2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

科学的探求心を持ち、問題解決力を高め、未来を切り拓く児童生徒の育成

実施担当者

西村 太希

所属:南さつま市立坊津学園中学校 教諭

概要

1 はじめに

坊津学園は、施設一休型小中一貰校として小学生、中学生がともに学習する環境が整っている。
本研究を通して、小中学生による合同理科授業や夏休みの自由研究、イベントなどを実施し、理科好きの児童生徒を増えることを目指した。また、高校との連携を深めお互いの研究成果を発表しあうことで、小中高の学びのつながりを意識して、より興味関心が高まるように工夫した。そのことで、理科が未来を切り開くことを実感し、明るい将来に向かって努力する児童生徒が増えたと考えている。

2 B&G連携授業と理科

学校の近くにB&Gがあり、普段から連携をとり学習を行っている。本年度は、B&Gの「海を守る植樹教育事業」で学習、体験したことを理科学習でつなげ、坊津の自然を保全する意識を高めることを日的とし以下の計画で授業を行った。

2-1 B&G「海を守る植樹教育事業」

どんぐり採集から育苗、植樹までを3年かけて行った。森を増やし、そのことが海を守ることにつながることを体験的に学んだ。植樹の前には、B&Gの方々に、なぜ植樹運動が海を豊かにするかを説明してもらった。この体験をもとに、さらに科学的探求心、問題解決力を各学年で高め、9年生(中学3年生)時に生態系のバランスを主体的に説明できる生徒育成を目指している。そのために、本事業で得た資料を蓄積して、どの学年でも活用できるように工夫した。

2-2 5?7年戦合同理科授業

まず、坊津にはどのような植物がいるか興味をもって調べられるように工夫した。そのために、鹿児島大学の準教授をお呼びし、植物採集の基本を学ぶ授業や名づけ会を行った。その後、夏休みや授業の中で坊津の植物144種類を採集・撮影し、図鑑にした。また、植樹事業での取り組みにつなげるため、坊津で自生する「ハマボウ」の特徴と海との関連について調べた。

2-3 9年生理科

B&G、合同理科授業で得られた知識をもとに、ツルグレン装置から微生物の抽出、観察、微生物のはたらきを学習した。これらの学びを総合して、「坊津の山・海全体の生態系の図に、キーワードを書きこもう」という授業を実践した。

2-4 実施成果

(注:表/PDFに記載)

5?7年の合同授業では、研究活動の時間を増やしたかったが、授業内容との関係で難しかった。今後は、合同授業ではなく各学年で取り組む項目を決定し、持続可能な授業を構想していきたい。

3 輝津館との連携と理科

輝津館とは坊津にある社会教育施設で、歴史資料館である。輝津館は日本財団の「学びのエコミュージアム」を実践しており、坊津学園の児童生徒が参加して、魅力ある授業を行っている。例えば、鹿児島大学名誉教授による「坊津の名勝双剣石の謎」に迫ったり、タツノオトシゴハウスの方を講師に呼んでタツノオトシゴの生態時標本をつくったりするなど、普段の授業ではできない内容を学習している。この経験で得た知識をさらに深めることで、児童生徒の探求心の育成を図った。

3-1 輝津館による事業「学びのエコミュージアムサポート双剣石の秘密」

平成27年11月14日に実施。対象は8?9年生。鹿児島大学名誉教授に来ていただき、坊津の名勝「双剣石」がどのようにしてできたか、海岸の岩石と地層を観察しながら考えた。この学習が今後系統的に実施できるように、資料やレポートはまとめておいた。

3-2 6・8年生合同理科授業

「双剣石の謎」から岩石に含まれる鉱物の学習をつなげ、鉱物がどのように生活の役に立っているかを学習した。そこで鹿児島大学准教授を講師に招き、鉱物の面白い性質を学習した。基本的な性質「跨開」「蛍光」「硬度」等を学習した。さらに、探求心をもって実験を行うために、夏休みには「人口鉱物づくり」「岩絵の具」の実験教室、授業では、「偏光顕微鏡で見る鉱物の世界」「蛍光性のある鉱物」について調べ、まとめた。
その後、学習のまとめとして、「榜開」を利用したものづくり(テラリウムづくり)を行い、鉱物が生活にどう役立っているかまとめた。ものづくりを通して、理科を学ぶ必要性を感じた生徒が増えた。

3-3 鳳凰高校との研究発表会

鳳凰高校サイエンスクラブは本年度発足。3月22日に開催する坊津学園との研究発表会に向けて高校生が研究を行った。研究内容は加世田万之瀬川における塩分濃度とマグネシウムイオン濃度の測定である。高校生らしいレベルの高い研究発表だったので、児童生徒にとって模範となり、さらに研究意欲が向上した。

3-4 実施成果

(注:表/PDFに記載)

鉱物は、理科の教科書であまり深く学ぶ内容となっていないので、理解するまでに実験や観察を繰り返し行わなければならなかった。また、ものづくりでは、獲得した知識を応用するため、なかなかアイディアが出ない生徒が多かった。

4 おもしろサイエンスショー

本校だけでなく、なるべく多くの子どもに科学を学ぶ興味関心を高めるために、南さつま市の児童生徒を集め、「おもしろサイエンスショー」を実施した。
このように、幅広い内容を学び、体験することで、興味関心を高めることができた。ほとんどの児童生徒が「おもしろい」「もっと調べたくなった」というような感想を書いていた。また、指導者同士の協力体制も深まり、この企画後も、連携を取り、授業に生かした学校もあった。一つのイベントであったが、学校の職員だけではできない魅力的な学びに気づくことができた。

5 まとめ

本事業のテーマは「科学的探求心を持ち、問題解決力を高め、未来を切り拓く児童生徒の育成」であった。科学的探求心と問題解決力に関しては、様々な活動を通して向上したと考える。しかし、多くの機関と連携を取ることで、魅力的な活動ができたが、その分打ち合わせに時間がかかった。また、一つのプログラムあたりの活動時間が少なくなってしまった。
来年度はテーマをしぼり、学習の深まりを図りたい。そこで、坊津の魅力の一つである、「海に関する学習」に取り組む。なぜなら漁師やダイバーに聞くと、坊津の海の藻場やサンゴ場が減少し、海の生態系が変わっている現実があり、この課題を学校で解決したいと考えたからである。主にイカの産卵床づくりと、珊瑚の養殖を中心に取り組みたい。
また、イカの産卵床については、南さつま市の水産課と協力し、4月に産卵床を植え、アオリイカの産卵から成長する様子をダイバーの写真をもとに銀察しまとめていく。サンゴ場については、タツノオトシゴハウスと協力し、学校に水槽を立ち上げ、繁殖の様子を観察していく。