2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

米沢の医学・工学「サイエンス・ルネサンス」~上杉鷹山公の医学館『好生堂』環境を現代の高校生に~

実施担当者

熊坂 克

所属:山形県立米沢興譲館高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校の歴史は、米沢藩第9代藩主上杉鷹山公が1776(安永5)年に学問所を再興して創建した藩校「興譲館」に由来する。鷹山公は、財政が逼迫し苦しい状況ながらも様々な殖産興業や人材育成を図る改革を手がけ、その名君ぶりが今も讃えられる。その善政の一つとされるものに洋学勤学制度および「好生堂」の創設がある。当時、いち早く洋学や西洋医学の導入を決断し、財政窮乏の折りにもかかわらず、藩医を長崎や江戸等へ派遣して修学させると共に、医師たちに教育・研修の場として医学館「好生堂」を提供した。加えて、高価な医療機器や洋書を購入して好生堂に下賜したともいわれる。
 このような歴史になぞらえ、山形県内では本校が嚆矢となり、医学や工学を志す高校生(希望者)に、それらを体験的に学ぶことができる教育環境の構築を目指した。


2.1年生の取り組み概要
(1)医療にかかわる基礎学習
 協調的な活動をより活発なものにするために、アイスブレーキングを実施した。医療機関ではたらく職業について、ジグソー法を用いて「医療機関ってどんなところ?」というテーマで学習した。エキスパート活動として班ごとに職種を決め、その職種の仕事内容や必要な資格について調べ、話し合い、発表の準備を行った。ジグソー活動として、エキスパート活動で学習した内容を発表し、質疑応答を行い、不足する部分を補った。クロストーク活動としてテーマに対する班の考ええ方を発表した。
医療にかかわる最先端技術の基礎としてDNAの抽出実験をおこなった。身近な食品からDNAを抽出し、どの食品がDNAを多く含むのか考え、話し合い、検証を行った。

(2)自分のDNAを実際に見る
 ジグソー法を用いて前回の振り返りを行った。第2回のテーマは「どのようにすれば純度の高いDNAを取りだすことができるか」とした。エキスパート活動として、それぞれの実験操作の意味について教科書やインターネットと使って調べた。ジグソー活動として、それぞれ学習したことを発表し、テーマについて話し合った。クロストークとして班ごとに学習した内容を発表し、質問に答えた。
前回の活動を踏まえて、口腔上皮細胞からのDNAの抽出実験を行った。
第1回第2回のまとめとして、学んだことをレポートにまとめて提出した。

(3)医療・保健施設訪問研修
 置賜保健所・米沢市立病院・三友堂病院・三友堂リハビリテーションセンターの4つの医療・保健施設にて各施設10名程度の人数で訪問し、医療・保健の現状について体験的に学習した。生徒それぞれの進路希望に合わせ、各施設において医師・獣医師・看護師・薬剤師・保健士・理学療法士・作業療法士等、各職の職務について説明を受け、ディスカッションを行った。

(4)医療・保健施設訪問研修の振り返りと次回の事前学習
 前回の医療・保健施設訪問研修の際に作成したレポートをもとに、同じ機関で研修した生徒同士で話し合い、報告書を作成した。報告書には第4回で学んだことのみならず、疑問点はインターネット等で調べ、より深く学習した。レポートの内容は班ごとに発表し、全員で共有した。
次回の東北大学工学部での研修の事前学習として、それぞれの学部について特徴や、研究内容等を班ごとに調べ、発表を行い、全員で共有する形で学習した。

(5)東北大学工学部での工学と医療研修
 東北大学工学部にて医工学の研修を行った。学部や学科、医工学という学問領域の説明を受けた後、模擬講義として本校OBである神崎展准教授より「2型糖尿病治療への挑戦(技術革新がもたらした糖尿病学の進歩)」というタイトルで講演していただいた。
 また、午後からは光学顕微鏡を用いた生命機能の可視化解析ということで超解像度顕微鏡の見学を行い、模擬実験として遺伝工学の基礎であるDNAの電気泳動を体験した。
 最後に本校OBの学生が所属する研究室を見学し、所属の学生との懇談を通して、今後のキャリア形成について学んだ。

(6)東北大学工学部での研修の振り返りとまとめ
 これまで学習した内容の総復習として、DNAに関する技術が医療とどのように結びついているかについて、班ごとに話し合い、レポートを作成した。レポートにはこれまで学んだことのみならず、疑問点はインターネット等で調べ、より深く学習した。レポートの内容は班ごとに発表し、全員で共有した。
 3月に行われる生徒研究発表会に向けて、発表資料の作成を行った。ポスターやスライドの作り方のこつに重点を置き、インターネット等で調べながら学習した。

(7)校内発表会(工学と医療の学びの発表)
 校内発表会に向けて日本語と英語によるポスターを制作した。発表は日本語版のポスターを用い、3分間で行った。また、質疑応答は1分間で行い、英語話者により英語の質問を受ける場面も設けた。これに移動時間の1分間を加え、5分間で1セットとし、3回のポスター発表を繰り返し行った。
 当日は本校教員と一般来校者による投票で、得票数の高かった9点が表彰された。工学と医療の発表グループは「Genomic Medicine」、「クローン人間世界征服」の2本が選出された。


3.主に2年生の取り組み概要
(1)先端的科学関連研究発表会等Ⅰ
 県内理数科設置校を中心とした理数教育や探究型学習に熱心に取り組んでいる学校の生徒が,それぞれの学校における諸活動の状況や研究成果の発表を行い議論することで,相互に刺激し合い,これからの活動や研究の質的向上と内容の深化を図ることを目的として「山形県高等学校サイエンスフォーラム」を実施した。本校は県内理数科設置校の幹事校として、県教委と協働しながら運営した。内容は生徒による研究のポスターセッションで、県内の高等学校6校(生徒150名弱)で合計54本の発表を行った。評価者(審査員)は、山形大学や県内高等学校の教員、山形県教育センター指導主事、山形県農林水産部農業技術環境課温暖化・エネルギー技術主査(博士)の10名に依頼し、VALUEルーブリックに基づくパフォーマンス評価を行っていただいた。
本校の発表数は21本で、全発表数の38.9%を占めた。また、受賞数も県内参加校の中で最多となり、優秀賞3本、優良賞1本、審査員特別賞1本で合計5本の入賞となった。

(2)先端的科学関連研究発表会等Ⅱ
 東北地区のSSH指定校の代表生徒が、それぞれの学校における理数諸活動の状況や研究成果の発表を行い議論することで,相互に刺激し合い互い,これからの活動や研究の質的向上と内容の深化を図った。東北地区のSSH指定校17校の生徒・引率教員212名,来賓・管理職16名の総勢228名と一般参加者という参加規模となった。
 1日目は口頭発表を行った。口頭発表では東北地区のSSH指定校各校の代表生徒・グループによる研究発表がなされた。どの発表もパワーポイントを用いた形式で,発表7分,質疑応答3分で行われた。各グループの研究に対する質疑応答を軸とした活発な意見交換がなされた。
 2日目は各校より1~3点(合計32題)のポスター発表が行われた。前後半50分ずつの発表時間があり,生徒達はほぼ全ての発表を見ることができる設定だった。

(3)先端的科学関連研究発表会等Ⅲ
 東北大学青葉山キャンパスにて「東北大学飛翔型『科学者の卵養成講座』平成27年度発表会」に参加した。本校生徒を含む、山形東高校生・福島高校生・盛岡第三高校生の共同研究「最先端の粒子飛行時間測定器MRPCを自作し、宇宙線を使って性能を評価しよう」が口頭発表部門及び研究発展コースⅠポスター発表部門にて、投票による大学・高校教員賞及び生徒賞で第1位となった。学校別の発表となる研究発展コースⅡのポスター発表でも、「論理性」・「説明の仕方」・「質疑応答の的確さ」等に重点をおきながら、本校生徒による7本の研究を発表した。


4.検証・生徒の変容等の成果
 1年生の取り組みは「工学と医療」の融合領域に興味・関心がある1年生希望者40名を対象として実施した。工学と医療とのかかわりをテーマに、医療現場の実際と医療現場を支える最先端の研究にスポットを当てて学習をしてきた。進路希望として医療関係を希望する生徒が多い講座のため、医療現場を見学し、医療現場で使われている技術が開発される過程の実験を体験してから最先端の技術について学ぶという流れをつくり、興味・関心が高まり、理解が深まるよう工夫した。
 アンケートの結果では、サイエンスについての興味・関心高がまったと回答した生徒が92.9%~100%、おもしろかったと回答した生徒も90.0%~100%と高水準を維持した。また、サイエンスを深く理解する人材が必要だと思うようになったと答えた生徒、今回のような研修があったらまた参加したいと答えた生徒が共に100%であった。これらの結果から、生徒の興味・関心を引き出すことができたと考えられる。
 昨年度は試行錯誤を繰り返して課題解決につなげる方法を習得できたという項目では、習得できたと思うと答えた生徒が66.9%に留まったが、今年度はグループ学習や発表の機会を多く取り入れたことで、82.7%まで伸ばすことができた。
 2年生の取り組みについては、1年生で広げ・深めた科学への興味・関心を一層高めるとともに、高い水準での主体的な学びを目指して、研究やその発表を柱とした。ここではその代表として「山形県高等学校サイエンスフォーラム」の取り組みについての検証を以下の通り報告する。
 発表者を含めた参加者を対象とした意識調査において、Q3「今回の参加で、サイエンスに対する興味・関心が増したと思うか」という設問に対し、227名の回答が得られ、「以前から興味・関心があり、今回の参加により一層増した」50.7%(115名)、「以前から興味・関心があり、今回の参加後もあまり変わらない」34.8%(79名)、「以前は興味・関心はなく、今回の参加により興味・関心を持つようになった」10.1%(23名)といった肯定的な回答が95.6%(217名)と大多数であった。特に「(以前から興味・関心があり)一層増した」や「(以前は興味・関心なかったが)持つようになった」といった良い変容が見られた生徒は6割にのぼった。意識調査の自由記述においても、下欄の通り肯定的な感想がほとんどを占めた。

・学校の先生から得る事が出来なかったようなアドバイスを得る事ができたので良かった。今後の参考にしたい。
・たくさんの方々にアドバイスを頂き、有意義な時間を過ごすことができた。交流も多くでき楽しかった。また機会があったら参加したい。
・各校とても面白い着眼点で、とても楽しかった。発表も個性があり勉強になった。
・他校の発表を聞いて、テーマがとても凄いなと思った。身近なことでも疑問に思ったことを全力で探究していて、みんな良かった。
・質疑応答を通して今まで考えていなかった考察が出てとても参考になった。参加してとても良かった。
・今回受けた指摘を通して、これからの研究に生かしていきたい。
・他校の取り組みが今まで分からなかったが、今回のサイエンスフォーラムで知ることができた。
・他高生と交流できる貴重な体験ができた。
・聴く人が分かりやすいように創意工夫のある発表ばかりで良かった。
・興味をそそるような内容ばかりで、どの高校の方も説明が分かりやすく面白かった。なかには高度な考え方を示している発表もあり驚きました。

 大学院生や県内の高校教員を含めた一般来場者を対象に行った意識調査では、Q3「研究発表の内容は高校生の研究内容として水準が高いものだったと思いますか?」という設問に対し、34名の回答が得られ、「そう思う」41.2%(14名)、「どちらかといえば思う」50%(17名)という肯定的な回答が91.2%(31名)となった。本事業は今年度はじめての取り組みとなったが、本県各校での探究水準がある一定のレベルに達していることを示す。そのような水準の発表会行うことで、Q5「本研究に取り組んでいない生徒も、サイエンスフォーラムに参加することによりサイエンスに対する興味・関心が増したと思いますか?」という設問に対する肯定的回答「そう思う」58.8%(20名)、「どちらかといえば思う」26.5%(9名)、合計85.3%(29名)は波及効果の観点から非常に意義深い。