2017年[ 技術開発研究助成 (開発研究) ] 成果報告 : 年報30号補刷

生きた細胞内で働くタンパク質超分子機械の力学変調イメージング

研究責任者

西山 雅祥

所属:京都大学 白眉センター 生物物理 特定准教授

概要

1. はじめに
代表的なモデル生物である大腸菌は、生命活動 を営むため、わずか 1 μm 程度しかない小さな体のなかに約 4,000 種類ものタンパク質を発現させている。実際の発現量は数個~数千個とばらつきが多いとはいえ、そのちっぽけな体のなかはタンパク質やそのほかの生体分子でいっぱいに満たされていることになる。ただし、細胞内に含ま れる物質のうち、約 70%は水である。細胞内の水は、タンパク質の周囲をぐるりと取り囲んでいる。水分子は、タンパク質の表面や内部で水素結合を 形成することで複雑な立体構造を形成し、酵素活性をはじめとする生命活動に必須な化学反応を 生みだしている。
では、このタンパク質と水分子の相互作用が変わるとどうなるだろうか? おそらく、タンパク質の構造や機能も変化するに違いない。うまく使えば、細胞の生命活動もコントロールできるかもしれない。そこで着目したのが高圧力技術である高圧力は、化学分野にとってなじみの深い技術である。人工ダイヤモンドをはじめとする新物質の合成や溶媒和などの研究分野に加えて、タンパク質構造の研究にも利用されてきた。私たちが日々生活している大気圧環境では(1 気圧=0.1 MPa)、タンパク質は分子間相互作用により複合体を形成し、酵素活性をはじめとする機能発現を行っている(図 1)。これが 100 MPa 程度の圧力環境下では、おもにタンパク質表面の水和状態が変化し、タンパク質分子間の結合に寄与する静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合などが弱められてしまう。その結果、オリゴマーが解離しはじめる。さらに 500 MPa 以上の圧力になると、タンパク質内部の隙間(キャビティー)にまで水分子が侵入してしまうため、立体構造は崩壊し機能活性も失われてしまう。研究責任者らは、100MPa 程度の圧力領域において、タンパク質は変性しないまでも構造や機能が変化することに着目した。
ここで、研究責任者らが注目する 100MPa 程度の圧力について考えてみたい。大気圧を pN と nm を単位として記述すると、0.1 MPa = 0.1pN nm2 となる。仮にタンパク質分子間の結合部位の面積を~1 nm2 とすると、この面積には 0.1 pN の力が加わることになる。それに対して、100MPa の静水圧環境では 100pN の力と計算されるので、確かに分子間の結合力は弱まり、分子構造や機能活性は変わりそうである。
従来までの研究では、高圧力技術を組み合わせる検出法として、紫外可視分光や蛍光分光、NMR といった分析法を組み合わせる事例が多かった。

(注:図/PDFに記載)

したがって、タンパク質の懸濁液を測定対象として実験を行うことになる。しかしながら、生き物は多様である。また、タンパク質分子においても個々の分子の動態は構造により一意に決まるのではなく、異なる状態間をダイナミックに遷移していることが知られている。タンパク質懸濁の液には膨大な数の分子集団が含まれるため、検出されるのは分子集団の平均値となる。したがって、得られた結果は個々の分子のふるまいがかき消されてしまっているので、ダイナミックに変化するバンズに動態を演繹するのは非常に困難を伴ってしまうことになる。もし、なんらかの形で分子集団にトリガーをかけて、全ての分子を同時に駆動させることが可能ならば、ある程度の情報を得ることは可能であろう。しかしながら、多くの場合、トリガーをかけることも困難であるのが実情である。
そこで研究責任者は光学顕微鏡に注目した。他の分光手法とは異なり、光学顕微鏡を用いると水溶液中に分散した細胞や分子を個別に観察することは原理的に可能となる。研究責任者は高圧力下にある分子や細胞といった活性のある生物試料を高い解像度で観察できる新しい分析手法の開発に取り組んだ。

2.高圧力顕微鏡の設計
光学顕微観察用の高圧力チャンバーは、当然ながらこれまでから報告例はある。しかしながら、後述するようにその多くは耐圧性能を確保するため顕微鏡としての光学性能を犠牲にしてきた経緯がある。これは高圧容器一般に言えることだが、観測窓(および,その周辺)は加圧時に破損しやすい場所であり、装置全体の耐圧性能を左右する重要な部位となっている 3)。設計者にとっては腕の見せ所でもあり、泣き所でもある。顕微観察用の高圧力チャンバーの場合、観測窓とその周辺の制約はとりわけシビアであると言えよう。実はその要因を生み出しているのは顕微観察の要となる対物レンズなのである。
対物レンズは光学顕微鏡の中でも最も重要な部品である。多くの生物顕微鏡用の対物レンズは通常のカバーガラス(厚さ~0.17mm)に近接させて使うことを前提に設計されており、その作動距離(対物レンズの先端からカバーガラス表面(外側)までの長さ)は 1mm 以下のものが多い。そのため、カバーガラスを高圧力チャンバーの観察窓として考えると、窓剤自体の強度不足に加えて観察窓をチャンバー外部から支持することの困難さにも直面することになる(観察窓を支持する部位が対物レンズと干渉する)。要するに、ほとんどの生物用顕微鏡の対物レンズは高圧力チャンバーと相性が悪いことになる。選択肢はそう多くはないので、観察時の光学性能を満たす対物レンズにあわせて、顕微観察用の高圧力チャンバーをデザインすればよい。選定条件として,作動距離が長く,(少なくとも)カバーガラスよりも厚い窓剤に対応可能であり,開口数もそれなりに高い、などが挙げられる。
このような状況において、研究責任者は CFI Sプランフルオールシリーズの 40 倍対物レンズ(ELWD ADM40×C, NA=0.60,WD=3.6-2.8 mm,カバーガラスの厚み=0-2 mm,ニコン)を選択した(ちなみに,オリンパスからも同様の対物レンズは市販されている)。光学窓の厚みを 0~2 mm までの範囲で自由に選択可能であり、作動距離も3 mm 程度確保できる。開口数については十分とは言えないものの、十分に明るく光れば蛍光観察も可能である。この対物レンズの内部には位相リングが内挿されており、細胞の形態観察などには多用される位相差観察も実施できる。
この対物レンズの選択については特に目新しさはないかと思われる。何故なら過去の研究においても似たような対物レンズが採用されてきたからである。しかしながら、これまで発表されてきた高圧力チャンバーでは、高圧力容器の窓剤としてよく採用されている強度の高い材質(ダイヤモンド(ne =2.424)、サファイヤ(ne =1.771)、石英(ne =1.458))が使われることが多かった。これらの材質の光学基板(厚さ 1 mm)にビーズ(直径 0.2 μm)を固定し上述の対物レンズを使ってその蛍光像を取得し、通常のスライドガラスを使った観察結果と比較した。その結果、観察時の波長領域によって異なるので一概には言えないものの、概してダイヤモンドでは解像度が顕著に低下し、またサファイヤや石英においても解像度が少し低下した。これは、通常の対物レンズはカバーガラスやスライドガラス(ne=1.515~1.530)を前提として設計されているため、屈折率の違いが結像能の低下を招いているのである。ちなみに、対物レンズの開口数が高くなるほど、両者の屈折率のミスマッチが顕著に解像度を低下させてしまう。したがって、観察に必要な解像度を考慮した上で、光学基板の屈折率や厚さ(厚みがますと対物レンズの設計値からのズレが顕著となる)を選択する必要がある。研究責任者はこれまでから光学顕微鏡の開発に従事してきたこともあり、耐圧性能よりも光学性能を優先し、今回は対物レンズとの相性が最も良いガラス基板(BK7,ne=1.519) を光学窓に採用した。

3. 高圧力顕微鏡の装置構成
図2に研究責任者らが開発した顕微観察用の高圧力チャンバーの断面図と写真を示す。チャンバーはニッケル合金(Hastelloy C276)を用いて製作し(笹原技研、京都)、本体(60×50×20 mm)と照明(コンデンサー)側のウィンドウ支持台(φ=20 mm,t=5 mm)から構成されている。ウィンドウ支持台をねじ込むことで、O-ring(P10)とバックアップリング(PEEK)で簡便に圧力シールを施せる仕様とした(注記:バックアップリングは無くても可)。加圧装置などをチャンバー本体につなげるため高圧配管の接続ポートを2つ設けた。
高圧力チャンバー内を観察するために Poulter 型の高圧光学窓を設けた。対物レンズ側の開口径は1.5 mm、テーパー角は76o、深さは 2.5 mm、コンデンサー側の開口径は 2 mm、テーパー角は67o、深さは 4 mm とした(図2)。これらの開口部には、ガラス製(BK7)の光学窓(対物レンズ側,φ=6 mm, t=1.5 mm,コンデンサー側,φ=6 mm,t=2.0 mm,笹原光学,京都)をエポキシ系樹脂で固定した。光学特性として、チャンバー中央部では、対物レンズ側の開口数は NA=0.60、コンデンサー側は NA=0.55 となる。このように両側の開口数を拡げたことで、従来までの高圧力チャンバーでは難しかった位相差像の取得も可能にした。

(注:図/PDFに記載)

高圧力チャンバーの内容積は~50μL 程度であり、光軸に沿って約 0.2 mm の隙間をもうけてある。 この隙間を利用すれば、カバーガラスの小片(ダ イヤモンドペンで~3 mm 四方に切断)と両面テープを使って、チャンバー内にフローセルを構築で きる。これにより、通常の生体試料の調整の際に よく行う緩衝液(バッファー溶液)の交換作業を 行える。以前に実施した ATP 合成酵素 F1-ATPase の回転計測では、Ni+-NTA で修飾したガラス小片でフローセルを構築して、F1-ATPase を流し込みしばらく待ち、その後、溶液交換を行うこと で未吸着の F1-ATPase を取り除くことができた。このように高圧力チャンバー内部で溶液交換を 繰り返すことにより、観察に適した実験系を構築 できるのが重要な点と言えよう。なお、フローセ ルを構築しない場合は、コンデンサー側の窓剤を 厚くして水溶液の厚さを薄くすることで(現時点 で~50 μm を達成)バックグラウンドを下げることもできる。顕微観測用の高圧力チャンバーにもとめられるのは耐圧性能や開口数といった基本スペックのみではない。観測対象をチャンバーに封入してフタをしめるだけではなく、チャンバー内でサンプルを調整し、本当に見たい現象をより見やすく配置させることが重要なのである。
研究責任者らが開発した高圧力顕微鏡の概念図と写真を示す(図 3a,b)。装置は研究対象となるサンプルを封入し圧力をかける高圧機器と光学顕微鏡からなる。前者の機器は、顕微観測用の高圧チャンバー(図 2, 3b)、圧力変換器(セパレーター)(図 3c)、加圧装置(図 3d)から構成される。
まず、加圧装置として、蒸留水を圧力媒体として用いる小型高圧ハンドポンプ(HP?150,シンコーポレーション)を用いた。ハンドポンプの吐出要量は1ストロークあたり約 500 μL であり、最大 150 MPa まで使用できる。蒸留水の静水圧は圧力ゲージ(PG-2TH,Max 200MPa,共和電業)と表示器(WGI-400A,共和電業)で計測した。これらの加圧装置は防振台から分離して設置し、コイル状に丸めた長い 1/16 インチ高圧配管でセパレーターに連結することで、ポンプ操作の度に顕微鏡に機械振動が伝わるのを防いだ。
次に、セパレーターを搭載させることで、圧力ライン内に充填するバッファー溶液の総量を減 らした。というのも、タンパク質や細胞などの生 体試料の実験ではpH やイオン強度などをはじめ とする溶液組成の調整が必要不可欠であり、実験 内容に応じて頻繁に交換しなければならない。時 として高価な試薬を使うことも考慮すると、効率 的(経済的)な実験系の構築が望ましいと言えよ う。図 3c にセパレーターの写真を示す。セパレ ーター本体は円筒形状(SUS630(熱処理後に加工)、 φ=50 mm, L=94mm)であり、その内部は厚さ 0.2 mm のテフロン製のキャップで2つの空間に分離してある(図 3a)。キャップの内部はバッファー溶液、外部は蒸留水で満たされている。加圧時には蒸留水がセパレーターへと流入し、テフロンキャップの変形を介してバッファー溶液の圧力へ と適切に変換される(図 3a)。高圧容器内に充填されるバッファー溶液の大部分はテフロンキャッ プ内に存在するため、実験時には~7 mL 程度のバッファー溶液を毎回用意すればよいことになる。これらの高圧機器を市販の倒立型電動顕微鏡(Ti-E,ニコン)と組み合わせて、防振台(AS-II 1809TM,日本防振工業)に据え付けた。高圧力チャンバー内部の観察には、上述の長作動距離の対物レンズ(ELWD ADM40×C,ニコン)を用いた。高圧力チャンバーの固定と操作を自由に行うため、チャンバーの位置決めを行える自作ステージを作製した。この光学顕微鏡にCCDカメラ(WAT-120N+,撮像素子 1/2 インチ,WATEC)を搭載させると、高圧チャンバー内の 150×100 ?m 程度の領域を録画できた。当然ながら、対物レンズとカメラの間に中間変倍レンズなどを内挿することで倍率は変更できる。チャンバーを XY 方向に動かすことで観察場所は変えることはできるが、チャンバー開口部の機械的な制約により位相差観察が可能な範囲はおおよそ直径 700μm 程度であった。

(注:図/PDFに記載)

4.高圧力顕微鏡の性能評価
これまで開発してきた装置の高圧容器としての性能評価を行った。まず、高圧力チャンバー内に蒸留水を充填し、ハンドポンプの圧力上限値となる 150 MPa まで加圧した所、圧力漏れが生じることなく、長時間にわたって安定して高圧力環境を維持できた。この耐圧性能は、地球上で最も深い場所である太平洋のマリアナ海溝チャレンジャー海淵最深部(10,924 m,日本の海上保安庁の観測船による測定)の静水圧~110 MPa よりも高い値となっている。つまり、JAMSTEC が保有する有人潜水艇しんかい 6500 や、無人潜水艇かいこうなどにより深海底から採取された微生物を対象にして、生息環境を概ね実験室で再現できることになる。
次に、光学顕微鏡としての性能評価を行った。高圧力チャンバーの観測窓に直径 1 μm のビーズを吸着させ、圧力を変化させながらその像を取得した。加圧による高圧力器具の変形に伴い、結像位置が変化した。ただし再現性がある事から、あらかじめ予測される位置にフォーカスをあわせておくことで、圧力変化直後から画像を取得できた。さらに、加圧時における結像能を精査するため、100 MPa でビーズの各種観察像を取得した(図 4a)。矢印で示したビーズの強度プロファイルをもとめたところ、常圧力下の結果とほぼ一致した(図 4b)。これは、研究責任者らが開発した顕微鏡の結像能は圧力値に依存しないことを意味する。

(注:図/PDFに記載)

5.高圧力下での微小管の重合・脱重合反応イメージング
冒頭でふれたように、高圧力をかけると、一般に タンパク質間の相互作用が弱まることが知ら れている。それでは「百聞は一見に如かず」との 諺が示すように、開発した高圧力顕微鏡を利用し て、「見る」ことは可能だろうか?タンパク質モ ノマーの大きさはせいぜい 10nm 程度でしかなく、現状の装置では分子構造のわずかな変化をみる のは簡単ではない。そこで研究責任者らは、代表 的な細胞骨格である微小管に着目し、高圧力顕微 鏡を利用して 2 つの実験を行った。
微小管は全ての真核生物に存在する細胞骨格であるチューブリン分子間の非共有結合により数珠つながりに結合することで、直径約 25 nm の細長い管状のフィラメント構造を形成している。その長さは、(精製した系であれ,細胞内であれ) 数十マイクロメートルにもおよぶため、比較的簡単に顕微鏡下で観察できる。つまり、高圧力下で分子間相互作用が弱まるのであれば、そのフィラメント長の変化として検出できるはずである。現に Salmon らは加圧時に卵母細胞の紡錘体が消失することを観察し、減圧後に元に戻る様子を報告している。生細胞では無く in Vitro の系を用いれば、微小管構造に対する圧力の影響をより直接的に検証できるだろう。
まず、豚脳から精製したチューブリンで微小管を調製した。あらかじめ、高圧力チャンバーの窓剤にキネシン分子を吸着させておき、代表的な有糸分裂阻害剤( 10μM paclitaxel )と 100 μM AMP-PNP 存在下で微小管を固定した 9)。これにより同一微小管のフィラメント構造を追跡できるようになる。常温常圧力環境下では、paclitaxel により微小管の脱重合反応は抑制されるため、フィラメント長に大きな変化は見られなかった。しかしながら、150 MPa の圧力下において、同じ微小管の蛍光観察を実施したところ、微小管の両端から同じ速度で短縮する様子を捉えることができた 9)(図 5a)。微小管の短縮速度に異方性はみられず、圧力増加と共に短縮速度は指数関数的に増加した(図 5b)。この系では、減圧後に再重合反応は観測されなかったが、これは脱重合したチューブリン分子が高圧力容器内に拡散し大幅に濃度が低下したからであろう。

(注:図/PDFに記載)

次に、人工細胞系を用いて実験を行った 10)。初め球状に近い形状をしていたリポソームの内部で微小管を重合させると(0.1 MPa,25°C)、膜の内側から押す力で膜突起が形成された(図 5c)。こ れらの突起は、方向性が揃わない微小管数十本程 度から構成されていると考えられる。この膜突起をもつリポソームを加圧したところ(60 MPa)、 わずか数十秒で突起が短縮してしまった。その後、すぐに減圧して大気圧に戻し、同じリポソームの 観察を続けたところ、膜突起はほぼ同じ位置から 伸長しはじめ、約 10 分後には元の長さに戻った(図 5d)。なお、この膜突起の短縮速度も圧力と共に増加した(図 5b)。これら 2 つの系の結果を生細胞の結果と比べてみると、圧力に対する短縮速度の増加率は似ていることが見て取れる(図 5b)。これらの結果から、高圧力は微小管を構成するチューブリン分子間の相互作用に直接作用していることが示唆された。
以上のように、開発した高圧力顕微鏡を利用して、2 つの異なる実験系で微小管の重合・脱重合反応をコントロールできることを示すことができた。高圧力下では、チューブリン分子間の結合部分に水分子が侵入しやすくなり、解離反応が進行すると考えられる。この水分子による微小管脱重合メカニズムは、連なったチューブリン分子の MD 計算を併用することで明らかにできるであろう。計算機実験の場合、チューブリンと水分子を入れる箱を小さくすると高圧力環境をつくり だすことができる。高圧力顕微鏡を使って得られ た結果と、MD 計算から示唆された水分子の動きを照らし合わせることで、微小管の重合・脱重合 の制御機構が明らかにできると期待される。また、研究責任者らの高圧力顕微鏡法を応用すれば、常圧力下よりも速い速度で微小管の解離反応がす すむため、新しい抗がん剤のスクリーニングの迅 速化にも貢献できそうである。

(注:図/PDFに記載)

6.今後の展望
近年、培養細胞系の実験を元にして、様々な細胞が外から与えた力を感知し、応答することが明らかとなりメカノバイオロジーとして注目を集めている。例えば、応答の例として細胞膜を介したシグナル伝達過程、タンパク質発現量の変化などが挙げられよう。このような知見の多くは、細胞を基板に貼り付けて固定し、その後、水流によるズリ力を与える手法や、基板を動かし細胞を伸張させる手法から得られてきたものである。しかしながら、これらの手法には生体試料の形状や固定方法により刺激の強さが変わってしまう問題があり、幹細胞の分化が細胞を支える基質の硬さで変化してしまうことも知られている。
それに対して、研究責任者らは、生体試料に力学的な刺激を与える新しい手法として、静水圧の優位性に着目してきた。静水圧を利用すれば、そもそも、細胞や組織を基板などに固定する必要がなく、生体試料の形や固定方法に因らず、どの方向からも一様な力学刺激を与えることが可能であり、生体試料を入れる容器を大きくすることでスケールアップを図りやすい。これらの特長は基礎研究のみならず、将来的な医療応用を見据えた場合にも大きなメリットになる。今後もメカノバイオロジーの新潮流として発展させていきたい。