2016年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報第30号

生活習慣病リスクを予測する生体光イメージングシステムの開発

研究責任者

西村 智

所属:自治医科大学 分子病態治療研究センター 分子動態研究部 教授

概要

1.はじめに
生体の恒常性維持のなかで将来を予測することは可能だろうか。例えば、80 年の一生に、ほぼ1回しかおきない心血管イベント(心筋梗塞の発症など)を理解するにはどうすればいいのだろうか。つまり、どのように生体の血栓イベントは予測できるのだろうか。一つの答えは、生体で血栓を誘発し、形成過程を観察することである。我々は二光子顕微鏡によるバイオイメージングと、血栓形成を促す光操作技術を生かし、生体での血栓過程にアプローチした。また他の生活習慣病リスクに関しても光を使った無侵襲診断を試み、生体イメージングの適応を検討した。

2.血栓イメージングとは
本邦の死因の上位を占める脳・心血管障害の多くは動脈硬化を基盤とした血栓性疾患であり、心血管イベントは確率的に生体内で動脈硬化巣の粥腫が破綻して起きると考えられている。従来、心血管イベント予知を目指した血小板検査については多様なデバイスが開発されてきたが、invitro による限定的な検討手法に過ぎず、いずれも生体での血栓性疾患を予測するには至っていない。
粥腫(アテローム)の破綻部位においては、血小板は活性化され、血小板血栓が形成される他、凝固系も病態に関与し、心血管イベントの引き金となる。しかし、動脈硬化巣の破綻は偶発的かつ高速に進行する病態であり、実験的にこれらを exvivo、in vitro で再現することは不可能であった。実際に、これら一連の過程には血小板のみならず、各種炎症性細胞、血管内皮細胞とその障害、局所 の血流動態変化(血流とずり応力)が関わってい る。このような多細胞からなる複雑病変とそのダ イナミクスが血栓性病態の本質であり、これらを 生体内で検討する手法が、病態理解の上で求めら れている。その検討を可能にしたのが我々の開発 した「生体分子イメージング」手法である。
動脈硬化のように血管が主な傷害の場になる病態だけでなく、血栓症、腫瘍やメタボリックシンドロームにおいても、血流や血管機能といった生体内のダイナミックな変化、組織学的変化に先行する初期の炎症性変化を捉えることが可能な生体内分子イメージング技術は非常に有用である。従来の生体内観察では、透過光による観察が容易な腸間膜の微小循環を用いた研究が主に行なわれてきたが、近年の光学観察系・蛍光プローブの開発により、蛍光物質をトレーサーとして、透過光観察が不可能な厚みを有する脂肪組織をはじめとする実質臓器の血流観察も可能となっている。現在、時間・空間解像度も飛躍的に改善し、細胞内小器官レベルでの解析が可能となっており、高速マルチカラー二光子生体イメージングも簡便に行なわれるようになっている。図1は二光子顕微鏡で観察した、末梢血管での血球動態である。単一血小板が明確に同定されている。マルチカラーイメージングでは、生体内で複数の細胞種を染め分けて同定するとともに、機能プローブを組み合わせ、形態と機能の同時観察が可能である。これらの手法を応用し、生体末梢血管による心血管イベントリスク予測が可能になると考えた。しかし、一方で、生体の恒常性を評価するためには、顕微鏡を用いた限られた視野・観察時間での評価は十分とは言えない可能性がある。

3.光反応を用いた血栓イメージング
現在、「生体分子イメージング」「バイオイメージング」として行われている生体レベルでの生命現象の画像化・可視化は、「(ある一時間の・一個体の)形をみただけ」という形態学から脱却できていないものが大半である。これでは、当然、血 栓の形成過程を追うことはできない。そのために、 我々は光操作技術を応用し、血栓を体内に誘導し、 ブレイクスルーとしている。光による血栓形成の反応を観察することで、血栓症の基礎メカニズムと背景にある分子機構を明らかにしている。我々は現在 3 つの血栓モデルを作成している。それぞれのモデルでは寄与する細胞・分子が異なっている。

3-A ROS 誘導血栓モデル
我々は、レーザー傷害による ROS 産生を伴う血栓形成モデルと、上記の生体イメージングを組み合わせ、最初に血栓形成を高速共焦点で観察した。これは、従来の Rose Bengal などの色素を用いた血栓形成と近い。しかし、一方、我々のシステムでは、「血栓形成の観察」と「光刺激による誘導」を同一の光源を用いて行っている。本手法では圧倒的に高い時間・空間解像度が得られるのが特徴である。図2のように、ROS 刺激により高い再現性をもって、血管内に血栓を誘導することに成功している。さらに、一血小板が同定できる解像度で、血栓が可視化されたのもはじめてのことである。特に、従来、炎症と血栓については多様な報告によりその関連が示唆されていたが、本解析により血栓形成過程のうち、血管内皮における炎症性サイトカインのシグナリングが血栓形成に関わっていることが示された(Nishimura etal, 2008 JCI, Nishimura & Takizawa et al, 2010 JCI, Nishimura et al, 2012 Blood)。このモデルは後述のとおり、iPS 細胞由来人工血小板の機能解析にも有効である。

図2 生体内における血栓形成過程
レーザー照射により誘発された微小血栓の形成過程。生体イメージングとレーザー傷害を組み合わせることにより、精巣表面の静脈で、血栓を誘発し、血栓形成に寄与する単一血小板を可視化している。レーザー照射に伴う血栓形成に注目されたい。

3-B 血管内皮損傷血栓モデル
あるいは、血管内皮をレーザーにより物理的に破壊、血管外のマトリックスを露出し、血栓を誘導することも可能である (図3)。観察と同時

に、高出力のレーザーを一部の関心領域(ROI) に集光することができる。刺激と観察がやはりひとつの光源で行えるメリットは大きい。
レーザー傷害を用いて、内皮の境界面を破壊すると、「出血」に伴い、血小板凝集・凝固線溶因子の活性化といった「止血」反応が生じる。さらにそれだけではなく、炎症性白血球が傷害部位にすみやかに遊走し、初期の「自然免疫反応」が生じる。相互に連関したこれらの 3 つの反応(出血・止血・免疫)には、強いつながりがあると考えられ、その記載は Virchow の時代にさかのぼることができる。そして、これらの動的反応について、生体内部で一番初期の遺伝子・細胞応答を、光イメージングは明らかにすることができる。通常の分子生物学的手法でアプローチ困難な初期の応答を観察することができるのがこの手法のメリットである。

3-C 虚血再潅流モデル
あるいは生物学的なモデルで、自発的な血栓形成を促すこともできる。我々は、精巣局所への虚血再潅流により、血小板凝集・白血球の 回転・接着が増加することを確認した。従来の腸管膜などのモデルでは全身の炎症反応が惹起されているが、このモデルでは局所のみの反応であるのが特徴である。こういった、末梢血管での自発的な血小板凝集による消費と、血栓塞栓による臓器障害は、DIC などの病態を説明できる、あるいは、治療薬の効果判定に有用である可能性が高い。

4.骨髄イメージングによる造血破綻の可視化
本イメージングは生活習慣病だけでなく難病 への診断治療にも応用が可能である。難病の一つ、特発性血小板減少性紫斑病(以下 ITP)は、原因基礎疾患がないにもかかわらず、網内系を中心に 血小板の破壊が亢進し、血小板減少を来す後天性 疾患である。ITP の診断には骨髄穿刺は必須ではないものの、基礎疾患の除外のためにしばしば検 査が行われている。また、治療としては、ステロ イド投与、脾摘が行われる他、血小板数を維持できない患者では血小板輸血およびトロンボポイ エチン(以下 TPO)製剤が用いられるが、臨床効果は十分とはいえない症例も多かった。このよう に、従来手法でアプローチの難しい疾患にも生体 イメージングは有効である。
恒常的には、末梢血中の血小板数は厳密に制御されており、生理的にはほぼ変動せず一定に保たれている。一方、炎症時には急激な一過性の血小板数増加が認められ、血小板造血が促進されているとも考えられている。では、血小板はどのように骨髄巨核球からつくられ、造血はどのように制御されているのだろうか。そして、どのように大量の血小板をつくりつづけているのだろうか。巨核球からの血小板造血に関しては非常に長い議論があった。古典的に用いられている実験系である培養胎児巨核球を観察していると、非常に長い足をのばしてその先端から血小板が放出される
「proplatelet」という細胞形態が存在している。培養巨核球の観察から、多くの研究者はこのproplatelet が唯一の血小板造血の方法であると考えていた。一方、この形態で放出される血小板数には限りがあり、実際に生体維持に必要な血小板数を満たせない、という意見も存在していた。特に、炎症時の血小板の急激な増加を説明するには、本過程は不十分だったといえる。

では、血小板の比較的短い寿命にもかかわらず、血小板が生理的に維持され、厳密に制御されるた めには何が必要だろうか。より効率的な血小板放 出の過程があるのではないか、また、それらを制 御する因子が存在するのではないか、と我々は考 えた。培養巨核球細胞は非常に特殊であり生体を十分に再現していない可能性が高く、「生体で」血小板造血を評価する必要がある事は自明である。そこで、生体での血小板放出を顕微鏡観察により詳細に検討した。なお、本研究により血小板減少性疾患に対する、TPO にかわる治療の基礎知見が得られると考えている。
我々は、生きたマウスをみるのに特化した顕微 鏡技術開発を行っているが、その過程で、従来は 考えられなかった解像度(時間的にも空間的にも) で骨髄を観察できるようになった。そして、多く の観察を重ねるうちに、確かに proplatelet という造血過程は生体でも存在するものの、放出され る血小板の時間あたりの数は非常に少なく、炎症時には別の過程が存在していることがわかった。実際に、新たな血小板産生の過程があることに気付き、「巨核球が破裂して血小板を短時間にかつ大量につくる」「破裂型血小板造血」であることから、我々は「Rupture」と名付けた。定常状態では必ずしも多くない破裂型造血ですが、炎症時、あるいは、急激に血小板を除去した後には、一過性に増加していることがわかり、生体での急速な血小板要求に対応する主要な血小板産生過程と考えられた。では、どのようにしてこの破裂型造血は誘導されるのだろうか?我々は、さらに、巨核球を破裂させる一つの因子が炎症性サイトカインとして知られるインターロイキン 1 アルファであることを明らかにしている。一般的な固定概念では、「骨のなかの血小板一個一個が見えるわけがない」が、進歩した光学技術を積極的に用いることで、世界にさきがけて骨髄中の造血過程を単一血小板レベルで観察することができた。その結果、いままで議論のあった血小板放出に関し、 proplatelet とは違うあらたな破裂型造血が存在

図4 骨髄イメージングによる破裂型造血の同定

していること、炎症時などの急性造血に用いられていること、制御にはインターロキン1アルファが重要であることを明らかにしている。
今後は本所見をヒトに応用し、ITP をはじめつる多くの血液疾患に対する特異的・低侵襲治療に役立ていく予定である。また、本研究結果は J Cell Biology 誌に採択されている( 2015.4. 現在 inpublication)。

5.脂肪組織バイオイメージング
最近の研究により、食生活の欧米化(高脂肪食 など)に伴うメタボリックシンドロームや糖尿病の背景には慢性炎症が存在することが明らかになってきた。肥満病態では脂肪組織のみならず、骨髄・リンパ節といった免疫組織、あるいは、腸 管にも免疫異常が起き、異常なクロストークを形成していることが明らかになっている。しかし、直接的な解析手法がないために、その詳細な生体 内での分子メカニズムは不明である。特に、多く の研究者が、脂肪組織炎症の初期メカニズムに挑 戦しているが、明確に示された仮説は存在しない。我々はサイトメトリと生体二光子顕微鏡を用い て生体脂肪組織へのアプローチを行い、食事から 糖尿病に至る過程を可視化解析を行った。

脂肪組織はバイオイメージングの良い対象である。従来の切片標本を用いた組織観察では、固定方法が煩雑であるだけでなく、アーティファクトをしばしば伴うため評価が難しい。また、脂肪組織における血管や組織間質に存在する細胞群の三次元的構造の詳細は観察不能であり、炎症が引き起こす生体内の細胞動態の変化も不明であった。そこで、我々は独自に開発した二光子顕微鏡を用いた、組織再構築の過程、免疫・炎症性細胞の動態を立体的にリアルタイムで可視化・評価するシステムを確立している。さらに最近では新規プローブとの組み合わせており、肥満に伴う脂肪細胞および間質の免疫細胞の変化を画像として生体で捉えることに成功している。
脂肪組織では免疫細胞が重要な働きを占めている。間質には、骨髄由来の活性化した、T 細胞、マクロファージ、NK 細胞が浸潤するが、遊走および賦活化について、その詳細なメカニズムは分かっていない。病態理解のためには、炎症に伴う生体内での細胞動態の異常、特に免疫・炎症性細胞の局所での生体内応答について、直接画像化して知見を得ることは必須であると言える。生体イメージングでは、従来の分子生物学的手法ではアプローチが困難であった、「まれな現象」「まれな細胞種」「動的変化」を捉えることが可能であり、本手法の有用性が示唆された。(図5)

図5 脂肪組織生体イメージング
やせ形および肥満型についてCAG-eGFP マウス、B6 マウスを用いて二光子顕微鏡により脂肪組織を可視化解析を行った

近年、動脈硬化・心血管疾患の原因として、末 梢組織(骨格筋・脂肪組織)の機能異常が重要で あると考えられるようになっている。特に、脂肪 組織は、長年、脂肪を蓄積するのみの「何もしな い臓器」と考えられてきたが、近年のライフスタ イルの変化(食生活の欧米化)に伴う肥満・メタボリックシンドロームの蔓延により、脂肪組織、特に内臓脂肪は様々な病気を引き起こす「活発な 代謝臓器」として一躍注目を浴びるようになった。近年の Weisberg らによる肥満脂肪組織に炎症性マクロファージが浸潤しているという報告を初 めとして、肥満脂肪組織における慢性炎症の関わ りについては複数のグループが報告しており、現在では肥満脂肪組織のリモデリングの背景に慢 性炎症が存在することは明らかであると考えら れている。我々はハイスループット、高い再現性、高い感度特異度を持った脂肪組織の解析手法を 立ち上げた。脂肪組織間質をコラゲナーゼ処理し、遠心すると、脂肪細胞と間質のレイヤーを分けることができる。この、脂肪組織の間質を解析すると、その大半が免疫細胞である。痩せ型マウスでも、間質(stromal vascular fraction, SV fraction と略称される)の 30%が血管内皮細胞、30%が線維芽細胞で残りはすべて免疫系の細胞であり、末梢臓器としては免疫細胞を多く含んだ特異な組織であると言える。脂肪組織の間質の免疫細胞は肥満に伴う質・量ともに変化する。さらに、T 細胞、B 細胞、NK 細胞、DC 細胞、NKT 細胞などの存在が示されている他、脂肪前駆細胞、線維芽細胞、および、間葉系幹細胞も認められる。しかし、これらの免疫細胞の病態下における、遊走および賦活化機構について、その詳細なメカニズムはすべてが分かっているとはいえない。これらの結果からも、脂肪組織は脂肪細胞のみに着目するのではなく、間質細胞にも焦点をあてることの重要性が示唆される。脂肪細胞、特にアディポカインに対する研究だけでなく、間質を解析すると理解できる病態は多岐にわたる。
我々は、まず、脂肪組織の間質に対して脂肪組織の間質に多くのリンパ球が存在することを明らかにしている。CD3 陽性分画のなかに、CD8 陽性細胞・CD4 陽性細胞が存在している。痩せ型マウスでも間質細胞の約 10%は T 細胞であり、肥満に伴ってその数は増加する。T 細胞サブセットの解析では、肥満に伴い、CD8 陽性 T 細胞の増加、CD4 陽性 T 細胞・制御性 T 細胞の減少が認められた。また、既報のように、肥満に伴ってマクロファージ、特に M1 とよばれる炎症性サブセットが増加しており、肥満病態に大きく寄与していると考えられた。(図6)
脂肪組織にはインターロイキン 10 を発現する抗炎症性の制御性 B 細胞が存在しており、脂肪組織炎症を制御していることも明らかになった。脂肪 B 細胞は、脂肪組織に多数存在する B 細胞は、リンパ節などに内在するB細胞とフェノタイプが異なっており、骨髄・脾臓に存在する B1,B2 細胞とは表面マーカーの発現が異なっており、特異なフェノタイプであると考えられた。IgM,IgD は分泌するものの、IgG クラススイッチは生じていなかった。T 細胞と同様に B 細胞の抗原も単一ではない。そして、肥満に伴いこの脂肪 B 細胞は質的にも量的にも抑制されていた。脂肪 Breg は皮下脂肪に特に多く存在しており、皮下脂肪の間質の 30%を占めている。そして、この B 細胞は肥満個体では質的・量的、ともに減少していた。肥満個体における脂肪組織炎症およびインスリン抵抗性の一部は、脂肪 Breg の減少によって説明されると考えられた。なお、これらの免疫細胞の評価に際しては相対パーセンテージだけでなく絶対数でも評価する必要があると考えられた。
この知見はマウスのみならず、ヒトにおいても認められた。皮下脂肪組織の中の B 細胞マーカーおよび IL-10 の発現は、肥満したヒトにといて減少していた。脂肪 Breg の機能は種差を超えて適応されると考えられた。(図7)
リン脂質の一つ、リゾホスファチジン酸の生合成酵素であるオートタキシン(ATX,ENPP2)はアディポカインとしての作用を有し脂肪細胞の肥大・増殖、さらには、全身のインスリン抵抗性にも関わることが明らかになっている。我々はノックアウトの解析に加え、検診受診者に対し、一 般の検診項目に加え、網羅的に各種血清修飾脂質、 オートタキシン血清抗原量を測定し、メタボリックシンドロームやインスリン抵抗性の発症への リン脂質・脂質生合成系の異常の関与を臨床・基 礎両面から明らかにしている。
臨床的には、検診では、オートタキシンと Body Mass Index (BMI)、腹囲、血清アディポネクチン等に強い相関を認め、オートタキシンは肥満者・メタボリックシンドローム患者で有意に低下していた。多変量解析でもオートタキシンはBMI などによって説明され、オートタキシンは慢性炎症を基盤とするメタボリックシンドロームの良いマーカーとなり得ると考えられた。
さらに、オートタキシンの生体での作用機序の解析を行うために、オートタキシンヘテロノックアウトマウス、オーバーエクスプレッションマウス、脂肪細胞特異的欠損マウスの作成を行った。その結果、脂肪組織、特に前駆脂肪細胞ではオー トタキシンが高発現となっており、脂肪組織から分泌されるオートタキシンが血清レベルを規定 している可能性が示唆された。さらに、腸管でも オートタキシンは高発現となっていた。高脂肪食 負荷時には、欠損マウスでは脂肪組織の重量増加、脂肪細胞数の増加が抑えられていた。さらに、腸 管における吸収能が変化し、褐色脂肪組織の機能 は欠損により増加し、全身のエネルギー代謝が変 化していた。オートタキシンは腸管膜脂肪に高発 現していることからも、腸管膜機能を制御し、高脂肪食に伴う表現形を規定しているとも考えら れた。
なお、肥満個体においてオートタキシン発現は低下しており、血清レベルの変化を説明すると考えられた。
以上より、血清リン脂質とその生合成酵素は新規のメタボリックシンドロームに対する有用なバイオマーカーとなるだけでなく、新しい抗肥満・抗糖尿病治療の標的ともなり得ると考えられた。(図8,9)

図6 サイトメトリによる脂肪組織間質の免疫細胞サブセット解析:絶対数及び相対数表示

図7 免疫細胞による脂肪組織炎症制御メカニズム

図8 オートタキシン(ENPP2)の血清バイオマーカーとしての意義づけ
A:ENPP2血清値分布、B:BMIとの相関、C:アディ ポネクチン値との相関、D:MS(メタボリックシンドローム)の有無と血清ENPP2値、E:MS診断への
ROC曲線

生体の中でも代謝臓器の血管・間質では複数の細胞種が常に相互作用し、恒常性維持・生体保護の最前線となっている。代謝疾患などの生活習慣病では、これらの生理的機能が破綻し、最終的には慢性炎症を基盤とする組織リモデリングと機能異常による病態が形成される。低侵襲・初期治療を考えると、機能破綻を呈する前の段階を、生体内で捉えて治療する必要があり、生体二光子分子イメージングは有効と考えられた。