2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

稀少植物ハヤチネウスユキソウの大量増殖に関する研究

実施担当者

城守 寛

所属:岩手県立水沢高等学校 教諭

概要

1. はじめに
岩手県早池峰山のみに自生するハヤチネウスユキソウ(Leontopodium hayachinense H.Heraet.kitam)は,近年登山者による踏みつけや盗掘により個体数が減少し,絶滅が危惧されている.また 環境省レッドリストでは絶滅危惧ⅠB 類の植物に指定され,岩手県レッドデータブックでも A ランクに指定されている.このことから組織培養を用 いた手法により大量増殖について検討した.なお, ハヤチネウスユキソウは入手が困難であるため,近縁であるエーデルワイス(L.alpinum)を用いて組織培養を行い,大量増殖についての検討を行った.エーデルワイスでは,小山田(2004)が成長点からの大量増殖を報告している.また,小山田ら(2011)はハヤチネウスユキソウの成長からの大量増殖を報告している。これらは成長点を取り出して培養を行う方法で,経験が必要で容易に実施するのは困難である.そこで本研究は,より簡便な手法の葉片を用いた大量増殖について検討した.岩手県内では城守(2001)がリンドウの葉片からの組織培養に取り組んでおり,研究方法はそれに準じて行った.一方,ハヤチネウスユキソウの植物特性については,城守ら(2009)が花粉の形態観察などを報告しているのみである.今回は種子の発芽特性についても検討を行った.以上のことからハヤチネウスユキソウの絶滅を防ぐための基礎的研究を行うことを目的とした.

2.方法
(1)材料
材料は,エーデルワイス (L.alpinum)の市販の種子を用いた.種子は,(株)サカタのタネから購入した.
(2) 実験方法
①実験 1(発芽率の調査)
エーデルワイスの発芽特性,すなわち光発芽種 子か暗発芽種子であるかを調査した.発芽条件は, 温度 20℃に設定し,光質条件を明所(蛍光灯 33.3μmolm-2s-1),暗所および赤色光(赤色 LED10μmolm-2s-1)の 3 区を設定し発芽率を調査した.
②実験 2(葉片培養)
種子はナイロンメッシュ製の袋に入れ,家庭用洗剤で 1~2 分間を洗浄後,クリーンベンチ内で70%エタノール(展着剤ツィーン 20 添加)で1~5 分間殺菌後,滅菌水で 1 回洗浄し,その後 10~50%ピューラックス溶液(展着剤ツィーン 20 添加)で 30 分殺菌後,滅菌水で 2 回洗浄した.その後 Murashige and Skoog(1962)処方の培地(以下 MS 培地)に播種した.さらに,MS 培地に汚染を抑制する効果のある薬品(PLANT PRESERVATIVE MIXTURE)を添加したものも使用した.無菌播種後は,20℃,16 日長条件の人工気象器内で育成した.成長した植物体は MS 培地に継代培養を行い,増殖した.これによって得られた植物体の葉片を約5mm 程度に切り取り,4 区の培地に移植し,カルスの誘導を行った.なお,培地には表1のとおり植物成長調節物質としてベンジルアデニン(以下BA)と 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(以下 2,4-D)を添加した.

3.結果と考察
実験 1(発芽率の調査) 播種から 7 日後の発芽率では,赤色光下での発芽率が最も低く,暗所での発芽率が最も高かった(図 1).この結果から, エーデルワイスは光発芽種子ではない可能性が高いと考えられる.
(2)実験 2(葉片培養) 種子の殺菌は,表 2 のとおりの殺菌方法を検討した.その結果 70%エタノール,50%ピューラックスにコンタミ防止剤を添加した区で汚染が防止できた.この方法で,無菌播種由来の植物体の育成を行った.置床後 4 週間後のカルス形成率は,図 2 のとおり 1 区および 2 区のカルス形成率が高く,3 区および 4 区ではカルス形成率が低かった.このことから, 培地は植物成長調節物質が低濃度のものがカルス誘導には有効であることが示唆された.

4.反省と課題
発芽率調査では,実験回数が少なかったためデータが不十分な点が多く,正確に数値を得られなかった.葉片培養では,無菌播種の際の汚染が激しく,殺菌方法の確定までに時間がかかってしまった.今後の課題として,発芽率の調査の実験回数を増やし,データがより正確なものとなるようにしたい.また,葉片培養はシュート形成に適した培地を検討し,植物体再生を行いたい.