2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

研究学園都市の地域性を生かした,生徒の科学的な好奇心を高める 科学教育プログラムの創造(2年次活動報告)

実施担当者

山口 裕司

所属:つくば竹園学園 つくば市立竹園東中学校 教諭

実施担当者

久松 和則

所属:つくば竹園学園 つくば市立竹園東小学校 教諭

実施担当者

岡野 正人

所属:つくば竹園学園 つくば市立竹園西小学校 教諭

概要

1.はじめに
 本学園は,筑波研究学園都市の中心に位置し,学園都市の誕生に伴い創立され42年目を終えた。知的好奇心が非常に高い本学園児童・生徒は,未知の事物現象に対し,知的欲求が満足するまで追究する熱い心を有しており,将来の科学技術を開発する世界に羽ばたく人材として期待できる。この児童・生徒達の科学への興味関心を高め,知的好奇心をくすぐる科学教育プログラムを提供し,児童・生徒の豊かな体験活動を支えたいと考えた。本校は,筑波研究学園都市の中心部に位置しており,研究機関に勤務している保護者も多い。そこで,本校児童・生徒の保護者の専門性や人脈を活用し,科学教育プログラムの提供ができないかと考えた。平成26年度,竹園東中学校の生徒に向けた第1回目の講座を11月22日にスタートさせた。児童・生徒へのより良い講座開設に向けて,人材の確保・実態把握・連絡体制の整備・生徒向けの講座設計のノウハウ蓄積を目的に,教師のコーディネート力向上と方法の確立を目指して取り組んでいる。平成27年度は,前年度築いた人脈を生かし,地域の研究機関にも積極的に講師募集を行い,講座の対象を学園の2つの小学校の児童に広げての実施を行った。なお,つくば市は平成24年度より市内全校で小中一貫教育を実施しており,つくば竹園学園は,2小1中からなる施設分離型の小中一貫校である。


2.科学プログラムの構想
 文部科学省で進めている子供たちの土曜日の豊かな教育環境の実現に向けて,本校でも地域や企業の協力を得て,「土曜日の教育活動推進プロジェクト」を進めていくことになった。そこで,研究機関に勤務している保護者の人脈と専門性を活用し,児童・生徒に向けた知的好奇心をくすぐる科学教育プログラムを構築し,児童・生徒の豊かな体験活動を支えたいと考えた。
 本校の環境があれば,多くの保護者の専門性を生かし,実態に応じた内容の講義を,少人数対象に実施できると考えた。言葉や映像だけではなく,専門分野に関わる簡単な実験や操作,ものづくりを通して体験的な学びの場所をつくることができる。ものづくりの材料や実験のための薬品や器具など,学校が主体となって講義をする保護者を支えることが出来れば,児童・生徒の知的好奇心を満足させ,さらにそれを高めるための活動が出来ると考え,土曜日授業特別講座として実施することにした。


3.本年度の実践状況
(1)講座の開設状況
 初年度に実施した土曜日授業特別講座は3回(11/22,12/20,2/21)である。開設講座数は,1回目が15講座,2回目が17講座,3回目が18講座であった。
 2年次に実施した土曜日授業特別講座は,1回目14講座,2回目17講座。小学校では土曜日の枠にとらわれることなく,それぞれ12の講座を実施した。

(2)講座内容の紹介
①竹園東中学校での実践
「医療用国産内視鏡を使ってみよう!」
 医療用国産内視鏡を使った手術が体験できる特別授業が行われた。まず,電気メスの仕組みや,温度の違いによる「止血」「切除」の処置との関連や,内視鏡の基本的な仕組み,操作方法等の講義を受けた。その後,電気メスでの実習や,医者が内視鏡手術のシミュレーションに用いる機器を活用して,手術の体験を行った。鶏肉を使用したリアルな体験のおかげで,生徒たちは医療の最前線で行われている様々な工夫や努力を垣間見るとともに,将来医療に関わっていきたいという気持ちを持つようになった。

「いのちの出前授業」
 生徒たちは,生命がはぐくまれる神秘に触れるだけではなく,生まれたての赤ちゃんに備わっているたくましさや,親と赤ちゃんとで育まれていく様々な絆の大切さなど,親と赤ちゃん,それを支える様々な立場で考えることができた。さらに後半では,本物の赤ちゃんとの触れ合いの時間を通して,いのちの大切さを体感することができた。初めて赤ちゃんをだっこした生徒たちは,はじめはおっかなびっくり扱っていたものの,だっこした赤ちゃんが笑ったり,見つめ合ったりすることで,今までにない温かい感情が芽生えてくるのを感じていた。

「米粉でお菓子を作ろう!」
 お菓子が作れると軽い気持ちで受講を希望した生徒たち。前半はがっつり化学の講義,米とは,その成分は,かき混ぜると,熱を加えると・・・専門用語が飛び交う世界に次第に引き込まれて。後半はお楽しみのお菓子作り。先ほど習ったばかりの専門用語を駆使し,工程一つ一つの現象で見られる化学変化をしっかり観察。最後に味わってお腹も頭も心も大満足のお菓子作りとなった様子であった。

「レーシングカーフェラーリの世界」
 車好きあこがれ,フェラーリの実車を見ながらの講座。レーシングカーを支える技術,レーシングドライバーの心理,ピットスタッフのチームワークなども含めた総合的なレースの世界を映像と実物で詳しく紹介。究極の世界に挑戦する人たちの行動は,科学に裏付けられた世界だと体験できた貴重な一日。最後は,コクピットに搭乗しての記念撮影のおまけ付きだった。

「つくばの街づくり~竹園再開発から~」
 筑波研究学園都市も50年の歴史を迎え,初期に立てられた公務員宿舎が取り壊され,再開発計画が持ち上がっている。竹園地区の再開発はどうすればよいか,生徒たちの視点の「こんな街にしたい」を話し合った。昨年度実施した街づくり案は,つくば市の都市計画課の方々にプレゼンをするほど。今年度もさらに夢のある街づくりについて考えを深めていた。

「ダイヤモンドの化学」
 最も硬い鉱物であるダイヤモンド。炭と同じ炭素の結晶というのだから不思議。ダイヤモンドができる条件やその結晶構造,工業的な利用からカーボンナノチューブまで。その不思議な世界を,模型や映像を使ってのわかりやすい紹介に,生徒たちもミクロの世界に引き込まれていった。

②竹園東小学校での事例
「おもしろ理科実験教室:液晶,音,静電気の不思議」
 筑波大学数理物質系理工学群の先生による実験教室。
 ヒドロキシプロピルセルロースに水を加えて適切な濃度に調整すると虹色の液晶ができる実験をしたり,テルミンや電子楽器,ロボットボイスを操作して音で遊んだりする様々な実験を体験することにより知的好奇心を高めた。
 なぜこのようになるのか仕組みを理解しようと,多くの質問が出ていた。

「南極クラス」
 南極観測隊の先生による「未知の世界」である南極での活動を伝えることで,未来を背負う子どもたちに夢と希望を与える授業。
 南極の動物,オーロラなど大自然の様子を見ることで地球の壮大さや環境に関心を持ち,エコエネルギーや環境エコについて理解を深める。南極の氷を手に取ってにおいをかいだり,音を聞いたりすることで,環境問題に一層関心を高めた。

「マルハニチロ:サケの誕生物語」
 マルハニチロから4人の講師の先生方をお招きした理科出前授業。
 稚魚のプラスティネーション標本を使ってヨークサックとよばれるおなかの膨らんだ部分を観察したり,成体の冷凍サケの実物で雄雌の違いや内臓を観察したりするなど,かなり密度の濃い内容だった。
最後には白子からDNAを取り出す実験を全員で行い,サケのDNAを実際に見ることができた。
 命のつながりについて考え,食べ物や自然を大切にすることを学ぶことができた貴重な体験であったようである。

③竹園西小学校での事例
「おもしろ理科実験」
 講師の先生をお招きし,「おもしろ理科実験」を行った。4年生の理科の発展的な内容「水の凍っていく様子を観察しよう」の学習を行った。水を冷やしていくと凍るということは児童も知っているが,どんな様子で凍っていくかまでは分からない。そこで,水から氷への変化の様子をタブレットで動画撮影をし,記録及び確認を行った。児童からは,「こんなふうに凍っていくんだ」などという声,新しい発見の声がたくさん聞こえてきた。

「いろいろな植物」
 筑波実験植物園から講師をお招きし,いろいろな植物について説明をしてもらった。児童はこれまで四季折々の植物について,いろいろと発見したり,観察したりしてきたものをまとめてきた。講師の先生の話を聞きながら,自分でまとめたものを確認したり,新しい発見をしたりと楽しい学習ができた。最後に質問コーナーがあり,児童が実際に撮影した植物について,タブレットを操作しながら「これは何の植物ですか?」と質問し,講師の先生に答えてもらった。

「地球温暖化とは」
 国立環境研究所で環境問題について研究を進めている方を講師にお招きし,「地球温暖化と環境への影響」というテーマで講演をしていただいた。児童でも分かるようにデータをもとにして,詳しく解説してもらった。その中で,日々の節電や温室効果ガスの削減に向けた個別の取組も必要であり,かつ,化石燃料に替わる画期的な代替エネルギーの開発が求められていることを強調していた。児童は話を聞きながら地球温暖化の現実を改めて考えたようであった。


4.まとめ
 子どもたちが素朴に「なんで?」と感じたことを,大人たちが本気で研究している。講師が生き生きと研究について話す姿を見ながら,自分たちの疑問と最新の科学が繋がっていると感じられる機会を得た。さらに,身の回りある未知の世界を,科学者達が黙々と開拓してきたことで,現在の生活があり,さらに未来に向かって進んでいる実感が持てたことは,本講座の成果の一つである。