2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

磁石・磁性体に関する研究活動

実施担当者

村山 佳之

所属:長崎県立佐世保北高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校は中高一貫校であり知的好奇心の旺盛な生徒が入学しているため、中学校の頃から大学の研究室訪問や卒業論文等に取り組ませ、専門性を高める教育活動を行っている。それらの活動の一環として、高校2年生では総合学習の時間を利用した大学の研究室訪問や課題研究を行っている。理系では、図1に示すように、生徒の進路志望に沿った班分けを行っている。

(注:図/PDFに記載)

 この中でも、工学班では例年、物理・工学分野における課題研究を行ってきた。
 日常生活で使用する様々な工業製品に関する基礎理論は、高校の教育課程で学習する。しかし、実験を通しての体験活動が不足しており、基礎理論と最先端技術とが結びついていないのが現状である。また、結びつけるための実験には専門的な機器や材料を必要とすることもあり、授業の範囲での実施は難しい。
そこで今年度は工学部を志望する生徒たちに、より専門的な実験や、大がかりな製作活動を通じて科学技術に対するさらなる興味・関心を引き出すための取り組みを行った。その内容について一部ではあるが紹介をしていく。


2.研究テーマの設定
 4月当初の総合学習の時間から、工学班をテーマ別に10班に分け、研究に取り組ませた。

(注:図/PDFに記載)

 図2は各班の研究テーマである。後述する大学の研究室訪問などを通して、多少の軌道修正はあったものの、今年度は電磁気関係の研究に力を入れて取り組む班が多くなった。なお、図2の網掛けしている4つの班が、電磁気関係の研究である。各班一つのテーマについて課題研究を行った。
 また、研究成果をレポートにまとめ、ポスターセッション形式で口頭発表する場を12月に設定した。この発表会では、研究の過程でお世話になった大学関係者や保護者、下級生も招いて行われた。工学班は、この発表の場で成果物(課題研究で製作したもの)の発表や実験の実演を目標にした。さらに来年度も継続して研究活動をするため、論文作成を行う。


3.大学との連携について
 例年、総学の生物・化学班は、医学・薬学志望の生徒を対象とした高大連携型の体験学習や、大学の研究室訪問などを行うことで体験活動を補っている。特に、高大連携型の体験活動は好評であり、生徒も意欲的に取り組む姿が見られた。
 そこで今年度、工学班でも大学訪問を行った。協力していただいたのは、長崎大学工学部電気電子工学コースである。
 この分野を選んだ大きな理由は、生活に身近でありながら、生徒たちがイメージしづらい分野に取り組ませ、自ら積極的に学ぶ姿勢を育てたいと考えたからである。本校は高校
2年生から物理基礎・物理を始めるため、2年生では電磁気を行わない。昨今、注目を浴びているアクティブラーニングの手法を、総合学習の時間であれば取り入れやすいこともあり、あえて、既習ではない分野とした。
 7月に長崎大学に大学訪問を行い、長崎大学の先生方や大学生の方にお話を聞き、実験を行った。写真1,2はその一部の様子である。実験内容は、マイスナー効果や磁性流体、誘導電流に関する実験を教授や大学生の指導の下行った。生徒たちは刺激を受け、工学班のうち、特に電磁気に関連する研究では、様々な課題やヒントを見つけ、研究に取り組んだ。


4.研究内容について
 ここでは研究内容の一部を紹介する。

(1)工学4班「搭乗型ホバークラフトを作る」
 大学訪問などを通じてモーターの仕組みについて学び、強力なモーターを作るための研究を行った。その成果物として、人を乗せることの出来るホバークラフトの製作を計画した。
 強力なモーターの製作には、強力な磁石と巻き数の多いコイルが必要である。はじめは模型用モーターを用いて予備実験を行った。次のステップとして、モーターの自作を計画していたが、膨大な材料が必要となるため断念した。替わりに、自宅から持ち寄った廃品となった掃除機のモーターを利用して、巨大ホバークラフトの製作を開始した。目標は、人を乗せての浮上とした。主な材料は以下の通りである。
主な材料
掃除機のモーター板、隙間補填用のパテ、接着剤、釘、タイヤチューブ

(注:図/PDFに記載)

 また、ホバークラフトの構造を図3に示す。モーターが2台で、出力にもばらつきがあるため、直接吹き出し口に接続しても姿勢が安定しない。そこで、一度、空気ために空気を入れ、そこから3カ所の吹き出し口へと空気を送り、出力ばらつきの問題を解消すると共に、姿勢を安定させることができた。
 実際の製作で最も生徒が苦労していたのは、巨大な空気ための部分である。板を組み合わせて製作したのだが、隙間から空気が漏れてしまい、思うように浮上しなかった。そのため、隙間補填用のパテを接合部に埋め込むことで、空気漏れを解消した。
 こうして、搭乗型ホバークラフトは完成し、口頭発表本番は、実際に人を乗せて動かした。
 しかし、掃除機のモーターを2台使用するため、消費電力が非常に大きい。また、外部からの力なしに進むことができず、まだまだ改善の余地がある。より効率のよい浮上と推進方法が、今後の課題である。

(2)工学6班「電気と磁気の関係」
 この班は、電気と磁気の関係に興味を持ち、研究を行った。発表当日は実験を実演し、好評を博した。
 写真4はフレミングの左手の法則を説明する実験器具である。教科書ではよく図で目にするものだが、これを自作し手回し発電機で稼働させることを目標とした。
 まずは写真5のように、アルミ製の角材とパイプで装置を作り、予備実験を行った。しかし、角材に渡しているアルミパイプは全く動かなかった。検流計やテスター、電源装置を用いて電流の流れを確認したが、連続的な電流は確認できず、レールとパイプの間に断続的な放電現象が確認できただけであった。この現象はアルミの酸化被膜が電流を阻害していることが原因ではないかと考え、アルミの角材およびアルミパイプをやすりで磨いた。また、アルミパイプの質量を軽くして動きやすくするため、長さを短くした。
 こうしてできた2つめの試作品だったが、これでも動かない。電流が磁場から受ける力は、流れる電流と磁場の強さに比例する。しかし、手回し発電機を使うため、発声させることのできる電流の大きさには限界がある。
 そこで、フェライト磁石よりも磁力の強いネオジム磁石に変えて実験を行ったところ、ようやく動くようになった。その後、磁場をできる限り均一にするために、鉄板をレールの下部に設置し、図4の装置が完成した。手回し発電機を用いることにより、電流の方向や大きさを自在に変化させることができることが特徴である。ちなみに、この装置は発表だけでなく授業での説明でも大いに役立った。

(注:図/PDFに記載)

 他にも、写真8のようなマイスナー効果の実験なども行い、幅広く電気と磁気の関係について理解したことを本番で発表した。
 ただ、本人たちの心残りとしては、超伝導物質を実際に作れなかった点であった。ただ、総合学習の研究成果は来年度の後輩たちに引き継がれていく。今後の研究の方向性として、酸化物超伝導体を自分達で作成することを目標に、電気炉を購入するなど製作できる環境を整え酸化物を中心に、製作を進めている。焼成方法や素材の違いが結果にどう表れるか、継続して研究を続けていく。
 また、アルミの酸化被膜がある状態での放電現象も非常に興味深い。放電現象が瞬間的な現象であることから、現在、デジタルカメラのハイスピード撮影によって、現象の全体像の解明を進めている。放電のメカニズムや具体的な電位差などについても解き明かせればと考えている。


5.課題研究活動を終えて
 以上のような課題研究・体験を通して、生徒たちは様々なことを学び成長した。大きく2点に分けて述べたい。
 1つめは、高大連携の効果についてである。本来、専門的な知識に直に触れ学び、興味関心を喚起することが目的であったが、こちらの予想を超えて生徒の食いつきがよく、専門的な知識や研究を前にして物怖じせず積極的に飛び込んでいく姿が見られた。

(注:図/PDFに記載)

 2つめは、研究活動についてである。図5の通り、課題研究等の活動を通して、生徒は様々な能力を身につけ成長した。研究の現場を自ら体験することで、単なる大学における研究のプレ体験にとどまらず、研究そのものの魅力を感じる生徒が非常に多かった。その姿勢は、見て、実施し、学んだ実験を、生徒たちは自らの研究に応用して生かす、教科書やインターネットなどを使って調べてもわからないところを能動的に質問する、といった所にあらわれた。たとえ教科書に掲載される有名な実験であっても、実際には試行錯誤と失敗の連続であることも、多くの生徒が体験・実感した。
 また、基礎研究の大切さや、技術応用のための知識の幅広さについても、一端ではあるが触れることができた。例えば、先述の工学6班では、基礎的な実験を通して先端技術の結晶である、リニアモーターカーとの関連についても理解した。様々な科学的「発見」と、「実用化」のプロセスを感じとることができたと、感想で述べていたのが印象的であった。
 さらに、専門的な研究を、専門でない人たちに口頭発表する経験を通して、知識の整理をするための科学的思考力や、プレゼンテーション能力が身についた。
 このプログラムによって、生徒たちがさらに科学技術に興味を高め、将来のプロフェッショナル養成や、社会貢献できる人材の育成に寄与することが期待できる。
 また、継続した研究が必要なものは、後輩たちに受け継がれることになる。受け継いでいく下級生たちも刺激を受けて、よい連鎖が続いていくことを期待したい。