2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

理科好きな生徒を育てる理科室作り

実施担当者

伊藤 拓也

所属:千葉市立高浜中学校 教諭

概要

1 はじめに
 理数教育の充実は、科学技術創造立国を目指す日本にとって重要な課題である。しかし、国際調査によると多くの生徒は理科の有用性を感じていないことが明らかになった。また、勤務校の中学1年生にアンケートをとったところ「理科室は暗い」「汚い」「危険」という答えが多く、理科室に対して良い印象を抱いていないことが判明した。
 そこで、本研究は理科室作りに焦点をあてた。来るだけで楽しく、わくわくするような理科室を作り、理科の有用性を感じ、理科が好きな生徒を増やすことを目的とした研究を行った。
 まず掲示物の工夫をした。理科の授業で使用した教材・教具を廊下や理科室内に自由に触ることができるように掲示し、そこからさらに疑問や発見があるよう工夫した。生徒が理科の有用性を感じることを狙いとした。
 また、生徒にとっても教師にとっても使用しやすい、機能的な理科室作りを行った。どこに何があるかを、コンテナボックス等を使用して分かりやすく機能的に分類した。
 子供達にとっては行くだけで楽しくなる理科室、教師にとっては使いやすい機能的な理科室を目指した。


2 実践例
2-1 学びを深める掲示物
 理科室内に、掲示物コーナーを作成した。ここには、授業で扱った実験道具や観察物を掲示するようにした。掲示してあるものは、生徒たちは自由に触ってよいこととした。授業前後の休み時間に、自分たちで実験したり観察したりすることで、よい復習になったようだ。また、他学年の掲示物もあるため、下級生にとってもよい予習になった。

実践例1 鉱物標本作り
 「こんなにキレイなものが石の中に入っているのかぁ、と思った。ハンマーや、手でわるのが楽しく標本もうれしい。」生徒の感想である。生徒たちは実際に鉱物を触り、その特徴を理解していくことができた。鉱物や岩石は箱に入っている見本を眺めさせても、外見的な特徴しかわからない。知識を岩石や火山につなげるためには、鉱物の硬さや、触感、割れたときの形なども体感的に理解させたい。そこで、代表的な鉱物である黒ウンモ、白ウンモ、セキエイ、チョウセキを大量に購入し、自由に割ったりはがしたりしてもよいことにした。また、少しずつノートに貼らせ、自分だけの鉱物標本づくりをさせた。作業の中で生徒たちは「ウンモはぺらぺらめくれる!」といったことや「セキエイはハンマーで叩いてもなかなか割れない!火花が出るくらい硬い!」といったことを発見することができた。授業後には、これらの鉱物を掲示物コーナーに置き、自由に観察してもよいこととした。

実践例2 綿1kgと鉄1kgどちらが重いか同じ大きさの鉄・アルミニウム・銅
 「1kgの綿と1kgの鉄どちらが重いでしょうか。」おもむろに発問する。「綿。鉄。どちらも同じ。」挙手をさせると、鉄に圧倒的に多く多くの手が挙がる。「もう一度聞きます。1kgの綿と1kgの鉄どちらが重いでしょうか。」今度は1kgを強調して発問する。すると、数名の生徒が「あっ」と何かに気が付く表情を見せて、どちらも同じに手を挙げる。数回繰り返すと、同じに手を挙げる生徒が増える。正解を発表するときに実物をもってきて生徒に持たせると、盛り上がる。(鉄は1kgの鉄アレイ、綿は使用しなくなった座布団などからとってきた)「なぜ同じ重さなのに、大きさが違うのか」と発問すると「鉄はぎっしり詰まっていて、綿はスカスカだから」などというような答えが返ってくる。「同じ大きさにするとどちらが重い?鉄ですね。同じ大きさにしたときに、どれだけ重いかを表す単位を密度といいます。」と伝えると生徒は納得したようであった。
 次は体積が同じ金属を比べさせた。アルミニウム・銅の立方体を用意する。(700cm3こ統一した)初めにアルミニウムを持たせる。軽々と持ち上がる。次に銅を持たせると、意外な重さに思わず落としてしまいそうになる。「堆積は同じでも重さが違う。これは密度の違いによる。」ということを体感的に理解できる実験だ。
 これらも、休み時間等に自由に触れるように掲示して置いたところ、生徒たちはよろこんで重さを比較していた。

実践例3 100円均ーでそろえる防災グッズ
 1年生の「地震」の単元で「100円均ーでそろえる防災グッズ」を生徒に紹介した。皿、サランラップ、携帯ミニランタン、軍手など20程度の商品と、それを収納するリュックまで全て100円均一でそろえることができる。
 地震大国日本では、常に地震災害に備えておくことは大切であり、理科教師としてはこのような災害対策の知識を教え、行動に起こすよう指導することは必須である。しかし、「同じようなものを家で用意している人」と聞くと学級で2人ほどしか手をあげなかったが、授業後に理科室に掲示をしておくと、何名もの生徒がノートなどにメモをし、家でも準備しようとしていた。

実践例4 金の密度を体感する掲示物
 「先生、金を持ってきました。」と言いながら、10立方cmの金紙を貼った箱を取り出した。生徒は一瞬驚きながらも「作りものだ!」などとすぐに見破る。「これがもし本物の金だとしたら何kgなのか」と発問し、計算をさせた。およそ19.8kgである。一斗缶に水をたっぷり入れるとほぼ同じ大きさになる。「この金の箱は、実はこんなに重いんだよ。」などと言いながら一斗缶を生徒に持たせると「金は小さくてもこんなに重いのか!」と密度の大きさを体感的に理解していた。

実践例5 右ねじモデル
 電気も磁気も目で見えない。見えないものを見えないままで理解しようとすると非常に難しい。そこで、モデルを作った。「右ねじの法則」を理解するために、軍手モデルと右ねじモデルを作成した。軍手モデルでは、親指の赤い矢印は電流の方向を表す。そのほかの指の黒い矢印は磁界の向きを表す。この軍手を装着し、パスカル電線(詳細は後述)を使って実際に実験することで、視覚的な理解を助ける。また、右ねじモデルも同時に使用した。このモデルでは、ねじ山(+のへこみがある方)が電源の+極につながっていて、反対側が-極に繋がっていると仮定している。写真のように上から下に電流が流れている場合、磁界の向きは反時計回りである。電流の向きが反対になった場合、このモデルをひっくり返すと、次回の向きも反時計回りになる。教科吾の平面な図を立体的に理解するのによい。生徒によって、「軍手が理解しやすい」という人と「ねじが理解しやすい」という生徒がいるので、複数のモデルを使用することで多くの生徒の理解につながる。

2-2 機能的な理科室づくり
実践例1 コンテナボックスなどによる理科準備室の整理整頓
 現任校に2年前に赴任してきた当初、理科準備室にはものがあふれ散乱していた(写真左下)。どこに何があるのかわからない状態で、実験の準備に非常に時間がかかった。そこで、コンテナボックスや100円均ーで購入したタッパーをつかい、単元ごとや道具ごとに実験道具を分類した。右上の写真は使用しなくなった下駄箱を再利用したものである。タッパーがちょうど収納できるサイズであった。分類をすることで、実験や観察準備の時間が大幅に削減され、教材研究にかける時間を増やすことが出来た。また、教師に余裕がうまれ、結果としてよい授業ができるようになった実感がある。機能的な理科室を作ることは理科好きの生徒を増やすことに大切であると感じた。


3 まとめ
 理科好きな生徒を増やすためには、理科室作りが大切である。生徒たちは、日々変わる掲示物コーナーを楽しみに理科室に通うようになっていった。休み時間に実験を楽しみながら、授業のことを復習している生徒も多くいた。
 また、教師にとって使いやすい、機能的な理科室・理科準備室を作ることで、教師の実験準備の負担が減り、予備実験や教材研究をする時間を多く確保できるようになった。結果的に、理科好きの生徒を増やすことに繋がった実感がある。