2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

理科におけるアクティブラーニングの実践-ICTの活用を通して-

実施担当者

市原 猛

所属:つくば市立桜並木学園 並木中学校 教諭

概要

1 はじめに
 近年行われた国際調査結果(PISA2011)によると,「理科の勉強は楽しい」「理科の勉強が好きかどうか」などについて尋ねた設間で小学校4年生,中学校2年生ともに国際平均を下回っている。また我が国の子どもたちは,判断の根拠や理由を説明しながら自分の考えを述べたり,実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることに課題が見られ,自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度,社会参画への意識等が国際的に見て相対的に低い傾向がある。
 そこで,平成20年1月に学習指導要領の改訂が行われた。ここでは,知識基盤社会の中で確かな学力,豊かな心,健やかな体といった「生きる力」を育むことが重要であるとしている。また,基礎基本を確実に身に付けた上で,思考力,表現力,判断力を育みながら,主体的に学習ヘ取り組む態度を養うことを重視している。さらに中央教育審議会では,2014年12月に「高大接続・入試改革答申」を出し,これを受けて,次期学習指導要領の改訂に向け初等中等教育においても検討が進められている。
 理科の学習目標を,「自然の事物・現象に進んでかかわり,目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に探究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な見方や考え方を養う。」と示しており,主体的な問題解決の学習はますます重要になっている。
 本校の理科学習に対する興味関心は「理科の学習が好きである」という質問に対して8割の生徒が肯定的な回答をした一方,「主体的に学習に取り組んでいる」とした生徒は6割とやや少なくなっている。
 以上のような現状を踏まえ,本研究では主体的な問題解決,科学的に探求する活動を行うことで,理科学習への意義や有用性を見出し,理科に関する基本的知識・技能を身に付け,思考力,表現力,判断力を育むことが大切であると考える。そのためには,主体的・対話的で深い学びをすすめる理科学習の実践を行い,その効果を検証していくことが重要であると考え,本研究主題を設定した。


2 研究の内容
2-1 アクティブラーニング
 アクティプラーニングは「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的・創造的な学びであり,習得・活用・探究という学習プロセスに沿って自らの考えを広げ深める対話を通して,多様な汎用的能力を育てる学習方法」2)としている。つまり,これまでの授業で行われていた教員による一方向的な講義形式の授業ではなく,子どもたちの能動的な学びによって授業が展開されるよう,課題発見から解決そして,まとめまでの一連の流れをアクティブ化していくことが重要となる。また,その具体的方法として,「教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループワーク等も有効なアクティブラーニングの方法である。」3)としていることから,特に課題について探究したり,まとめたことを表現したりする場面などで上記のような方法が有効であると考えられる。そこで,本研究では,グループでのディスカッション等を行う際に,グループ内の考えを共有する一助として1グループに1枚ホワイトボードを活用した。自分達の考えをすぐに書いたり消したりすることのできるホワイトボードを使用することで,思考の視覚化を図ることができた。
 本実践の一例として,これまで学習してきたことをもとに6種類の液体を特定していく活動を行った。6種類の液体はこれまで学習してきたものとしたが,その性質をやや特定しにくくするためにかなり薄い濃度に設定し,課題解決に向けてより意欲的に行えるよう工夫した。見た目ではその物質を特定することが難しく,課題を解決するための方法や実験結果の予想を考える場面,実際に実験を行う場面では,大変意欲的な姿が見られた。
 課題解決学習を進めるために,課題を解決するための実験方法はグループで考えさせた。課題発見後の方法,予想,結果,考察,まとめまでの一連の流れをグループで話し合わせながら考えさせることで,より主体的な学びを行うことができた。また,結果から考察を考える場面では,各グループにホワイトボードを使いながら全体に発表することで,聞き手にわかりやすく伝わるよう図や表にしてまとめるなどの工夫が見られた。

2-2 ICTの活用
 授業実践の中で,映像資料や図書を見て考察し,考えを深めることは大切な活動である。また,動画コンテンツの利用だけでなく,実物投影機やデジカメを用いてディスプレイに拡大提示したり,調べたことを児童・生徒が発表したりするためのツールとして,ICTの活用は大変重要となる。
 グループで考えたりまとめたりする場面で,ホワイトボードに書いた内容をi-Padに画像として保存し,その画像を大型ディスプレイに投影した。考えを共有する際,AppleTVを使用し1つのディスプレイに対して,それぞれのグループからアクセスを行う(ミラーリング)ことで,手軽に,かつ分かりやすく表現することができるようにした。発表者は自分のグループの場所で発表内容を確認したり,発表者を分担したりすることができるため,スムーズな発表を行うことができた。また,プレゼンノート用アプリ(Metamoji Note)を使用することで,発表用スライドの中で,大切な言葉にはアンダーラインを引いたり,拡大して見せたりすることで,よりわかりやすい表現活動を行うことができた。聞き手側を意識した発表をするための工夫を考えることで,単に発表原稿を読む活動から,相手を考えた分かりやすく伝える活動へとつなげることができた。


3 授業実践
3-1 植物のなかま分けを考える
 本実践では,植物のなかま分けの観点に基づいて身近な植物や末知の植物を分類することで,植物の種類を知ることができることを見出し,その方法を身に付けるとともに,身近な植物とのかかわりを深めさせていく。また,単元を通して学習してきた植物に関する知識をもとに,それらを活用することで学習した内容を深化させ,多面的,多角的に植物を見ることができるようにしていく。
 グループごとに6つの植物を特定していく際,それぞれの植物の特徴をホワ イトボードにまとめていく。植物がどのように分類されるかを,その特徴を根拠としてわかりやすく発表することができた。また,実物として準備できない植物については,i-Padに写真データとして取り込み,それらの写真を見ながら分類することができた。

3-2 状態変化と粒子の運動
 本実践では,状態変化で起こる質量と体積の増減について考えさせるために,粒子モデルを用いて説明するものである。それぞれのグループで,「状態変化において質量は変化しないが,体積はなぜ変化するのか」という課題を設定し,粒子モデルをホワイトボードに描きながら話し合うことができた。質量を粒子の数と大きさ,体積を粒子間のすき間または粒子の動きに着目しながら,図と言葉で説明することができた。また,ホワイトボードに描き込んだものを,i-Padで撮影し,撮影した画像をMetamoji Noteで編集して発表スライドを作成した。発表スライドには,書き込みを加えたり,拡大したりすることで,より分かりや
すい発表を心がけることができた。

3-3 液体の正体は何だ?
 本実践では,正体不明の6種類の水液体について実験を通して特定する学習である。本実践では課題を「なるべく少ない実験で,6種類の液体を特定しよう」として設定し,単に実験を行いそれぞれの水溶液の特徴をまとめるのではなく,実験の計画段階から話し合いをして,結果を予想しながら実験に取り組ませた。ここでも,実験結果をもとに,6種類の水溶液の性質についてホワイトボードを使用した話合いからまとめ,その画像を取り込み,i-Padを使って発表する。生徒は継続してこのような活動を行っているため,本実践においては大変スムーズに活動を行うことができた。タブレットの操作について,より分かりやすく発表しようと,スライドの工夫や,あえてホワイトボードには枠のみをつくり,発表時に書き込んで発表するなど,その表現方法にも多くの工夫が見られた。


4 まとめ
 授業実践の中にアクティブラーニングの視点を取り入れた課題解決学習を行うことで,主体的・対話的で深い学びをすすめることができた。アンケートの質問項目「理科において主体的に学習に取り組むことができる」と回答した生徒が7割になっている結果からも,本研究による実践の効果が見られた。
 また,ICT機器を用いた表現活動は,初めこそ機器の操作に戸惑う場面も見られたが,繰り返し使用することで,よりスムーズで分かりやすい表現をすることができた。発表時間の短縮という点においても,授業の効率化を図ることができ,大変効果のある実践となった。今後も繰り返し使用することにより,さらなるICT機器の効果的活用方法を模索していきたい。
 一方で,子ども達のどのような姿が主体的・対話的であるのかを定義するのはなかなか難しい。また,アクティブラーニングを行うこと自体が主体的・対話的な姿につながるという部分についても曖昧である。今後はアクティブラーニングの視点をどのように取り入れるのかを吟味した上で実践を行い,その後の変容を分析することで,より効果的な実践プログラムを追求する必要があると考える。