2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

磁性に関する研究 反磁性/常磁性物質を対象とした磁化率測定法の開発,磁場中での化学反応など

研究責任者

江菅 純一

所属:大阪府立春日丘高等学校 定時制の課程 教諭

概要

はじめに
 本校では小型の微小重力装置を製作しました。この装置は、わずか0.5秒の短い時間であるが、落下カプセルを二重にするこ
とで質のよい微小重力環境を提供できました。(図1)
 さらに、3カのつりあいと永久磁石による反磁性磁化率の測定装置を製作した。永久磁石レベルの磁場を用いて、3桁の精度で10-7emu/gオーダーの固体の反磁性磁化率の測定が可能となった。(図2)
 そんな中、私たちのグループは、ひょっとして液体の磁化率をこのシステムで測定できないかと考えた。微小重力落下装置と永久磁石レベルの磁場とを組み合わせて液体の磁化率を、容器に入れることなく物質そのものの磁化率の値を測定できないかと模索することにした。今回はさらに磁気回路を考え、一度はあきらめていた、水滴の運動方向を上向きにすることを実施した。その結果、水滴は浮上し、運動することができた。また、運動方向を上向きにすることで、磁場の最適位置へ液体を配置できるようになった。今回はこの実験結果について報告する。

(注:図/PDFに記載)

実験方法
●測定原理
 科学部の研究で、磁場中にある物体には磁場勾配力が働くことがわかった。この磁場勾配力が物体に作用した状態を重力と糸の張力で釣り合わせたのが今までの原理であった。この原理をもとに、力を釣り合わせるのではなく、この力を物体に作用させて運動させるとどうなるかを考えた(図2)。
 単位質量あたりの物体の磁化率をx、試料の質量をm、試料の初期位置の磁場強度をB0、速度をv0とする。任意の位置の磁場をB、その時の速度をvとすると、エネルギー保存則より、

(注:数式/PDFに記載)

ここで、v0=0であるから、

(注:数式/PDFに記載)

となり縦軸をv2、横軸を(B02-B2)で表したグラフの傾きが磁化率xとなる。すなわち、試料の速度vを求めることができれば、質量mを計測することなく物体の磁化率を求めることができる。

●実験装置の設計および測定方法
 水滴を機械的な装置を使わずに磁場中に浮遊させるために、「超撥水」加工された板を利用した。水滴はこの板の上で球状になり、落下直後に磁揚中に浮遊する。落下カプセル内に磁気回路、ハイスピードカメラ(カシオEX-Fl)、LED照明および電池ボックス(LED照明用)を配置した。磁気回路は、50×50×10mmのネオジム磁石を2枚と40×40×15mmのネオジム磁石を重ね合わせ、この2組の磁石を互いに向き合わせた磁気回路を組み上げた。磁極間は20mmあり、その中心磁場は約5500gaussである。磁極間のほぼ中心に「超撥水」加工の板を設置した(図3)。この落下カプセルと外カプセルを電磁錠に固定する。その後、ネオジム磁石内の「超撥水」加工した板上に先端の細いピペットで水滴をセットし、2重カプセルを落下させる。約0.5秒間、自由落下中に微小重力状態になる。この間の落下カプセル内の水滴の動きをハイスピードカメラ(300fps)で撮影した。水滴は精製水を使用した。また、この磁気回路の磁場分布を(図4)に示す。

(注:図/PDFに記載)

結果
 (図5)に水滴の運動の連続写真を示す。0.10秒間隔である。画面上の試料の移動距離を基に試料の速度を算出した。(図6)に水滴の運動状態を示す。水滴は自由落下終了まで速度が増加しており終端速度に達していない。


考察
 (表1)に測定結果の一覧を示す。
Water-1とWater-2は今回の実験結呆である。比較のためWater-A~Water-Cは2016年に発表した水滴を水平方向に飛ばした時の結果を掲載している。測定値Xmと文献値xを比較するために、軸に文献値x、縦軸に測定値xmをそれぞれ対数で表しグラフにした(図7)。

(注:表/PDFに記載)

 グラフの中央の傾き1の直線上に測定点があれば、測定値は文献値と一致している。測定値が文献値と異なると、この直線より外れていく。測定値が文献値より大きな値になれば直線より上部へ、小さな値になれば直線より下部にプロットされることになる。
 水滴はほぼ中央の傾き1の直線付近に測定点が分布した。今回開発した液体の反磁性磁化率測定装置は、充分に10-7emu/gオーダーの反磁性磁化率を測定できることが確認できた。試料の運動空間は1気圧の大気中で行っており、これを減圧大気中で観測できれば空気抵抗を減じることができるので、さらに測定精度が向上すると考えられる。水以外の液体についても今後測定を行い、文献値との比較を行う必要がある。さらに,常磁性の液体についても,運動方向が逆になるが、確認をしていかなければならない。

(注:図/PDFに記載)

結論
・今回開発した液体の磁化率を直接測定する装置は、当初の目的である容器を用いずに液体の磁化率を測定できることが確認できた。
・液体の水についても,ほぼ文献値に近い値を測定することができた。
・試料の質葦を計測することなく、磁化率の測定を行うことができた。
・水滴の運動方向を上向きにすることを実施した。その結果、水滴は浮上し、運動することができた。また、運動方向を上向きにすることで、磁場の最適位置へ液体を配置できるようになった。