2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

簡易USBクリッカーを用いた高校理科の双方向型授業方法の研究

実施担当者

佐藤 革馬

所属:北海道釧路江南高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 「クリッカー」を用いた講義実践は大学等で報告されているが、高校で取り組んでいる実践は数少ない。「クリッカー」は授業者の間いに対して受講者がリモコンを操作し、瞬時に全体の回答を共有するシステムであるが、高価なため、その導入にはなかなか踏み切れない。
 簡易USEクリッカーとはテレビリモコンの赤外線信号を受光部で受信し、テレビリモコンをUSEキーボードとして認識させ、Excelのマクロを使うことで、「クリッカー」と同様の働きができるもので、「クリッカー」よりもシステムを安価に作ることができる。
 本校では、この簡易USEクリッカーを1セット作成し、これを用いた授業改善を平成27年9月から「物理基礎」の授業で試行しているが、本校理科の教員間で共有し、本校の理科教育の改善と、双方向型授業の研究につなげるために、中谷医工計測技術振興財団の助成を得て、平成28年度に簡易クリッカーを3セットした。
 ここでは、クリッカーの作成方法と、授業での使用方法、そして授業改善の成果について説明する。


2 簡易USBクリッカーの作成と使用方法について
 簡易USBクリッカーは、番号を押す「クリッカー」をテレビリモコンで、その信号を受信する受光部を「USB赤外線キット」を使用するだけである。このUSB赤外線キットはフリスクの箱に収まるサイズで、 (株)ビットトレードワンから販売されている。
 テレビリモコンはどのメーカーのものでも構わないが、本校では、安価で大量に購入するため、TMY社のテレビリモコンにした。

(注:図/PDFに記載)

 受光部はUSBでパソコンに接続でき、テレビリモコンの信号をパソコンで認識するための設定を行う必要があるが、すべてビットトレードワン社のホームページからダウンロードすることができ、簡単である。パソコンで設定すると、テレビリモコンがUSBキーボードとして認識するようにできる。そして、Microsoft社のエクセルを使い、簡単なマクロを使って、信号の集計処理を行う。
 エクセルのグラフを出力するので、プロジェクターを通して生徒全体に集計データを即時に共有することができるようになる。
 エクセルのマクロを実行するときは「ctrlキー+a」のように、ctrlキーと文字の組み合わせを用いるので、たとえば、テレビリモコンのチャンネルスイッチlを押したとき、「ctrl+a」と認識するように受光部の設定をパソコンで行っておく。
 エクセルのマクロも単純で、押されたボタンに対応するセルに1を加えるだけである。
この集計用のエクセルシートに問題文を貼り付け、生徒に提示する。

(注:図/PDFに記載)

 クリッカー操作が概ね終了したところで、グラフのシートに切り替えると、どの番号を押したのか、円グラフで提示することができる。このグラフはエクセルの標準のものなので、棒グラフでも帯グラフでも、必要に応じて設定できる。


3 授業での使用方法について
 本校は1学年240名の全日制の進学型の単位制高校であるが、公務員希望者も1割程度いるために、大学進学や公務員試験に求められる学力を保証するための授業の改善を続けている。特に、生徒のグループワークを通した思考力、判断力を養う授業になるように授業研修も行っている。
 この簡易USBクリッカーは、持ち運びが簡単なため、特別な教室を必要とせず、普通教室にスクリーンを使って双方向型の授業が行える。
 本校の理科の授業では、今までの講義形式に加えて、アクティブラーニング型の授業も行っている。このアクティブラーニング型授業で簡易USBクリッカーを使用した。
 問題演習時に、生徒一人一人の解答をクリッカーで集計し、正解人数だけではなく、どのような誤解答が見られたか、その場で生徒と共有し、考え方のプロセスを見直した。また、正解がない間いで、グループ討論をするときに、まず個人の意見をクリッカーで集約し、どのような考え方が多数か明らかにし、その多数意見と少数意見についてグループで話し合わせた。
 普通教室で実施するときに、荷台の上にスチールラックを固定し、その上にプロジェクターを載せた「移動式プロジェクター」を活用した。荷台にはクリッカーとして使うテレビリモコンも入れて、すぐに使える状態にしてある。
 スクリーンもホームセンターで購入できる白いテーブルクロスを黒板に貼り付ける簡易なものも用意した。プロジェクターの輝度が高い場合、直接黒板に投影しても間題が無かった。また、白い模造紙でも十分に使うことができた。


4 まとめ
 今回の取り組みによって、複数の理科教員が簡易USEクリッカーを使って双方向型の授業実践を試みた。その結呆、授業評価アンケートでは、「画面にみんなの答えが出るところが良い」「自分とは違う意見が多いことが分かった」「楽しい授業だった」「話し合いがしやすくなった」など、高評価を得ることができた。
 生徒の主体的で対話的な学習につながる授業改善が求められている。しかし限られた予算の中で、教員の創意工夫がさらに求められている。今回、授業改善の研究で取り組んだ簡易USBクリッカーは低予算で実現することができる。
 まだまだ、どのように授業で簡易USBクリッカーを活用するか、教員間での対話を通した学び合いが必要である。しかし、このクリッカーを用いることで、生徒が、そもそも授業の内容、科学の世界、への興味・関心が高まることが期待できることが分かった。