2011年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報第25号

石英系ガラス平面光波回路を用いた生体計測用反射型屈折率センサの開発

研究責任者

丸 浩一

所属:群馬大学大学院 工学研究科工学研究科 電気電子工学専攻  助教

香川大学工学部信頼性情報システム工学科 准教授

共同研究者

藤井 雄作

所属:群馬大学大学院 工学研究科 教授

概要

1.はじめに
屈折率センサは、分析化学、バイオ技術、環境分析などの幅広い分野において重要な役割を果たす。バイオ技術分野としては、医療診断、医薬品開発、食品分析などの分野での応用が期待できる。また、生体の血中や体液中に存在するグルコース等の物質濃度等を測定するためにも、屈折率の高精度計測が有望である。これまで、様々な方式の屈折率センサが提案され、実用化もされている。今後、臨床現場など現場での計測用途への幅広い普及のためには、高精度化もさることながら、センサの小型化、低価格化、測定の迅速・簡便化が必須である。このような屈折率計測として、光波を用いた方式が有望である。これまで、屈折率センサとして、表面プラズモン共鳴(SPR; Surface Plasmon Resonance)を用いた方法1)~3)、ファブリ・ペロー干渉計を用いた方法4)、フォトニック結晶の共振波長変化を用いた方法5)、光ファイバを用いた方法6)~8)などが報告されている。ファブリ・ペロー干渉計を用いたものは、干渉計内に充填した液体を通過する光波の位相を測定する。干渉長を十分長くすることにより、高分解能を得ることが出来るが、位相情報は2πrad周期で折り返されるため、屈折率の絶対値を見積もることが困難であった。光ファイバを用いたものは、SPRに基づくファイバ型バイオセンサ、長周期グレーティングを用いたものなどが報告されており、光伝送路自身をセンシングに用い、光源・検出系を分離できる。しかしながら、これらのファイバ型センサは、大型な光学系を持つ卓上のセンサに比べ測定感度が落ちることが課題であった。SPRセンサや、フォトニック結晶の共振波長変化を用いたものは、非常に少量の試料で測定可能である。しかし、これらの方式の多くは、吸収波長や共振波長を測定するものであり、反射光や透過光のスペクトル強度分布を高精度に測定することが必須である。このように、センサ本体の外部に光スペクトラムアナライザ等の大掛かりな測定系が必要であり、外部測定系の精度に屈折率測定精度が大きく左右される。この外部測定系の制限により、原理的には高分解能が期待できる方式もあるものの、実際に10-6オーダ程度の高屈折率分解能を実現することは困難であった。また、光ファイバを用いた方式以外では、主に光波の入力・出力に空間光学系を用いており、小型にすることが困難であった。更に、高分解能な特性を得ようとすると、屈折率測定範囲が狭くなってしまう問題があった。本研究では、高精度、広い屈折率測定範囲、大掛かりな外部測定系が不要、リアルタイム計測可能、という特徴を併せ持つ、石英系ガラス平面光波回路9)を用いたor-chip生体計測用屈折率センサの実用化を目的とした技術開発を行う。第2章では、屈折率精密計測のための新たな光学系コンセプトの一っ目として、反射型屈折率センサの検討結果を述べる。第3章では、反射型屈折率センサの原理検討として、位相測定原理実験の結果を述べる。第4章では、新たな光学系コンセプトの二っ目として、透過型屈折率センサの検討結果を述べる。第5章では、測定対象液体を充填するための溝構造の最適化設計の検討結果を述べる。
2.反射型屈折率センサ
2.1原理
図1に、本研究で提案する反射型屈折率センサの構成を示す。本構成では、屈折角変化による粗測定と位相変化による精細測定の組み合わせにより、屈折率の絶対値を高精度に測定するものである。
屈折率絶対値は、襖状のセルに液体試料を充填し、試料を透過した光波の屈折角を測定することにより広い屈折率範囲において測定できる。しかし、この方法を単体で用いた場合、センサを小型化しようとすると、高精度な特性の実現が難しい。一方で、光波干渉計を用いて、試料を通過する光波の位相変化(光路長変化)を測定することにより、高分解能な屈折率測定が可能となる。しかし、この方法では、広い屈折率測定範囲での屈折率絶対値の判定が困難である。提案する構成は、これらの利点を組み合わせることにより、小型かつ広い屈折率測定範囲において屈折率絶対値を高精度測定するものである。すなわち、襖状の試料充填セルを用いて、屈折角の変化と、試料充填セル通過による位相変化を同時にもたらす。試料セル、レンズ及びハーフミラーからなる測定パス、ならびに参照パスからなるマイケルソン干渉計の構成とする。レーザからの光は、カプラにより分岐される。分岐された一方の光は、測定パスを通過し、ハーフミラーで一部を反射後、再び測定パスを通過する。もう一方の光は、シングルモード導波路からなる参照パスを伝播後、ミラーで反射され、再び参照パスを通過する。測定パスと参照パスを通過した光の干渉により、試料充填セルでの光波の位相変化をフォトダイオード(PD)の受光強度変化として測定する。
屈折角の変化は、試料充填セル透過後にレンズを用いて集光し、ハーフミラーを透過した光波の集光位置を、電荷結合素子(CCD)またはPDを並べたリニアイメージセンサにより測定し、屈折角の変化に比例した位置変化として測定する。イメージセンサの各要素での受光強度とPD受光強度の測定結果を解析することで、襖形溝に充填した液体の屈折率絶対値を高精度に測定することが可能となる。本構成では、イメージセンサとPDの受光強度を直接パーソナルコンピュータ(PC)等で解析処理することにより、高精度な光スペクトラムアナライザなどを用いた大掛かりな測定装置を外部に用いる必要が無く、簡便な系で測定が可能となる。また、イメージセンサ及びPDにおける受光強度情報を用いて瞬時に屈折率を測定できるため、リアルタイムな計測が出来る。
2.2平面光波回路設計
図1で示したような光波干渉計には、これまでに空間光学系を利用した構成が広く用いられている。このような構成では、高性能の個別部品を用いることにより高精度の干渉計を実現し易いが、各構成部品が高価となり、また、定盤上に組み立てるため巨大となってしまう。また、光学系の光路が長くなってしまうため、温度変化や振動等の外乱に弱い問題がある。そこで、このような計測装置に用いられる光学系としては、高精度なまま小型化することが望まれる。高機能な光学系を小型化する方法として、Si基板やガラス基板上に石英系ガラス光導波路を形成した、平面光波回路(PLC; Planar lightwave circuit )9)が期待できる。平面光波回路は、光通信用途に既に広く用いられており、様々な機能を持つ光エレメントを一括形成可能、光部品点数の減少により信頼性が向上、平面的な構成を基礎とした他の光回路や部品と集積化が容易、などの利点がある。そこで本研究では、二番目のコンセプトとして、屈折率センサ本体の光学系として平面光波回路を利用したon-chipで屈折率計測が可能な光学系構成を提案する。
図2に平面光波回路を利用した反射型屈折率センサの例を示す。測定パスは、レンズとして動作するスラブ導波路及び導波路導波路回折格子(AWG; Arrayed waveguide grating)により構成される。スラブ導波路の途中に、測定対象の液体を充填するための襖形溝を形成する。襖形溝の容量は非常に小さい(数百nl程度)ため、微量の液体の屈折率測定が可能となる。
2.3位相計測方法
屈折率を高精度に測定するためには、測定パスと参照パスの位相差を高精度に測定する必要がある。図3に、位相測定精度を向上した反射型屈折率センサの構成を示す。本構成では、90度ハイブリッド回路を利用している。90度ハイブリッド回路の2出力からの光パワーは、位相変化により90度シフトして出力される。本構成では、これらの2出力からの光パワーを、二つのPDで受光する。このため、図2のようなPDをひとつのみ用いた構成に比べ、より高精度に位相を測定することができる。本構成による反射型屈折率センサの設計パラメータ例を表1に示す。本方法によると、二つのPDの光パワーから求められた位相の分解能は1度以下とすることが可能であり、本設計パラメータでの屈折率分解能は1×10-6と見積もられる。また、屈折率測定範囲は1.0から2.0と見積もることができる。
もうひとつのアプローチとして、ヘテロダイン光波干渉計の応用が有望である。図4にヘテロダイン光波干渉計を利用した反射型屈折率センサの構成を示す。ヘテロダイン方式の光源として、2周波レーザを用いる。直交する2つの異なる周波数を持つ偏波は、偏波ビームスプリッタ(PBS; Polarization beam splitter)により測定パスと参照パスに分岐される。ここで用いられる導波路型PBSには、いくつかの方式が提案されている10)~12)。測定パスと参照パスを通過した光波は、PBSにより再び合波され、これらの光波のビート信号をPD1で検出する。PD2で検出されたビート信号との位相比較を行うことにより、測定パスの位相を高精度に行うことができる。
3.反射型屈折率センサの位相測定原理実験
本章では、第2.3節で述べた反射型屈折率センサの位相測定に使用される光学系の検討結果を述べる。反射型屈折率センサの位相測定のための原理検討を行うため、バルク光学部品と微動ステージを組み合わせた原理確認用測定系を試作し、原理検証実験を行った。図5に、実験で用いた光学系を示す。本光学系では、90度ハイブリッド回路を用いる代わりに、直交する偏波間の位相を90度シフトさせることにより、90度位相シフトを実現する。この光学系では、直交する2偏波を、それぞれ微動ステージを経由する測定アームと参照アームに分岐・伝播させ、偏光子を通過させることにより信号光と参照光を干渉させた後、PDで干渉光の光強度を測定する。このとき、一方の偏光子の手前にλ/4波長板を挿入することで、一方の参照光の位相を90度ずらし、90度ハイブリッド回路と同様の効果を得る。光源としては、波長632.8nmのHe-Neレーザを用いた。本測定系により、微動ステージの変位を、周波数カウンタにより測定した光強度のフリンジ数から求めた。
図6に、光学系を用いて測定した微動ステージの変位の測定結果を示す。横軸は、微動ステージに取り付けたバーニアスケールによる変位測定値としている。光学系による測定結果とバーニアスケールによる測定結果はほぼ一致し、今回検討した90度位相シフトを用いた光学系の効果を実証できたと考える。光学系での測定値とスケールでの測定値の差は平均値0.12mm、標準偏差0.06mmであり、主にバーニアスケール読み取り時の誤差によるものと考えられる。本実験では、光強度のフリンジ数を周波数カウンタによりカウントすることで変位量を求めたため、変位の測定精度は波長オーダと見積もられる。2個のPDから出力される光強度信号は、90度ずれているため、2個のPDで得られた光強度波形から位相を導出することが可能である。
4.透過型屈折率センサ
第2章、第3章で提案した反射型の構成を用いた場合、反射面の平坦性が特性に大きく影響することが予測される。そこで、よりプロセス誤差に強い構成として、透過型構成による屈折率センサを検討した。本章では、本研究において提案した透過型構成による屈折率センサの構成及び原理を述べる。また、提案する屈折率センサの特性を検討するための解析モデルの導出結果、ならびに、解析モデルを用いて実施した屈折率センサの特性シミュレーション結果を述べる。
4.1原理
図7に、提案する透過型屈折率センサを示す。第2章で述べた反射型屈折率センサの場合と同様に、測定対象の液体を充填するための襖形溝を伝播する光の屈折角変化を利用し、ビームの集光位置の変化を観測する。
従来のビームの集光位置の変化のみを観測する方法の場合、高精度を得るには、屈折後の光路長を大きくする必要があり、測定精度と寸法がトレードオフの関係にあった。一方で、屈折後のビームでは、懊形溝に充填した液体の屈折率が変わると、集光位置が変化することのみならず、屈折率の変化による位相変化も生じている。提案する方法では、ビームシフトの測定と同時に、この屈折率変化による位相変化も検知することにより高精度化を実現する。この方法として、図7に示す透過型屈折率センサでは、屈折後のビームを単一のアレイ導波路からのプロードな出力光(以下、ブロード光と呼ぶ)と干渉させる。この干渉により、襖形溝に充填した液体の屈折率が変わると、出力側スラブ出力端での電界分布が単にシフトするだけで無く、ブロード光との位相差に応じた大きな変化が生じる。すなわち、屈折率変化による位相変化も検知できる状態となる。これによって、単にビームの集光位置を測定する方法に比べ、小型かつ鋭敏に屈折率を測定できる。測定精度向上のため、提案する構成では次の工夫を取り入れた。
(1)入力導波路を少なくとも2本用い、出力側スラブの出力端においてブロード光と干渉するときに、集光位置でのブロード光を基準とした相対的な位相が90度ずれるように入力側で位相調整する。これらの入力導波路からの集光を観測する。二つの入力導波路からの集光に対応するパワーを比較することにより、位相測定精度を向上する。
(2)屈折率変化に対する屈折角変化が小さい場合、位相変化を大きくして測定精度を向上しようとすると、集光したビームの位置はあまり変化せずに位相のみ大きく変化することになる。集光したビームはブロード光と干渉させるため、ビームシフト量が小さいと、同一出力導波路からの出力パワーの増減が繰り返される。すなわち、集光したビームの絶対位置を測定することが難しくなるため、屈折率絶対値の判定が困難となる。この困難を回避するため、二つの入力導波路それぞれについて、集光位置でのブロード光を基準とした位相が等しくなる入力導波路をもう一組設ける。このとき、屈折率変化により一方の入力導波路からのビームがある出力導波路に近づく場合、もう一方の入力導波路からのビームは別の出力導波路から遠ざかる位置となるように、入力導波路接続位置を調整する。ブロード光を基準としたこれらの入力導波路からの光の位相は等しいため、二っの出力導波路におけるパワーを比較することで、集光ビームの絶対位置の概算値を測定することができる。(1)は位相変化測定による屈折率相対値の高精度測定、(2)は集光ビーム位置測定による屈折率絶対値の概算値測定とみなすことができる。入力導波路を4本接続し、これらの方法を同時に使用することで、屈折率絶対値を高精度に測定することが可能となる。
4.2解析モデルの導出
提案する透過型屈折率センサの特性を検証するため、解析モデルを導出した。図7において、入力側スラブ及び出力側スラブの焦点距離をそれぞれZ、及びZg、スラブ導波路接続部でのアレイ導波路間隔をd、m番入力導波路(0≦m≦3)の入力側スラブへの接続位置をxm、n番出力導波路の出力側スラブへの接続位置をア.とする。スラブ導波路の等価屈折率をns、波数をk,とする。入力側スラブの入力端から距離Ztl~Zt2の位置に、測定対象である液体(屈折率〃,)を充填するための溝を配置する。溝の開き角はθとする。
(1)入力側スラブ
ー般に、AWGに用いられる均一なスラブ導波路では、スラブ導波路の出力端では、近軸光線近似の下、入力端電界分布のフラウンホーファー回折像が現れる13)。しかし、本屈折率センサに用いられる入力側スラブには、途中に測定対象となる液体を充填した溝が形成されており、平面内で均一な訳ではない。そこで、入力側スラブ内の光波伝播に関しては、フレネル近似を用いた解析を行う。
入力側スラブに接続したm番入力導波路の入力モード分布を蝋κ煽)とおく。ここでxは入力側スラブ導波路の入力端に沿う座標を表す。すべての入力導波路からの入力電界分布は、m番入力導波路からの光の複素電界振幅Emを用いて
と表される。溝直前における電界分布は、ui(x)の2次元フレネル回折像として、
と求められる。ここでg。(x)を
と定義している。光は、測定物体である液体を挿入した溝を通過した後、位相シフトし、xに応じてks△θギだけ位相が傾斜する。ここで、△=(nS-n、)/nSとおいた。溝を伝播した後の光の電界分布は、
と求められる。ここで、Zt2t1=Zt2-Zt1、ZW=@,砺)Zt2t1=[1+△/(1-△)]Zt2t1、及び、ん,=(n ns)k,とおいた。アレイ導波路手前での電界分布u4(x)は、u3(x)のフレネル回折像として次式で求めることができる。
ここで、Zat2-Za-Zt2とおいた。実際には、アレイ導波路の出力端は円弧上に配置されているため、光がアレイ導波路に入力する際、位相はk2/(ZZa)だけ補償されることになる。このことを考慮すると、アレイ導波路の入り口での光の電界分布は、次式のようになる。
ul(x)の分布が十分狭い範囲に局在しており、かつntの値がnSと比べて大きくは異ならない場合、u4(x)は次式のように近似できる。
ここで
とおいた。ここで、kの位相項は溝とスラブ導波路の屈折率が異なることによる位相シフト、(7)式の積分の前の位相項は溝の襖形状によるイメージに生じる位相傾斜を表す。
(2)出力側スラブ
出力側スラブの出力端における電界分布は、研究代表者らの研究14)におけるものと類似の方法にて、以下のように導出できる。1番アレイ導波路に結合した光の振幅一P,は、u4(x)とスラブ導波路一アレイ導波路境界での1番アレイ導波路のモード分布ua(x'-id)のオーバーラップ積分により求められる。アレイ導波路の像分布fa(x)はxについてモード分布uzn(x)に比べてゆっくりとした変化である。したがって、fa(x)はモード分布蝋κ)の範囲において一定値と近似できる。この場合、Piは
と求められる。ここでアレイ導波路の像分布fa(x)は、次式のように、ua(めの複素共役ua*(めをフラウンホーファー回折により入力端に投影した像を表す:
1番アレイ導波路に結合した光は、アレイ導波路を伝播することにより2M醜8R(f:周波数、O,fFSRアレイ導波路の自由スペクトル域)だけ相対的な位相シフトを受ける。その結果、アレイ導波路と出力側スラブとの境界に形成される電界分布Eb(プ,△)は、
となる。ここで蝋γ㌔1のは出力側スラブとの境界におけるZ番アレイ導波路のモード分布を表す。出力側スラブを伝播して出力端に集光した光の電界分布bEout(ン,△)は、Eb(y,△)のフーリエ変換により与えられる。周期関数のコンボリューションを考えると、bEout(ン,△)は
と表すことができる。ここでfb(ア)は蝋ンりのフラウンホーファー回折により出力端に現れる像であり、
を表す。また、A%は波長λを用いてDyb=λzわ/(nSので定義する。91(ア)⑭g2(ア)は次式で定義する周期Dybの周期関数91(v)とg2(v)のコンボリューションを表す。
ここで、モード分布〃鼠y)が十分狭く、実質的にこの分布が(15)式の積分範囲一Ayわ/2gここでD維)はディリクレ核15)を表す。測定対象である液体を充填した溝及びアレイ導波路を伝播し、出力側スラブの出力端に集光した光の電界分布bEour(y,O)は、本式により求めることができる。一方、単一のアレイ導波路から出力し、出力側スラブを伝播して出力端に現れるブロード光の電界分布out(Y)は、単一アレイ導波路の出力端でのモード分布usV'YS)のフーリエ変換により
と求められる。ここでESは単一のアレイ導波路からの複素電界振幅を表す。したがって、出力端に現れるトータルの電界分布は、bEour(v,△)とガ。ut(v)の重ね合わせとして
と求められる。
(3)伝達関数
n番出力導波路に結合する光の振幅t(ン。,△)は、上述のように求めたE傭(v,△)とn番出力導波路のモード分布trout(.yyn)とのオーバーラップ積分により求められる。モード分布u。ut(.yyn)が実質的に一〇yb/2≦γ(20)式の解析モデルを用いることで、AWGの出力導波路から出力される光パワー・位相特性を求めることが可能となる。
(4)入力導波路4ポートからの光の位相条件
入出力導波路モード分布及びアレイ導波路モード分布がいずれも基本モードであり、偶関数であると仮定する。(16)式から、m番入力導波路から入射され、AWGを通過して出力側スラブの出力端に集光した光E㌦0も△)の位相bm(△)と集光位置ア湯は、
と求められる。
一方、単一アレイ導波路からの出力側スラブ出力端でのブロード光out(v)の位相げ(v)は、
と表される。ここでのは単一アレイ導波路を伝播したことによる位相シフトを表す。したがって、bEour(ン,△)とout(Y)の位相差は
により求められる。ここで、右辺の第2項は、xmを取りうる範囲が小さく、(Z。r2△の/Zaが小さい場合、無視できる。その場合、位相差は次式のように近似される。
したがって、1番入力導波路及び3番入力導波路からのビームの振幅をブロード光と90度ずらすためには、m番入力導波路からの光の位相arg(Ems)は、定数φを用いて、次式となるようにする必要がある。
これらの条件を用いて、提案する透過型屈折率センサの設計が可能となる。
4.3特性解析結果
表2に示す設計パラメータを用いた透過型屈折率センサの特性を、第4.2節で導出した設計モデルを用いて計算した。
図8(a)に、出力側スラブの出力端に集光した光の電界分布を示す。屈折率を10'5ずらしたものを比較している。また、ブロード光を用いない場合(従来の屈折角測定のみを行う場合に対応)の電界分布を図8(b)に示す。提案する透過型屈折率センサでは、ブロード光と干渉させることにより、10-5というわずかな屈折率差によっても、電界分布には明確な差が見られる。
図9(a)に、提案する透過型屈折率センサにおいて、集光の近傍における各出力導波路からの出カバワーを示す。これについても、屈折率を10-5ずらしたものを比較している。本出力パワーが、PDにおけるパワー検出値に相当する。ブロード光を用いない場合の出カパワーも、図9(b)に示す。提案する透過型屈折率センサでは、高々10-5の屈折率差によっても出カパワー分布に明確な違いがある。これは、本構成を用いることにより、わずかな屈折率の違いを検出可能であることを表している。
図10に、屈折率が変化した場合の、集光位置付近の4本の出力導波路からの出力パワー変化を示す。ブロード光のみの場合の出力パワー値との差をプロットしている。(-7)番出力導波路と1番出力導波路からの出力光、ならびに(-3)番出力導波路と5番出力導波路からの出力光は、第4.1節で述べた(1)の条件である、90度位相がずれる関係にある組み合わせである。また、(-7)番出力導波路と(-3)番出力導波路からの出力光、ならびに1番出力導波路と5番出力導波路からの出力光は、第4.1節で述べた(2)の条件である、同位相となる関係にある組み合わせである。
図11(a)に、(-7)番出力導波路と(-3)番出力導波路からの出力光のパワー比、ならびに1番出力導波路と5番出力導波路からの出力光のパワー比を示す。図10で示した出カパワーが0に近い部分の計算結果は除外している。ブロード光のみの場合の出力パワーを基準として、集光との位相関係により出力パワーが増加した場合を「プラス側」、出カパワーが減少した場合を「マイナス側」としてプロットを分離している。各プロットの纏まりのパワー比は、屈折率が増加するに従い順々に大きくなる。したがって、図11(a)のようにパワー比を求め、かつ、「プラス側」あるいは「マイナス側」のどちらであるかを判別することにより、少なくとも屈折率がどのプロットの纏まりの範囲であるかを知ることができる。図11(b)に、(-7)番出力導波路と1番出力導波路からの出力光のパワーから求めた位相、ならびに(-3)番出力導波路と5番出力導波路からの出力光のパワーから求めた位相を示す。出力パワー値に変動が見られる範囲では、求められた位相は周期的に単調増加していることが分かる。図10で示した出カパワーが0に近い部分の計算結果を除外した場合、屈折率変化1に対する位相増加率は8.7×105deg~1.8×106degであるため、1度の位相変化が判別可能であると想定した場合、位相値からの相対的な屈折率分解能は0.5×10-6~1.1×10-6である。このように、図11(a)により得られた屈折率範囲と、図11(b)より求めた位相差を組み合わせることにより、屈折率絶対値を分解能1×10-6のオーダで求めることが可能となると考えられる。
5.溝構造の最適化設計
本研究において提案する集積型屈折率センサでは、スラブ導波路に試料充填用の襖状溝を形成する。このような構造をとった場合、溝では、基板面の垂直方向への回折による損失が発生する。光が光源から受光部まで伝播する間に大きく減衰した場合、受光部ではノイズによる誤差が生じやすくなる。そこで、溝における損失の低減が必須である。本章では、溝による回折損失が小さい溝構造の検討として、最適な溝配置間隔をシミュレーションにより模索した結果を述べる。
5.1分割溝構造
溝での回折損失を低減するため、本研究では、溝を分割して最適な間隔で配置する方法を検討した。本方法は、スポットサイズ変換等に利用されている16)。また、著者らは、通信用デバイスの温度無依存化の用途として、樹脂充填溝構造を検討してきた17)・18)。本研究では、この方法を応用し、提案する屈折率センサへの適用に適した溝構造を検討した。図12に、検討した溝構造を示す。コアとクラッドからなるスラブ導波路に垂直となるように溝を同一周期で形成したものである。2次元ビーム伝播法(BPM)を用いて、本構造を伝播する基本モード光の損失を求めた。石英系光導波路の利用を想定し、比屈折率差△を15%、2.5%の2種類として計算した。また、溝数は10とした。
5.2計算結果
溝凋期に対する損失計算結果を図13に示す。1個当たりの溝幅dをパラメータとして求めた。各溝幅について、損失が最小となる溝配置周期があることが分かる。例えばd-20?mの場合、溝配置周期L-20?m(すなわち、溝を分割していない場合)では溝部において7.ldBの損失が発生してしまうが、溝周期Lを32?mとすれば、損失を0.7dBに低減できる。すなわち、使用する溝幅dに応じて溝凋期Lを最適化することにより、損失を大幅に低減できることが分かる。
図13から分かるように、最小損失となる溝配置周期は、溝幅により少しずつ異なる。図14に、溝幅に対する損失最小値と、最小損失となるときの溝配置周期の関係を示す。溝幅を少しずつ増加すると、損失最小値が上昇していくと同時に最適な溝配置周期も増加していくことが分かる。
本屈折率センサでは、襖型溝とする必要があるが、懊形溝を縦列配置した場合、光伝播方向と垂直な各領域で、溝幅が異なってしまうため、図15(a)のように襖形溝をただ単純に縦列に並べただけでは、各領域での損失が大きく変わってしまう。そこで実際の懊形溝配置では、図15(b)に示すように各領域で溝間隔が異なるように角度を変化させながら配置し、さらに、図15(c)のように、襖形状を湾曲させ、位相劣化を防ぐことがより良い構造であると考えられる。
コアとクラッドの比屈折率差△を増加させると、入出力ビームのスポットサイズを小さくでき、屈折率分解能の向上に寄与する。しかし、△を増加するとたとえ溝間隔を最適にしたとしても、溝での放射損失があがってしまう。この放射損失を低減する方法としては、研究代表者が提案しているセグメント型スポットサイズ変換器をスラブ導波路途中に設け、溝周囲でのスポットサイズを拡大する方法を用いることができる18)。
6.まとめ
高精度、広い屈折率測定範囲、大掛かりな外部測定系が不要、リアルタイム計測可能、という特徴を併せ持つ、石英系ガラス平面光波回路を用いたon-chip生体計測用屈折率センサの実用化を目的とした技術開発を行った。まず、屈折率精密計測のための新たな光学系コンセプトの一つ目として、反射型屈折率センサの検討を行い、設計検討の結果、屈折率分解能1×10-6程度が得られる見込みを得た。次に、反射型屈折率センサの原理検討として、90度位相シフトを用いた光学系を用いた位相測定原理実験を行い、提案する反射型屈折率センサにおける光学系の効果を検証した。次に、透過型屈折率センサの検討を行い、解析モデルによるシミュレーションの結果、本方式によっても屈折率分解能1×10.6程度が得られる見込みを得た。また、測定対象の液体を充填するための溝構造の最適化設計を行い、光導波路の比屈折率差1.5%を用いた場合における溝配置の最適間隔を見出した。今後,主に透過型屈折率センサを対象とした実験検証を実施し,実用化に向けた試作検討を行う予定である.本研究で活用する技術は、光集積デバイスを用いた光波による計測技術である。光集積デバイスは、主に光通信用途にて幅広い研究開発がなされ、広く実用化されてきたが、計測用途としては発展段階にある。本研究をきっかけとして、光波計測、特に生体光計測のための光集積デバイス研究・開発促進の足がかりとなることを期待している。