2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

生物部を地域のサイエンスコミュニケーターとして育成する活動

実施担当者

中川 和倫

所属:愛媛県立今治西高等学校 教諭

概要

1 はじめに
 本校の生物部には約40人の部員が所属し、約10の研究班に分かれて毎日活発に活動している。研究活動では毎年複数の全国レベルの入賞をする一方で、部員全員の活動として県内の科学イベントにボランティアスタッフとして参加したり、地元で一般公開講座を実施したりするなど、本テーマである地域のサイエンスコミュニケーターとしての活動にも取り組んでいる。特に平成28年度は、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団からの科学教育振興助成の支援を受けることができたため、幅広い活動で多大な成果をあげることができた。小中学生を対象とした地元の科学イベントヘの参加、地元の愛媛大学と連携した研究活動、研究会や学会での発表など、例年になく活発になった部活動を通して、生徒は著しく成長した。1年間に科学コンテスト等で獲得できた入賞賞状は12枚に達した。


2 生物部の活動
2-1 小中学生および高校生を対象とした活動
(1)生物部公開講座
 5月7日(土)、本校で小中学生対象の「生物部公開講座」を本校の生物実験室で開催した。市内の小中学校に案内を郵送したところ、100人以上の親子連れが訪れた(タイトル下の写真)。生物部員は自分の研究テーマに沿って子供たちへの実験指導にあたった。人気だったコーナーは、「クマムシをコケの中から観察しよう」、「プラナリアを切ってみよう」、「フクロウのペレットから餌になったネズミの骨格標本を作ろう」、「ハムスターと遊ぼう」などであった。

(2)レッツ・エンジョイ・サイエンス
 8月12日(金)、玉川中学校で開催された「レッツ・エンジョイ・サイエンス」にブース参加した。これは今治市内小中学校の理科教員が取り組んでいる科学イベントで、裔校生による指導は初めてであった。本校からは「ミニアクアリウムを作ろう」、「ミドリゾウリムシの墨汁の排泄を観察しよう」、「クマムシを観察しよう」などでブース出展し、生徒が小中学生に実験を指導した。

(3)親子で楽しむ科学実験
 8月20日(士)と21日(日)の2日間、愛媛大学理学部主催の「親子で楽しむ科学実験」にブース出展し、2日間で60組の小学生の親子連れ、約150人に実験を指導した。高校からの参加はSSH指定校以外では初めてのことで、本校からは「錯覚のふしぎ~アニメの原理を実験で確かめよう~」をテーマに、実験と工作を通して親子で視覚と錯覚について体験してもらった。

(4)電子顕微鏡体験講座
 9月の1か月間、(株)日立ハイテクノロジーズから走査型電子顕微鏡(SEM)の無償貸与を受けたので、研究に活用するとともに市内の小中学校に体験講座の案内を郵送し、本校での利用を呼びかけた。観察指導は生徒が行った。

(5)サイエンス・アゴラ参加
 11月5日(士)~6日(日)、東京・お台場で開催された科学イベント「サイエンス・アゴラ」にJST(科学技術振巽機構)の予算で生徒4名が派遣された。生徒は中学生や高校生が発表するブースで交流するとともに、翌年は自分たちもブース出展したいという意識を高めた。

(6)松山東高等学校の生物部と交流
 3月30日(水)、松山東高等学校の生物部員4人が本校を訪れ、部活動交流に取り組んだ。本校の生徒による研究発表と合同実験を行い、日常の活動について意見効果を行った。松山東高の生物部はまだテーマ研究に取り組んでいないが、今後は始めたいとのことであった。

2-2 大学と連携した活動
(1)えひめサイエンスリーダー・スキルアッププログラム
 愛媛県教育委員会、愛媛県総合教育センター、愛媛大学が共同でJST(科学技術振興機構)の予算を禾I」用して県内の高校の科学部活動の活性化に取り組んでいる事業である、「えひめサイエンスリーダー・スキルアッププログラム」に参加した。7月から3月まで愛媛大学の全面的な協力のもと、研究の推進に有意義であった。

(2)愛媛大学理学部で実験
 5月20日(金)、クマムシ班とプラナリア班の生徒4人が愛媛大学理学部を訪間し、林秀則教授のご指導のもと、タンパク質の電気泳動実験(SDS-PAGE)を実施した。

(3)生物部研修講座
 5月21日(上)、愛媛大学教育学部の向平和准教授と大学院生TAl名に来ていただき、本校生物実験室で「環境指標としてのケイソウ」というテーマの講義と実習を受講した。

(4)生物部野外実習講座
 8月7日(日)、愛媛大学工学部の三宅洋准教授と大学院生TA2名に来ていただき、蒼社川中流で底生動物による環境調査の方法について指導を受けた。

(5)愛媛大学プロテオサイエンスセンター研修
 8月25日(木)、愛媛大学プロテオサイエンスセンターを23人で訪間し、林秀則教授の講義を受講、先端バイオテクノロジ一実験の体験、研究室見学(4研究室)を行った。また、愛大ミューズ(博物館)の見学も行った。

(6)愛媛大学教育学部で実験
 10月23日(日)、クマムシ班の生徒4人が愛媛大学教育学部を訪問し、電気泳動実験を行った。試薬の調製から装置の操作まで、すべて生徒だけで取り組んだ。

(7)慶應義塾大学の研究者を訪問
 1月7日(士)、クマムシ班の生徒2人が慶應義塾大学先端生命科学研究所の堀川大樹特任謂師を訪問し、クマムシ実験に関する指導を受けた。

2-3 発表会への参加と入賞成績
(1)文化部発表会
 5月29日(日)、グリーピア玉川で開催された本校の文化部発表会・定期演奏会で、底生動物班と細苗班がステージ発表、他の6版がポスター発表を行った。

(2)第6回高校生バイオサミットin鶴岡
 7月31日(日)~8月2(火)、慶應義塾大学先端生命科学研究所で開催された「高校生バイオサミット」に8班で参加し、うち2班が入賞した。
・慶應義塾賞(全国7位)「有機溶媒耐性細菌による環境浄化の研究」
・審査員特別賞(全国入賞)「ナベブタムシの呼吸システムに関する研究」

(3)中高生のための第2回かはく科学研究プレゼンテーション大会
 8月6日(上)、愛媛県総合科学博物館で開催された「中高生のためのかはく科学研究プレゼンテーション大会」に2班で参加し、2班とも入賞した。
・ポスター部門最優秀賞(県1位)「クマムシの乾眠導入と蘇生条件に関する研究」
・ステージ部門 愛媛県知事賞(県2位)「ナベブタムシの呼吸システムに関する研究」

(4)日本科学教育学会・高校生ポスター発表会
 8月19日(金)、ホルトホール大分で開催された「日本科学教育学会」高校生ポスター発表会に細菌班とクマムシ班が参加した。

(5)第8回坊っちゃん科学賞
 10月30日(日)、東京理科大学で開催された「坊っちゃん科学嘗」に参加して入賞した3研究が表彰式に招待された。
・優良入賞(全国6位)「オニクマムシの乾眠耐性と蘇生に関する研究」
・入賞「ナベブタムシの呼吸システムに関する研究」
・佳作「プラナリアの再生に関する研究」

(6)高校生おもしろ科学コンテスト本選
 11月12日(土)、県教委主催の「おもしろ科学コンテスト」にエントリーした4チームのうち3チームが愛媛大学で開催された本選に進出した。本校の1チームが県知事賞を受賞して「第6回科学の甲子園」県代表になった。残り2チームも裔教研理科部会長賞の物理部門と生物部門を受賞し、それぞれ県ベスト9に入った。

(7)高校生科学技術チャレンジ(JSEC)2016
 11月、朝日新聞社主催の「JSEC」に出品したクマムシ班の研究論文が予備審査を通過した。

(8)第60回日本学生科学賞・愛媛県大会
 11月18日(金)、読売新聞社主催の「日本学生科学嘗」県大会の表彰式で入賞した。
・優秀(県4位)「ナベブタムシの呼吸~成長段階に伴う呼吸方法の変化~」

(9)第30回愛媛県高校総合文化祭・自然科学部門
 11月19日(士)、愛媛県総合科学博物館で開催された「愛媛県高校総合文化祭」自然科学部門に2班で参加し、クマムシ班が入賞して全国大会への出場が決まった。
・奨励(全国大会出場)「クマムシの種による乾眠耐性の違いとその要因」

(10)サイエンス・ミーティング
 11月20日(日)、愛媛県歴史文化博物館で開催された「えひめサイエンスリーダー・スキルアッププログラム」の中間発表会でポスター発表を行った。

(11)サイエンス・キャッスル関西大会
 12月23日(金)、大阪で開催された(株)リバネス主催「サイエンス・キャッスル」関西大会に2班が参加し、ポスター発表を行った。

(12)日本生物教育学会・高校生ポスター発表会
 1月8日(日)、東京学芸大学で開催された「日本生物教育学会」高校生ポスター発表会にクマムシ班が参加し、ポスター発表を行った。

(13)えひめサイエンスチャレンジ
1月29日(日)、愛媛大学で開催された「えひめサイエンスチャレンジ」に2班が参加し、クマムシ班が最優秀賞を受賞した。
・最優秀賞(県1位)「オニクマムシの乾眠導入と蘇生に関する研究~季節による生態的影瞥」

(14)日本農芸化学会・高校生ポスター発表会
 3月18日(上)、京都女子大学で開催された「日本農芸化学会」裔校生ポスター発表会に予選を通過した70校が参加し、クマムシ班が銅賞を受賞した。
・銅賞(全国4~9位)クマムシの種による乾眠耐性の違いとその要因」


3 まとめ
 潤沢な科学教育振興助成金に支えられて、本校の生物部員による小中学生に対する科学イベントでの指導や、大学と連携した研究活動が非常に充実し、多くの成果をあげることができた。今回のテーマである「生物部を地域のサイエンスコミュニケーターとして育成する活動」には、今後も継続して取り組んでいきたい。