2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

理科部における群馬の地元地域に根差した研究による科学技術関係人材の育成~群馬のこんにゃく飛粉(とびこ)からバイオエタノールの生産~

実施担当者

広井 勉

所属:樹徳高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校理科部では先輩方から引き継ぎ、群馬の特産こんにゃくを製造する際に副産物として年間約3,000t~4,000t生じるこんにゃく飛粉からバイオエタノールを生産する基礎研究を行っている。そして、群馬の草津温泉(万代源泉95℃、湯畑源泉55℃)や排湯(40℃)の熱エネルギーを利用した低コストで環境にやさしい「地産地消」のバイオエタノールの生産方法の開発を目指している。
 先輩方の実験により、ロ-タリーエバポレーターを用いた場合、濃度0.6g/100mlのエタノール溶液を燃焼可能な濃度に濃縮するのに16回もの蒸留操作が必要であることが分かっている。しかし、バイオエタノールを生産するのに、多量のエネルギーを消費してしまっては意味がない。私たちは、草津温泉の熱エネルギーを利用したり、蒸留方法を改善したりすることによって、消費するエネルギーを削減できると考えている。
今年度は、主に①「硫酸によるこんにゃく飛粉の糖化の効率化」、②「アルコール発酵の効率化」、③「蒸留塔によるバイオエタノールの濃縮の効率化」について取り組んだ。


2.実験
実験①② 硫酸によるこんにゃく飛粉の糖化、およびアルコール発酵の効率化
 耐熱びんに、こんにゃく飛粉1.5g、蒸留水16mL、硫酸4mLを入れ、設定温度95℃のウォーターバス内で、マグネットスターラーを用い1時間撹拌した。その後、水酸化ナトリウム水溶液で中和しながら、懸濁液の体積を60mLに合わせた。さらに、ドライイースト1.5gを加え、設定温度40℃のウォーターバス内で、2~12時間発酵させた。遠心分離後、メンブレンフィルターに通し、そのろ液をサンプルとした。エタノール濃度の測定は、群馬大学理工学部の指導のもとガスクロマトグラフィーで行った。また、グルコース濃度の測定は、群馬県立産業技術センターに依頼した。

実験③ 蒸留塔によるバイオエタノールの濃縮の効率化
 昨年度から、ビグリュー管を連結した蒸留塔を用いて、40℃,950hPa減圧下の条件で濃縮実験を行ってきた。尚、減圧にはダイヤフラムポンプを用いた。昨年度までに、3回の蒸留操作で燃焼可能な濃度まで濃縮できることを確認している。今年度は、蒸留塔による濃縮の再現性を試みつつ、エタノール濃度の測定方法を変更した。昨年度までは、酸化還元反応を利用したしょう油分析法1)を用いていたが、今年度は、実験①と同様にガスクロマトグラフィーで行った。


3.結果および考察
実験①② 硫酸によるこんにゃく飛粉の糖化、およびアルコール発酵の効率化
 糖化した直後のこんにゃく飛粉の懸濁液を分析したところ、エタノールは検出されず、グルコース濃度は0.74g/100mLであった。発酵2時間後、エタノール濃度は0.6g/100mLまで上昇し、グルコース濃度は0.15g/100mLまで減少した。発酵と同時にグルコースの減少が確認された。さらに、発酵12時間後、エタノール濃度は0.7g/100mLとなり、グルコースを検出することはできなかった。

(注:図/PDFに記載)

 実験②において、今後の生産性を考慮し、発酵2時間後の結果を採用した。後日、発酵後のサンプルを観察すると、ゼリー状(半透明)の沈殿物が確認された。これは、こんにゃく飛粉を完全に糖化できなかった分の糖質などと考えられる。また、硫酸によるこんにゃく飛粉の糖化には95℃に保つ必要があるが、草津温泉(万代源泉95℃)と温度が一致するので、実用化の際にはそれを用いることを想定している。

実験③ 蒸留塔によるバイオエタノールの濃縮の効率化
 濃度0.6g/100mLのエタノール溶液を3回の蒸留操作で、燃焼可能な濃度60.3g/100mLまで濃縮することができた。また、蒸留塔による蒸留は、ロータリーエバポレーターを用いたときと比較して、ロスが少ないことも確認することができた。


4.まとめ
 今回の実験により、以下の結果が得られた。
・こんにゃく飛粉からグルコース濃度0.74g/100mLのグルコース溶液が得られた。
・発酵2時間後、エタノール濃度0.6g/100mLのエタノール溶液が得られた。
・3回の蒸留操作でエタノール濃度60.3g/100mLまで濃縮できた。
 よって計算上、こんにゃく飛粉1kgあたり、燃焼可能なエタノール溶液を1.4mL生産できることが分かった。


5.今後の方針
 今後は、硫酸だけではなく、塩酸や他の酸による、より温和な条件での効率的な糖化方法について検討していく。また、炭酸カリウムやミョウバンなど塩によるエタノールの分離についても実験を行っていく。最終的には、糖化・発酵・濃縮の全工程の集約化にも挑戦していきたい。