B2)。図3C では、図3A に対応する 5kHz の音刺激に対する, site a および b におけるフラビンタンパク質の蛍光強度の変化を示している(下の 2 つの青色曲線)。画像を取得するプロセスは、刺激開始の 400 ms 前から始まるものとした。図3C 中の点 A1 と A2 は開始から各々0.4 秒と 0.8 秒後をしている(図3A1,2 に対応)。さらに、図3D では、µMS 刺激法に対する蛍光強度変化を示す。磁気刺激インターフェース近くの部位 site d (cross mark) は負の蛍光変化を示した。これに対して、他の部位(site c and e)では、音刺激と同様に正の誘発応答変化を示した。図3D 中の点 B1 と B2 は開始から各々0.4 秒と0.8 秒後を示している(図3B1,2 に対応)。
一方、単一ソレノイドの数値計算結果から、線形重ね合わせの原理によって、多チャネル μMS法の刺激強度(磁束密度)は、ソレノイドを平面的に配置する個数を増加させるに従って単調に増加し、最大で 1.1-1.2 倍程度に及ぶ推定値が得られた。この結果から、脳表面から 100μm 程度の深さにある神経組織に誘発活動を十分に誘起できると予想される。また、多チャンネル化することによって刺激する領域が増加し、誘起させる脳領域の増加により、神経活動が伝搬しやすい。また、今回推定された微小コイル近傍の磁束密度は、経頭蓋磁気刺激法で脳表に生じると推定されている 7.02 mT よりも大きい。したがって、脳表面および脳に刺入すれば、コイルの近傍では μMS で神経活動誘発が十分に可能であると推察される。しかし、経頭蓋 μMS 刺激により、脳深部の誘発活動が得られるかについては、今回の実験のみからでは必ずしも明らかではないために、今後の実証実験が必要である。

(注:図/PDFに記載)

本研究の実験では、磁束密度の実測値 Be と推定値 Bn とは概ね一致していた。従来、計測が困難であった μMS 法の磁束密度について、比較的単純な計測系で磁束密度が得られた点は本課題の成果である。マルチコイルの評価にも応用できると考えられる。
また、本研究課題では、実際のラットの脳表および脳内にコイル先端部を刺入して μMS の有効性を評価した。磁気刺激の印加によって聴覚応答とは異なる様相の神経活動が計測でき、磁気刺激の有効性を確認できた。今後、耳鳴り誘発剤と併用することにより、神経活動の興奮および抑制に磁気刺激が及ぼす影響を詳細に検討したい。今回は、マルチコイルの μMS 基板の試作のみを行ったが、実際のマルチコイルによる磁気刺激には到らなかった。単一ソレノイドの数値計算から予測されるマルチコイル μMS は、コイル近傍で凡そ1.1-1.2 倍の磁束密度が得られる試算となった。今後は、実際の動物実験によってマルチコイル μMS 法の効果を評価したいと考えている。
最後に、試作した多チャンネルの μMS 法の刺激効果の可能性と今後の展望について簡単に触れる。磁気刺激には、比較的大きな電流(mA のオーダー)が必要であり、多チャンネル化によって、増幅器で消費される電力が大きくなると共に、磁気刺激インターフェースが脳と接触する先端部では、熱が発生して、インターフェースその物を劣化させる。このため、慢性的に長期間の磁気刺激を行うには、適切な刺激強度や刺激間隔などのパラメータ値を最適化する必要があり、今後の課題である。ただし、インターフェースの多チャンネル化自体は非常に容易に実現可能であることが判明し、多チャンネルシステムは早期に実現可能であると予想している。

4.まとめ
本研究課題では、耳鳴りの発生機序と磁気刺激を利用したその抑制システムの構築を目指して、実際の動物実験による検証を試みた。
研究期間前半では、薬剤投与(サルチル酸ナトリウム)による耳鳴りモデル動物を利用して、聴覚中枢系音情報処理における耳鳴り様現象の機序の解明を試みた。まず、in vivo モデル動物の聴覚皮質に記録用電極を刺入し、耳鳴り関連神経活動を多点記録した。しかし、麻酔投与後の時間によって、神経活動が大きく変化したために、安定した神経活動を長時間に渡って得ることができなかった。そこで、次に、in vitro の脳スライス実験によって、サルチル酸ナトリウムの聴覚皮質における影響を実験的に詳細に解析することにした。さらに単一細胞レベルでも、同様にサリチル酸ナトリウムの影響を実験的に計測し、神経発火が抑制される結果を得た。これらの結果から、耳鳴りの動物モデルでは、聴覚皮質を単離した系では、その活動が抑制されることが示唆される。
また、期間後半では、単一チャネルの μMS インターフェースを試作した。また、その刺激効果の検証には、実際に、刺激インターフェースを実験動物の脳表面に接触させて、神経誘発応答が計測できることを確認した。
本研究課題では、全体として、サブミリサイズの単一ソレノイドを用いたマイクロ磁気刺激(µMS)法の特徴を理解するために、磁束密度の数値計算、試作インターフェース製作と評価実験、および、動物脳への磁気刺激実験を行った。さらに、その結果を基に、多チャネルμMS 法の刺激強度(磁束密度)と耳鳴り抑止に利用する神経誘発刺激の可能性について議論した。
最後に、試作した多チャンネルの µMS 法の刺激効果の可能性と本研究課題の今後の展望について述べた。閉ループ型のシステムへの展開は、この期間中には十分に検討を行うに至らなかったが、その基盤となる技術や耳鳴りの生理学的なメカニズムに関する新たな知見を得ることができた。貴財団の助成金によって得られた基礎的な結果を基に、今後の課題として、さらに、本研究課題の研究開発を発展させたいと考えている。