2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

理科授業のアクティブラーニングを支援する 教材プログラムの開発と活用

実施担当者

長澤 友香

所属:静岡科学館 館長

概要

1 はじめに
現行の学習指導要頷では、小・中学校・高等学校において体験的・主体的な深い学びが重要であるとされている。ここ数年「アクティプラーニング」という言葉が教育現場においてよく聞かれ、教員もそれを意識した授業に取り組んでいる。しかしすべての教員にその理念が共有されているかというとまだまだ十分に浸透しておらず、特に学年が上がるにつれその取り組みは消極的になっている。
このような背景を受け、静岡科学館では、科学館の有する教材を活用して、学校の授業において不足しがちな体験活動を「科学教室」において提供することで学校教育現場を支援したいと考えた。また「科学教室」で扱う教材を、教育委員会等と連携した教員研修会において紹介することで、多くの教員の授業力向上に資することができ、理科の授業におけるアクティブラーニングを推進できるのではないかと考えた。

2 実践内容
研究実践は「科学教室」と「教員研修会の実施」の二本柱で進めた。ここではそれぞれにおいて「科学教室」において研究開発したプログラムを中心にその取り組みを紹介する。

2-1 科学教室におけるプログラム実践事例
① 化石ワークショップ
地居に含まれる化石を観察することで、地層の堆積した当時の年代や堆桔環境を推測することができる。小学生向けの、化石のレプリカづくりと、低校生向けの那須塩原の木の葉化石を川いて、実際に地層の中から化石を取り出し観崇する実験を行った。高校生に対しては、木の菓化石入りの岩石を観察し、白と灰色のしま模様があることに気づかせ、色の違いが堆積物の違いによるものであることを、手触りやルーペの観察により確認した。縞模様(ラミナ)が、堆積環境を示していることについて、説明を受けた後、ラミナに沿って岩石を割り、木の葉の化石を取り出した。様々な木の菓の化石が出現し、図鑑を用いて同定を行いて古環境を推測した。葉の化石の他、水草の化石や磁鉄鉱などが見られた。高校生も活動に興味を示し、化石への関心を高めることができた。また、小学生に対しては、化石に願味?関心を持ってもらうために、アンモナイトの化石レプリ力を作るエ作を実施した。
はじめに、化石のでき方やアンモナイトの生態について、画面や模型を見ながら説明。その後、レプリカづくりを行い、およそ60分間で着色までできた。完成したレプリカを前に、どの子も大変喜びし、化石への関心を高めることができた。
いずれの教室の場合にも、多忙な日々を送る教師が、教材研究をして、生徒の人数分の材料を用意して指導することは難しく、科学館を利用することで、生徒たちに体験を通して自然と向き合う良い経験になったことと思う。

② 月の満ち欠け
京都大学で開発している4次元デジタル地球儀「ダジック・アース」の「月の満ち欠け」のプログラムを用いて月の満ち欠けの周期や形の変化を学ぶプログラムを実施した。また併せて電球の光を発砲スチロール球に当て、影のでき方をシミュレーションすることで月の満ち欠けを体験的に学習させることを試みた。子どもたちは、自分を地球に、発砲スチロール球を月に、電球を太陽に見立て、地球の周りを月が公転するときに、どのように影ができるかを観察した。ダジック・アースの月の満ち欠けを組み合わせることで、月の公転の向きを学ぶことができた。

③ メダカの発生
タブレットとタプレット顕微鏡を用いて、メダカの受精卵を観察した。受精卵は受精直後のもの(初期杯)から、3,4日経過したもの(中期杯)、1週開程度経過したもの(後期杯)等、発生段階の異なるものを用意した。子どもたちは心臓の動きやヒレの形、消化管、目など、メダカの形が徐々に卵の中で形成される様子を観察することで、受精卵から稚魚に孵化するまでの発生について学んだ。観察して気づいたことを発表する場面では、タブレットを大型モニターにつなぎ、実際に心臓の動きなどを動画で提示しながら発表することで、よりわかりやすく伝えることができた。タブレット顕微鏡は、同じ画面を同時に複数名で観察することが可能であるため、話し合いが深まり、より深い学びが実現する。さらに動画や静止画で記録し、それを後からみんなで確認したり、発表で使用したりすることが可能であるため、発表ツールとしても効果的である。
またメダカの受精卵の観察と同時に、メダカの成魚の餌になるミジンコについても観察することで「食物連鎖」についても考えさせることができた。ミジンコについても、心臓の勁きや血液循環が観察でき、よりダイナミックな学びが実現した。

④ 天気の変化
中学生に「ダジック・アース」で雲の動きのプログラムを用いて、気象の変化について考える動機付けとした。生徒たちは台風や雲の塊が赤道付近の海上で発生することから、水が温められると気化して上昇し上空で雲になるのではないかと考えていた。また台風が日本上空を発逹しながら通過し、通過後も雲の塊が北極海やアメリカ大陸に移動していく様子から、地球規模での気象変化について考える機会になった。
南半球、アフリカ大陸などでは日本付近と異なる雲の動きが見られる。例えばアフリカ大陸では、赤道付近に発生した雲が発生すると移動せずに消えてなくなり、また発生する。こうしたことから、雲が移動せずに激しい雨を降らせて消えてしまうのではないかと生徒たちは考えた。こうした雲のできかたと雨の降り方を連動して考えることで深い学びが可能になる。

⑤ 昆虫(小学校3年)(小学校4校)
小学校の3年生の理科で大切にしたい、「違いに気づく」ということを、「昆虫」の観察と、段ボールエ作を通して体験させる授業を4校の児童に対して行った。先生が「よく見て書きましょう。」と言ったら、「比べて違うところを見つける」ことが大事であると説明。蝶と甲虫の標本を観察させて、違うところを付箋に書き出させた。
あしの形、口の形、羽があるないなど、子どもたちは多くの違いを見つけることができた。この違いに、「なぜ、・・・・だろう」という分をつけると、「疑問」になるという話をし、自由研究のテーマになることを説明した。

段ボールエ作では、昆虫のからだを組み立てることで、あしが6本とも胸部についていることを、楽しみながら理解することできた。引率した教員たちにとっても、理科授業のやり方を学ぶよい機会になったはずである。

⑥ ワークショップ「光と色の不思議を解き明かそう」(布校2年)
高校2年生に向けたプログラムとして、光のスペクトルと色の物理的な原理と、物体(物質)の吸収スペクトル、輝線スペクトル、動物の色覚(視覚)、植物の光合成と高校物理、生物と関連付けたプログラムであった。
お絵かき(トリック絵)を行う中で、ものに色がついて見える概念づくりを行い、仮説を立て、フィルターを通した写真を撮ることで検証した。フィルターを通して観察した現象を、再度スペクトルという概念を用いて考察した。高校生の自由な発想で作品をつくるという作業を含み、活動自体を楽しんでいる様子であった。

⑦ 「電車の中で起こるあべこべの世界」(高校2年物理)
ヘリウム風船を持って電車などの乗り物に乗ると、篭車が加速度運動を行ったとき風船が前のめりに動くという現象が観察できる。ろうそくの炎でも同様の現象が起こることを観察し、その理由を考える。空気に対して浮いたものと沈んだもので逆のことが起こっているという仮説のもとに、水に沈むものと浮かぶものが入った水槽に加速度を加え、同じ現象がおこることを検証する。これを、各質点における運動方程式で説明を試みる。最後に、ペットボトル中のスーパーボール(浮く)とビー玉(沈む)を入れ替えてみようというクイズを出す。答えは回転させることであるが、竜巻などの回転連動でも同じ原理が成り立つことを理解する。

2-2 教員研修会の様子

本年度はダジック・アースとスマホ(タブレット)顕微鏡を中心に教員研修会を開催した。ダジックアースは、「雲の動き」と「月の満ち欠け」のプログラムを使用し、プログラムを実体験するとともに、どのように授業に活用できるかについて話し合った。タブレット顕微鏡では、多くの教員が初めて使用するので、メダカの受精卵の観察を行いながら、タプレットの機能についても説明した。観察している画面を撮影し、動画や静止画を用いて発表などにも活用できることを体験し、実際の授業において活用したいという意欲を持った教員が多かった。
研修会後早速授業実践をする教員もあり、今後も活用が広まっていくことが期待できる。

3 まとめ

本年度科学館の特性を生かし、学校では準備できない発展的な教材を用いた体験的な観察・実験を主軸とした科学教室を展開してきた。児童・生徒ならびに学校教員からは非常に好評で、特に体験的な学びの不足しがちな地学や生物の領域においては児童生徒の主体的な学びを支援することができたと考えている。このように科学館と学校が連携することにより、地域における博学連携が推進され、地域の学力の向上にも繋がっていくと考える。これからも科学館という専門的な科学領域を生かし、学校に対して積極的な支援を行っていきたい。
また教育委員会と連携した教員研修会において開発したプログラムや教材を紹介することで、教員のアクティブラーニングに対する具体的な授業のイメージが形成され、教員の授業力の向上に繋がっていくことを実感した。今後もこうした教員研修会の機会を積極的に設定していきたい。