2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

環境に優しい薬用植物LED植物工場化技術の確立と地域普及活動

実施担当者

長谷川 光隆

所属:愛知県立稲沢高等学校 農場長 教諭

概要

1.はじめに
 稲沢市の農業活性化のため、平成23年度から稲沢市のマスコットキャラクター「いなッピー」の頭を飾る地場産野菜、薬用植物「明日葉」の生産拡大と加工品の製造を本校生活科学科農業クラブのプロジェクト活動として行ってきた。
 平成24年度に、明日葉米粉シフォンケーキ、平成25年度に明日葉フルーツ(イチジク)大福、平成26年度に明日葉クロワッサンを地元企業の協力により商品化した。これらの活動は、中日・朝日・日本農業新聞等にも掲載された。
 また、平成24年度第7回全国高校生パンコンテストでは、全国から303名の応募があり、書類審査の後、本選に出場できる18名に選ばれ、「明日葉クロワッサン」で入賞した。さらに、平成25年度全国産業教育フェア愛知大会企業家コンテストで、応募28校中、第1次審査を通過し、11校に選ばれ研究発表を行った。平成26年度は、明日葉クロワッサンの商品化と冬季のLED明日葉水耕栽培管理技術の確立を図ることができた。


2.平成27年度のプロジェクト活動成果
 平成27年6月に愛知県学校農業クラブ連盟主催プロジェクト発表会で「最優秀」、8月に三重県の津市で開催された東海ブロック学校農業クラブ連盟プロジェクト発表会で「優秀(2位)」、愛知県産業教育振興会主催の産業教育に関する生徒研究文で「優秀賞」を受賞することができた。
 平成27年10月3日に行われた一宮市主催のお菓子フェアで「アンジェリカクロワッサン」を、生徒たちがデザインしたアンジェリカTシャツを着て元気よく販売し、活動の様子が10月4日の中日新聞に掲載された。11月13日に行われた文化祭(稲高祭)においても、地域住民が大勢来校され、明日葉クロワッサン販売活動を実施した。また、11月20日の愛知県学校農業クラブ連盟年次大会で、最優秀プロジェクト発表、11月25日に名古屋のウインクあいちで行われた農林水産省主催のアグリビジネス創出フェアに出展、本校生活科学科生徒が明日葉プロジェクト活動について、名古屋大学農学部長をはじめとする大学教授、企業関係者等の来場者にプロジェクト研究発表をしたことにより、明日葉を多くの人に広く普及させ、認知していただくことができた。

実践1 明日葉LED水耕栽培
 生活科学科の生徒は、明日葉のLED水耕栽培を播種から収穫まで行い、明日葉プロジェクト活動に積極的に取り組み、毎日欠かさず、栽培環境、生育調査を行っている。
 平成27年1回目の播種は4月中旬、2回目の播種は9月下旬に行い、順調に苗が生育し、収穫まで行うことができた。
 平成26年11月から平成28年1月までの1年3ヶ月間、LED水耕栽培を行った。肥料代は、172円で、PH調整剤は、不使用で成長した。無農薬栽培を行うと、乾燥のためダニが発生したが、若葉の内に収穫すれば、影響はなかった。
LEDの電気代は、1日あたり51.4円。太陽光発電の売電収入で十分であった。収穫量は、3,850gであった。平成27年4月に、愛知文教女子短大の学生と一緒に、LED明日葉の無償配布を天ぷらのレシピを添えて行い、子供から大人まで世代を超えた普及活動ができた。

実践2 明日葉クロワッサン販売普及改良
 平成27年7月、天使からの贈り物「アンジェリカクロワッサン」と名付け、横浜のみなとみらい特許事務所に依頼し、商標登録の準備に入った。11月の中学生進学説明会で、約150名の中学生と保護者にクロワッサンの配布も行った。平成26年5月から平成27年11月までに、14,400個、約43万2千円を売り上げた。

実践3 愛知文教女子短期大学学生とアレルギー対応明日葉焼き菓子製造(安藤ゼミ)
 平成27年7月21日に、高大連携の一つとして、食物アレルギー専門の教授から明日葉パンケーキ、ワッフルの製造実習のご指導をしていただき、アレルギー対応明日葉加工品の商品開発を行った。

実践4 愛知文教女子短期大学で明日葉薬膳料理講習会(有尾ゼミ)
 平成27年8月10日に、高大連携の一つとして、食物栄養専門の准教授から明日葉薬膳料理の講習会でご指導をしていただき、本校の明日葉薬膳弁当開発に、連携して行っていくことが決まった。


5 普及活動・地域交流
実践1 明日葉原産地伊豆大島研修
 平成27年5月3日から5日まで伊豆大島を訪問し、明日葉農家との交流、土産物店で加工品の商品開発研究を行った。宿泊地付近の路肩で自生している明日葉の観察をした。また、明日葉観光農園のハンノキの下でも、すくすくと生長している明日葉を観察した。宿泊所の万立荘では、明日葉生葉を利用した、蒸しパン等の加工品製造実習、大島ふるさと体験館では、草木染めの体験学習等(明日葉染めのハンカチを作る実習)を行い、食以外の明日葉活用法について研究した。

実践2 高齢者福祉施設で明日葉饅頭交流会
 ケアハウスの所長さんから「昨年、利用者の方に大変好評でしたので、今年も饅頭作りに来てもらえないかね。」という依頼を受け、稲沢市大塚にあるケアハウスを訪問し、交流を深めた。「抹茶饅頭みたい、生地とこしあんのバランスがいいね。等、笑顔があふれ、会話が弾み、利用者の方から、「若い人たちと一緒にいると気持ちが若返るねえ。今日は、ほんと楽しかったよ。また、是非来て下さい。」とお礼の言葉を頂戴することができ、大変貴重な時間を過ごすことができた。利用者55名にアンケートしたところ、95%の方が「おいしい、楽しい、またやりたい。」という結果であった。生徒は「私たちの活動に対して熱意がある、有意義であると評価していただけたことが大変嬉しかった。」と感想を綴っている。

実践3 情報発信活動の展開
 「平成27年度版お菓子のレシピ集」を作成し、稲沢商工会議所、愛知西農協等で配布していただき、稲高ホームページにアップし、PDFファイルでダウンロードができるようにした。文化祭のアンケート調査で、1年間の私達の活動を通して、平成26年度は、明日葉を知っていますかという質問に対して、72%の人が知っているという結果であった。平成27年度は、23%もアップし、95%にまで上がった。明日葉は、確実に地域に浸透しつつある。


3.明日葉プロジェクト活動における生徒の様子
 明日葉プロジェクト活動を通して、生徒の思考力、創造力、判断力、表現力、コミュニケーション能力等の向上を見ることができた。
 第7回全国高校生パンコンテスト入賞、起業家コンテスト最終審査出場、常葉大学第4回高校生ビジネスプランコンテスト準グランプリ賞受賞、公益財団法人中谷医工計測技術振興財団と公益財団法人武田科学振興財団から、助成金、奨励金がいただけることになり、最初、1、2年生の生徒は、受け身の姿勢であったが、徐々に生徒自らが、今何をしなければならないのか、考えて積極的に発言・行動に移すことができるようになり、生徒の明日葉プロジェクト活動に対する興味・関心の高まりを感じることができた。
常葉大学第4回高校生ビジネスプランコンテスト「準グランプリ」受賞
 発表者の役割を担当した生徒の成長について、以下に述べる。
 生徒は、1年生の3学期から明日葉プロジェクトメンバーになり、活動するようになった。2年生の6月に行われた県大会では、本校プロジェクト発表のコンピューター係を担った。平成26年8月には、本校農業クラブ執行部が東海ブロック農業クラブ連盟プロジェクト発表会の運営を担当することになり、その生徒は、司会という大役を担った。これらの経験により、自信をつけ、2年生のプロジェクト校内大会からは、発表者を務め、3年生の6月に行われた県大会では、「最優秀」を受賞することができた。平成27年8月の東海ブロック大会では、残念ながら「優秀(2位)」であった。東海ブロック大会に向けては、過去3年間の明日葉プロジェクト活動記録簿、約500ページの作成、完成と夏季休業中も毎日登校し、発表原稿の暗記をするまで発表練習を行った。その後も、11月の愛知県学校農業クラブ連盟年次大会で最優秀プロジェクト発表、農林水産省アグリビジネスフェアで発表するなど発表経験を積んだ。そして、平成28年2月13日(土)静岡県浜松市の常葉大学で行われた第4回高校生ビジネスプランコンテストでは、審査員の方から、「高校生の発表とは思えないほど、すばらしい完成度の高い発表であった。」と講評され、「準グランプリ賞(2位)」受賞することができた。
 また、女子栄養大学主催の第1回食物アレルギー対応料理コンテストでは、全国からの一般、学生の応募合計923作品の中で、「明日葉アイスクリーム」が、1次審査を通過した。
 明日葉米粉クロワッサンの販売普及改良では、製造依頼先の「さくらファーム」の店員から、生活科学科の生徒がご指導を受け、一宮市のお菓子フェア、文化祭(稲高祭)で、販売することができ、生徒も大変自信を深めることができた。店員の方のご指導の下、主体的にプロジェクト学習に取り組む態度の養成や、生徒の協調性、責任感及びコミュニケーション能力の育成ができた。


5.平成27年度のプロジェクト活動課題
 実際に活動を行ってみると3つの課題がでてきた。
(1)周年栽培では、年間を通して均一な温度管理が必要となるため、夏はチラー(液温冷却機)と冬は金魚水槽用のヒーター(液温加温機)を利用することにより、培養液温の管理はできたが、気温管理等の栽培環境の整備が、県立学校の施設・設備の関係でエアコン等空調機の設置ができなかった。
(2)LED水耕栽培のビタミンC増加の検証とポリフェノールのカルコン等、機能性成分の検出等を厳密に行うことができなかった。
(3)明日葉以外の薬用植物のLED水耕栽培管理技術の確立とその優位性を検討する。
以上3点の課題を受けて平成28年度は、以下のようにプロジェクト活動を進めていきたい。


6.平成28年度のプロジェクト活動計画
 平成26年10月~平成28年3月にかけて、LED水耕栽培装置(3段以上の多段栽培方式で3次元立体空間を利用し、小面積で多収量を得る。)を活用して、薬用植物(明日葉)の播種から栽培管理、収穫までを行い、草丈、本葉数、葉身長、葉幅、新鮮重、SPAD値等の生育測定を行うことにより、明日葉LED水耕周年栽培管理技術の確立を図ることができた。今後は、LED利用の光熱費の経費算出や、LEDは大幅に消費エネルギーの節約と二酸化炭素の排出を抑えることができるので、太陽光発電を利用し、環境に優しい農業を実践していきたい。
 また、明日葉機能性食品開発(3大アレルギー対応食品)の商品化を行う。明日葉機能性食品開発については、日本食品分析センターに明日葉栄養成分・機能性成分分析、機能性成分の生体調節機能の解析、カルコン、クマリン、ルテオリンの含有率分析等を依頼し、機能性成分を高含有する明日葉の開発、薬用植物明日葉の機能性食品開発
(がん予防、血糖値上昇抑制等)を目指す。
食物アレルギーの子供が増加する中、大学・短期大学と連携し、アレルギー対応明日葉加工食品の開発を推進する。アレルギー対応明日葉パンケーキ、ワッフルの商品化を愛知文教女子短期大学と連携して検討する。
 また、「美と健康」をコンセプトにした稲沢市の地産地消野菜、薬用植物利用の薬膳弁当の商品化を実現する。


まとめ
(1)稲沢市の地域特産野菜「明日葉」を教材として取り入れ、明日葉農家、愛知西農協、地元企業と産業技術交流の機会を増やすことができた。また、地域農業の発展のために、アレルギー対応明日葉パンケーキ、ワッフル、薬膳弁当の製造、商品開発で、愛知文教女子短期大学と高大連携を通して、プロジェクト学習を深化させ、地域社会の農業の発展に貢献できる産業技術の研究に努めた。
(2)科目「課題研究」「総合実習」「食品製造」におけるプロジェクト研究において、生徒が主体的に地域の方に、明日葉農家、明日葉パウダー製造工場、地元食品会社訪問等を通して、意見交換を行うこと、また、各種コンテストに積極的に応募し、第7回全国高校生パンコンテストで入賞、常葉大学第4回高校生ビジネスプランコンテストで準グランプリ賞受賞など、チャレンジ精神やコミュニケーション能力等を向上させることができた。
(3)将来のスペシャリストとして必要な専門分野の基礎的・基本的な知識・技術を科目「フードデザイン」「食品製造」「生活と福祉」の授業、実験・実習を通して身につけ、地元企業と明日葉米粉クロワッサンの販売・普及・改良、高齢者福祉施設での明日葉饅頭製造交流会等、地域社会との連携交流活動を展開する等を通して、学んだことを地域住民とともに実践し、生徒は意欲的に学習し、基礎的な知識・技術の定着を図ることができた。今後、機能性を生かす薬用植物研究の充実、発展を図りたいと考えている。
(4)生徒が、愛知県学校農業クラブ連盟プロジェクト発表会県大会「最優秀」、東海ブロック学校農業クラブ連盟プロジェクト発表会「優秀(2位)」、愛知県産業教育振興会の産業教育に関する生徒研究文「優秀」、常葉大学第4回高校生ビジネスプランコンテスト「準グランプリ」とグループ全員で、プロジェクト活動研究の成果を協力して発表する機会が与えられ、生徒の主体的に発表する態度、表現能力の育成ができた。
(5)明日葉生産拡大のため、薬用植物明日葉のLED水耕栽培管理技術を、確立することができた。公益財団法人中谷医工計測技術振興財団の科学教育振興助成金と、公益財団法人武田科学振興財団の高等学校理科教育振興奨励金をいただけることになり、LED水耕栽培装置の明日葉栽培実験により、生徒の自然科学、社会科学(経営分析、原価計算等)の取り組みに対する、各種科学分野に関する思考力、創造力、判断力、表現力等の育成に努力していきたいと考えている。